高校物理では、運動量保存則を「衝突の前後で運動量の和が等しい」として暗記し、適用条件は「外力がないとき」と習います。
これで入試問題は解けますが、「なぜ運動量が保存するのか」「外力がないとはどういう状況か」を深く考える機会はありません。
大学物理では、運動量保存則をニュートンの第3法則(作用・反作用の法則)の直接の帰結として証明します。
第3法則 $\mathbf{F}_{12} = -\mathbf{F}_{21}$ から出発して、全運動量の時間変化がゼロになることを数式で示します。
保存則がどこから来るのかが分かれば、適用条件の判断も自信を持って行えるようになります。
この記事では、2体系での証明から始めてN体系へ拡張し、さらに重心運動との関係やロケットの推進など、
$F = dp/dt$ の真価が発揮される場面まで扱います。
高校物理では、運動量を $p = mv$ と定義し、2つの物体が衝突する場合に次の法則を使います。
$$m_1 v_1 + m_2 v_2 = m_1 v_1' + m_2 v_2'$$
高校の教科書では、この式は実験的事実として紹介されるか、あるいはニュートンの第3法則に軽く触れた上で「成り立つもの」として提示されます。 問題を解く上では十分ですが、次のような疑問が残ります。
これらの疑問に対して、大学物理は明確な答えを与えます。
大学物理では、運動量保存則を「暗記すべき法則」ではなく、ニュートンの第3法則から論理的に導かれる定理として位置づけます。
運動量保存則を「証明」できるようになる。 ニュートンの第3法則から出発して、全運動量が時間変化しないことを数式で示せるようになります。 暗記ではなく導出できるので、条件の判断にも自信が持てます。
内力と外力の区別が明確になる。 なぜ「外力がないとき」に保存するのか、内力はなぜ全運動量に影響しないのかを理解できます。
重心運動との接続が見える。 全運動量 $= M\mathbf{v}_G$ という関係から、運動量保存が重心の等速運動を意味することが分かります。
質量変化する系への応用を学ぶ。 ロケットの推進を題材に、$F = dp/dt$ が $F = ma$ よりも本質的な式であることを体験します。
まず、最も単純な2体系で運動量保存則を証明します。 物体1(質量 $m_1$)と物体2(質量 $m_2$)が互いに力を及ぼし合っている状況を考えます。
物体1が物体2から受ける力を $\mathbf{F}_{12}$、物体2が物体1から受ける力を $\mathbf{F}_{21}$ とします。 ニュートンの第3法則により、
$$\mathbf{F}_{12} = -\mathbf{F}_{21}$$
が成り立ちます。これが証明の出発点です。
各物体にニュートンの第2法則(運動方程式)を適用します。外力はないとします。
$$\frac{d\mathbf{p}_1}{dt} = \mathbf{F}_{12} \quad \cdots (1)$$
$$\frac{d\mathbf{p}_2}{dt} = \mathbf{F}_{21} \quad \cdots (2)$$
(1) + (2) の両辺を足し合わせます。
$$\frac{d\mathbf{p}_1}{dt} + \frac{d\mathbf{p}_2}{dt} = \mathbf{F}_{12} + \mathbf{F}_{21}$$
左辺は全運動量 $\mathbf{P} = \mathbf{p}_1 + \mathbf{p}_2$ の時間微分です。
$$\frac{d\mathbf{P}}{dt} = \mathbf{F}_{12} + \mathbf{F}_{21}$$
第3法則 $\mathbf{F}_{12} = -\mathbf{F}_{21}$ より、右辺は $0$ です。
$$\frac{d\mathbf{P}}{dt} = 0$$
したがって、$\mathbf{P} = \mathbf{p}_1 + \mathbf{p}_2 = \text{const}$ (一定)。
証明はこれだけです。ポイントを整理しましょう。
運動量保存則は、ニュートンの第3法則の直接の帰結です。 第3法則が「作用・反作用は等しく逆向き」と述べているからこそ、内力が打ち消し合い、全運動量が変化しないのです。
より深い視点では、運動量保存は空間の並進対称性(空間のどの位置でも物理法則が同じ形をしていること)と結びついています。 これはネーターの定理と呼ばれる、保存則と対称性の一般的な関係の一例です。
2体系での証明は、そのままN体系($N$ 個の物体からなる系)に拡張できます。
$N$ 個の物体がある場合、物体 $i$ に働く力は「他の物体からの内力」と「系外からの外力」に分けられます。
$$\frac{d\mathbf{p}_i}{dt} = \sum_{j \neq i} \mathbf{F}_{ij} + \mathbf{F}_i^{\text{ext}}$$
