高校物理では、交流電圧 $V = V_0 \sin \omega t$ を公式として与え、発電機の仕組みを定性的に説明します。
「なぜ $\sin$ になるのか」については、直感的な説明に留まることが多いです。
大学物理では、磁場中で回転するコイルを貫く磁束 $\Phi(t)$ を具体的に書き下し、
ファラデーの法則 $V = -\dfrac{d\Phi}{dt}$ で微分することで、交流電圧の式を導出します。
交流の発生は電磁誘導の直接的な応用であり、$\sin$ が現れる理由も数式で明確に説明できます。
この記事では、回転コイルの磁束から出発して交流電圧の式を導き、
振幅・角振動数・周期・周波数といった交流の基本量の意味を整理します。
高校物理では、交流を次のように扱います。
この扱いで入試問題は解けます。しかし、いくつかの疑問が残ります。
大学物理では、これらの疑問に対して、電磁誘導の法則から直接的に答えを与えます。
大学物理の視点を加えると、交流の理解は次のように変わります。
交流電圧の式を自分で導出できるようになる。 回転コイルの磁束をファラデーの法則で微分するだけで、$V = V_0 \sin \omega t$ が得られます。 公式を忘れても、導出の手順さえ覚えていれば再現できます。
$\sin$ が現れる理由を説明できるようになる。 磁束が $\cos\omega t$ に比例し、その微分(時間変化率)が $\sin\omega t$ に比例するためです。 数学的な必然であり、物理的に「たまたま $\sin$」なのではありません。
電磁誘導と交流が一本の線でつながる。 交流発電は、ファラデーの法則の具体的な応用例にすぎません。 別々に暗記していた知識が統合されます。
一様な磁場 $\mathbf{B}$(磁束密度 $B$)の中で、面積 $S$ の長方形コイル(巻数 $N$)が 角速度 $\omega$ で回転している状況を考えます。
コイルの面の法線ベクトルと磁場のなす角を $\theta$ とします。 コイルが等速回転しているので、$\theta = \omega t$($t = 0$ で法線と磁場が平行とする)です。
1巻あたりの磁束は、コイルの面を貫く磁束として次のように表されます。
$$\Phi_1 = BS\cos\theta = BS\cos(\omega t)$$
$\cos\theta$ が現れるのは、コイルの面の法線と磁場のなす角が $\theta$ であるためです。 法線と磁場が平行($\theta = 0$)のとき磁束は最大 $BS$、 垂直($\theta = \pi/2$)のとき磁束はゼロになります。
$N$ 巻のコイル全体の磁束は次のようになります。
$$\Phi(t) = NBS\cos(\omega t)$$
磁束が $\cos(\omega t)$ に比例することが、交流電圧に $\sin$ が現れる直接の原因です。 次のセクションで、これをファラデーの法則で微分します。
誤:「磁束が $\sin\omega t$ だから電圧も $\sin\omega t$」
正:磁束は $\cos\omega t$、起電力はその微分なので $\sin\omega t$ です。 磁束と起電力では位相が $\pi/2$(90度)ずれています。 磁束が最大の瞬間に起電力はゼロ、磁束がゼロの瞬間に起電力が最大です。
ファラデーの電磁誘導の法則は、コイルに生じる起電力 $V$ が磁束の時間変化率に等しいことを述べます。
$$V = -\frac{d\Phi}{dt}$$
セクション3で求めた $\Phi(t) = NBS\cos(\omega t)$ を時間で微分します。
$\Phi(t) = NBS\cos(\omega t)$
$\cos(\omega t)$ の $t$ による微分は $-\omega\sin(\omega t)$ なので、
$$\frac{d\Phi}{dt} = NBS \cdot (-\omega\sin(\omega t)) = -NBS\omega\sin(\omega t)$$
ファラデーの法則 $V = -\dfrac{d\Phi}{dt}$ に代入すると、
$$V = -(-NBS\omega\sin(\omega t)) = NBS\omega\sin(\omega t)$$
