高校物理では、万有引力 $F = GMm/r^2$ を学び、ケプラーの3法則を「天体観測から見つかった経験則」として暗記します。
第3法則 $T^2 \propto r^3$ は円軌道の場合に限り導出しますが、なぜ惑星が楕円軌道を描くかは扱いません。
大学物理では、ケプラーの法則はすべてニュートンの運動方程式と万有引力の法則から数学的に導けることを示します。
経験則ではなく、力学の帰結です。
また、高校では円軌道しか扱えませんが、大学では楕円軌道にも対応できます。
この記事では、万有引力の法則から出発して、ケプラーの第2法則(面積速度一定)と第3法則を導出します。
楕円軌道については定性的な説明にとどめ、全体像を示します。
高校物理では、万有引力と天体の運動を次のように学びます。
高校の範囲での特徴を整理しておきます。
大学物理のアプローチでは、ケプラーの法則の位置づけが根本的に変わります。
ケプラーの法則が「経験則」から「定理」に変わる。 万有引力とニュートンの運動方程式から出発すれば、ケプラーの法則は数学的に証明できます。 暗記すべき法則ではなく、力学の帰結として理解できます。
円軌道での第3法則を自力で導出できる。 M-6-1で学んだ向心加速度と万有引力を結びつけるだけで、$T^2 \propto r^3$ が導けます。
面積速度一定の物理的な理由を理解できる。 万有引力は中心力であるため角運動量が保存し、それが面積速度一定と等価であることが分かります。
まず、万有引力の法則を大学物理の記法で整理します。
$$\boldsymbol{F} = -\frac{GMm}{r^2}\hat{\boldsymbol{r}}$$
高校の $F = GMm/r^2$ との違いは、ベクトル表記であることと、負の符号がついていることです。 負の符号は「力が $\hat{\boldsymbol{r}}$ の逆向き、つまり中心に向かう方向」であることを明示しています。
万有引力の重要な性質は、中心力であることです。 中心力とは、力の向きが常に特定の点(中心)を向き、大きさが距離 $r$ だけに依存する力のことです。 この性質がケプラーの法則を導く鍵になります。
誤解:「距離が2倍になると力は半分になる」
正しい理解:距離が2倍になると力は $1/4$($= 1/2^2$)になります。 「逆二乗則」とは、力が距離の2乗に反比例するという意味です。
惑星が質量 $M$ の太陽のまわりを半径 $r$ の円軌道で等速円運動しているとします。 M-6-1で学んだ通り、等速円運動には向心加速度 $a = r\omega^2$ が必要です。 この向心加速度を生み出す力が万有引力です。
運動方程式(向心力=万有引力):
$$mr\omega^2 = \frac{GMm}{r^2}$$
両辺を $m$ で割ると:
$$r\omega^2 = \frac{GM}{r^2}$$
$\omega = 2\pi/T$ を代入すると:
$$r \cdot \frac{4\pi^2}{T^2} = \frac{GM}{r^2}$$
$T^2$ について解くと:
$$T^2 = \frac{4\pi^2}{GM}\,r^3$$
$$T^2 = \frac{4\pi^2}{GM}\,r^3$$
$T^2 \propto r^3$ は「経験則」ではなく、運動方程式と万有引力の法則の論理的な帰結です。
導出に使ったのは「向心加速度 = 万有引力による加速度」という等式だけです。 M-6-1で位置ベクトルの微分から向心加速度を導出し、ここでそれを万有引力と結びつけました。 道具が連鎖的につながっていることが分かります。
また、比例定数 $4\pi^2/(GM)$ が惑星の質量に依存しないことから、 同じ太陽のまわりを回るすべての惑星で $T^2/r^3$ の値が等しいことが分かります。 これがケプラーの第3法則の内容です。
高校では円軌道のみを扱いますが、実際の惑星軌道は楕円です。 逆二乗則に従う中心力のもとでは、運動方程式を解くと軌道は円錐曲線(楕円、放物線、双曲線のいずれか)になることが数学的に示せます。 束縛軌道(惑星が太陽から離れずに回り続ける場合)は楕円です。
楕円は長半径 $a$ と短半径 $b$ で特徴づけられます。 また、楕円のつぶれ具合を表す離心率 $e$ が定義されます。
楕円軌道の場合、円軌道の半径 $r$ を長半径 $a$ に置き換えれば第3法則がそのまま成り立ちます。
$$T^2 = \frac{4\pi^2}{GM}\,a^3$$
逆二乗則 $F \propto 1/r^2$ の運動方程式を極座標で解くと、 軌道の方程式 $r = \dfrac{l}{1 + e\cos\theta}$($l$, $e$ は定数)が得られます。 これは円錐曲線の極座標表示そのものです。