ここで $\mathbf{F}_{ij}$ は物体 $j$ が物体 $i$ に及ぼす力、$\mathbf{F}_i^{\text{ext}}$ は物体 $i$ に働く外力です。
全物体について足し合わせます。
$$\frac{d\mathbf{P}}{dt} = \sum_{i=1}^{N} \frac{d\mathbf{p}_i}{dt} = \sum_{i=1}^{N}\sum_{j \neq i} \mathbf{F}_{ij} + \sum_{i=1}^{N} \mathbf{F}_i^{\text{ext}}$$
第1項(内力の総和)について考えます。 $\mathbf{F}_{ij}$ と $\mathbf{F}_{ji}$ は第3法則により $\mathbf{F}_{ij} = -\mathbf{F}_{ji}$ なので、すべてのペアが打ち消し合い、内力の総和はゼロになります。
$$\frac{d\mathbf{P}}{dt} = \mathbf{F}_{\text{ext}}^{\text{total}}$$
誤解:「外力が一切存在しないときに運動量保存が成り立つ」
正確:「外力の合計がゼロのとき」に保存する。 例えば、水平面上での衝突では重力と垂直抗力が打ち消し合うため、水平方向について外力の合計はゼロ。 したがって水平方向の運動量は保存します。
さらに、衝突のように極めて短い時間 $\Delta t$ で起こる現象では、重力などの有限な外力による力積 $F\Delta t$ は無視できるほど小さくなります。 このため、短時間の衝突では外力が存在していても運動量保存が近似的に成り立ちます。
M-3-3で学んだ重心の定義を思い出しましょう。$N$ 個の物体の重心の位置は、
$$\mathbf{r}_G = \frac{\sum_i m_i \mathbf{r}_i}{\sum_i m_i} = \frac{\sum_i m_i \mathbf{r}_i}{M}$$
と定義されます。$M = \sum_i m_i$ は全質量です。両辺を時間で微分すると、
$$M \mathbf{v}_G = \sum_i m_i \mathbf{v}_i = \sum_i \mathbf{p}_i = \mathbf{P}$$
つまり、全運動量は「全質量 $\times$ 重心の速度」に等しいのです。
$$\mathbf{P} = M\mathbf{v}_G$$
この結果は重要です。どんなに複雑な衝突や分裂が起こっても、外力の合計がゼロなら、重心は変わらず等速直線運動を続けます。 個々の物体の運動は複雑でも、重心だけを見れば単純な運動をしているのです。
打ち上げ花火が空中で爆発し、多数の破片に分裂する場合を考えます。 爆発力は内力なので、全運動量は保存します。
したがって、破片全体の重心は、爆発がなかった場合と同じ放物運動を続けます。 個々の破片は四方八方に飛び散りますが、それらの「平均的な位置」(重心)は、爆発しなかった場合の軌道上にあるのです。
運動量保存則の応用として、ロケットの推進を取り上げます。 ロケットは、質量が時間とともに変化する系です。このような系では、$F = ma$ ではなく、$F = dp/dt$ として考える必要があります。
$F = ma$ は質量 $m$ が一定の場合の式です。 ロケットは燃料を噴射することで質量が減少していくため、$F = ma$ をそのまま適用することはできません。 運動方程式の本来の形は $F = dp/dt$ であり、$m$ が変化する場合にはこちらを使う必要があります。
ロケットが質量 $\Delta m$ の燃料を相対速度 $u$(ロケットに対する噴射ガスの速度)で噴射する場合を考えます。 外力がなければ全運動量は保存するので、
$$mv = (m - \Delta m)(v + \Delta v) + \Delta m (v - u)$$
整理すると、$m \Delta v = u \Delta m$。$\Delta t \to 0$ の極限を取ると、
$$m\frac{dv}{dt} = u\frac{dm_{\text{exhaust}}}{dt} = -u\frac{dm}{dt}$$
この例が示しているのは、ニュートンの運動方程式は $F = ma$ ではなく $F = dp/dt$ が本来の形であり、 質量が変化する系を含むあらゆる状況で使えるのは後者だということです。
$F = ma$ は $m$ が一定の場合にのみ成り立つ特殊なケースです。
$F = dp/dt = d(mv)/dt$ は質量が変化する場合にも適用できる、より一般的な形式です。 高校物理では $m$ が変化する状況を扱わないため $F = ma$ で十分でしたが、 大学物理ではロケットや質量が変化するベルトコンベアなど、$F = dp/dt$ でなければ扱えない問題が登場します。
運動量保存則は力学の中心的な定理であり、多くのテーマと接続しています。
Q1. 運動量保存則はニュートンの3法則のうち、どの法則から導かれますか。
