第18章 交流

交流の発生
─ 回転コイルの起電力をsin関数で表す

高校物理では、交流電圧 $V = V_0 \sin \omega t$ を公式として与え、発電機の仕組みを定性的に説明します。 「なぜ $\sin$ になるのか」については、直感的な説明に留まることが多いです。

大学物理では、磁場中で回転するコイルを貫く磁束 $\Phi(t)$ を具体的に書き下し、 ファラデーの法則 $V = -\dfrac{d\Phi}{dt}$ で微分することで、交流電圧の式を導出します。 交流の発生は電磁誘導の直接的な応用であり、$\sin$ が現れる理由も数式で明確に説明できます。

この記事では、回転コイルの磁束から出発して交流電圧の式を導き、 振幅・角振動数・周期・周波数といった交流の基本量の意味を整理します。

1高校での扱いを確認する

高校物理では、交流を次のように扱います。

  • 交流電圧は $V = V_0 \sin \omega t$ で表される(公式として与えられる)
  • 発電機は「磁場中でコイルを回転させると電圧が発生する」と定性的に説明される
  • コイルの面が磁場に平行なとき起電力が最大、垂直なとき起電力がゼロ、という対応関係を覚える
  • $V_0$ は最大電圧(振幅)、$\omega$ は角振動数と呼ばれる

この扱いで入試問題は解けます。しかし、いくつかの疑問が残ります。

  • なぜ $\sin$ 関数なのか。$\cos$ ではないのか、他の関数ではないのか
  • $V_0 = NBS\omega$ がどこから来るのか。$V_0$ の具体的な式を導出する過程は省略されている
  • 電磁誘導との関係が見えにくい。ファラデーの法則を学んだはずだが、交流の式とどう結びつくかが曖昧

大学物理では、これらの疑問に対して、電磁誘導の法則から直接的に答えを与えます。

2大学の視点で何が変わるのか

大学物理の視点を加えると、交流の理解は次のように変わります。

高校 vs 大学:交流の発生
高校:$V = V_0 \sin \omega t$ を公式として覚える
「なぜsinか」は説明されない。
大学:磁束を微分して $\sin$ を導出する
$\Phi = NBS\cos\omega t$ をファラデーの法則で微分すると $V = NBS\omega \sin\omega t$ が出る。
$\sin$ が現れる理由は $\cos$ の微分が $\sin$ だから。
高校:$V_0$ の式は天下り
$V_0 = NBS\omega$ を覚える。
大学:$V_0 = NBS\omega$ を導出できる
磁束の時間変化率として自然に出てくる。
高校:発電機と電磁誘導が別の話に見える
単元が分かれていて、つながりが曖昧。
大学:交流の発生 = 電磁誘導の直接応用
ファラデーの法則1つで説明が完結する。
この記事で得られること

交流電圧の式を自分で導出できるようになる。 回転コイルの磁束をファラデーの法則で微分するだけで、$V = V_0 \sin \omega t$ が得られます。 公式を忘れても、導出の手順さえ覚えていれば再現できます。

$\sin$ が現れる理由を説明できるようになる。 磁束が $\cos\omega t$ に比例し、その微分(時間変化率)が $\sin\omega t$ に比例するためです。 数学的な必然であり、物理的に「たまたま $\sin$」なのではありません。

電磁誘導と交流が一本の線でつながる。 交流発電は、ファラデーの法則の具体的な応用例にすぎません。 別々に暗記していた知識が統合されます。

3回転コイルの磁束

一様な磁場 $\mathbf{B}$(磁束密度 $B$)の中で、面積 $S$ の長方形コイル(巻数 $N$)が 角速度 $\omega$ で回転している状況を考えます。

コイルの面の法線ベクトルと磁場のなす角を $\theta$ とします。 コイルが等速回転しているので、$\theta = \omega t$($t = 0$ で法線と磁場が平行とする)です。

磁束の計算

1巻あたりの磁束は、コイルの面を貫く磁束として次のように表されます。

$$\Phi_1 = BS\cos\theta = BS\cos(\omega t)$$

$\cos\theta$ が現れるのは、コイルの面の法線と磁場のなす角が $\theta$ であるためです。 法線と磁場が平行($\theta = 0$)のとき磁束は最大 $BS$、 垂直($\theta = \pi/2$)のとき磁束はゼロになります。

