高校物理では、等速円運動の加速度 $a = v^2/r$ や $a = r\omega^2$ を公式として覚え、
「向心力が必要である」と教わります。
公式を覚えて適用すれば入試問題は解けますが、なぜ加速度が中心向きになるのかは直感的な説明に留まります。
大学物理では、円運動する物体の位置ベクトルを時間で微分するだけで、
速度も加速度も自動的に求まります。
加速度が中心向きであること、大きさが $r\omega^2$ であることは、計算結果として出てくるのです。
公式を暗記する必要はありません。
この記事では、位置ベクトルの微分から等速円運動のすべての公式を導出し、
さらに非等速円運動への拡張まで見通します。
高校物理では、等速円運動を次のように学びます。
これらの公式は正しく、入試でも十分に使えます。 しかし、いくつかの点が「そういうものだ」として提示されています。
大学物理では、これらすべてが位置ベクトルの微分から導けます。
位置ベクトルを微分するアプローチを使うと、何が変わるのかを先に示します。
公式の暗記が不要になる。 位置ベクトルを微分するだけで、速度の大きさ $v = R\omega$、加速度の大きさ $a = R\omega^2 = v^2/R$ がすべて出てきます。
「なぜ中心向き?」に数学的な答えが得られる。 加速度ベクトル $\boldsymbol{a} = -\omega^2 \boldsymbol{r}$ は、位置ベクトルの逆向きです。 「中心向き」は計算結果として出るものであり、暗記する必要がありません。
非等速円運動にも対応できる。 等速でない場合に何が変わるかを見通せるようになります。
では、位置ベクトルの微分を実際にやってみましょう。
等速円運動では、物体は半径 $R$ の円周上を一定の角速度 $\omega$ で回っています。 時刻 $t$ における位置ベクトルを成分で書くと、次のようになります。
$$\boldsymbol{r}(t) = \begin{pmatrix} R\cos\omega t \\ R\sin\omega t \end{pmatrix}$$
速度は位置の時間微分です(M-1-1で学んだ通り)。 各成分を $t$ で微分します。
ここで使う微分公式は次の2つだけです。
| 関数 | 微分 |
|---|---|
| $\cos\omega t$ | $-\omega\sin\omega t$ |
| $\sin\omega t$ | $\omega\cos\omega t$ |
$\boldsymbol{v}(t) = \dfrac{d\boldsymbol{r}}{dt} = \begin{pmatrix} \dfrac{d}{dt}(R\cos\omega t) \\[8pt] \dfrac{d}{dt}(R\sin\omega t) \end{pmatrix}$
各成分を微分すると:
$$\boldsymbol{v}(t) = \begin{pmatrix} -R\omega\sin\omega t \\ R\omega\cos\omega t \end{pmatrix}$$
速さ(速度ベクトルの大きさ)を計算します。
$$|\boldsymbol{v}| = \sqrt{(-R\omega\sin\omega t)^2 + (R\omega\cos\omega t)^2}$$ $$= R\omega\sqrt{\sin^2\omega t + \cos^2\omega t} = R\omega$$
$\sin^2 + \cos^2 = 1$ を使いました。 速さは $|\boldsymbol{v}| = R\omega$ で一定です。 これは等速円運動の定義と一致しています。
$\boldsymbol{r} \cdot \boldsymbol{v} = R\cos\omega t \cdot (-R\omega\sin\omega t) + R\sin\omega t \cdot R\omega\cos\omega t = 0$
内積がゼロなので、速度ベクトルは位置ベクトル(=円の半径方向)に常に垂直です。 つまり速度は円の接線方向を向いています。 これも高校で「速度は接線方向」と教わった内容ですが、ここでは計算から自動的に出ています。
速度ベクトルをさらに微分すると、加速度ベクトルが得られます。
$\boldsymbol{a}(t) = \dfrac{d\boldsymbol{v}}{dt} = \begin{pmatrix} \dfrac{d}{dt}(-R\omega\sin\omega t) \\[8pt] \dfrac{d}{dt}(R\omega\cos\omega t) \end{pmatrix}$
各成分を微分すると:
$$\boldsymbol{a}(t) = \begin{pmatrix} -R\omega^2\cos\omega t \\ -R\omega^2\sin\omega t \end{pmatrix}$$
