高校物理では、$F = ma$ から加速度 $a$ を求め、等加速度運動の公式に代入して位置や速度を求めます。
この方法はシンプルで使いやすいですが、力が一定の場合にしか使えません。
空気抵抗のように速度に比例する力や、ばねのように位置に比例する力が働く場合、高校の方法では対処できません。
大学物理では、運動方程式 $F = m(d^2x/dt^2)$ を微分方程式として解くという統一的な方法を使います。
力が一定でも、速度や位置に依存しても、同じ枠組みで運動を求めることができます。
高校で学んだ等加速度運動の公式は、この方法の最も単純な特殊ケースにすぎません。
この記事では、力の種類ごとに運動方程式を実際に解き、
微分方程式というアプローチの汎用性を体験します。
高校物理での力学問題の解法は、概ね次の手順で進みます。
この手順は明快で、多くの入試問題に対応できます。 しかし、この手順が使えるのは加速度が一定の場合に限られます。
たとえば次のような状況は、高校の方法では解けません。
これらの問題を扱うためには、等加速度の公式に頼らない、より一般的な方法が必要です。
大学物理では、運動方程式を微分方程式として直接解きます。
等加速度の公式を微分方程式から導出できる。 $F$ = 一定の場合に運動方程式を積分し、$v = v_0 + at$、$x = v_0t + \frac{1}{2}at^2$ を自分で導けるようになります。
空気抵抗のある運動を解ける。 $F = -bv$(速度に比例する抵抗力)の場合の微分方程式を変数分離法で解き、終端速度の概念を理解します。
ばねの運動方程式を立てられる。 $F = -kx$(位置に比例する復元力)の場合の微分方程式を見て、その解が三角関数(単振動)であることを確認します。
運動方程式の立て方が身につく。 「物体を決める → 力を書く → 座標を設定する → 成分を書き下す」という汎用的な手順を学びます。
まず、最も簡単な場合として、力が一定($F$ = 定数)のときを扱います。 これは M-1-2 でも扱った内容の復習です。
$$m\frac{d^2 x}{dt^2} = F \quad (F\text{は定数})$$
$a = F/m$(定数)とおくと、$\dfrac{d^2x}{dt^2} = a$ です。 これを2回積分すれば $x(t)$ が求まります。
1回目の積分(加速度 → 速度):
$$\frac{dv}{dt} = a$$
両辺を $t$ で積分すると、
$$v(t) = at + C_1$$
初期条件 $v(0) = v_0$ より $C_1 = v_0$。したがって、
$$v(t) = v_0 + at$$
2回目の積分(速度 → 位置):
$$\frac{dx}{dt} = v_0 + at$$
両辺を $t$ で積分すると、
$$x(t) = v_0 t + \frac{1}{2}at^2 + C_2$$
初期条件 $x(0) = 0$ より $C_2 = 0$。したがって、
$$x(t) = v_0 t + \frac{1}{2}at^2$$
高校で暗記した等加速度運動の2つの公式が、微分方程式の積分から自動的に導出されました。 $\frac{1}{2}$ という係数も、$t^2$ を積分する際に自然に現れるものであることが分かります。
微分方程式を解くと積分定数($C_1$, $C_2$)が現れます。 これらは初期条件(初速度、初期位置)によって決まります。
2階微分方程式の解には2つの積分定数が現れ、2つの初期条件(初期位置と初速度)で完全に決定されます。 これは「位置と速度を1つの時刻で指定すれば、その後の運動が一意に決まる」ことを意味しています。
次に、力が速度に依存する場合を考えます。 物体が流体(空気や水)中を運動するとき、速度に比例する抵抗力が働くことがあります。
質量 $m$ の物体が重力 $mg$ を受けて落下するとき、速度 $v$ に比例する空気抵抗 $-bv$($b > 0$)が働くとします。 下向きを正とすると、運動方程式は次のようになります。
$$m\frac{dv}{dt} = mg - bv$$
