高校物理では、コイルに電流を流すと電流変化を妨げる起電力 $V = -L\dfrac{dI}{dt}$ が生じることを学びます。
「コイルは電流の変化を嫌う」という直感的な理解で、入試問題には対応できます。
大学物理では、自己インダクタンス $L$ がコイルの幾何学的な量であることを理解し、
RL回路の電流変化を1階微分方程式として解きます。
その解は指数関数 $I(t) = \dfrac{E}{R}(1 - e^{-Rt/L})$ であり、時定数 $\tau = L/R$ で特徴づけられます。
RC回路の $\tau = RC$ との双対性も見えてきます。
この記事では、インダクタンスの定義からRL回路の解法、コイルのエネルギーまでを体系的に学びます。
高校物理では、自己誘導を次のように学びます。
この定性的な理解は入試でも有用です。 しかし「電流が時間とともに具体的にどう変化するか」「なぜ指数関数的に変化するのか」は高校の範囲では扱いません。
RL回路の電流を具体的に求められる。 微分方程式 $E = RI + LdI/dt$ を解くことで、スイッチ投入後の電流が指数関数的に増加する様子を定量的に記述できます。
インダクタンスの物理的意味が分かる。 $L$ はコイルの幾何学的性質(巻数、長さ、断面積)で決まる量であり、ソレノイドなら $L = \mu_0 n^2 lS$ と計算できます。
RC回路との双対性が見える。 RL回路の時定数 $\tau = L/R$ とRC回路の $\tau = RC$ が対応し、コイルとコンデンサーが「電気回路における慣性と弾性」の双対であることが分かります。
コイルに電流 $I$ を流すと、コイル自身が磁場を作り、その磁場がコイル自身を貫きます。 コイルを貫く磁束 $\Phi$ は電流 $I$ に比例します。
$$\Phi = LI$$
この関係をファラデーの法則に代入すると、自己誘導起電力が得られます。
$\Phi = LI$ の両辺を時間 $t$ で微分します。
$$\frac{d\Phi}{dt} = L\frac{dI}{dt}$$
ファラデーの法則 $\text{EMF} = -d\Phi/dt$ より、
$$V_L = -L\frac{dI}{dt}$$
これが高校でも使う自己誘導の起電力の式です。マイナス符号はレンツの法則を反映しており、電流の増加を妨げる向きに起電力が生じることを示します。
具体例として、長さ $l$、断面積 $S$、単位長さあたりの巻数 $n$ のソレノイド(長いコイル)のインダクタンスを求めます。
ソレノイド内部の磁場の大きさは $B = \mu_0 nI$ です(アンペールの法則より)。
1巻あたりの磁束は $\Phi_1 = BS = \mu_0 nIS$。
ソレノイドの全巻数は $N = nl$ なので、全磁束は
$$\Phi = N\Phi_1 = nl \cdot \mu_0 nIS = \mu_0 n^2 lSI$$
$\Phi = LI$ と比較すると、
$$L = \mu_0 n^2 lS$$
$$L = \mu_0 n^2 lS$$
この結果から、インダクタンスを大きくするには、巻数密度 $n$ を増やす、長さ $l$ を大きくする、断面積 $S$ を大きくする、のいずれかが有効であることが分かります。 また、コア(鉄心)を入れると $\mu_0$ が $\mu = \mu_0 \mu_r$ に置き換わり、$L$ が $\mu_r$ 倍に増加します。
抵抗 $R$ とインダクタンス $L$ のコイルを直列に接続し、起電力 $E$ の電池につないでスイッチを入れる場合を考えます。
キルヒホッフの電圧則より、
$$E = RI + L\frac{dI}{dt}$$
$E = RI + L\dfrac{dI}{dt}$ を変形します。
$$L\frac{dI}{dt} = E - RI$$
$$\frac{dI}{E - RI} = \frac{dt}{L}$$
両辺を積分します。
$$-\frac{1}{R}\ln|E - RI| = \frac{t}{L} + C$$
初期条件 $I(0) = 0$ より $C = -\dfrac{1}{R}\ln E$。
$$-\frac{1}{R}\ln\frac{E - RI}{E} = \frac{t}{L}$$
$$E - RI = E\,e^{-Rt/L}$$
