第12章 光

光の干渉
─ ヤングの実験・薄膜・回折格子

高校物理では、ヤングの二重スリット実験の干渉縞の間隔 $\Delta x = \lambda L / d$、薄膜の干渉条件、回折格子の条件 $d\sin\theta = m\lambda$ をそれぞれ個別に学びます。 これらの公式を正しく使えれば入試は解けますが、公式が3つあると「どの場面でどの式を使うか」の判断が必要になります。

大学物理では、これらすべてを「経路差 → 位相差 → 干渉条件」という1つの枠組みで統一的に理解します。 反射時の位相の $\pi$ ずれ(半波長ずれ)がなぜ起こるかも、自由端反射・固定端反射の概念で物理的に説明できます。

この記事では、個別の公式を統一的な枠組みの中に位置づけ、干渉現象の本質を明らかにします。

1高校物理の道具を確認する

高校物理では、干渉に関して次の公式を個別に学びます。

現象公式
ヤングの実験$\Delta x = \lambda L / d$(干渉縞の間隔)
薄膜の干渉反射光の強め合い・弱め合いの条件(位相のずれを考慮)
回折格子$d\sin\theta = m\lambda$(主極大の条件)

これらの道具は有効ですが、次の点が気になります。

  • 3つの現象が別々に見える。統一的な考え方が示されない
  • 薄膜干渉の「半波長のずれ」がなぜ起こるのか。「屈折率の大きい媒質で反射すると位相がずれる」と覚えるが、物理的理由は説明されない
  • 回折格子と二重スリットの関係が見えない。回折格子はスリットが多数ある場合に相当するが、その関係は高校では扱われない

2大学の視点で見ると何が変わるのか

高校 vs 大学:干渉現象の理解
高校:個別の公式を覚える
ヤングの実験、薄膜、回折格子をそれぞれ別の公式で扱う。
大学:「経路差→位相差→干渉条件」で統一
すべての干渉現象を同じ枠組みで理解する。個別の公式はこの枠組みの特殊な場合。
高校:位相のπずれは暗記
「屈折率大→位相ずれ」と覚える。
大学:固定端反射として物理的に説明
波の反射の一般論から導ける。
高校:二重スリットと回折格子は別物
それぞれ独立に扱う。
大学:回折格子はN本スリットの干渉
$N = 2$ がヤングの実験。$N$ を増やすと回折格子。
この記事で得られること

干渉を1つの枠組みで理解できる。 「経路差 → 位相差 → 干渉条件」という統一的な手順を身につけ、どんな干渉問題にも同じ方法で対処できるようになります。

位相の $\pi$ ずれの物理的理由が分かる。 自由端反射と固定端反射の概念を使って、なぜ屈折率の大きい媒質での反射で位相がずれるかを理解できます。

ヤングの実験と回折格子の関係が見える。 両者は「スリットの本数が異なるだけ」であり、同じ物理の異なる現れ方であることが分かります。

3干渉の統一的枠組み ─ 経路差・位相差・干渉条件

すべての干渉問題は、次の3ステップで解けます。

干渉の3ステップ

Step 1:2つの波の経路差 $\Delta L$ を幾何学的に求める

Step 2:経路差を位相差 $\delta$ に変換する:$\delta = \dfrac{2\pi}{\lambda}\Delta L$(反射による位相ずれがあれば加算)

Step 3:強め合い $\delta = 2m\pi$($m = 0, \pm 1, \pm 2, \ldots$)、弱め合い $\delta = (2m+1)\pi$

この3ステップは普遍的です。ヤングの実験でも薄膜でも回折格子でも、まったく同じ手順で干渉条件が得られます。

反射による位相の $\pi$ ずれ

光が屈折率の大きい媒質の境界で反射するとき、位相が $\pi$(半波長)だけずれます。 これは波動の一般論における固定端反射に対応します。

位相ずれの物理的意味

ロープの波で考えると分かりやすいです。ロープの端が固定されている(固定端)と、反射波は入射波と逆位相(位相ずれ $\pi$)になります。 端が自由(自由端)なら、反射波は入射波と同位相(位相ずれなし)です。