これを整理すると:
$$\boldsymbol{a}(t) = -\omega^2 \begin{pmatrix} R\cos\omega t \\ R\sin\omega t \end{pmatrix} = -\omega^2 \boldsymbol{r}(t)$$
$$\boldsymbol{a}(t) = -\omega^2 \boldsymbol{r}(t)$$
この結果から読み取れることを整理します。
高校で暗記していた「加速度は中心向き、大きさは $v^2/R$」が、 位置ベクトルを2回微分しただけですべて自動的に出てきました。
誤解:「等速なら加速度はゼロではないか」
正しい理解:「等速」は速さ(スカラー)が一定という意味です。 速度(ベクトル)は向きが変わり続けているので、加速度は存在します。
加速度とは速度ベクトルの時間変化率 $\boldsymbol{a} = d\boldsymbol{v}/dt$ です。 速度の大きさが変わらなくても、向きが変われば $d\boldsymbol{v}/dt \neq \boldsymbol{0}$ です。 M-1-1で学んだ微分の定義に立ち戻れば、この点は明確です。
等速円運動の加速度 $\boldsymbol{a} = -\omega^2 \boldsymbol{r}$ を $x$ 成分だけ取り出すと、 $a_x = -\omega^2 x$ となります。これは単振動の運動方程式そのものです。
実際、等速円運動を $x$ 軸に射影すると単振動になります。 これが「等速円運動と単振動は密接に関連している」と言われる数学的な理由です。 詳しくは M-6-2 で扱います。
等速円運動を記述する量として、角速度 $\omega$、周期 $T$、振動数 $f$ があります。 これらの関係を整理しておきます。
$$\omega = \frac{2\pi}{T} = 2\pi f$$
1周は $2\pi$ rad です。周期 $T$ で1周するので、1秒あたりの角度は $\omega = 2\pi / T$ です。 振動数 $f = 1/T$ を使えば $\omega = 2\pi f$ とも書けます。
これらを使うと、速さと加速度の大きさを様々な形で書けます。
| 量 | $\omega$ を使った表現 | $T$ を使った表現 |
|---|---|---|
| 速さ $v$ | $R\omega$ | $\dfrac{2\pi R}{T}$ |
| 加速度の大きさ $a$ | $R\omega^2$ | $\dfrac{4\pi^2 R}{T^2}$ |
これらは独立した公式ではなく、$\omega = 2\pi/T$ を代入するだけで互いに導けます。 基本は $v = R\omega$ と $a = R\omega^2$(または $a = v^2/R$)の2つだけです。
高校では等速円運動しか扱いませんが、実際には速さが変化しながら円軌道を描く運動もあります。 鉛直面内での円運動がその典型例です。 微分のアプローチなら、非等速円運動にも自然に対応できます。
速さが変化する円運動では、加速度は2つの成分を持ちます。
等速円運動では $dv/dt = 0$(速さ一定)なので接線方向の加速度はゼロとなり、 法線方向(向心)加速度だけが残ります。 非等速円運動は、これに接線方向の成分が加わっただけです。
非等速円運動の加速度ベクトルの大きさは $|\boldsymbol{a}| = \sqrt{a_n^2 + a_t^2}$ です。 法線方向と接線方向は直交しているので、ピタゴラスの定理で合成できます。
等速円運動($a_t = 0$)は非等速円運動の特殊な場合であり、 微分のアプローチでは両者を統一的に扱えます。
等速円運動の微分による記述は、力学の多くのテーマとつながっています。
Q1. 等速円運動の位置ベクトル $\boldsymbol{r}(t) = (R\cos\omega t,\; R\sin\omega t)$ を時間で微分すると、速度ベクトルはどうなりますか。
Q2. 等速円運動の加速度ベクトルが $\boldsymbol{a} = -\omega^2 \boldsymbol{r}$ と表せることから、加速度の向きについて何が分かりますか。
Q3. 等速円運動で「等速」なのに加速度が存在する理由を述べてください。
Q4. 非等速円運動では、等速円運動と比べて加速度にどのような成分が加わりますか。
位置ベクトルの微分による等速円運動の解析を、問題で確認しましょう。
半径 $R = 2.0$ m、角速度 $\omega = 3.0$ rad/s で等速円運動する物体がある。次の問いに答えよ。
(1) 速さ $v$ を求めよ。
(2) 向心加速度の大きさ $a$ を求めよ。
(3) 周期 $T$ を求めよ。
(1) $v = R\omega = 2.0 \times 3.0 = 6.0$ m/s
(2) $a = R\omega^2 = 2.0 \times 3.0^2 = 18$ m/s$^2$