高校の方法では、$a$ が一定でないためお手上げです。 しかし、この微分方程式は変数分離法という手法で解くことができます。
運動方程式:$m\dfrac{dv}{dt} = mg - bv$
$v$ と $t$ を分離します:
$$\frac{dv}{mg - bv} = \frac{dt}{m}$$
両辺を積分します($t = 0$ で $v = 0$ とする):
$$\int_0^{v} \frac{dv'}{mg - bv'} = \int_0^{t} \frac{dt'}{m}$$
左辺の積分:$-\dfrac{1}{b}\ln(mg - bv') \Big|_0^{v} = -\dfrac{1}{b}\left[\ln(mg - bv) - \ln(mg)\right] = -\dfrac{1}{b}\ln\dfrac{mg - bv}{mg}$
右辺の積分:$\dfrac{t}{m}$
$$-\frac{1}{b}\ln\frac{mg - bv}{mg} = \frac{t}{m}$$
$$\ln\frac{mg - bv}{mg} = -\frac{b}{m}t$$
$$\frac{mg - bv}{mg} = e^{-\frac{b}{m}t}$$
$v$ について解くと、
$$v(t) = \frac{mg}{b}\left(1 - e^{-\frac{b}{m}t}\right)$$
得られた結果を分析しましょう。
$t \to \infty$ のとき、$e^{-(b/m)t} \to 0$ なので、
$$v(\infty) = \frac{mg}{b} \equiv v_{\text{ter}}$$
これが終端速度(terminal velocity)です。 物体が十分長く落下すると、重力と空気抵抗がつりあい、加速度がゼロになります。 それ以降は一定速度 $v_{\text{ter}} = mg/b$ で落下します。
終端速度では $mg = bv_{\text{ter}}$、すなわち重力と空気抵抗がつりあっています。 合力がゼロなので加速度もゼロとなり、速度は変化しなくなります。
雨粒が地上に衝突しても大きな被害を与えないのは、終端速度に達しているためです。 もし空気抵抗がなければ、雨粒は数千メートルの自由落下で非常に高速になります。
誤解:「空気抵抗は常に速度に比例する」
正しい理解:速度が小さい場合は $F \propto v$(粘性抵抗)、 速度が大きい場合は $F \propto v^2$(慣性抵抗)と近似されます。 どちらのモデルを使うかは、レイノルズ数と呼ばれる量によって判断します。
この記事では計算が簡単な $F \propto v$ の場合を扱いますが、 実際の物理現象では条件に応じたモデルを選ぶ必要があります。
解の中に現れる $e^{-(b/m)t} = e^{-t/\tau}$ の $\tau = m/b$ を時定数と呼びます。
$t = \tau$ のとき、$v = v_{\text{ter}}(1 - e^{-1}) \approx 0.63\,v_{\text{ter}}$。 つまり時定数は「終端速度の約63%に達するまでの時間」を表します。
$t = 3\tau$ で約95%、$t = 5\tau$ で約99%に達するので、 実用的には $3\tau \sim 5\tau$ で終端速度に到達したとみなせます。
もう1つ重要な場合として、力が位置に比例する場合を見ておきます。 ばねにつながれた物体に働く復元力がこれに当たります。
$$m\frac{d^2 x}{dt^2} = -kx$$
この方程式は「$x(t)$ を2回微分すると、$-(k/m)$ 倍の自分自身に戻る」という条件を要求しています。 $\omega = \sqrt{k/m}$ とおくと、
$$\frac{d^2 x}{dt^2} = -\omega^2 x$$
M-1-1 で見たように、$\sin$ や $\cos$ は2回微分すると符号が反転する関数です。 この方程式の一般解は、
$$x(t) = A\cos(\omega t) + B\sin(\omega t)$$
であることが知られています($A$, $B$ は初期条件で決まる定数)。 これが単振動です。
