第3章 力のつりあいと剛体

重心の数学的定義
─ 積分による重心計算

高校物理では、2つの質点の重心を公式 $x_G = \dfrac{m_1 x_1 + m_2 x_2}{m_1 + m_2}$ で計算します。 この公式は分かりやすく、離散的な質点系には十分です。

しかし、連続的な物体(棒、板、球など)の重心を求めるには、この公式だけでは不十分です。 大学物理では、重心の定義を積分に拡張し、密度が一様でない物体の重心も計算できるようにします。

さらに、重心には「運動方程式が最もシンプルになる点」という深い意味があることを示します。 全外力が重心の加速度を決めるという関係($\vec{F}_{\text{全}} = M\vec{a}_G$)は、 複雑な物体の運動を1つの質点の運動として扱えることを意味します。

1高校物理の道具を確認する

高校物理では、重心を次のように扱います。

  • 2質点の重心:$x_G = \dfrac{m_1 x_1 + m_2 x_2}{m_1 + m_2}$(質量で重みづけした位置の平均)
  • 一様な物体:形状の幾何学的な中心に重心がある(対称性で判断)
  • 重心の性質:重心を支点にすると物体はつりあう

この方法の限界を確認しておきます。

  • 2質点の公式を3個以上に拡張する方法が明示的に教えられないことが多い。実際には同じ考え方で拡張できるが、高校ではあまり扱わない
  • 連続体(棒、板、球など)の重心は対称性に頼るしかない。「一様な棒の重心は中心」と教わるが、密度が一様でない棒の重心は求められない
  • 重心が「なぜ特別な点なのか」が説明されない。「支点にするとつりあう」以外の意味が見えない

2大学の視点で見ると何が変わるのか

大学物理では、重心を積分で定義し、連続体にも適用できる一般的な定義を与えます。 また、重心が物理的に特別な意味を持つ理由を明確にします。

高校 vs 大学:重心の扱い
高校:2質点の公式
$x_G = \dfrac{m_1 x_1 + m_2 x_2}{m_1 + m_2}$
離散的な質点のみ。連続体は対称性で処理。
大学:積分で定義
$x_G = \dfrac{\int x\,dm}{\int dm}$
離散でも連続でも統一的に扱える。密度が不均一でも計算可能。
高校:重心は「つりあう点」
経験的な性質として教わる。
大学:重心は「運動方程式が最もシンプルになる点」
$\vec{F}_{\text{全}} = M\vec{a}_G$ により、全体が1質点として振る舞う。
この記事で得られること

N個の質点系の重心を一般公式で計算できるようになる。 $x_G = \dfrac{\sum m_i x_i}{\sum m_i}$ で何個の質点でも同じ方法で処理できます。

連続体の重心を積分で計算できるようになる。 密度が位置によって変わる棒や板の重心を、積分を使って求められます。

重心が物理的に特別な理由を理解できる。 $\vec{F}_{\text{全}} = M\vec{a}_G$ という関係により、複雑な物体でも重心は質点として運動方程式に従います。

3離散質点系の重心(N個の場合)

高校の2質点の公式を、$N$ 個の質点に自然に拡張します。

N個の質点系の重心

$$x_G = \frac{\sum_{i=1}^{N} m_i x_i}{\sum_{i=1}^{N} m_i} = \frac{m_1 x_1 + m_2 x_2 + \cdots + m_N x_N}{m_1 + m_2 + \cdots + m_N}$$

全質量 $M = \sum m_i$ とすると、$x_G = \dfrac{1}{M}\sum m_i x_i$ と書ける。 2次元、3次元では $y_G$、$z_G$ も同様に定義する。 ベクトルで書けば $\vec{r}_G = \dfrac{1}{M}\sum m_i \vec{r}_i$。

$N = 2$ のとき、この式は高校の公式 $x_G = \dfrac{m_1 x_1 + m_2 x_2}{m_1 + m_2}$ に一致します。 高校の公式は一般公式の特殊な場合です。

この公式の意味は明快です。重心とは「質量で重みづけした位置の平均」です。 重い質点のそばに寄り、軽い質点からは離れます。

重心とモーメントの関係

重心の定義式 $Mx_G = \sum m_i x_i$ を変形すると、$\sum m_i (x_i - x_G) = 0$ となります。

これは「重心まわりの質量のモーメントの和が $0$ になる」ことを意味します。 M-3-2 で学んだ「モーメントのつりあい」が重心の定義に直結しているのです。 重心で支えるとつりあうのは、このためです。

4連続体の重心(積分による定義)