厳密な導出は大学の力学の授業で扱われますが、 要点は「逆二乗則という特定の形の力が、楕円という特定の形の軌道を生む」という 力と軌道の対応関係です。
ケプラーの第2法則「面積速度一定」は、角運動量保存の法則から導けます。
面積速度とは、惑星と太陽を結ぶ線分が単位時間に掃く面積のことです。 微小時間 $dt$ の間に掃く面積 $dS$ は、位置ベクトル $\boldsymbol{r}$ と微小変位 $\boldsymbol{v}\,dt$ で作る三角形の面積で、次のように書けます。
$$\frac{dS}{dt} = \frac{1}{2}|\boldsymbol{r} \times \boldsymbol{v}| = \frac{|\boldsymbol{L}|}{2m}$$
ここで $\boldsymbol{L} = m\boldsymbol{r} \times \boldsymbol{v}$ は角運動量です。
角運動量の時間変化率はトルク(力のモーメント)に等しいことが知られています。
$$\frac{d\boldsymbol{L}}{dt} = \boldsymbol{r} \times \boldsymbol{F}$$
万有引力は中心力なので、$\boldsymbol{F}$ は $\boldsymbol{r}$ と平行(反平行)です。 平行なベクトルの外積はゼロなので:
$$\frac{d\boldsymbol{L}}{dt} = \boldsymbol{r} \times \boldsymbol{F} = \boldsymbol{0}$$
万有引力は中心力なので $\boldsymbol{F} \parallel \boldsymbol{r}$。
$\dfrac{d\boldsymbol{L}}{dt} = \boldsymbol{r} \times \boldsymbol{F} = \boldsymbol{0}$ → 角運動量 $\boldsymbol{L}$ は一定(保存する)。
面積速度 $\dfrac{dS}{dt} = \dfrac{|\boldsymbol{L}|}{2m}$ であり、$|\boldsymbol{L}|$ と $m$ は一定なので:
$$\frac{dS}{dt} = \text{一定}$$
ケプラーの第2法則(面積速度一定)は、角運動量保存の法則の言い換えです。
万有引力が中心力であるため、トルクがゼロ → 角運動量が保存 → 面積速度が一定。 この論理の連鎖により、面積速度一定は経験則ではなく、力学から導かれる定理になります。
この法則は万有引力に限らず、任意の中心力のもとで成り立ちます。 つまり、力が距離の逆二乗則に従わなくても、中心力であれば面積速度は一定です。
誤解:「第2法則と第3法則は独立した経験則」
正しい理解:第2法則(面積速度一定)は任意の中心力で成り立ち、 第3法則($T^2 \propto a^3$)は逆二乗則の中心力で成り立ちます。 第3法則のほうが万有引力の具体的な形(逆二乗則)を使っている分、より強い結果です。
万有引力とケプラーの法則は、力学の多くのテーマと結びついています。
Q1. 円軌道でケプラーの第3法則 $T^2 \propto r^3$ を導出する際に使う2つの関係式は何ですか。
Q2. $T^2 = (4\pi^2/GM)\,r^3$ の比例定数 $4\pi^2/(GM)$ が惑星の質量 $m$ に依存しないことは、物理的に何を意味しますか。
Q3. ケプラーの第2法則(面積速度一定)が成り立つために必要な条件は何ですか。
Q4. 楕円軌道でのケプラー第3法則は、円軌道の場合とどのように関係していますか。
万有引力とケプラーの法則に関する計算と考察を行いましょう。
地球は太陽のまわりを半径 $r = 1.50 \times 10^{11}$ m の円軌道で公転している(近似)。公転周期は $T = 3.16 \times 10^7$ s(1年)である。次の問いに答えよ。$G = 6.67 \times 10^{-11}$ N m$^2$ kg$^{-2}$ とする。
(1) ケプラーの第3法則 $T^2 = (4\pi^2/GM)\,r^3$ を用いて、太陽の質量 $M$ を求めよ。
(2) 火星の軌道半径が地球の 1.52 倍であるとき、火星の公転周期は地球の何倍か。
(1) $M = \dfrac{4\pi^2 r^3}{GT^2} = \dfrac{4\pi^2 \times (1.50 \times 10^{11})^3}{6.67 \times 10^{-11} \times (3.16 \times 10^7)^2} \approx 2.0 \times 10^{30}$ kg
