高校物理では、等加速度運動の3公式($v = v_0 + at$、$x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2$、$v^2 - v_0^2 = 2ax$)は、
公式として与えられ、それを暗記して問題に適用します。
v-tグラフの面積から導くことはありますが、公式の出発点は「グラフの形」です。
前の記事(M-1-1)では、微分によって「位置 → 速度 → 加速度」の方向を扱いました。
この記事では、その逆操作である積分を使い、
「加速度が一定」というたった1つの仮定から3公式すべてを導きます。
積分の基本ルールは1つだけです。
それを使えば、公式を暗記する必要がなくなります。
忘れても、いつでも自分で導き直せるからです。
高校物理では、等加速度運動の3公式は次のように扱われます。
3公式を改めて書いておきます。
$$v = v_0 + at \quad \cdots\text{(1)}$$
$$x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2 \quad \cdots\text{(2)}$$
$$v^2 - v_0^2 = 2ax \quad \cdots\text{(3)}$$
高校の授業では、第2式の $\frac{1}{2}$ がどこから来るのかについて、 「v-tグラフの三角形の面積が $\frac{1}{2} \times \text{底辺} \times \text{高さ}$」と説明されます。 これは正しい説明ですが、「なぜ三角形になるのか(速度がなぜ直線的に変化するのか)」には踏み込みません。
高校の範囲では、これで十分に問題は解けます。 ここから先は、同じ3公式を別の方法で導く話です。
M-1-1では、微分によって「位置 → 速度 → 加速度」を求めました。 この記事では、その逆方向を扱います。
大学物理では、積分(微分の逆操作)を使うことで、 「加速度が一定である」というたった1つの事実から出発して、 速度の式も位置の式もすべて導くことができます。
3公式を自分で導出できるようになる。 「加速度 $a$ が一定」から出発して、積分を2回行うだけで、3公式すべてが得られることを体験します。
$\frac{1}{2}$ の由来が分かる。 第2式の $\frac{1}{2}at^2$ にある $\frac{1}{2}$ は、$\int t\,dt = \frac{t^2}{2}$ という積分規則から自然に現れるものです。 覚えるのではなく、計算すれば出てきます。
積分定数と初期条件の関係を理解できる。 積分したときに現れる定数 $C$ が、初速度 $v_0$ や初期位置に対応することを学びます。 これは大学物理のあらゆる場面で使う考え方です。
第3式が独立でないことが分かる。 3つ目の公式は、最初の2つから $t$ を消去するだけで得られます。 独立な情報は2つだけです。
M-1-1で扱った微分は「位置 → 速度 → 加速度」の方向、すなわち「関数を微分して変化率を求める」操作でした。
この記事で使う積分は、その逆です。 「変化率(加速度)が分かっているとき、元の関数(速度)を復元する」操作です。
具体的に言うと:
積分で使うルールは、微分のルール「$t^n \to nt^{n-1}$」を逆にたどったものです。 この記事で使うのは以下の1つだけです。
$$\int t^n \, dt = \frac{t^{n+1}}{n+1} + C$$
具体例を見ておきましょう。
| 被積分関数 | 積分結果 | 確認(微分で戻るか) |
|---|---|---|
| $\int 1 \, dt$($= \int t^0 \, dt$) | $t + C$ | $(t + C)' = 1$ ✓ |
| $\int t \, dt$($= \int t^1 \, dt$) | $\dfrac{t^2}{2} + C$ | $\left(\dfrac{t^2}{2}\right)' = t$ ✓ |
| $\int t^2 \, dt$ | $\dfrac{t^3}{3} + C$ | $\left(\dfrac{t^3}{3}\right)' = t^2$ ✓ |
| $\int a \, dt$($a$ は定数) | $at + C$ | $(at + C)' = a$ ✓ |
右の列で「微分して元に戻る」ことを確認しています。 積分と微分が逆操作であることの直接的な確認です。
積分すると、必ず積分定数 $C$ が現れます。 これは、微分すると消えてしまう定数(例えば $+5$ や $-3$)の情報を復元できないことに対応しています。
例えば、$f(t) = t^2 + 5$ も $g(t) = t^2 - 3$ も、微分すると同じ $2t$ になります。 したがって、$2t$ を積分しただけでは、元の定数部分が分かりません。 そこで「$t^2 + C$」として、$C$ は後から決める、とします。
