高校物理では、単振動の位置は $x = A\sin(\omega t + \varphi)$ と表されると学びます。
大学物理では、この式がどこから来るのかが分かります。
ばねの復元力 $F = -kx$ とニュートンの運動方程式 $F = ma$ を組み合わせると、微分方程式 $\ddot{x} = -\omega^2 x$ が得られます。
この方程式の解がまさに $\sin$ と $\cos$ なのです。
$\sin$ と $\cos$ は恣意的な選択ではありません。
「2回微分して元の関数の符号を反転させる」という条件を満たす関数は $\sin$ と $\cos$ だけです。
物理法則 $F = -kx$ がこの数学的構造を要求しているのです。
高校物理では、単振動を次のように学びます。
これらの公式を覚え、問題に当てはめて解くのが高校物理のアプローチです。
ここで、高校の扱いの特徴を整理しておきます。
これらは高校物理の欠点ではなく、微分方程式という道具を使わない範囲での合理的な扱い方です。 大学物理では、$F = -kx$ から出発して $x = A\sin(\omega t + \varphi)$ を数学的に導出します。
具体的な説明に入る前に、この記事を読むと何ができるようになるのかを示します。
1. なぜ単振動の位置が sin/cos になるか分かる。 復元力 $F = -kx$ から出発して微分方程式を立て、その解として $\sin$ と $\cos$ が必然的に現れることを確認します。
2. 角振動数 $\omega = \sqrt{k/m}$ がなぜこの形か分かる。 微分方程式を解く過程で、$\omega^2 = k/m$ が自動的に決まる理由を理解します。
3. 周期・振幅・位相の意味が式から読み取れるようになる。 解 $x = A\sin(\omega t + \varphi)$ の各パラメータが物理的に何を意味するかを、式の構造から説明できるようになります。
まず、「微分方程式」という言葉を明確にしておきます。
未知の関数 $x(t)$ とその微分($\dot{x}$, $\ddot{x}$ など)を含む方程式のこと。
単振動の微分方程式を導いてみましょう。ばねにつながれた質量 $m$ の物体に働く力は復元力 $F = -kx$ です。 ニュートンの運動方程式 $F = ma$ と組み合わせます。
運動方程式:$F = ma$
復元力を代入:$-kx = ma$
加速度は位置の2階微分 $a = \ddot{x}$ なので:$-kx = m\ddot{x}$
両辺を $m$ で割って整理すると:
$$\ddot{x} = -\frac{k}{m}\,x$$
ここで $\omega^2 = k/m$ とおくと:
$$\ddot{x} = -\omega^2 x$$
この方程式 $\ddot{x} = -\omega^2 x$ が意味していることは明快です。
$\ddot{x} = -\omega^2 x$ は次のことを要求しています:
「2回微分すると、元の関数に $-\omega^2$ をかけたものになる関数 $x(t)$ を見つけよ」
つまり、2回微分して符号が反転する(負号がつく)関数は何か?という問いです。
$\ddot{x} = -\omega^2 x$ を満たす関数を探しましょう。 まずは簡単のために $\omega = 1$ として $\ddot{x} = -x$(2回微分すると元に戻って符号が反転する)を考えます。
$x = t^2$ の場合:
$\ddot{x} = 2$ は定数であり、$-x = -t^2$ とは一致しません。$t^2$ は解ではない。
指数関数 $e^t$ は微分しても $e^t$ のまま(微分しても変わらないのが指数関数の特徴)です。
$\ddot{x} = e^t = x$ であり、$-x$ ではなく $+x$ になっています。符号が反転しません。$e^t$ も解ではない。
$\sin(t)$ を微分する規則は次の通りです:$\sin(t)$ → $\cos(t)$ → $-\sin(t)$。
$\ddot{x} = -x$ を満たしました。$\sin(t)$ は解です。
$\cos(t)$ を微分する規則は:$\cos(t)$ → $-\sin(t)$ → $-\cos(t)$。
$\cos(t)$ も解です。
$\sin$ と $\cos$ は「2回微分すると符号が反転する」という性質を持つ、本質的に唯一の関数です。
$t^2$ では微分するとべきが下がり、元の形を保てません。$e^t$ は微分しても形は保ちますが、符号は変わりません。
「形を保ちつつ符号を反転させる」という条件を両方満たすのが $\sin$ と $\cos$ なのです。 これは偶然ではなく、数学的な必然です。