(2) $T_{\text{火}}/T_{\text{地}} = (r_{\text{火}}/r_{\text{地}})^{3/2} = 1.52^{3/2} \approx 1.87$ 倍
(1) $T^2 = (4\pi^2/GM)r^3$ を $M$ について解きます。地球の軌道データから太陽の質量を求められることが、ケプラー第3法則の応用の一つです。
(2) $T^2 \propto r^3$ より $T \propto r^{3/2}$ です。$T_{\text{火}}/T_{\text{地}} = (1.52)^{3/2} = (1.52)^{1} \times (1.52)^{1/2} = 1.52 \times 1.233 \approx 1.87$。火星の公転周期は約1.87年です。
質量 $M$、半径 $R$ の天体の表面すれすれを周回する人工衛星を考える。次の問いに答えよ。
(1) この人工衛星の速さ $v$ を $G$、$M$、$R$ を用いて表せ。
(2) 周期 $T$ を $G$、$M$、$R$ を用いて表せ。
(3) 天体の平均密度を $\rho$ とすると、$M = \frac{4}{3}\pi R^3 \rho$ である。周期 $T$ を $\rho$ と $G$ のみで表し、$T$ が天体の大きさに依存しないことを示せ。
(1) $v = \sqrt{GM/R}$
(2) $T = 2\pi R/v = 2\pi\sqrt{R^3/(GM)}$
(3) $T = 2\pi\sqrt{\dfrac{R^3}{G \cdot \frac{4}{3}\pi R^3 \rho}} = 2\pi\sqrt{\dfrac{3}{4\pi G\rho}} = \sqrt{\dfrac{3\pi}{G\rho}}$
(1) 向心力=万有引力より $mv^2/R = GMm/R^2$、整理して $v = \sqrt{GM/R}$。
(2) ケプラー第3法則、または $T = 2\pi R/v$ から求められます。
(3) $M = (4/3)\pi R^3 \rho$ を代入すると $R$ が消えます。周期は天体の平均密度のみで決まり、大きさに依存しません。同じ密度なら、小さな小惑星でも巨大な恒星でも、表面すれすれの衛星の周期は同じです。
楕円軌道上の惑星について、太陽に最も近い点(近日点、距離 $r_1$)と最も遠い点(遠日点、距離 $r_2$)における速さをそれぞれ $v_1$、$v_2$ とする。次の問いに答えよ。
(1) 角運動量保存の法則を用いて、$r_1 v_1 = r_2 v_2$ が成り立つことを示せ。(近日点・遠日点では速度は位置ベクトルに垂直であることを使ってよい。)
(2) $r_1 < r_2$ であるとき、$v_1$ と $v_2$ の大小関係を述べ、その物理的意味を説明せよ。
(3) この結果がケプラーの第2法則と整合することを説明せよ。
(1) 角運動量 $L = mrv_\perp$。近日点・遠日点では $v_\perp = v$ なので $L = mr_1 v_1 = mr_2 v_2$。$m$ で割ると $r_1 v_1 = r_2 v_2$。
(2) $r_1 < r_2$ より $v_1 > v_2$。惑星は太陽に近いほど速く、遠いほど遅く運動する。
(3) 面積速度一定は「近いときに速く、遠いときに遅く」動くことで、単位時間に掃く面積が一定に保たれることを意味する。$r_1 v_1 = r_2 v_2$ はこれと等価であり、ケプラー第2法則と整合する。
(1) 角運動量の大きさは $L = m|\boldsymbol{r} \times \boldsymbol{v}| = mrv\sin\phi$($\phi$ は $\boldsymbol{r}$ と $\boldsymbol{v}$ のなす角)。近日点・遠日点では $\phi = 90°$ なので $\sin\phi = 1$、$L = mrv$ です。角運動量保存により $L$ は一定なので、$mr_1 v_1 = mr_2 v_2$。
(2) $r_1 v_1 = r_2 v_2$ で $r_1 < r_2$ なら $v_1 > v_2$。太陽に近づくと速くなり、遠ざかると遅くなります。
(3) 面積速度 $dS/dt = rv/(2)$($\boldsymbol{r} \perp \boldsymbol{v}$ の場合)は $rv$ に比例します。$rv = $ 一定なので面積速度も一定であり、ケプラー第2法則と一致します。