物理では、この $C$ は初期条件($t = 0$ のときの値)を使って決めます。 この仕組みが、次のセクションで実際に動く様子を見てください。
いよいよ、3公式の導出に入ります。 出発点は「加速度 $a$ が一定である」という1つの事実だけです。
M-1-1で学んだ通り、加速度は速度の時間微分です。
$$\frac{dv}{dt} = a \quad (a\text{ は定数})$$
この式の意味は「速度 $v$ を時間 $t$ で微分すると、定数 $a$ になる」ということです。 では、この逆操作──すなわち両辺を $t$ で積分──を行いましょう。
ステップ1:両辺を $t$ で積分する
$$\int \frac{dv}{dt}\,dt = \int a\,dt$$
左辺は「$v$ を微分して、また積分する」なので、そのまま $v$ に戻ります。
右辺は定数 $a$ の積分です。$\int a\,dt = at + C$。
ステップ2:積分結果を書く
$$v = at + C$$
ステップ3:初期条件で $C$ を決める
$t = 0$ のとき、速度は初速度 $v_0$ です。つまり $v(0) = v_0$。
$$v_0 = a \cdot 0 + C = C$$
したがって $C = v_0$。
結果
$$\boxed{v = v_0 + at} \quad \cdots\text{(第1式)}$$
高校で暗記していた第1式 $v = v_0 + at$ が、積分によって導出されました。
注目すべきは、$v_0$(初速度)が積分定数 $C$ として自然に現れたことです。 「初速度」は暗記する記号ではなく、積分定数を初期条件で決めた結果です。
積分すると現れる定数 $C$ は、「$t = 0$ のときの値」を代入することで決まります。 速度の場合、$t = 0$ の速度が $v_0$ なので、$C = v_0$ です。
この「積分 → 初期条件で定数を決める」という手順は、大学物理のあらゆる場面で繰り返し使います。
第1式で速度 $v = v_0 + at$ が得られました。 速度は位置の時間微分なので、
$$\frac{dx}{dt} = v_0 + at$$
これをもう一度積分すれば、位置 $x(t)$ が求まります。
ステップ1:両辺を $t$ で積分する
$$\int \frac{dx}{dt}\,dt = \int (v_0 + at)\,dt$$
左辺はそのまま $x$ に戻ります。
右辺は項ごとに積分します:
ステップ2:各項を積分する
$\displaystyle\int v_0\,dt = v_0 t$($v_0$ は定数)
$\displaystyle\int at\,dt = a \cdot \frac{t^2}{2} = \frac{1}{2}at^2$($\int t\,dt = \frac{t^2}{2}$ を使った)
よって、
$$x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2 + C$$
ステップ3:初期条件で $C$ を決める
$t = 0$ のとき $x = 0$(原点を出発とする)を使います。
$$0 = v_0 \cdot 0 + \frac{1}{2}a \cdot 0^2 + C = C$$
したがって $C = 0$。
結果
$$\boxed{x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2} \quad \cdots\text{(第2式)}$$
第2式が導出されました。 ここで最も重要なのは、$\frac{1}{2}$ の出どころです。
$\frac{1}{2}at^2$ の $\frac{1}{2}$ は、$\int t\,dt = \dfrac{t^2}{2}$ という積分公式から出てきたものです。
高校では「v-tグラフの三角形の面積の $\frac{1}{2}$」と説明されますが、 実はそれは積分の幾何学的な意味(面積)にほかなりません。
暗記すべき数字ではなく、$t$ を積分すれば自動的に現れる数字です。 これが「導出できる」ことの強みです。
誤:$\displaystyle\int a\,dt = at$($C$ を書かない)
正:$\displaystyle\int a\,dt = at + C$($C$ を必ず書く)
不定積分では、積分定数 $C$ を省略してはいけません。 物理では $C$ が初速度や初期位置に対応するため、$C$ を忘れると物理的に意味のある量(初期条件)を失います。
今回の導出では、$C = v_0$ や $C = 0$ と決まりましたが、 それは初期条件を代入した結果であって、積分直後の段階では $C$ を書く必要があります。
この記事で使っているのは不定積分($\int f(t)\,dt$)です。 結果に積分定数 $C$ が付き、初期条件で $C$ を決めるという手順を取りました。