実際の方程式は $\ddot{x} = -\omega^2 x$ です。$x(t) = A\sin(\omega t)$ を代入して確認します。
$x(t) = A\sin(\omega t)$
1回微分:$\dot{x} = A\omega\cos(\omega t)$
2回微分:$\ddot{x} = -A\omega^2\sin(\omega t)$
右辺を $x$ で書き直すと:
$$\ddot{x} = -\omega^2 \cdot A\sin(\omega t) = -\omega^2 x$$
確かに $\ddot{x} = -\omega^2 x$ を満たします。
同様に $x(t) = B\cos(\omega t)$ も解です。最も一般的な解(一般解)は両者の組み合わせです。
微分方程式:$\ddot{x} = -\omega^2 x$ (ただし $\omega = \sqrt{k/m}$)
一般解:
$$x(t) = A\sin(\omega t + \varphi)$$
誤解:「$\omega = \sqrt{k/m}$ と定義する」
正しい理解:微分方程式 $\ddot{x} = -(k/m)\,x$ の解が $\sin$ になるためには、 角振動数が $\omega = \sqrt{k/m}$ でなければならない。 これは定義ではなく、方程式を解いた結果として決まるものです。
一般解は $x = C_1\sin(\omega t) + C_2\cos(\omega t)$ とも書けます。 三角関数の合成公式を使うと、これは $x = A\sin(\omega t + \varphi)$ と変換できます。
ここで $A = \sqrt{C_1^2 + C_2^2}$(振幅)、$\tan\varphi = C_2/C_1$(初期位相)です。
$t = 0$ でばねを引っ張って離す(初速度ゼロ)場合は $x(0) = A$, $\dot{x}(0) = 0$ となり、 $\varphi = \pi/2$ つまり $x = A\cos(\omega t)$ になります。 $t = 0$ で原点を通過する場合は $\varphi = 0$ で $x = A\sin(\omega t)$ です。
解 $x(t) = A\sin(\omega t + \varphi)$ の各パラメータが物理的に何を意味するかを確認します。
$\sin$ の最大値は $1$ なので、$x$ の最大値は $A$ です。 つまり $A$ は振動の最大変位であり、初期条件で決まります。 $A$ は微分方程式には現れず、「どれだけ引っ張って離したか」という初期条件の情報です。
$\omega$ は振動の速さを決めるパラメータです。この式から2つの物理的な帰結が読み取れます。
これらは日常の経験とも一致します。硬いばねに軽い物体をつけると速くブルブル振動し、 柔らかいばねに重い物体をつけるとゆっくり揺れます。 $\omega = \sqrt{k/m}$ はこの直感を正確に数式化しています。
$\sin$ 関数は引数が $2\pi$ 増えると元に戻ります。 $\omega t$ が $2\pi$ 増える時間、つまり $\omega T = 2\pi$ を満たす $T$ が周期です。
$$T = \frac{2\pi}{\omega} = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}}$$
高校で暗記した公式 $T = 2\pi\sqrt{m/k}$ が、ここで自然に導かれました。
誤解:「大きく振動させると周期が長くなる」
正しい理解:$T = 2\pi\sqrt{m/k}$ に振幅 $A$ は含まれていません。 大きく引っ張っても小さく引っ張っても、周期は同じです。 これは単振動の重要な性質であり、式から明確に読み取れます。
ただし、これは復元力が変位に正確に比例する($F = -kx$)場合に限ります。 振幅が大きくなりすぎてばねが線形でなくなると、この性質は崩れます。
半径 $A$ の等速円運動を考え、その $x$ 成分を取ると $x = A\cos(\omega t)$ になります。 これは単振動の解そのものです。
つまり、単振動は等速円運動の射影と見なせます。 $\omega$ が「角振動数」と呼ばれるのは、対応する円運動の角速度に一致するからです。 M-6-1(等速円運動)で学んだ角速度 $\omega$ と同じ記号が使われる理由がここにあります。
高校物理で個別に覚えていた単振動の公式を、 1つの解 $x = A\sin(\omega t + \varphi)$ からすべて導出してみましょう。