$N$ 巻のコイル全体の磁束は次のようになります。

回転コイルの磁束

$$\Phi(t) = NBS\cos(\omega t)$$

$N$:コイルの巻数、$B$:磁束密度、$S$:コイルの面積、$\omega$:角速度。 $t = 0$ でコイル面の法線が磁場と平行になるように時刻の原点を取っている。

磁束が $\cos(\omega t)$ に比例することが、交流電圧に $\sin$ が現れる直接の原因です。 次のセクションで、これをファラデーの法則で微分します。

落とし穴:$\cos$ と $\sin$ の取り違え

誤:「磁束が $\sin\omega t$ だから電圧も $\sin\omega t$」

正:磁束は $\cos\omega t$、起電力はその微分なので $\sin\omega t$ です。 磁束と起電力では位相が $\pi/2$(90度)ずれています。 磁束が最大の瞬間に起電力はゼロ、磁束がゼロの瞬間に起電力が最大です。

4起電力の導出 ─ ファラデーの法則を適用する

ファラデーの電磁誘導の法則は、コイルに生じる起電力 $V$ が磁束の時間変化率に等しいことを述べます。

ファラデーの法則

$$V = -\frac{d\Phi}{dt}$$

起電力は磁束の時間微分の符号を反転させたもの。 負号はレンツの法則(磁束の変化を妨げる向きに起電力が生じる)に対応。

セクション3で求めた $\Phi(t) = NBS\cos(\omega t)$ を時間で微分します。

導出:交流起電力

$\Phi(t) = NBS\cos(\omega t)$

$\cos(\omega t)$ の $t$ による微分は $-\omega\sin(\omega t)$ なので、

$$\frac{d\Phi}{dt} = NBS \cdot (-\omega\sin(\omega t)) = -NBS\omega\sin(\omega t)$$

ファラデーの法則 $V = -\dfrac{d\Phi}{dt}$ に代入すると、

$$V = -(-NBS\omega\sin(\omega t)) = NBS\omega\sin(\omega t)$$

$NBS\omega$ を $V_0$ と置けば、高校で学んだ交流電圧の式が得られます。

交流起電力

$$V(t) = V_0 \sin(\omega t), \qquad V_0 = NBS\omega$$

$V_0$:起電力の最大値(振幅)。コイルの巻数 $N$、磁束密度 $B$、面積 $S$、角速度 $\omega$ の積で決まる。
$\sin$ が現れる理由

磁束 $\Phi$ が $\cos\omega t$ に比例するとき、その時間微分は $\sin\omega t$ に比例します。 これは $\cos$ の微分が $-\sin$ であるという数学的事実に由来します。

つまり、交流電圧が $\sin$ 関数になるのは、 回転コイルを貫く磁束が $\cos$ 関数で変化し、 起電力がその時間変化率(微分)であるためです。 物理法則と数学が直結しています。

時刻の原点を変えると $\cos$ にもなる

$t = 0$ でコイル面が磁場に垂直(磁束がゼロ)と取れば、 $\Phi = NBS\sin(\omega t)$、$V = NBS\omega\cos(\omega t)$ となり、 起電力は $\cos$ で表されます。

$\sin$ か $\cos$ かは時刻の原点の取り方(初期位相)の違いにすぎず、 物理的に本質的な違いはありません。

5交流の基本量 ─ 振幅・角振動数・周期・周波数

交流を特徴づける基本的な量を整理します。

記号 定義・関係式 意味
振幅 $V_0$ $V_0 = NBS\omega$ 電圧の最大値
角振動数 $\omega$ $\omega = 2\pi f = \dfrac{2\pi}{T}$ 1秒あたりの回転角(rad/s)
周期 $T$ $T = \dfrac{2\pi}{\omega} = \dfrac{1}{f}$ 1回の振動にかかる時間(s)
周波数 $f$ $f = \dfrac{\omega}{2\pi} = \dfrac{1}{T}$ 1秒あたりの振動回数(Hz)

日本の家庭用電源は $f = 50$ Hz(東日本)または $f = 60$ Hz(西日本)です。 $f = 50$ Hz の場合、$\omega = 2\pi \times 50 = 100\pi \approx 314$ rad/s であり、 コイルは1秒間に50回転しています。

振幅 $V_0$ は $NBS\omega$ に比例するので、 巻数を増やす、磁場を強くする、コイルの面積を大きくする、回転を速くする ── いずれの方法でも起電力を大きくできます。 実際の発電機では、これらのパラメータを最適化して所望の電圧を得ています。