光の場合、屈折率の大きい媒質は「固定端」に相当します。光の電場が境界で連続であるという条件から、 屈折率の大きい側に進む透過波の電場方向に合わせるため、反射波の電場が反転するのです。

4ヤングの二重スリット

統一的枠組みの最初の適用例として、ヤングの二重スリット実験を扱います。

経路差の計算

スリット間隔 $d$、スリットからスクリーンまでの距離 $L$、スクリーン上の位置 $y$(中央からの距離)とします。 $L \gg d, y$ の条件のもとで、2つのスリットからの経路差は:

$$\Delta L = d\sin\theta \approx \frac{dy}{L}$$

干渉縞の間隔の導出

強め合いの条件:$\Delta L = m\lambda$($m = 0, \pm 1, \pm 2, \ldots$)

$dy/L = m\lambda$ より $y_m = m\lambda L / d$

隣り合う明線の間隔は:

$$\Delta x = y_{m+1} - y_m = \frac{\lambda L}{d}$$

高校で覚えた $\Delta x = \lambda L / d$ が、統一的枠組みから自然に導出できました。

落とし穴:$\Delta x = \lambda L / d$ は近似式

誤解:$\Delta x = \lambda L / d$ は厳密な公式

実際:この式は $L \gg d, y$(遠方近似)のもとで成り立つ近似式です。 正確には $\Delta L = d\sin\theta$ であり、$\sin\theta \approx \tan\theta = y/L$ と近似しています。 スクリーンが近い場合やスリット間隔が大きい場合には精度が落ちます。

5薄膜の干渉

薄膜の干渉も、統一的枠組みで理解できます。ただし、反射による位相ずれを正しく考慮する必要があります。

薄膜の反射光の干渉

屈折率 $n$ の薄膜(厚さ $d$)に光が垂直に入射する場合を考えます。 上面で反射する光(光線1)と、膜の中を通過して下面で反射する光(光線2)が干渉します。

薄膜干渉の条件の導出

経路差:光線2は膜内を往復するので、経路差は $2nd$(膜内での波長は $\lambda/n$ なので、光学的経路差は $2nd$)

位相ずれ:上面での反射は屈折率の大きい媒質(膜)での反射なので位相が $\pi$ ずれる。下面での反射は屈折率の小さい媒質(空気)への反射なので位相ずれなし。差し引き $\pi$ の位相差が追加される。

位相差の合計:

$$\delta = \frac{2\pi}{\lambda} \times 2nd + \pi$$

強め合い(反射光):$\delta = 2m\pi$ より

$$2nd = \left(m - \frac{1}{2}\right)\lambda \quad (m = 1, 2, 3, \ldots)$$

弱め合い(反射光):$\delta = (2m+1)\pi$ より

$$2nd = m\lambda \quad (m = 0, 1, 2, \ldots)$$

ニュートンリング

平凸レンズを平面ガラスの上に置くと、レンズとガラスの間の空気層の厚さが場所によって異なるため、同心円状の干渉縞(ニュートンリング)が観察されます。 これも薄膜干渉の一種であり、空気層の厚さが $d$ の部分での干渉条件は上と同じ枠組みで求められます。

反射防止コーティング

薄膜干渉の応用として、カメラレンズの反射防止コーティングがあります。 レンズ表面に適切な厚さの薄膜を塗布すると、上面反射光と下面反射光が弱め合いの条件を満たし、反射光を低減できます。

コーティングの最適な厚さは $d = \lambda / (4n)$ です。これにより反射光の経路差が半波長となり、弱め合いの干渉が起こります。

6回折格子

回折格子は、多数のスリットが等間隔に並んだ構造です。ヤングの二重スリット実験の $N$ 本スリット版と見なせます。

主極大の条件

格子間隔(スリット間隔)$d$ の回折格子に平行光線が入射するとき、隣接するスリットからの経路差は $d\sin\theta$ です。 すべてのスリットからの波が強め合う条件は:

回折格子の主極大の条件

$$d\sin\theta = m\lambda \quad (m = 0, \pm 1, \pm 2, \ldots)$$

$m$ は次数。二重スリットの強め合い条件とまったく同じ形です。 違いは、$N$ 本のスリットからの波が重ね合わさるため、ピークが非常に鋭くなることです。

$N$ 本スリットの効果

二重スリット($N = 2$)の場合、干渉縞はなだらかな明暗のパターンです。 スリットの数 $N$ を増やすと:

  • 主極大の位置は変わらない。$d\sin\theta = m\lambda$ は $N$ に依存しない
  • 主極大のピークが鋭くなる。$N$ が大きいほど、条件からわずかにずれると波の打ち消し合いが起こり、ピーク幅が狭くなる
  • 主極大間に $N - 2$ 本の副極大が現れる。ただし主極大に比べて非常に弱い
二重スリット vs 回折格子
二重スリット($N = 2$)
明線の位置:$d\sin\theta = m\lambda$
明線の幅:広い(なだらか)
波長の分離能力:低い
回折格子($N \gg 1$)
主極大の位置:$d\sin\theta = m\lambda$(同じ)
主極大の幅:非常に狭い(鋭い)
波長の分離能力:高い(分光に利用)
回折格子の分解能

回折格子の分解能は $R = mN$($m$:次数、$N$:スリット総数)で定義されます。 これは、波長 $\lambda$ と $\lambda + \Delta\lambda$ の2つの光を区別できる最小の $\Delta\lambda$ を $\lambda / R$ で与えます。

$N$ が大きいほど(スリットが多いほど)、またはより高次の回折を使うほど、分解能が高くなります。 分光器に回折格子が使われる理由は、この高い分解能にあります。

7つながりマップ

  • ← W-12-1 光の屈折と反射:薄膜干渉における反射時の位相ずれは、屈折率の大小関係(固定端・自由端反射)で決まる。
  • ← W-10-2 波の干渉と重ね合わせ:干渉の一般論(位相差と強め合い・弱め合い)が光の干渉にそのまま適用される。
  • → W-12-4 光の回折:回折格子の各スリットの幅が有限だと、単スリット回折のパターンが重なる。干渉と回折の関係。
  • → A-20-1 光の粒子性:光の干渉は波動性の証拠。光電効果(粒子性)との対比が量子力学の出発点になる。

📋まとめ

  • すべての干渉問題は「経路差 → 位相差 → 干渉条件」の3ステップで統一的に解ける
  • 位相差 $\delta = 2\pi\Delta L/\lambda$(+反射による位相ずれ)。強め合い $\delta = 2m\pi$、弱め合い $\delta = (2m+1)\pi$
  • 屈折率の大きい媒質での反射で位相が $\pi$ ずれるのは、固定端反射に対応する
  • 回折格子の主極大条件 $d\sin\theta = m\lambda$ はヤングの実験と同じ。$N$ 本のスリットにすることでピークが鋭くなり分解能が上がる
  • 薄膜干渉は経路差 $2nd$ に反射の位相ずれを加えて干渉条件を求める

確認テスト

Q1. 干渉問題を解く統一的な3ステップを述べてください。

▶ クリックして解答を表示(1) 2つの波の経路差 $\Delta L$ を求める。(2) 経路差を位相差 $\delta = 2\pi\Delta L/\lambda$(+反射による位相ずれ)に変換する。(3) 強め合い $\delta = 2m\pi$、弱め合い $\delta = (2m+1)\pi$ を適用する。

Q2. 光が屈折率の大きい媒質の境界で反射するとき位相が $\pi$ ずれる理由を、波の反射の一般論で説明してください。

▶ クリックして解答を表示屈折率の大きい媒質は「固定端」に相当します。固定端反射では反射波が入射波と逆位相になるため、位相が $\pi$ ずれます。これは境界条件(電場の連続性)から導かれる物理的帰結です。

Q3. 回折格子のスリット数を増やすと、主極大のピークはどう変化しますか。主極大の位置は変わりますか。

▶ クリックして解答を表示主極大の位置は変わりません($d\sin\theta = m\lambda$ は $N$ に依存しない)。しかし主極大のピーク幅が狭くなり、より鋭いピークになります。これにより分解能が向上します。