位置:$x(t) = A\sin(\omega t + \varphi)$
速度(1回微分):
$$v(t) = \dot{x} = A\omega\cos(\omega t + \varphi)$$
加速度(2回微分):
$$a(t) = \ddot{x} = -A\omega^2\sin(\omega t + \varphi) = -\omega^2 x$$
ここから、高校で覚えた公式がすべて出てきます。
| 高校の公式 | 大学での導出 |
|---|---|
| $v_{\max} = A\omega$ | $v = A\omega\cos(\omega t + \varphi)$ で $\cos = 1$ のとき最大 |
| $a_{\max} = A\omega^2$ | $a = -A\omega^2\sin(\omega t + \varphi)$ で $|\sin| = 1$ のとき最大 |
| $T = 2\pi\sqrt{\dfrac{m}{k}}$ | $\omega = \sqrt{k/m}$ と $T = 2\pi/\omega$ から導出 |
| $E = \dfrac{1}{2}kA^2$ | $x = 0$(つり合い点)で $v = v_{\max} = A\omega$ より、$E = \frac{1}{2}mv_{\max}^2 = \frac{1}{2}m\omega^2 A^2 = \frac{1}{2}kA^2$ |
高校では $v_{\max}$、$a_{\max}$、$T$、$E$ を個別の公式として覚える必要がありました。
大学の視点では、微分方程式 $\ddot{x} = -\omega^2 x$ とその解 $x = A\sin(\omega t + \varphi)$ さえ理解していれば、 あとは微分するだけですべての公式が導けます。
覚えるべきことが減り、忘れても導き直せるようになります。
$x = A\sin(\omega t + \varphi)$、$v = A\omega\cos(\omega t + \varphi)$ を使って力学的エネルギーを計算すると:
$E = \frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}kx^2 = \frac{1}{2}m\omega^2 A^2\cos^2(\omega t + \varphi) + \frac{1}{2}kA^2\sin^2(\omega t + \varphi)$
$m\omega^2 = k$ なので:$E = \frac{1}{2}kA^2(\cos^2 + \sin^2) = \frac{1}{2}kA^2$
三角関数の基本性質 $\sin^2 + \cos^2 = 1$ により、エネルギーが時間に依存せず一定であることが示されます。 エネルギー保存則が数式から自然に確認できました。
単振動の微分方程式は、力学の多くのテーマと深くつながっています。
Q1. 単振動の微分方程式 $\ddot{x} = -\omega^2 x$ が求めているのは、どのような性質を持つ関数ですか?
Q2. $x(t) = e^t$ が $\ddot{x} = -x$ の解にならない理由を述べてください。
Q3. $\omega = \sqrt{k/m}$ において、ばね定数 $k$ を4倍にすると角振動数と周期はどうなりますか?
Q4. 単振動の周期が振幅に依存しない理由を、数式を使って説明してください。
単振動の微分方程式とその解について、問題で確認しましょう。
$x(t) = 3\sin(2t)$ が微分方程式 $\ddot{x} = -4x$ の解であることを確認せよ。
(1) $x(t) = 3\sin(2t)$ を1回微分して $\dot{x}$ を求めよ。
(2) $\dot{x}$ をさらに微分して $\ddot{x}$ を求めよ。
(3) $\ddot{x} = -4x$ が成り立つことを確認せよ。
(1) $\dot{x} = 6\cos(2t)$
(2) $\ddot{x} = -12\sin(2t)$
(3) $-4x = -4 \times 3\sin(2t) = -12\sin(2t) = \ddot{x}$ ✓
(1) $\sin(2t)$ の微分は $2\cos(2t)$(合成関数の微分で内側の $2$ が出る)。よって $\dot{x} = 3 \times 2\cos(2t) = 6\cos(2t)$。
(2) $\cos(2t)$ の微分は $-2\sin(2t)$。よって $\ddot{x} = 6 \times (-2\sin(2t)) = -12\sin(2t)$。