$V_0$ に $\omega$ が含まれる理由

$V_0 = NBS\omega$ に角速度 $\omega$ が含まれるのは、 起電力が磁束の時間変化率に比例するためです。

コイルが速く回転すれば磁束の変化も速くなるので、起電力も大きくなります。 これはファラデーの法則の直接的な帰結です。 「回転が速い → 起電力が大きい」は直感的にも納得できますが、 数式はそれが $\omega$ に正比例することまで教えてくれます。

6つながりマップ

交流の発生は電磁誘導の応用であり、以降の交流回路の議論の出発点です。

  • ← E-17-1 ファラデーの電磁誘導の法則:$V = -d\Phi/dt$ はこの記事の出発点。磁束の時間変化が起電力を生むという法則を、回転コイルに適用した。
  • ← E-17-4 相互誘導と変圧器:変圧器は交流電圧を変換する装置であり、交流の発生を理解した上で学ぶと全体像が明確になる。
  • → E-18-2 RLC回路と共振:この記事で導いた交流電源 $V = V_0\sin\omega t$ を、抵抗・コイル・コンデンサーからなる回路に接続したときの振る舞いを解析する。
  • → E-18-3 交流の実効値と電力:交流の振幅 $V_0$ と、実用上重要な実効値 $V_{\text{rms}} = V_0/\sqrt{2}$ の関係を導出する。

📋まとめ

  • 一様な磁場中で回転するコイルの磁束は $\Phi(t) = NBS\cos(\omega t)$ と表される
  • ファラデーの法則 $V = -d\Phi/dt$ を適用すると、$V = NBS\omega\sin(\omega t)$ が導かれる
  • 交流電圧が $\sin$ 関数になる理由は、$\cos$ の微分が $-\sin$ であるという数学的な必然である
  • 振幅 $V_0 = NBS\omega$ は、巻数・磁束密度・面積・角速度の積であり、ファラデーの法則から自然に導かれる
  • 交流の発生は電磁誘導の直接応用であり、別個に暗記する必要はない

確認テスト

Q1. 磁場中で回転するコイルの磁束が $\Phi = NBS\cos(\omega t)$ のとき、起電力 $V$ を求めてください。

▶ クリックして解答を表示$V = -\dfrac{d\Phi}{dt} = NBS\omega\sin(\omega t)$。$\cos(\omega t)$ の微分は $-\omega\sin(\omega t)$ なので、負号と合わせて $+\sin$ になる。

Q2. 交流電圧の振幅 $V_0 = NBS\omega$ に角速度 $\omega$ が含まれるのはなぜですか。

▶ クリックして解答を表示起電力は磁束の時間変化率(微分)に比例するため。コイルの回転が速いほど磁束の変化も速くなり、起電力が大きくなる。$\omega$ は微分の際に $\cos\omega t$ の前に出てくる。

Q3. 磁束が最大のとき、起電力はいくらですか。その理由も述べてください。

▶ クリックして解答を表示起電力はゼロ。磁束が最大ということは $\cos\omega t = 1$ であり、このとき $\sin\omega t = 0$ なので起電力は $V = V_0 \times 0 = 0$。磁束が極大値にあるとき、瞬間的な変化率はゼロだから。

Q4. 周波数 $f = 60$ Hz の交流の角振動数 $\omega$ と周期 $T$ を求めてください。

▶ クリックして解答を表示$\omega = 2\pi f = 120\pi \approx 377$ rad/s。$T = 1/f = 1/60 \approx 0.0167$ s。

9演習問題

回転コイルの起電力と交流の基本量を、問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

18-1-1 A 基礎 起電力の計算

巻数 $N = 100$、面積 $S = 0.02$ m$^2$ の長方形コイルが、磁束密度 $B = 0.5$ T の一様な磁場中で角速度 $\omega = 100\pi$ rad/s で回転している。次の問いに答えよ。

(1) 起電力の最大値 $V_0$ を求めよ。

(2) コイルの回転の周波数 $f$ と周期 $T$ を求めよ。

(3) 起電力を時間の関数 $V(t)$ として表せ。

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解答

(1) $V_0 = NBS\omega = 100 \times 0.5 \times 0.02 \times 100\pi = 100\pi \approx 314$ V

(2) $f = \omega/(2\pi) = 50$ Hz、$T = 1/f = 0.02$ s

(3) $V(t) = 100\pi\sin(100\pi t)$ V

解説

(1) $V_0 = NBS\omega$ に各値を代入する。単位を確認すると、$\text{T} \cdot \text{m}^2 \cdot \text{rad/s} = \text{Wb/s} = \text{V}$。