同じ計算を定積分($\int_0^t f(t')\,dt'$)で書くこともできます。 その場合は積分定数が自動的に処理されるため、$C$ は現れません。
$$v(t) = v_0 + \int_0^t a\,dt' = v_0 + at$$
$$x(t) = x_0 + \int_0^t v(t')\,dt' = x_0 + v_0 t + \frac{1}{2}at^2$$
どちらの方法でも同じ結果になります。 不定積分の方が計算はシンプルで、定積分の方が初期条件の処理が明示的です。 大学の講義ではどちらも使います。
第1式と第2式は、積分という同じ操作の繰り返しで得られました。 では、第3式 $v^2 - v_0^2 = 2ax$ はどうでしょうか。
実は、第3式は新しい計算を必要としません。 第1式と第2式から $t$ を消去するだけで得られます。 つまり、第3式は独立な式ではないのです。
ステップ1:第1式から $t$ を求める
$v = v_0 + at$ より、
$$t = \frac{v - v_0}{a}$$
ステップ2:第2式に代入する
$x = v_0 t + \dfrac{1}{2}at^2$ に $t = \dfrac{v - v_0}{a}$ を代入します。
$$x = v_0 \cdot \frac{v - v_0}{a} + \frac{1}{2}a\left(\frac{v - v_0}{a}\right)^2$$
ステップ3:整理する
$$x = \frac{v_0(v - v_0)}{a} + \frac{(v - v_0)^2}{2a}$$
右辺を通分して、
$$x = \frac{2v_0(v - v_0) + (v - v_0)^2}{2a}$$
分子を展開します:
$$2v_0 v - 2v_0^2 + v^2 - 2v_0 v + v_0^2 = v^2 - v_0^2$$
したがって、
$$x = \frac{v^2 - v_0^2}{2a}$$
結果
$$\boxed{v^2 - v_0^2 = 2ax} \quad \cdots\text{(第3式)}$$
このように、第3式は第1式と第2式を連立して $t$ を消しただけの結果です。 新しい物理は含まれていません。
独立でないなら、なぜわざわざ第3式が公式として紹介されるのでしょうか。
答えは実用上の便利さです。 $t$(時間)が与えられていない、または求める必要がない問題では、 第1式と第2式を連立して $t$ を消去する手間を省けます。
例えば「初速度 $v_0 = 10$ m/s で加速度 $a = 2$ m/s$^2$ のとき、$x = 50$ m での速度は?」 → $v^2 = v_0^2 + 2ax = 100 + 200 = 300$ → $v = \sqrt{300}$ m/s。 $t$ を経由せずに答えが出ます。
ただし本質的には「便利な変形版」であって、基本は第1式と第2式の2つだけです。
誤:不定積分の結果に $C$ を付けない。あるいは定積分なのに $C$ を付ける。
正:不定積分($\int f(t)\,dt$)には必ず $C$ が付く。定積分($\int_a^b f(t)\,dt$)は数値が確定するので $C$ は付かない。
今回の導出では不定積分を使い、初期条件で $C$ を決めました。 もし定積分で最初から積分区間を指定すれば、$C$ の処理は不要になります。 どちらも正しい方法ですが、混ぜると混乱するので注意してください。
ここまでの流れを整理します。
$$a = \text{一定} \xrightarrow{\text{積分}} v = v_0 + at \xrightarrow{\text{積分}} x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2 \xrightarrow{t\text{を消去}} v^2 - v_0^2 = 2ax$$
「加速度が一定」という1つの仮定から、積分を2回行い、$t$ を消去するだけで、3公式がすべて導けました。 暗記は不要です。積分の規則($\int t^n\,dt = \frac{t^{n+1}}{n+1} + C$)と初期条件を使う手順さえ知っていれば、 いつでも自分で再現できます。
微分と積分を合わせると、位置・速度・加速度の間を自由に行き来できるようになります。 この関係は、以降のすべての力学の記事で繰り返し使います。
Q1. $\int 5\,dt$ を求めてください(積分定数 $C$ を含めること)。
Q2. 等加速度運動の第1式 $v = v_0 + at$ を導出する際、積分定数 $C$ はどのように決まりましたか?
Q3. 第2式 $x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2$ の $\frac{1}{2}$ はどこから現れますか?
Q4. 等加速度運動の3公式のうち、積分から直接得られるのはどれですか。第3式はどのように得られますか?