離散的な質点系では $\sum$ で重心を計算しましたが、連続的な物体では質点を無限に細かく取る必要があります。 このとき、$\sum$(和)は $\int$(積分)に置き換わります。

連続体の重心(1次元)

線密度 $\lambda(x)$ [kg/m] の棒が $x = a$ から $x = b$ まで存在するとき:

$$x_G = \frac{\int_a^b x\,\lambda(x)\,dx}{\int_a^b \lambda(x)\,dx}$$

分母 $\int_a^b \lambda(x)\,dx = M$ は棒の全質量。 分子 $\int_a^b x\,\lambda(x)\,dx$ は「位置 $\times$ 質量」の積分で、離散の場合の $\sum m_i x_i$ に対応する。

離散から連続への移行

なぜ $\sum$ が $\int$ に変わるのか、直感的に説明します。

棒を $N$ 個の微小部分に分割し、各部分の質量を $\Delta m_i = \lambda(x_i)\Delta x$、 位置を $x_i$ とします。すると重心は:

$$x_G = \frac{\sum_{i=1}^{N} x_i \cdot \lambda(x_i)\Delta x}{\sum_{i=1}^{N} \lambda(x_i)\Delta x}$$

$N \to \infty$($\Delta x \to 0$)の極限をとると、$\sum$ は $\int$ になります。 これが積分の定義そのものです。

積分は「無限に細かい和」

M-1-1 で微分が「$\Delta t \to 0$ の極限」であったように、 積分は「$\Delta x \to 0$ の極限での和」です。

離散の公式 $x_G = \dfrac{\sum m_i x_i}{\sum m_i}$ と、 連続の公式 $x_G = \dfrac{\int x\,\lambda(x)\,dx}{\int \lambda(x)\,dx}$ は、 同じ定義の離散版と連続版にすぎません。

5具体例で計算する

例1:一様な棒(確認)

長さ $L$、線密度 $\lambda = \text{const.}$ の棒が $x = 0$ から $x = L$ にあるとき、重心は:

一様な棒の重心

全質量:$M = \int_0^L \lambda\,dx = \lambda L$

分子:$\int_0^L x\,\lambda\,dx = \lambda \cdot \dfrac{L^2}{2}$

重心:$x_G = \dfrac{\lambda L^2 / 2}{\lambda L} = \dfrac{L}{2}$

一様な棒の重心は中心($L/2$)です。直感と一致します。 積分を使って「当然の結果」が正しく導かれることを確認できました。

例2:密度が端に向かって増える棒

$x = 0$ から $x = L$ にある棒で、線密度が $\lambda(x) = \lambda_0 \left(1 + \dfrac{x}{L}\right)$ である場合を考えます。 $x = 0$ 端の密度は $\lambda_0$、$x = L$ 端の密度は $2\lambda_0$ です。密い方($x = L$ 側)に重心がずれるはずです。

密度不均一な棒の重心

全質量:

$$M = \int_0^L \lambda_0\left(1 + \frac{x}{L}\right)dx = \lambda_0\left[x + \frac{x^2}{2L}\right]_0^L = \lambda_0\left(L + \frac{L}{2}\right) = \frac{3}{2}\lambda_0 L$$

分子:

$$\int_0^L x\,\lambda_0\left(1 + \frac{x}{L}\right)dx = \lambda_0\int_0^L \left(x + \frac{x^2}{L}\right)dx = \lambda_0\left[\frac{x^2}{2} + \frac{x^3}{3L}\right]_0^L = \lambda_0\left(\frac{L^2}{2} + \frac{L^2}{3}\right) = \frac{5}{6}\lambda_0 L^2$$

重心:

$$x_G = \frac{5\lambda_0 L^2/6}{3\lambda_0 L/2} = \frac{5}{6} \times \frac{2}{3} \times L = \frac{5}{9}L \approx 0.556\,L$$

重心は $\dfrac{5}{9}L \approx 0.556\,L$ で、中心($0.5L$)よりも密度が大きい側にずれています。 密度が一様でない物体の重心を求められるのは、積分を使う大きなメリットです。

落とし穴:「形の中心 = 重心」は一様な物体のみ

誤:「棒の重心はいつも真ん中」

正:一様な棒に限り重心は中心。密度が不均一なら、密度の大きい側にずれる

高校では一様な物体しか扱わないため「重心 = 幾何学的中心」という誤解が生まれがちです。 積分の定義に立ち返れば、重心が中心に来るのは対称性がある場合だけであることが分かります。