$NBS\omega$ を $V_0$ と置けば、高校で学んだ交流電圧の式が得られます。
$$V(t) = V_0 \sin(\omega t), \qquad V_0 = NBS\omega$$
磁束 $\Phi$ が $\cos\omega t$ に比例するとき、その時間微分は $\sin\omega t$ に比例します。 これは $\cos$ の微分が $-\sin$ であるという数学的事実に由来します。
つまり、交流電圧が $\sin$ 関数になるのは、 回転コイルを貫く磁束が $\cos$ 関数で変化し、 起電力がその時間変化率(微分)であるためです。 物理法則と数学が直結しています。
$t = 0$ でコイル面が磁場に垂直(磁束がゼロ)と取れば、 $\Phi = NBS\sin(\omega t)$、$V = NBS\omega\cos(\omega t)$ となり、 起電力は $\cos$ で表されます。
$\sin$ か $\cos$ かは時刻の原点の取り方(初期位相)の違いにすぎず、 物理的に本質的な違いはありません。
交流を特徴づける基本的な量を整理します。
| 量 | 記号 | 定義・関係式 | 意味 |
|---|---|---|---|
| 振幅 | $V_0$ | $V_0 = NBS\omega$ | 電圧の最大値 |
| 角振動数 | $\omega$ | $\omega = 2\pi f = \dfrac{2\pi}{T}$ | 1秒あたりの回転角(rad/s) |
| 周期 | $T$ | $T = \dfrac{2\pi}{\omega} = \dfrac{1}{f}$ | 1回の振動にかかる時間(s) |
| 周波数 | $f$ | $f = \dfrac{\omega}{2\pi} = \dfrac{1}{T}$ | 1秒あたりの振動回数(Hz) |
日本の家庭用電源は $f = 50$ Hz(東日本)または $f = 60$ Hz(西日本)です。 $f = 50$ Hz の場合、$\omega = 2\pi \times 50 = 100\pi \approx 314$ rad/s であり、 コイルは1秒間に50回転しています。
振幅 $V_0$ は $NBS\omega$ に比例するので、 巻数を増やす、磁場を強くする、コイルの面積を大きくする、回転を速くする ── いずれの方法でも起電力を大きくできます。 実際の発電機では、これらのパラメータを最適化して所望の電圧を得ています。
$V_0 = NBS\omega$ に角速度 $\omega$ が含まれるのは、 起電力が磁束の時間変化率に比例するためです。
コイルが速く回転すれば磁束の変化も速くなるので、起電力も大きくなります。 これはファラデーの法則の直接的な帰結です。 「回転が速い → 起電力が大きい」は直感的にも納得できますが、 数式はそれが $\omega$ に正比例することまで教えてくれます。
交流の発生は電磁誘導の応用であり、以降の交流回路の議論の出発点です。
Q1. 磁場中で回転するコイルの磁束が $\Phi = NBS\cos(\omega t)$ のとき、起電力 $V$ を求めてください。
Q2. 交流電圧の振幅 $V_0 = NBS\omega$ に角速度 $\omega$ が含まれるのはなぜですか。
Q3. 磁束が最大のとき、起電力はいくらですか。その理由も述べてください。
Q4. 周波数 $f = 60$ Hz の交流の角振動数 $\omega$ と周期 $T$ を求めてください。
回転コイルの起電力と交流の基本量を、問題で確認しましょう。
巻数 $N = 100$、面積 $S = 0.02$ m$^2$ の長方形コイルが、磁束密度 $B = 0.5$ T の一様な磁場中で角速度 $\omega = 100\pi$ rad/s で回転している。次の問いに答えよ。
(1) 起電力の最大値 $V_0$ を求めよ。
(2) コイルの回転の周波数 $f$ と周期 $T$ を求めよ。
(3) 起電力を時間の関数 $V(t)$ として表せ。
(1) $V_0 = NBS\omega = 100 \times 0.5 \times 0.02 \times 100\pi = 100\pi \approx 314$ V