$$\boxed{I(t) = \frac{E}{R}\left(1 - e^{-Rt/L}\right)}$$
この解の振る舞いを確認します。
高校では「スイッチを入れた直後は電流ゼロ、十分時間が経つと $E/R$」という定性的な理解にとどまります。
大学では微分方程式を解くことで、途中の時刻での電流の値も正確に求められます。 $t = \tau = L/R$ のとき $I = \frac{E}{R}(1 - e^{-1}) \approx 0.632 \frac{E}{R}$、つまり定常値の約63%に達します。
「なぜ指数関数的に変化するのか」も式から分かります。変化率 $dI/dt$ が「残りの差 $E/R - I$」に比例するため、差が大きいときは速く変化し、差が小さくなるにつれて変化が遅くなるのです。
$$\tau = \frac{L}{R}$$
RC回路の充電では、コンデンサーの電圧が $V(t) = E(1 - e^{-t/RC})$ と変化し、時定数は $\tau = RC$ でした。 RL回路との対応を見てみます。
コイル($L$)は電流の変化を妨げるという意味で「電気的な慣性」を持ちます。 コンデンサー($C$)は電荷(電圧)を蓄えるという意味で「電気的な弾性」を持ちます。
力学で質量 $m$(慣性)とばね定数 $k$(弾性)が対をなすように、 電気回路では $L$ と $C$ が対をなします。 両者を組み合わせた LC 回路は、力学のばね-質量系に対応する電気振動を生じます。
電流 $I$ が流れているコイルには、磁場のエネルギーが蓄えられています。
コイルに電流 $I$ を流すのに必要な仕事を計算します。
電源が自己誘導起電力に逆らって微小時間 $dt$ にする仕事は
$$dW = V_L \cdot I\,dt = LI\frac{dI}{dt}\,dt = LI\,dI$$
電流を $0$ から $I$ まで増やすのに必要な総仕事は
$$U = \int_0^I LI'\,dI' = \frac{1}{2}LI^2$$
$$U = \frac{1}{2}LI^2$$
このエネルギーはコイルの周囲の磁場に蓄えられています。 電流を切ると、蓄えられたエネルギーが放出されます。 これが、スイッチを切った瞬間にコイルから火花が出ることがある理由です。
誤:「コイルのエネルギーは $\frac{1}{2}CV^2$」
正:コイルのエネルギーは $\frac{1}{2}LI^2$(電流の2乗に比例)。 コンデンサーのエネルギーは $\frac{1}{2}CV^2$(電圧の2乗に比例)。 コイルは磁場にエネルギーを蓄え、コンデンサーは電場にエネルギーを蓄えます。
Q1. 自己インダクタンス $L$ の定義式を書き、$L$ がどのような量に依存するか述べてください。
Q2. RL回路でスイッチを入れた直後($t = 0$)と十分時間が経った後($t \to \infty$)の電流をそれぞれ求めてください。
Q3. RL回路の時定数 $\tau = L/R$ の物理的意味を説明してください。
Q4. コイルに蓄えられるエネルギー $U = \frac{1}{2}LI^2$ と、コンデンサーに蓄えられるエネルギー $U = \frac{1}{2}CV^2$ の対応関係を述べてください。
自己インダクタンスとRL回路に関する問題を解きましょう。
長さ $l = 0.2$ m、断面積 $S = 1.0 \times 10^{-3}$ m$^2$ のソレノイドの巻数が $N = 400$ である。次の問いに答えよ。$\mu_0 = 4\pi \times 10^{-7}$ H/m とする。
(1) 単位長さあたりの巻数 $n$ を求めよ。
(2) 自己インダクタンス $L$ を求めよ。
(3) このコイルに $2$ A の電流が流れているとき、蓄えられるエネルギーを求めよ。
(1) $n = N/l = 400/0.2 = 2000$ 回/m
(2) $L = \mu_0 n^2 lS = 4\pi \times 10^{-7} \times 2000^2 \times 0.2 \times 1.0 \times 10^{-3} \approx 1.0 \times 10^{-3}$ H $= 1.0$ mH