(2) $\omega = 2\pi f$ から $f = 50$ Hz。$T = 1/f = 0.02$ s(20 ms)。日本の東日本の電源周波数に一致。

(3) $V(t) = V_0\sin(\omega t)$ に代入すればよい。

B 発展レベル

18-1-2 B 発展 磁束と起電力の関係 論述

回転コイルにおいて、コイル面の法線が磁場と平行な瞬間($\theta = 0$)と、垂直な瞬間($\theta = \pi/2$)について、次の問いに答えよ。

(1) それぞれの瞬間における磁束 $\Phi$ と起電力 $V$ の値を、$NBS$ と $NBS\omega$ を用いて答えよ。

(2) 磁束が最大のときに起電力がゼロになる理由を、「時間変化率」という言葉を使って説明せよ。

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解答

(1) $\theta = 0$:$\Phi = NBS$(最大)、$V = 0$。$\theta = \pi/2$:$\Phi = 0$、$V = NBS\omega$(最大)。

(2) 起電力は磁束の時間変化率 $V = -d\Phi/dt$ に等しい。磁束が最大値をとる瞬間では、磁束は極値にあり瞬間的な時間変化率がゼロであるため、起電力もゼロになる。

解説

(1) $\Phi = NBS\cos\theta$、$V = NBS\omega\sin\theta$ に $\theta = 0$ と $\theta = \pi/2$ を代入する。$\cos 0 = 1, \sin 0 = 0$。$\cos(\pi/2) = 0, \sin(\pi/2) = 1$。

(2) 関数が極大または極小をとる点では、微分値(接線の傾き)がゼロになる。磁束が最大ということは、その瞬間は磁束がちょうど増加から減少に転じる点であり、変化率は一瞬ゼロを通過する。起電力は変化率そのものなので、ゼロになる。

採点ポイント
  • $\Phi$ と $V$ の値を正しく計算(各2点)
  • 「磁束が極値のとき微分がゼロ」を述べる(3点)
  • 「起電力 = 磁束の時間変化率」を明記(2点)

C 応用レベル

18-1-3 C 応用 設計問題 ファラデーの法則

ある発電機で、起電力の最大値を $V_0 = 200$ V、周波数を $f = 50$ Hz にしたい。磁束密度 $B = 0.4$ T の磁場中で、面積 $S = 0.01$ m$^2$ のコイルを使用する。次の問いに答えよ。

(1) 必要なコイルの巻数 $N$ を求めよ。

(2) 磁束密度を $B = 0.8$ T に変更した場合、同じ $V_0$ を得るために必要な巻数はいくつか。

(3) $V_0 = NBS\omega$ の式から、起電力を大きくするための方法を4つ挙げ、それぞれの実用上の限界について簡潔に述べよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $\omega = 2\pi \times 50 = 100\pi$ rad/s。$N = V_0/(BS\omega) = 200/(0.4 \times 0.01 \times 100\pi) = 200/(0.4\pi) \approx 159$ 巻。

(2) $N = 200/(0.8 \times 0.01 \times 100\pi) = 200/(0.8\pi) \approx 80$ 巻。磁場を2倍にすると巻数は半分でよい。

(3) (i) 巻数 $N$ を増やす:コイルが大きく重くなり、抵抗も増加する。(ii) 磁束密度 $B$ を強くする:永久磁石や電磁石の強さに限界がある。(iii) 面積 $S$ を大きくする:装置が大型化する。(iv) 角速度 $\omega$ を上げる:機械的摩擦や遠心力の問題、周波数が変わってしまう。

解説

(1)(2) $V_0 = NBS\omega$ を $N$ について解く。$B$ を2倍にすると $N$ は $1/2$ になる。これは $V_0$ が $N$、$B$、$S$、$\omega$ の積であることから明らかである。

(3) $V_0 = NBS\omega$ の各因子を大きくすれば $V_0$ は大きくなる。ただし実際の発電機設計では、各因子には物理的・工学的な制約がある。特に $\omega$ を変えると周波数が変わるため、電力系統の周波数と合わせる必要がある場合は $\omega$ を自由に変えることはできない。

採点ポイント
  • $\omega$ を正しく計算(1点)
  • $N$ の計算(各2点)
  • 4つの方法を挙げる(各1点)
  • 実用上の限界を述べる(各1点)