高校物理では、力積を $I = Ft$(力 $\times$ 時間)と定義し、これが運動量の変化 $\Delta p$ に等しいことを学びます。
しかし、この式は力が一定の場合にしか使えません。
バットでボールを打つとき、力は接触時間の中で刻々と変化しており、$I = Ft$ は厳密には適用できないのです。
大学物理では、力積を力の時間積分 $I = \int F\,dt$ と定義します。
これにより、力が時間とともに変化する場合でも、運動量の変化を正確に求めることができます。
また、$F$-$t$ グラフの面積が力積に対応するという視覚的な理解も得られます。
この記事では、力積の一般定義を導入し、衝突における平均力の概念を整理した上で、
力が時間変化する具体例を扱います。
高校物理では、力積を次のように定義します。
$$I = F\Delta t$$
この式から「力積と運動量変化は等しい」($F\Delta t = \Delta p$)という関係を学び、衝突や力の効果を計算します。 この道具は便利ですが、次のような制約があります。
大学物理では、力積を積分で定義します。 これにより、力が時間変化するあらゆる場合に対応できるようになります。
力積の一般定義を理解する。 力積 $= \int F\,dt$ は $F = dp/dt$ の積分形にすぎないことが分かります。 暗記すべき新しい式ではなく、運動方程式から自然に導かれるものです。
力が時間変化する問題を扱える。 高校の $I = Ft$ では対処できなかった、力が時間の関数で与えられる問題を積分で解けるようになります。
衝突の物理を定量的に議論できる。 平均力の定義を通じて、衝突時間と力の大きさの関係を定量的に扱えるようになります。
ニュートンの第2法則を $F = dp/dt$ の形で書きます。両辺を $t_1$ から $t_2$ まで時間で積分すると、
運動方程式 $F = \dfrac{dp}{dt}$ の両辺を $t_1$ から $t_2$ まで積分します。
$$\int_{t_1}^{t_2} F\,dt = \int_{t_1}^{t_2} \frac{dp}{dt}\,dt$$
右辺は $p$ の定積分なので、
$$\int_{t_1}^{t_2} F\,dt = p(t_2) - p(t_1) = \Delta p$$
$$\mathbf{I} = \int_{t_1}^{t_2} \mathbf{F}\,dt = \Delta\mathbf{p} = \mathbf{p}(t_2) - \mathbf{p}(t_1)$$
この定義のポイントを整理します。
$I = Ft$ は $I = \int F\,dt$ の特殊ケースです。力が一定のとき、積分の結果が掛け算になるだけです。
大学の定義を知ったからといって、高校の式が間違いになるわけではありません。 力が一定の場面では $I = Ft$ を使えばよく、力が変化する場面では積分を使う。 道具の適用範囲が広がった、ということです。
衝突は、極めて短い時間 $\Delta t$ の間に非常に大きな力が作用する現象です。 衝突中の力 $F(t)$ の時間変化を正確に知ることは一般に困難ですが、力積 $\Delta p$ は運動量の変化から分かります。
衝突の前後の運動量がわかれば $\Delta p$ が決まります。衝突時間 $\Delta t$ も測定できれば、平均力を定義できます。
$$F_{\text{avg}} = \frac{\Delta p}{\Delta t} = \frac{1}{\Delta t}\int_{t_1}^{t_2} F\,dt$$
平均力を使えば、衝突の「激しさ」を定量的に比較できます。
同じ運動量変化 $\Delta p$ を生じさせる場合、衝突時間 $\Delta t$ が短いほど平均力は大きくなります。
エアバッグやクッション材は、衝突時間 $\Delta t$ を長くすることで平均力 $F_{\text{avg}} = \Delta p / \Delta t$ を小さくし、 身体への負担を軽減しています。これは力積と運動量の関係の直接的な応用です。
誤解:「大きな力が作用すれば、運動量変化も大きい」
正確:運動量変化を決めるのは力積 $\int F\,dt$、つまり力と時間の「掛け算の積分」です。 非常に大きな力でも、作用時間が極めて短ければ力積は小さくなります。 逆に、小さな力でも長時間作用すれば大きな力積を生み出します。
積分形の力積の威力を、具体例で確認しましょう。
質量 $m = 0.15\,\text{kg}$ のボールが速度 $v_1 = -30\,\text{m/s}$(バットに向かう方向を負)で飛んできて、 バットで打たれて速度 $v_2 = 40\,\text{m/s}$(打ち返す方向を正)で飛んでいったとします。
運動量の変化は、
$$\Delta p = mv_2 - mv_1 = 0.15 \times 40 - 0.15 \times (-30) = 6 + 4.5 = 10.5\,\text{kg}\cdot\text{m/s}$$
衝突時間が $\Delta t = 1\,\text{ms} = 0.001\,\text{s}$ だとすると、平均力は、
$$F_{\text{avg}} = \frac{\Delta p}{\Delta t} = \frac{10.5}{0.001} = 10500\,\text{N} \approx 1\,\text{トン重}$$
約1トン重の平均力が作用していることになります。実際のピーク力はこれ以上です。 力自体は時間とともに複雑に変化しますが、力積 $= \Delta p$ で運動量変化が確定するため、力の詳細を知らなくても結果は求められます。
静止している質量 $m = 2\,\text{kg}$ の物体に、$F(t) = 6t$(N)の力が $t = 0$ から $t = 3\,\text{s}$ まで作用した場合を考えます。 高校の $I = Ft$ は使えません。力が時間とともに変化しているからです。
