高校物理では、2つの質点の重心を公式 $x_G = \dfrac{m_1 x_1 + m_2 x_2}{m_1 + m_2}$ で計算します。
この公式は分かりやすく、離散的な質点系には十分です。
しかし、連続的な物体(棒、板、球など)の重心を求めるには、この公式だけでは不十分です。
大学物理では、重心の定義を積分に拡張し、密度が一様でない物体の重心も計算できるようにします。
さらに、重心には「運動方程式が最もシンプルになる点」という深い意味があることを示します。
全外力が重心の加速度を決めるという関係($\vec{F}_{\text{全}} = M\vec{a}_G$)は、
複雑な物体の運動を1つの質点の運動として扱えることを意味します。
高校物理では、重心を次のように扱います。
この方法の限界を確認しておきます。
大学物理では、重心を積分で定義し、連続体にも適用できる一般的な定義を与えます。 また、重心が物理的に特別な意味を持つ理由を明確にします。
N個の質点系の重心を一般公式で計算できるようになる。 $x_G = \dfrac{\sum m_i x_i}{\sum m_i}$ で何個の質点でも同じ方法で処理できます。
連続体の重心を積分で計算できるようになる。 密度が位置によって変わる棒や板の重心を、積分を使って求められます。
重心が物理的に特別な理由を理解できる。 $\vec{F}_{\text{全}} = M\vec{a}_G$ という関係により、複雑な物体でも重心は質点として運動方程式に従います。
高校の2質点の公式を、$N$ 個の質点に自然に拡張します。
$$x_G = \frac{\sum_{i=1}^{N} m_i x_i}{\sum_{i=1}^{N} m_i} = \frac{m_1 x_1 + m_2 x_2 + \cdots + m_N x_N}{m_1 + m_2 + \cdots + m_N}$$
$N = 2$ のとき、この式は高校の公式 $x_G = \dfrac{m_1 x_1 + m_2 x_2}{m_1 + m_2}$ に一致します。 高校の公式は一般公式の特殊な場合です。
この公式の意味は明快です。重心とは「質量で重みづけした位置の平均」です。 重い質点のそばに寄り、軽い質点からは離れます。
重心の定義式 $Mx_G = \sum m_i x_i$ を変形すると、$\sum m_i (x_i - x_G) = 0$ となります。
これは「重心まわりの質量のモーメントの和が $0$ になる」ことを意味します。 M-3-2 で学んだ「モーメントのつりあい」が重心の定義に直結しているのです。 重心で支えるとつりあうのは、このためです。
離散的な質点系では $\sum$ で重心を計算しましたが、連続的な物体では質点を無限に細かく取る必要があります。 このとき、$\sum$(和)は $\int$(積分)に置き換わります。
線密度 $\lambda(x)$ [kg/m] の棒が $x = a$ から $x = b$ まで存在するとき:
$$x_G = \frac{\int_a^b x\,\lambda(x)\,dx}{\int_a^b \lambda(x)\,dx}$$
なぜ $\sum$ が $\int$ に変わるのか、直感的に説明します。
棒を $N$ 個の微小部分に分割し、各部分の質量を $\Delta m_i = \lambda(x_i)\Delta x$、 位置を $x_i$ とします。すると重心は:
$$x_G = \frac{\sum_{i=1}^{N} x_i \cdot \lambda(x_i)\Delta x}{\sum_{i=1}^{N} \lambda(x_i)\Delta x}$$
$N \to \infty$($\Delta x \to 0$)の極限をとると、$\sum$ は $\int$ になります。 これが積分の定義そのものです。
M-1-1 で微分が「$\Delta t \to 0$ の極限」であったように、 積分は「$\Delta x \to 0$ の極限での和」です。
離散の公式 $x_G = \dfrac{\sum m_i x_i}{\sum m_i}$ と、 連続の公式 $x_G = \dfrac{\int x\,\lambda(x)\,dx}{\int \lambda(x)\,dx}$ は、 同じ定義の離散版と連続版にすぎません。
長さ $L$、線密度 $\lambda = \text{const.}$ の棒が $x = 0$ から $x = L$ にあるとき、重心は:
全質量:$M = \int_0^L \lambda\,dx = \lambda L$
分子:$\int_0^L x\,\lambda\,dx = \lambda \cdot \dfrac{L^2}{2}$
重心:$x_G = \dfrac{\lambda L^2 / 2}{\lambda L} = \dfrac{L}{2}$
一様な棒の重心は中心($L/2$)です。直感と一致します。 積分を使って「当然の結果」が正しく導かれることを確認できました。
$x = 0$ から $x = L$ にある棒で、線密度が $\lambda(x) = \lambda_0 \left(1 + \dfrac{x}{L}\right)$ である場合を考えます。 $x = 0$ 端の密度は $\lambda_0$、$x = L$ 端の密度は $2\lambda_0$ です。密い方($x = L$ 側)に重心がずれるはずです。
全質量:
$$M = \int_0^L \lambda_0\left(1 + \frac{x}{L}\right)dx = \lambda_0\left[x + \frac{x^2}{2L}\right]_0^L = \lambda_0\left(L + \frac{L}{2}\right) = \frac{3}{2}\lambda_0 L$$
分子:
$$\int_0^L x\,\lambda_0\left(1 + \frac{x}{L}\right)dx = \lambda_0\int_0^L \left(x + \frac{x^2}{L}\right)dx = \lambda_0\left[\frac{x^2}{2} + \frac{x^3}{3L}\right]_0^L = \lambda_0\left(\frac{L^2}{2} + \frac{L^2}{3}\right) = \frac{5}{6}\lambda_0 L^2$$
重心:
$$x_G = \frac{5\lambda_0 L^2/6}{3\lambda_0 L/2} = \frac{5}{6} \times \frac{2}{3} \times L = \frac{5}{9}L \approx 0.556\,L$$
重心は $\dfrac{5}{9}L \approx 0.556\,L$ で、中心($0.5L$)よりも密度が大きい側にずれています。 密度が一様でない物体の重心を求められるのは、積分を使う大きなメリットです。
誤:「棒の重心はいつも真ん中」
正:一様な棒に限り重心は中心。密度が不均一なら、密度の大きい側にずれる
高校では一様な物体しか扱わないため「重心 = 幾何学的中心」という誤解が生まれがちです。 積分の定義に立ち返れば、重心が中心に来るのは対称性がある場合だけであることが分かります。
重心には、単に「つりあう点」を超えた深い物理的意味があります。 それは、質点系全体に作用する外力の合計が、重心の運動を決めるという性質です。
$$\vec{F}_{\text{全}} = M\vec{a}_G$$
重心の定義:$M\vec{r}_G = \sum m_i \vec{r}_i$
両辺を時間で2回微分します。
$$M\vec{a}_G = \sum m_i \vec{a}_i$$
各質点の運動方程式 $m_i \vec{a}_i = \vec{F}_i$($\vec{F}_i$ は質点 $i$ に作用する全ての力)を代入すると:
$$M\vec{a}_G = \sum \vec{F}_i$$
ここで、質点間の内力(例えば質点1が質点2を引く力と、質点2が質点1を引く力)は作用・反作用の法則により打ち消し合います。 残るのは外力だけなので:
$$M\vec{a}_G = \vec{F}_{\text{全}}$$
重心は「つりあう点」というだけでなく、運動方程式が最もシンプルになる代表点です。
どれほど複雑な形の物体でも、その重心は全外力 $\vec{F}_{\text{全}}$ と全質量 $M$ だけで決まる シンプルな運動方程式 $\vec{F}_{\text{全}} = M\vec{a}_G$ に従います。
例えば、宙に投げた回転する棒は複雑な運動をしますが、 その重心だけに注目すれば、放物運動(質点の運動)をしています。 重心以外の点はこのようなシンプルな運動をしません。
爆発する花火を考えます。爆発によって破片は四方八方に飛び散りますが、 破片に作用するのは内力(爆発力)と外力(重力)です。
内力は作用・反作用で打ち消し合うため、重心の運動には影響しません。 したがって、爆発しなかった場合と同じ放物線を重心は描き続けます。