高校では「ばねにつながれた物体は単振動する」ことを事実として受け入れます。 しかし大学の視点では、これは運動方程式 $m\ddot{x} = -kx$ の数学的な帰結です。
「2回微分すると $-\omega^2$ 倍になる関数」は $\sin(\omega t)$ と $\cos(\omega t)$ しかないため、 ばねの運動は必然的に正弦波になります。物理的な直感ではなく、数学が答えを与えてくれます。
単振動の詳しい解法と物理的な意味については、M-6-2 で改めて扱います。 ここでは「位置に比例する力の運動方程式から、単振動が自然に導かれる」ことを確認しておいてください。
力学の問題を解く際に最も重要なのは、正しく運動方程式を立てることです。 方程式さえ正しく立てれば、あとは数学的に解くだけです。 以下の手順は、どのような力学問題にも共通して使えます。
Step 1:注目する物体を決める
どの物体の運動を求めたいのかを明確にします。
Step 2:物体に働く力をすべて書き出す
重力、垂直抗力、摩擦力、張力、弾性力、抵抗力など。漏れなく列挙します。
Step 3:座標系を設定する
正の方向を決めます。運動の方向に合わせて設定すると計算が楽になります。
Step 4:$F = ma$ の各成分を書き下す
各方向について、力の合計 = 質量 $\times$ 加速度 の式を書きます。
傾斜角 $\theta$ の滑らかな斜面上に質量 $m$ の物体が置かれている場合を考えます。
Step 1:斜面上の物体に注目
Step 2:働く力は重力 $mg$(鉛直下向き)と垂直抗力 $N$(斜面に垂直、物体から離れる向き)
Step 3:斜面に沿って下向きを正、斜面に垂直で離れる向きを正とする
Step 4:
斜面方向:$ma = mg\sin\theta$
斜面垂直方向:$0 = N - mg\cos\theta$(斜面垂直方向には加速しない)
よって $a = g\sin\theta$、$N = mg\cos\theta$
この手順は高校でも同じですが、大学ではStep 4で微分方程式の形を意識します。 「$ma = mg\sin\theta$」は「$m(d^2x/dt^2) = mg\sin\theta$」と同じことであり、 これを積分すれば位置 $x(t)$ が求まります。
よくある間違い:「物体が動いているから、運動方向に力がある」として 存在しない力を書き加えてしまう
正しいアプローチ:力は物体に接触しているもの(垂直抗力、摩擦、張力、弾性力)と 離れていても働くもの(重力、電磁気力)から生じる。 「動いているから」という理由で力を追加しない。 力がなくても物体は等速直線運動を続ける(第1法則)。
運動方程式を微分方程式として解く方法は、力学の全ての問題に共通する基盤です。
Q1. 高校の等加速度運動の公式 $x = v_0t + \frac{1}{2}at^2$ は、運動方程式のどのような条件のもとでの解ですか。
Q2. 速度に比例する空気抵抗 $-bv$ が働く落下運動の終端速度はいくらですか。また、その物理的意味を説明してください。
Q3. ばねの運動方程式 $m\ddot{x} = -kx$ の解が三角関数($\sin$, $\cos$)になる理由を説明してください。
Q4. 変数分離法とはどのような方法ですか。
運動方程式を微分方程式として解く方法を、問題で実践しましょう。
質量 $m = 4.0$ kg の物体に一定の力 $F = 12$ N が水平方向に加わっている。初期位置を原点、初速度を $v_0 = 2.0$ m/s とする。
(1) 運動方程式を $d^2x/dt^2$ の形で書け。
(2) $v(t)$ を求めよ。
(3) $x(t)$ を求め、$t = 3.0$ s における位置を計算せよ。
(1) $4.0\dfrac{d^2x}{dt^2} = 12$ すなわち $\dfrac{d^2x}{dt^2} = 3.0$ m/s$^2$
(2) $v(t) = 2.0 + 3.0t$ m/s
(3) $x(t) = 2.0t + 1.5t^2$ m。$x(3.0) = 6.0 + 13.5 = 19.5$ m