6重心の運動 ─ なぜ重心が特別なのか

重心には、単に「つりあう点」を超えた深い物理的意味があります。 それは、質点系全体に作用する外力の合計が、重心の運動を決めるという性質です。

重心の運動方程式

$$\vec{F}_{\text{全}} = M\vec{a}_G$$

$\vec{F}_{\text{全}}$:系全体に作用する外力の合計。 $M$:全質量。 $\vec{a}_G$:重心の加速度。 この式は、系全体が重心に集中した1つの質点のように運動することを意味する。

なぜこの式が成り立つのか

重心の運動方程式の導出

重心の定義:$M\vec{r}_G = \sum m_i \vec{r}_i$

両辺を時間で2回微分します。

$$M\vec{a}_G = \sum m_i \vec{a}_i$$

各質点の運動方程式 $m_i \vec{a}_i = \vec{F}_i$($\vec{F}_i$ は質点 $i$ に作用する全ての力)を代入すると:

$$M\vec{a}_G = \sum \vec{F}_i$$

ここで、質点間の内力(例えば質点1が質点2を引く力と、質点2が質点1を引く力)は作用・反作用の法則により打ち消し合います。 残るのは外力だけなので:

$$M\vec{a}_G = \vec{F}_{\text{全}}$$

重心の本当の意味

重心は「つりあう点」というだけでなく、運動方程式が最もシンプルになる代表点です。

どれほど複雑な形の物体でも、その重心は全外力 $\vec{F}_{\text{全}}$ と全質量 $M$ だけで決まる シンプルな運動方程式 $\vec{F}_{\text{全}} = M\vec{a}_G$ に従います。

例えば、宙に投げた回転する棒は複雑な運動をしますが、 その重心だけに注目すれば、放物運動(質点の運動)をしています。 重心以外の点はこのようなシンプルな運動をしません。

内力は重心の運動に影響しない

爆発する花火を考えます。爆発によって破片は四方八方に飛び散りますが、 破片に作用するのは内力(爆発力)と外力(重力)です。

内力は作用・反作用で打ち消し合うため、重心の運動には影響しません。 したがって、爆発しなかった場合と同じ放物線を重心は描き続けます。

これは重心の運動方程式 $\vec{F}_{\text{全}} = M\vec{a}_G$ から直接導かれる結論です。

7つながりマップ

重心の定義と運動方程式は、力学のさまざまなテーマと関わります。

  • ← M-3-2 剛体のつりあいとモーメント:重心が「モーメントの和が $0$ になる点」であることの基礎。
  • → M-4-1 運動量保存則:重心の運動方程式 $\vec{F}_{\text{全}} = M\vec{a}_G$ は、運動量 $\vec{P} = M\vec{v}_G$ の時間微分。外力が $0$ なら重心の速度は一定(運動量保存)。
  • → M-4-2 2体問題と重心系:衝突問題を重心系(重心を原点とする座標系)で見ると、対称性からシンプルに解ける。
  • ← M-1-2 等加速度運動の3公式を微積分で導く:積分の基本的な使い方。重心の積分計算で使う技術。

📋まとめ

  • 高校の2質点の重心公式 $x_G = \dfrac{m_1 x_1 + m_2 x_2}{m_1 + m_2}$ は、$N$ 個の場合に自然に拡張でき、$x_G = \dfrac{\sum m_i x_i}{\sum m_i}$ となる
  • 連続体では $\sum$ を $\int$ に置き換えて、$x_G = \dfrac{\int x\,\lambda(x)\,dx}{\int \lambda(x)\,dx}$ で重心を計算する
  • 一様な物体の重心は幾何学的中心に来るが、密度が不均一なら密度の大きい側にずれる
  • 重心の運動方程式 $\vec{F}_{\text{全}} = M\vec{a}_G$ により、複雑な物体の重心は1つの質点として運動する
  • 内力(作用・反作用)は打ち消し合うため、重心の運動は外力のみで決まる

確認テスト

Q1. 質量 $3$ kg の質点が $x = 1$ m に、質量 $1$ kg の質点が $x = 5$ m にある。重心の位置を求めてください。

▶ クリックして解答を表示$x_G = \dfrac{3 \times 1 + 1 \times 5}{3 + 1} = \dfrac{8}{4} = 2$ m。重い質点($x = 1$ m)の方に寄っている。

Q2. 連続体の重心を積分で求める公式を書いてください(1次元、線密度 $\lambda(x)$)。

▶ クリックして解答を表示$x_G = \dfrac{\int x\,\lambda(x)\,dx}{\int \lambda(x)\,dx}$。分母は全質量 $M$、分子は位置 $\times$ 質量密度の積分。

Q3. 重心の運動方程式 $\vec{F}_{\text{全}} = M\vec{a}_G$ が意味することを説明してください。

▶ クリックして解答を表示質点系全体に作用する外力の合計が、全質量 $M$ の質点が重心の位置にあるかのような運動方程式を満たす。複雑な物体でも重心は質点として運動する。