これは重心の運動方程式 $\vec{F}_{\text{全}} = M\vec{a}_G$ から直接導かれる結論です。
重心の定義と運動方程式は、力学のさまざまなテーマと関わります。
Q1. 質量 $3$ kg の質点が $x = 1$ m に、質量 $1$ kg の質点が $x = 5$ m にある。重心の位置を求めてください。
Q2. 連続体の重心を積分で求める公式を書いてください(1次元、線密度 $\lambda(x)$)。
Q3. 重心の運動方程式 $\vec{F}_{\text{全}} = M\vec{a}_G$ が意味することを説明してください。
Q4. 花火が空中で爆発しても重心の軌道が変わらない理由を述べてください。
重心の計算と運動方程式を問題で確認しましょう。
$x$ 軸上に3つの質点がある。質量 $2$ kg が $x = 0$ m、質量 $3$ kg が $x = 4$ m、質量 $5$ kg が $x = 6$ m にある。重心の位置を求めよ。
$x_G = 4.2$ m
$x_G = \dfrac{2 \times 0 + 3 \times 4 + 5 \times 6}{2 + 3 + 5} = \dfrac{0 + 12 + 30}{10} = \dfrac{42}{10} = 4.2$ m
最も重い質点($5$ kg、$x = 6$ m)に近い側に重心が寄っています。
長さ $L$ の棒が $x = 0$ から $x = L$ に置かれている。線密度が $\lambda(x) = \lambda_0 \dfrac{x}{L}$($x = 0$ で密度 $0$、$x = L$ で密度 $\lambda_0$)である。
(1) 棒の全質量 $M$ を求めよ。
(2) 重心の位置 $x_G$ を求めよ。
(1) $M = \dfrac{1}{2}\lambda_0 L$
(2) $x_G = \dfrac{2}{3}L$
(1) $M = \int_0^L \lambda_0 \dfrac{x}{L}\,dx = \dfrac{\lambda_0}{L}\cdot\dfrac{L^2}{2} = \dfrac{\lambda_0 L}{2}$
(2) 分子:$\int_0^L x\cdot\lambda_0\dfrac{x}{L}\,dx = \dfrac{\lambda_0}{L}\int_0^L x^2\,dx = \dfrac{\lambda_0}{L}\cdot\dfrac{L^3}{3} = \dfrac{\lambda_0 L^2}{3}$
$x_G = \dfrac{\lambda_0 L^2/3}{\lambda_0 L/2} = \dfrac{2}{3}L$
$x = 0$ で密度 $0$、$x = L$ で密度最大なので、重心は $L/2$ より右(密度が大きい側)にあります。$2L/3 \approx 0.667L$ は妥当な結果です。
滑らかな水平面上に質量 $M$ の台車があり、台車の上に質量 $m$ の人が立っている。人が台車の上を右に歩いたとき、台車は左に動いた。
(1) この系(人+台車)に作用する水平方向の外力を答えよ。
(2) 重心の運動方程式を用いて、人が歩いている間、系の重心がどう動くか説明せよ。
(3) 人が台車の右端から左端まで距離 $d$ だけ歩いたとき、台車が左にどれだけ移動するか求めよ。
(1) 水平方向の外力は $0$(床が滑らかなので摩擦力がない)
(2) 重心は動かない(静止し続ける)
(3) 台車の移動距離 $= \dfrac{md}{M + m}$
(1) 鉛直方向には重力と垂直抗力がありますが、水平方向には外力がありません。人と台車の間に作用する力(摩擦力)は内力です。
(2) $\vec{F}_{\text{全}} = M_{\text{全}}\vec{a}_G$ において $\vec{F}_{\text{全}} = \vec{0}$ なので $\vec{a}_G = \vec{0}$。 初期状態で静止していたなら $\vec{v}_G = \vec{0}$ のまま。重心は動きません。
(3) 台車の移動距離を $D$(左向きを正)とします。人の移動距離は台車に対して $d$(右向き)なので、地面に対しては $d - D$(右向き)です。
重心が動かない条件:$m(d - D) = MD$(重心まわりのモーメント的な関係)
$md - mD = MD$ より $md = (M + m)D$
$D = \dfrac{md}{M + m}$