(3) $\ddot{x} = -12\sin(2t)$ と $-4x = -12\sin(2t)$ が一致するので、$x = 3\sin(2t)$ は $\ddot{x} = -4x$ の解である。ここで $\omega^2 = 4$, $\omega = 2$ であり、振幅 $A = 3$ である。
ばね定数 $k = 200$ N/m のばねに質量 $m = 0.50$ kg の物体をつなぎ、つり合いの位置から $0.10$ m 引いて静かに離した。次の問いに答えよ。
(1) 角振動数 $\omega$ を求めよ。
(2) 周期 $T$ を求めよ。
(3) 最大速度 $v_{\max}$ を求めよ。
(4) 位置の式を $x(t) = A\cos(\omega t)$ の形で書け(「静かに離した」ことに注意)。
(1) $\omega = 20$ rad/s
(2) $T = \dfrac{\pi}{10} \approx 0.31$ s
(3) $v_{\max} = 2.0$ m/s
(4) $x(t) = 0.10\cos(20t)$ [m]
(1) $\omega = \sqrt{k/m} = \sqrt{200/0.50} = \sqrt{400} = 20$ rad/s
(2) $T = 2\pi/\omega = 2\pi/20 = \pi/10 \approx 0.31$ s
(3) 速度は $v = -A\omega\sin(\omega t)$ なので、$v_{\max} = A\omega = 0.10 \times 20 = 2.0$ m/s
(4) 「静かに離した」= 初速度ゼロ。$t = 0$ で $x = A = 0.10$ m、$\dot{x} = 0$。$\sin$ ではなく $\cos$ を使うと初期条件が自然に満たされる:$x(0) = A\cos(0) = A$, $\dot{x}(0) = -A\omega\sin(0) = 0$。
長さ $L$ の糸に質量 $m$ のおもりをつけた単振り子を考える。鉛直からの角度を $\theta$ とする。重力加速度を $g$ とし、糸の質量と空気抵抗は無視する。
(1) おもりに働く接線方向の復元力は $F = -mg\sin\theta$ である。運動方程式 $mL\ddot{\theta} = F$ を用いて、$\ddot{\theta}$ を $\theta$ と $g$, $L$ で表せ。
(2) $\theta$ が十分小さいとき $\sin\theta \approx \theta$(ラジアン)が成り立つ。この近似を用いて、(1) の方程式を単振動の微分方程式の形 $\ddot{\theta} = -\omega^2\theta$ に書き直せ。$\omega$ を $g$ と $L$ で表せ。
(3) (2) の結果から、単振り子の周期 $T$ を導出せよ。
(4) 周期が糸の長さと重力加速度にどう依存するか、物理的に説明せよ。
(1) $\ddot{\theta} = -\dfrac{g}{L}\sin\theta$
(2) $\ddot{\theta} = -\dfrac{g}{L}\,\theta$ より $\omega = \sqrt{\dfrac{g}{L}}$
(3) $T = 2\pi\sqrt{\dfrac{L}{g}}$
(4) 糸が長いほど周期は長い(ゆっくり振れる)。重力が強いほど周期は短い(速く振れる)。質量は周期に影響しない。
(1) 運動方程式 $mL\ddot{\theta} = -mg\sin\theta$ の両辺を $mL$ で割ると:
$$\ddot{\theta} = -\frac{g}{L}\sin\theta$$
(2) $\sin\theta \approx \theta$ とすると:
$$\ddot{\theta} = -\frac{g}{L}\,\theta$$
これはばねの場合の $\ddot{x} = -\omega^2 x$ とまったく同じ形です。$x$ が $\theta$ に、$\omega^2 = k/m$ が $g/L$ に置き換わっただけです。したがって $\omega = \sqrt{g/L}$。
(3) $T = 2\pi/\omega = 2\pi\sqrt{L/g}$。高校で暗記した単振り子の周期の公式が、微小角近似と微分方程式から導出されました。
(4) $L$ が大きいと弧が長くなり、同じ角度でも移動距離が増えるため、周期が長くなる。$g$ が大きいと復元力が強くなり、速く引き戻されるため、周期が短くなる。$T = 2\pi\sqrt{L/g}$ に質量 $m$ が含まれないのは、重力加速度 $g$ が質量に依存しないため(重い物体も軽い物体も同じ加速度で落下する)。