(3) $T = 2\pi / \omega = 2\pi / 3.0 \approx 2.1$ s
すべて位置ベクトルの微分から導かれた公式 $v = R\omega$、$a = R\omega^2$ を適用するだけです。 $a = v^2/R = 36/2 = 18$ m/s$^2$ でも同じ結果が得られます。
等速円運動する物体の位置ベクトルが $\boldsymbol{r}(t) = (4\cos 2t,\; 4\sin 2t)$(m)で与えられている。次の問いに答えよ。
(1) 速度ベクトル $\boldsymbol{v}(t)$ と加速度ベクトル $\boldsymbol{a}(t)$ を求めよ。
(2) $\boldsymbol{r}(t) \cdot \boldsymbol{v}(t)$ を計算し、位置ベクトルと速度ベクトルが直交することを示せ。
(3) $\boldsymbol{a}(t)$ が $\boldsymbol{r}(t)$ の定数倍であることを示し、その定数を求めよ。
(1) $\boldsymbol{v}(t) = (-8\sin 2t,\; 8\cos 2t)$、$\boldsymbol{a}(t) = (-16\cos 2t,\; -16\sin 2t)$
(2) $\boldsymbol{r} \cdot \boldsymbol{v} = 4\cos 2t \cdot (-8\sin 2t) + 4\sin 2t \cdot 8\cos 2t = -32\sin 2t\cos 2t + 32\sin 2t\cos 2t = 0$
(3) $\boldsymbol{a}(t) = -4 \cdot (4\cos 2t,\; 4\sin 2t) = -4\,\boldsymbol{r}(t)$。定数は $-4 = -\omega^2$。
(1) 各成分を微分します。$R = 4$、$\omega = 2$ です。
(2) 内積がゼロであることは、速度が常に位置ベクトル(半径方向)に垂直、つまり接線方向であることを意味します。
(3) $\boldsymbol{a} = -\omega^2 \boldsymbol{r}$ の関係が確認できます。$\omega = 2$ なので $\omega^2 = 4$ です。
半径 $R$ の円周上を運動する物体の位置ベクトルが $\boldsymbol{r}(t) = (R\cos\theta(t),\; R\sin\theta(t))$ で表される。$\theta(t)$ は時間の関数で、$\dot{\theta} = d\theta/dt$ は一定とは限らない。次の問いに答えよ。
(1) 速度ベクトル $\boldsymbol{v}(t)$ を $R$、$\theta$、$\dot{\theta}$ を用いて表せ。
(2) 加速度ベクトル $\boldsymbol{a}(t)$ を求め、法線方向(中心向き)成分と接線方向成分に分解せよ。
(3) $\dot{\theta}$ が一定の場合(等速円運動)に、結果がどう簡略化されるか述べよ。
(1) $\boldsymbol{v} = R\dot{\theta}\,(-\sin\theta,\; \cos\theta)$
(2) $\boldsymbol{a} = -R\dot{\theta}^2(\cos\theta,\;\sin\theta) + R\ddot{\theta}\,(-\sin\theta,\;\cos\theta)$
法線方向成分(中心向き):$a_n = R\dot{\theta}^2$
接線方向成分:$a_t = R\ddot{\theta}$
(3) $\dot{\theta} = \omega$(一定)のとき $\ddot{\theta} = 0$ なので接線方向成分が消え、$\boldsymbol{a} = -\omega^2 \boldsymbol{r}$(中心向きのみ)。
(1) 合成関数の微分(連鎖律)を使います。$\dfrac{d}{dt}\cos\theta(t) = -\sin\theta \cdot \dot{\theta}$、$\dfrac{d}{dt}\sin\theta(t) = \cos\theta \cdot \dot{\theta}$。
(2) 速度をさらに微分します。$(-\sin\theta)$ や $(\cos\theta)$ を微分するときに再び連鎖律を使い、$\dot{\theta}$ を微分するときに $\ddot{\theta}$ が現れます。
$(-\sin\theta,\;\cos\theta)$ は接線方向の単位ベクトル、$(\cos\theta,\;\sin\theta) = \boldsymbol{r}/R$ は半径方向の単位ベクトルです。
(3) $\ddot{\theta} = 0$ を代入すると接線成分が消え、本記事で導出した等速円運動の結果に一致します。