積分による公式の導出と、その応用を問題で確認しましょう。
次の不定積分を求めよ。いずれも積分定数 $C$ を含めて答えること。
(1) $\displaystyle\int 3\,dt$
(2) $\displaystyle\int 4t\,dt$
(3) $\displaystyle\int (6t + 2)\,dt$
(1) $3t + C$
(2) $2t^2 + C$
(3) $3t^2 + 2t + C$
(1) 定数 $3$ の積分:$\int 3\,dt = 3t + C$
(2) $\int 4t\,dt = 4 \cdot \dfrac{t^2}{2} + C = 2t^2 + C$
(3) 項ごとに積分する:$\int 6t\,dt + \int 2\,dt = 6 \cdot \dfrac{t^2}{2} + 2t + C = 3t^2 + 2t + C$
いずれも、結果を微分すると元の被積分関数に戻ることを確認できます。
加速度 $a$ が一定であるとき、$\dfrac{dv}{dt} = a$ を積分して第1式 $v = v_0 + at$ を導け。導出の各ステップを明記し、積分定数をどのように決めたかを説明せよ。
$\dfrac{dv}{dt} = a$ の両辺を $t$ で積分する。
$v = \int a\,dt = at + C$
初期条件 $v(0) = v_0$ を代入すると、$v_0 = a \cdot 0 + C$ より $C = v_0$。
よって $v = v_0 + at$(第1式)。
積分定数 $C$ は、$t = 0$ のときの速度(初速度 $v_0$)に対応しています。 積分によって現れる任意定数を、物理的に意味のある初期条件で確定させるという手順は、 大学物理で最も基本的な操作の一つです。
鉛直下向きを正の向きとする。物体を高さ $h$ の地点から初速度 $0$ で静かに落とす。重力加速度を $g = 9.8\,\text{m/s}^2$ とし、空気抵抗は無視する。
(1) 加速度は $a = g$(一定)である。$\dfrac{dv}{dt} = g$ を積分し、初期条件を用いて速度 $v(t)$ を求めよ。
(2) (1)の結果をさらに積分し、初期条件を用いて落下距離 $y(t)$ を求めよ。ただし $y(0) = 0$(落下開始地点を原点)とする。
(3) 地面に到達する($y = h$)までの時間 $T$ と、そのときの速度 $V$ を求めよ。
(1) $v(t) = gt$
(2) $y(t) = \dfrac{1}{2}gt^2$
(3) $T = \sqrt{\dfrac{2h}{g}}$、$V = \sqrt{2gh}$
(1) $v = \int g\,dt = gt + C$。初期条件 $v(0) = 0$ より $C = 0$。よって $v = gt$。
(2) $y = \int gt\,dt = g \cdot \dfrac{t^2}{2} + C = \dfrac{1}{2}gt^2 + C$。初期条件 $y(0) = 0$ より $C = 0$。よって $y = \dfrac{1}{2}gt^2$。
(3) $y = h$ とすると $h = \dfrac{1}{2}gT^2$ より $T = \sqrt{\dfrac{2h}{g}}$。
速度は $V = gT = g\sqrt{\dfrac{2h}{g}} = \sqrt{2gh}$。
この結果は、第3式 $v^2 - v_0^2 = 2ax$ で $v_0 = 0$、$a = g$、$x = h$ とした $V = \sqrt{2gh}$ と一致します。
一直線上を走る自動車が、時刻 $t = 0$ で位置 $x_0 = 100\,\text{m}$、速度 $v_0 = 20\,\text{m/s}$ であった。このときブレーキをかけ、加速度 $a = -4\,\text{m/s}^2$(一定)で減速した。
(1) $\dfrac{dv}{dt} = -4$ を積分し、初期条件 $v(0) = 20$ を用いて速度 $v(t)$ を求めよ。
(2) $\dfrac{dx}{dt} = v(t)$ を積分し、初期条件 $x(0) = 100$ を用いて位置 $x(t)$ を求めよ。
(3) 自動車が停止するまでの時間と、そのときの位置を求めよ。
(4) この問題で初期条件を $x(0) = 0$ とした場合と比べて、(2)の結果はどのように変わるか。積分定数との関係で説明せよ。
(1) $v(t) = 20 - 4t$ [m/s]
(2) $x(t) = 100 + 20t - 2t^2$ [m]
(3) 停止時間 $t = 5$ s、位置 $x = 150$ m
(4) 初期条件 $x(0) = 0$ とすると $C = 0$ となり、$x(t) = 20t - 2t^2$。$x(0) = 100$ の場合は $C = 100$ となり、位置が全体に $100$ mだけシフトする。積分定数 $C$ の値が初期位置 $x_0$ に対応している。
(1) $v = \int(-4)\,dt = -4t + C$。$v(0) = 20$ より $C = 20$。よって $v = 20 - 4t$。
(2) $x = \int(20 - 4t)\,dt = 20t - 4 \cdot \dfrac{t^2}{2} + C = 20t - 2t^2 + C$。$x(0) = 100$ より $C = 100$。よって $x = 100 + 20t - 2t^2$。
(3) 停止条件は $v = 0$。$20 - 4t = 0$ より $t = 5$ s。$x(5) = 100 + 20 \times 5 - 2 \times 25 = 100 + 100 - 50 = 150$ m。
(4) 位置の積分で現れる定数 $C$ は初期位置 $x_0$ に等しい。これは一般の第2式 $x = x_0 + v_0 t + \frac{1}{2}at^2$ における $x_0$ そのものである。高校の公式では $x_0 = 0$ が暗黙に仮定されていることが多いが、積分から導出すれば $x_0$ が自然に現れる。