Q2. 水平面上で2つの物体が衝突するとき、重力が存在しているにもかかわらず水平方向の運動量が保存する理由を述べてください。
Q3. 全運動量 $\mathbf{P}$ と重心速度 $\mathbf{v}_G$ の関係を式で書いてください。
Q4. ロケットの推進を考えるとき、$F = ma$ ではなく $F = dp/dt$ を使う必要があるのはなぜですか。
運動量保存則の証明と応用を、問題で確認しましょう。
質量 $2\,\text{kg}$ の物体Aが速度 $3\,\text{m/s}$ で静止している質量 $1\,\text{kg}$ の物体Bに衝突した。衝突後、物体Aの速度が $1\,\text{m/s}$(同じ向き)になった。次の問いに答えよ。
(1) 衝突後の物体Bの速度を求めよ。
(2) この問題で運動量保存則が使える理由を述べよ。
(1) $v_B' = 4$ m/s
(2) 衝突中に働く力は物体間の内力(作用・反作用の対)のみであり、水平方向の外力の合計がゼロであるため。
(1) 運動量保存:$m_A v_A + m_B v_B = m_A v_A' + m_B v_B'$
$2 \times 3 + 1 \times 0 = 2 \times 1 + 1 \times v_B'$
$6 = 2 + v_B'$、よって $v_B' = 4$ m/s
(2) 衝突は短時間で起こり、その間に物体間で作用する力(内力)は第3法則により打ち消し合う。水平方向の外力(摩擦など)は無視できるか存在しないので、水平方向の全運動量が保存する。
質量 $3\,\text{kg}$ の物体が速度 $4\,\text{m/s}$ で運動中に、質量 $1\,\text{kg}$ と $2\,\text{kg}$ の2つに分裂した。質量 $1\,\text{kg}$ の破片が元の進行方向に $10\,\text{m/s}$ で飛んだ。
(1) 質量 $2\,\text{kg}$ の破片の速度を求めよ。
(2) 分裂後の重心速度を求め、分裂前の速度と比較せよ。
(1) $v_2 = 1$ m/s(元の進行方向)
(2) 重心速度 $v_G = 4$ m/s。分裂前と同じ。
(1) 分裂力は内力なので運動量保存:$3 \times 4 = 1 \times 10 + 2 \times v_2$
$12 = 10 + 2v_2$、よって $v_2 = 1$ m/s
(2) $v_G = \dfrac{m_1 v_1 + m_2 v_2}{m_1 + m_2} = \dfrac{1 \times 10 + 2 \times 1}{3} = \dfrac{12}{3} = 4$ m/s
重心速度は分裂前後で変化していない。これは $\mathbf{P} = M\mathbf{v}_G$ が保存することの直接の帰結。
宇宙空間(外力なし)で、初期質量 $m_0$ のロケットがガスを相対速度 $u$(ロケットに対する噴射ガスの速さ)で噴射して加速する。初速はゼロとする。
(1) 微小時間 $dt$ の間に質量 $|dm|$ のガスを噴射したとき、ロケットの速度変化 $dv$ を運動量保存から求めよ。
(2) (1)の結果を積分し、燃料を燃やし尽くした後の最終速度 $v_f$ を、初期質量 $m_0$ と最終質量 $m_f$ で表せ。
(3) 最終速度を大きくするためにはどのようなパラメータを改善すべきか、(2)の式をもとに述べよ。
(1) $dv = -u\dfrac{dm}{m}$($dm < 0$ なのでロケットの質量は減少)
(2) $v_f = u \ln\dfrac{m_0}{m_f}$
(3) 噴射ガスの相対速度 $u$ を大きくする、または質量比 $m_0/m_f$(= 初期質量に対する最終質量の比の逆数)を大きくする。
(1) 運動量保存:$mv = (m + dm)(v + dv) + |dm|(v - u)$
ここで $dm < 0$(ロケットの質量は減少)なので $|dm| = -dm$ として整理すると、
$m\,dv = -u\,dm$、つまり $dv = -u\dfrac{dm}{m}$
(2) 両辺を積分:$\displaystyle\int_0^{v_f} dv = -u \int_{m_0}^{m_f} \frac{dm}{m}$
$v_f = -u[\ln m]_{m_0}^{m_f} = -u(\ln m_f - \ln m_0) = u\ln\dfrac{m_0}{m_f}$
これがツィオルコフスキーのロケット方程式です。
(3) $v_f = u \ln(m_0/m_f)$ より、$u$(排気速度)が大きいほど、また $m_0/m_f$(質量比)が大きいほど最終速度は大きくなる。質量比を大きくするには、構造質量を小さくするか、燃料をより多く積めばよい。ただし対数関数の増加は緩やかなので、質量比を2倍にしても速度は $u\ln 2 \approx 0.69u$ しか増加しない。排気速度 $u$ の改善がより効果的。