(2) $f = \omega/(2\pi) = 50$ Hz、$T = 1/f = 0.02$ s
(3) $V(t) = 100\pi\sin(100\pi t)$ V
(1) $V_0 = NBS\omega$ に各値を代入する。単位を確認すると、$\text{T} \cdot \text{m}^2 \cdot \text{rad/s} = \text{Wb/s} = \text{V}$。
(2) $\omega = 2\pi f$ から $f = 50$ Hz。$T = 1/f = 0.02$ s(20 ms)。日本の東日本の電源周波数に一致。
(3) $V(t) = V_0\sin(\omega t)$ に代入すればよい。
回転コイルにおいて、コイル面の法線が磁場と平行な瞬間($\theta = 0$)と、垂直な瞬間($\theta = \pi/2$)について、次の問いに答えよ。
(1) それぞれの瞬間における磁束 $\Phi$ と起電力 $V$ の値を、$NBS$ と $NBS\omega$ を用いて答えよ。
(2) 磁束が最大のときに起電力がゼロになる理由を、「時間変化率」という言葉を使って説明せよ。
(1) $\theta = 0$:$\Phi = NBS$(最大)、$V = 0$。$\theta = \pi/2$:$\Phi = 0$、$V = NBS\omega$(最大)。
(2) 起電力は磁束の時間変化率 $V = -d\Phi/dt$ に等しい。磁束が最大値をとる瞬間では、磁束は極値にあり瞬間的な時間変化率がゼロであるため、起電力もゼロになる。
(1) $\Phi = NBS\cos\theta$、$V = NBS\omega\sin\theta$ に $\theta = 0$ と $\theta = \pi/2$ を代入する。$\cos 0 = 1, \sin 0 = 0$。$\cos(\pi/2) = 0, \sin(\pi/2) = 1$。
(2) 関数が極大または極小をとる点では、微分値(接線の傾き)がゼロになる。磁束が最大ということは、その瞬間は磁束がちょうど増加から減少に転じる点であり、変化率は一瞬ゼロを通過する。起電力は変化率そのものなので、ゼロになる。
ある発電機で、起電力の最大値を $V_0 = 200$ V、周波数を $f = 50$ Hz にしたい。磁束密度 $B = 0.4$ T の磁場中で、面積 $S = 0.01$ m$^2$ のコイルを使用する。次の問いに答えよ。
(1) 必要なコイルの巻数 $N$ を求めよ。
(2) 磁束密度を $B = 0.8$ T に変更した場合、同じ $V_0$ を得るために必要な巻数はいくつか。
(3) $V_0 = NBS\omega$ の式から、起電力を大きくするための方法を4つ挙げ、それぞれの実用上の限界について簡潔に述べよ。
(1) $\omega = 2\pi \times 50 = 100\pi$ rad/s。$N = V_0/(BS\omega) = 200/(0.4 \times 0.01 \times 100\pi) = 200/(0.4\pi) \approx 159$ 巻。
(2) $N = 200/(0.8 \times 0.01 \times 100\pi) = 200/(0.8\pi) \approx 80$ 巻。磁場を2倍にすると巻数は半分でよい。
(3) (i) 巻数 $N$ を増やす:コイルが大きく重くなり、抵抗も増加する。(ii) 磁束密度 $B$ を強くする:永久磁石や電磁石の強さに限界がある。(iii) 面積 $S$ を大きくする:装置が大型化する。(iv) 角速度 $\omega$ を上げる:機械的摩擦や遠心力の問題、周波数が変わってしまう。
(1)(2) $V_0 = NBS\omega$ を $N$ について解く。$B$ を2倍にすると $N$ は $1/2$ になる。これは $V_0$ が $N$、$B$、$S$、$\omega$ の積であることから明らかである。
(3) $V_0 = NBS\omega$ の各因子を大きくすれば $V_0$ は大きくなる。ただし実際の発電機設計では、各因子には物理的・工学的な制約がある。特に $\omega$ を変えると周波数が変わるため、電力系統の周波数と合わせる必要がある場合は $\omega$ を自由に変えることはできない。