Q4. 厚さ $d$、屈折率 $n$ の薄膜に光が垂直入射するとき、反射光が弱め合う条件は何ですか(薄膜の上下が空気の場合)。

▶ クリックして解答を表示$2nd = m\lambda$($m = 0, 1, 2, \ldots$)。上面反射で位相が $\pi$ ずれ、下面反射ではずれない。位相差の合計が $(2m+1)\pi$(弱め合い)になる条件がこの式です。

10演習問題

干渉に関する理解を深めましょう。

A 基礎レベル

12-3-1 A 基礎 ヤングの実験

ヤングの二重スリット実験で、スリット間隔 $d = 0.2$ mm、スリットからスクリーンまでの距離 $L = 1.0$ m、光の波長 $\lambda = 600$ nm である。次の問いに答えよ。

(1) 干渉縞の間隔 $\Delta x$ を求めよ。

(2) 中央明線から3番目の明線の位置を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $\Delta x = 3.0$ mm

(2) $y_3 = 9.0$ mm

解説

(1) $\Delta x = \lambda L / d = 600 \times 10^{-9} \times 1.0 / (0.2 \times 10^{-3}) = 3.0 \times 10^{-3}$ m $= 3.0$ mm

(2) $y_3 = 3\lambda L / d = 3 \times 3.0 = 9.0$ mm

B 発展レベル

12-3-2 B 発展 薄膜干渉

ガラス(屈折率 $n_g = 1.5$)の表面に屈折率 $n = 1.38$ の薄膜コーティングを施す。波長 $\lambda = 550$ nm の光の反射を最小にしたい。次の問いに答えよ。

(1) 薄膜の上面と下面での反射における位相ずれをそれぞれ求めよ。

(2) 反射光が弱め合うための薄膜の最小厚さを求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 上面:$\pi$(空気→膜で屈折率増加)、下面:$\pi$(膜→ガラスで屈折率増加)

(2) $d \approx 99.6$ nm

解説

(1) 上面:空気($n = 1.0$)→ 膜($n = 1.38$)で屈折率が増加するので位相ずれ $\pi$。下面:膜($n = 1.38$)→ ガラス($n = 1.5$)でも屈折率が増加するので位相ずれ $\pi$。

(2) 両面で $\pi$ ずれるので、反射による位相差は $\pi - \pi = 0$。弱め合いの条件は経路差による位相差が $\pi$ になること、すなわち $2nd = \lambda/2$。

$d = \lambda/(4n) = 550/(4 \times 1.38) \approx 99.6$ nm

採点ポイント
  • 各面での位相ずれを正しく判定する(3点)
  • 位相差の合計を正しく求める(2点)
  • 最小厚さを正しく計算する(3点)

C 応用レベル

12-3-3 C 応用 回折格子 分解能

格子定数 $d = 1.0 \times 10^{-3}$ mm、全スリット数 $N = 5000$ の回折格子を用いて、ナトリウムのD線($\lambda_1 = 589.0$ nm と $\lambda_2 = 589.6$ nm の二重線)を分離したい。次の問いに答えよ。

(1) この二重線を分離するために必要な分解能 $R$ を求めよ。

(2) 1次回折($m = 1$)でこの二重線を分離できるか判定せよ。

(3) 分離に必要な最小の回折次数 $m$ を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $R = \lambda/\Delta\lambda = 589.0/0.6 \approx 982$

(2) 1次回折での分解能は $R = mN = 1 \times 5000 = 5000 > 982$ なので分離できる。

(3) $mN \geq 982$ より $m \geq 982/5000 = 0.196...$。よって $m = 1$(1次で十分)。

解説

(1) 分解能の定義 $R = \lambda/\Delta\lambda$ に $\lambda = 589.0$ nm、$\Delta\lambda = 0.6$ nm を代入します。

(2) 回折格子の分解能は $R = mN$。$N = 5000$ なので、$m = 1$ でも $R = 5000$ となり、必要な分解能 $982$ を大きく上回ります。

(3) $mN \geq 982$ を満たす最小の正整数 $m$ は $m = 1$ です。この回折格子はスリット数が十分多いため、1次回折でナトリウムD線を分離できます。

採点ポイント
  • 分解能の定義を正しく適用する(2点)
  • $R = mN$ の関係を使う(3点)
  • 判定と最小次数の導出(3点)
  • 物理的解釈(2点)