力積を積分で求めます。
$$I = \int_0^3 6t\,dt = \left[3t^2\right]_0^3 = 3 \times 9 - 0 = 27\,\text{N}\cdot\text{s}$$
運動量の変化は $\Delta p = I = 27\,\text{kg}\cdot\text{m/s}$。 初期運動量がゼロなので、$t = 3$ s での速度は、
$$v = \frac{\Delta p}{m} = \frac{27}{2} = 13.5\,\text{m/s}$$
$F(t) = 6t$ のグラフは原点を通る直線です。$t = 0$ から $t = 3$ までの下の面積は三角形の面積に等しく、
面積 $= \dfrac{1}{2} \times 3 \times 18 = 27$ N$\cdot$s
積分の結果と一致します。$F$-$t$ グラフの面積が力積を表すという事実は、 面積 = 積分 という数学的関係のそのままの表現です。
力積と運動量の関係は、力学の多くのテーマと接続しています。
Q1. 高校の力積の定義 $I = Ft$ が使えるのは、どのような場合ですか。
Q2. $F$-$t$ グラフの面積は何を表しますか。
Q3. エアバッグが衝撃を和らげるメカニズムを、力積の考え方で説明してください。
Q4. 「力積と運動量の関係」$\int F\,dt = \Delta p$ は、どの法則から導かれますか。
力積と運動量の関係を、問題で確認しましょう。
質量 $0.1\,\text{kg}$ のボールが速度 $20\,\text{m/s}$ で壁に衝突し、同じ速さで跳ね返った。衝突時間は $0.01\,\text{s}$ である。
(1) ボールの運動量変化 $\Delta p$ を求めよ。
(2) 壁がボールに及ぼした平均力 $F_{\text{avg}}$ を求めよ。
(1) $\Delta p = 4\,\text{kg}\cdot\text{m/s}$(壁から離れる向きを正)
(2) $F_{\text{avg}} = 400\,\text{N}$
(1) 壁に向かう方向を負、跳ね返る方向を正とすると、
$\Delta p = m v_2 - m v_1 = 0.1 \times 20 - 0.1 \times (-20) = 2 + 2 = 4\,\text{kg}\cdot\text{m/s}$
(2) $F_{\text{avg}} = \dfrac{\Delta p}{\Delta t} = \dfrac{4}{0.01} = 400\,\text{N}$
静止している質量 $m = 4\,\text{kg}$ の物体に、$F(t) = 12t^2$(N)の力が $t = 0$ から $t = 2\,\text{s}$ まで作用した。
(1) この間の力積を求めよ。
(2) $t = 2$ s における物体の速度を求めよ。
(3) この問題で高校の $I = Ft$ を使うとどのような誤りが生じるか説明せよ。
(1) $I = 32\,\text{N}\cdot\text{s}$
(2) $v = 8\,\text{m/s}$
(3) $F$ が時間変化するため $I = Ft$ の $F$ に入れるべき値が定まらない。$t = 2$ s での値 $F(2) = 48$ N を使うと $I = 96$ N$\cdot$s となり、実際の力積 $32$ N$\cdot$s と一致しない。
(1) $I = \displaystyle\int_0^2 12t^2\,dt = \left[4t^3\right]_0^2 = 4 \times 8 = 32\,\text{N}\cdot\text{s}$
(2) $\Delta p = I = 32$ なので $v = \Delta p / m = 32 / 4 = 8$ m/s
(3) $I = Ft$ は $F$ が一定の場合にのみ成り立つ。$F(t) = 12t^2$ は時間変化するため、$F$ としてどの時刻の値を使っても正しい力積は得られない。積分で求める必要がある。
質量 $60\,\text{kg}$ の人が $10\,\text{m/s}$ で走っている状態から停止するとする。次の2つのケースについて平均力を比較し、結果を物理的に解釈せよ。
(1) コンクリートの壁に衝突して $0.01\,\text{s}$ で停止した場合の平均力を求めよ。
(2) クッション材に突入して $0.5\,\text{s}$ で停止した場合の平均力を求めよ。
(3) (1)と(2)の結果を比較し、なぜ衝突時間を長くすることが安全性に寄与するのか、力積の考え方を用いて説明せよ。
(1) $F_{\text{avg}} = 60000\,\text{N}$
(2) $F_{\text{avg}} = 1200\,\text{N}$
(3) 下記解説参照
運動量変化はいずれも $|\Delta p| = 60 \times 10 = 600\,\text{kg}\cdot\text{m/s}$
(1) $F_{\text{avg}} = 600 / 0.01 = 60000\,\text{N} \approx 6\,\text{トン重}$
(2) $F_{\text{avg}} = 600 / 0.5 = 1200\,\text{N} \approx 120\,\text{kg重}$
(3) 両ケースで運動量変化 $\Delta p$ は同じ($= 600$ kg$\cdot$m/s)であり、力積も同じです。しかし $F_{\text{avg}} = \Delta p / \Delta t$ より、衝突時間 $\Delta t$ が50倍になると平均力は $1/50$ になります。クッション材は衝突時間を長くすることで同じ $\Delta p$ をより小さな力で達成し、身体への負荷を軽減します。エアバッグ、ヘルメットの衝撃吸収材、車のクラッシャブルゾーンなども同じ原理です。