(1) $F = m(d^2x/dt^2)$ に $F = 12$, $m = 4.0$ を代入。
(2) $dv/dt = 3.0$ を積分し、初期条件 $v(0) = 2.0$ を適用。
(3) $dx/dt = 2.0 + 3.0t$ を積分し、初期条件 $x(0) = 0$ を適用。$\frac{1}{2} \times 3.0 = 1.5$ に注意。
質量 $m$ の小球が静止状態から自由落下する。速度に比例する空気抵抗 $f = -bv$($b > 0$)が働く。下向きを正とする。
(1) 運動方程式を書け。
(2) 終端速度 $v_{\text{ter}}$ を求めよ。
(3) 変数分離法を用いて、$v(t)$ を求めよ。初期条件は $v(0) = 0$ とする。
(4) $t = m/b$ のとき、速度は終端速度の何 % に達しているか。$e^{-1} \approx 0.37$ として計算せよ。
(1) $m\dfrac{dv}{dt} = mg - bv$
(2) 終端速度では $mg = bv_{\text{ter}}$。よって $v_{\text{ter}} = mg/b$
(3) $v(t) = \dfrac{mg}{b}\left(1 - e^{-\frac{b}{m}t}\right)$
(4) $v(m/b) = v_{\text{ter}}(1 - e^{-1}) \approx v_{\text{ter}} \times 0.63$。約 63%。
(1) 下向き正なので、重力 $mg$ は正、空気抵抗 $-bv$ は負(上向き)。
(2) 終端速度では加速度ゼロ、つまり $mg - bv_{\text{ter}} = 0$。
(3) $dv/(mg - bv) = dt/m$ と変数分離し、$\int_0^v dv'/(mg - bv') = t/m$ を計算。
(4) $\tau = m/b$ は時定数。$t = \tau$ で $(1 - 1/e) \approx 0.63$、すなわち終端速度の約63%。
水平な滑らかな床の上で、質量 $m$ の物体がばね定数 $k$ のばねにつながれている。 自然長の位置を原点とし、物体を正の方向に $A$ だけ引いて静かに放す。
(1) 運動方程式を書け。
(2) $x(t) = A\cos(\omega t)$($\omega = \sqrt{k/m}$)がこの方程式の解であることを、実際に微分して確認せよ。
(3) 速度 $v(t)$ を求め、物体が原点を通過するときの速度を求めよ。
(4) この運動で加速度が最大になるのはどの位置か。その理由も述べよ。
(1) $m\dfrac{d^2x}{dt^2} = -kx$
(2) $x = A\cos(\omega t)$ を2回微分する。$dx/dt = -A\omega\sin(\omega t)$、$d^2x/dt^2 = -A\omega^2\cos(\omega t) = -\omega^2 x$。$\omega^2 = k/m$ なので $m(-\omega^2 x) = -kx$。確かに運動方程式を満たす。
(3) $v(t) = -A\omega\sin(\omega t)$。原点通過時は $x = 0$、つまり $\cos(\omega t) = 0$、$\sin(\omega t) = \pm 1$。よって $v = \pm A\omega = \pm A\sqrt{k/m}$。
(4) 加速度 $a = -(k/m)x$ なので、$|a|$ は $|x|$ が最大のとき最大。すなわち $x = \pm A$(端点、最大変位の位置)で加速度の大きさが最大。ばねが最も伸びた(または縮んだ)位置で復元力が最大であるため。
(2) 解の検証は「候補を代入して方程式を満たすか確認する」方法。微分方程式を解けなくても、解が正しいことは確認できます。
(3) 原点は自然長の位置で、ばねの力がゼロの位置です。ここで速度が最大になります。
(4) 端点 $x = \pm A$ では速度はゼロ(一瞬静止)、加速度は最大。原点 $x = 0$ では速度は最大、加速度はゼロ。速度と加速度が「逆」の振る舞いをする点が単振動の特徴です。