Q4. 花火が空中で爆発しても重心の軌道が変わらない理由を述べてください。

▶ クリックして解答を表示爆発力は内力であり、作用・反作用の法則により系全体では打ち消し合う。重心の運動方程式 $\vec{F}_{\text{全}} = M\vec{a}_G$ において外力(重力)は爆発の前後で変わらないため、重心の軌道は変わらない。

10演習問題

重心の計算と運動方程式を問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

3-3-1 A 基礎 離散質点

$x$ 軸上に3つの質点がある。質量 $2$ kg が $x = 0$ m、質量 $3$ kg が $x = 4$ m、質量 $5$ kg が $x = 6$ m にある。重心の位置を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$x_G = 4.2$ m

解説

$x_G = \dfrac{2 \times 0 + 3 \times 4 + 5 \times 6}{2 + 3 + 5} = \dfrac{0 + 12 + 30}{10} = \dfrac{42}{10} = 4.2$ m

最も重い質点($5$ kg、$x = 6$ m)に近い側に重心が寄っています。

B 発展レベル

3-3-2 B 発展 積分 連続体

長さ $L$ の棒が $x = 0$ から $x = L$ に置かれている。線密度が $\lambda(x) = \lambda_0 \dfrac{x}{L}$($x = 0$ で密度 $0$、$x = L$ で密度 $\lambda_0$)である。

(1) 棒の全質量 $M$ を求めよ。

(2) 重心の位置 $x_G$ を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $M = \dfrac{1}{2}\lambda_0 L$

(2) $x_G = \dfrac{2}{3}L$

解説

(1) $M = \int_0^L \lambda_0 \dfrac{x}{L}\,dx = \dfrac{\lambda_0}{L}\cdot\dfrac{L^2}{2} = \dfrac{\lambda_0 L}{2}$

(2) 分子:$\int_0^L x\cdot\lambda_0\dfrac{x}{L}\,dx = \dfrac{\lambda_0}{L}\int_0^L x^2\,dx = \dfrac{\lambda_0}{L}\cdot\dfrac{L^3}{3} = \dfrac{\lambda_0 L^2}{3}$

$x_G = \dfrac{\lambda_0 L^2/3}{\lambda_0 L/2} = \dfrac{2}{3}L$

$x = 0$ で密度 $0$、$x = L$ で密度最大なので、重心は $L/2$ より右(密度が大きい側)にあります。$2L/3 \approx 0.667L$ は妥当な結果です。

採点ポイント
  • 全質量の積分を正しく計算(3点)
  • 分子の積分 $\int x\,\lambda(x)\,dx$ を正しく計算(3点)
  • 重心の位置を正しく求める(2点)

C 応用レベル

3-3-3 C 応用 重心の運動 論述

滑らかな水平面上に質量 $M$ の台車があり、台車の上に質量 $m$ の人が立っている。人が台車の上を右に歩いたとき、台車は左に動いた。

(1) この系(人+台車)に作用する水平方向の外力を答えよ。

(2) 重心の運動方程式を用いて、人が歩いている間、系の重心がどう動くか説明せよ。

(3) 人が台車の右端から左端まで距離 $d$ だけ歩いたとき、台車が左にどれだけ移動するか求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 水平方向の外力は $0$(床が滑らかなので摩擦力がない)

(2) 重心は動かない(静止し続ける)

(3) 台車の移動距離 $= \dfrac{md}{M + m}$

解説

(1) 鉛直方向には重力と垂直抗力がありますが、水平方向には外力がありません。人と台車の間に作用する力(摩擦力)は内力です。

(2) $\vec{F}_{\text{全}} = M_{\text{全}}\vec{a}_G$ において $\vec{F}_{\text{全}} = \vec{0}$ なので $\vec{a}_G = \vec{0}$。 初期状態で静止していたなら $\vec{v}_G = \vec{0}$ のまま。重心は動きません。

(3) 台車の移動距離を $D$(左向きを正)とします。人の移動距離は台車に対して $d$(右向き)なので、地面に対しては $d - D$(右向き)です。

重心が動かない条件:$m(d - D) = MD$(重心まわりのモーメント的な関係)

$md - mD = MD$ より $md = (M + m)D$

$D = \dfrac{md}{M + m}$

採点ポイント
  • 水平方向の外力が $0$ であることを正しく指摘する(2点)
  • 重心の運動方程式から重心が動かないことを導く(3点)
  • 台車と人の変位の関係を正しく立式する(3点)
  • 台車の移動距離を正しく求める(2点)