(3) $U = \frac{1}{2}LI^2 = \frac{1}{2} \times 1.0 \times 10^{-3} \times 2^2 = 2.0 \times 10^{-3}$ J $= 2.0$ mJ
(1) $n = 400 / 0.2 = 2000$ 回/m。
(2) $L = 4\pi \times 10^{-7} \times (2000)^2 \times 0.2 \times 10^{-3} = 4\pi \times 10^{-7} \times 4 \times 10^6 \times 2 \times 10^{-4} = 4\pi \times 10^{-7} \times 800 \approx 1.005 \times 10^{-3}$ H。
(3) $U = \frac{1}{2} \times 1.0 \times 10^{-3} \times 4 = 2.0 \times 10^{-3}$ J。
起電力 $E = 12$ V の電池、抵抗 $R = 4\,\Omega$、インダクタンス $L = 8$ mH のコイルが直列に接続されている。$t = 0$ でスイッチを入れる。次の問いに答えよ。
(1) 時定数 $\tau$ を求めよ。
(2) 定常電流を求めよ。
(3) $t = \tau$ における電流を求めよ。
(4) 定常状態でコイルに蓄えられるエネルギーを求めよ。
(1) $\tau = L/R = 8 \times 10^{-3} / 4 = 2 \times 10^{-3}$ s $= 2$ ms
(2) $I_\infty = E/R = 12/4 = 3$ A
(3) $I(\tau) = 3(1 - e^{-1}) = 3 \times 0.632 \approx 1.90$ A
(4) $U = \frac{1}{2}LI_\infty^2 = \frac{1}{2} \times 8 \times 10^{-3} \times 9 = 0.036$ J $= 36$ mJ
(1) $\tau = L/R = 0.008/4 = 0.002$ s。この時間で電流が定常値の63%に到達します。
(2) $t \to \infty$ では $dI/dt = 0$ なので $E = RI_\infty$、$I_\infty = 3$ A。
(3) $I(\tau) = \frac{E}{R}(1 - e^{-1}) \approx 3 \times 0.632 = 1.90$ A。
(4) 定常状態では $I = 3$ A。$U = \frac{1}{2} \times 0.008 \times 9 = 0.036$ J。
定常電流 $I_0 = E/R$ が流れているRL回路で、$t = 0$ に電池を短絡して取り除いた($E = 0$ とした)。回路方程式は $0 = RI + L\dfrac{dI}{dt}$ となる。次の問いに答えよ。
(1) この微分方程式を初期条件 $I(0) = I_0$ のもとで解け。
(2) コイルに蓄えられていたエネルギー $\frac{1}{2}LI_0^2$ は最終的にどうなるか、エネルギー保存の観点から説明せよ。
(3) RL回路の電流減衰とRC回路のコンデンサー放電の類似点を述べよ。
(1) $I(t) = I_0\,e^{-Rt/L}$
(2) コイルに蓄えられていた磁場のエネルギー $\frac{1}{2}LI_0^2$ は、抵抗 $R$ でジュール熱として消費される。$\int_0^\infty RI^2\,dt = \int_0^\infty RI_0^2 e^{-2Rt/L}\,dt = \frac{1}{2}LI_0^2$ となり、エネルギー保存が成り立つ。
(3) いずれも指数関数的に減衰し、時定数で特徴づけられる。RL回路は $I(t) = I_0 e^{-t/\tau}$($\tau = L/R$)、RC回路は $V(t) = V_0 e^{-t/\tau}$($\tau = RC$)。蓄えられたエネルギー(コイルは $\frac{1}{2}LI^2$、コンデンサーは $\frac{1}{2}CV^2$)が抵抗でジュール熱に変換される点も共通する。
(1) $RI + LdI/dt = 0$ より $dI/I = -(R/L)dt$。積分して $\ln I = -Rt/L + C$。$I(0) = I_0$ より $C = \ln I_0$。したがって $I(t) = I_0 e^{-Rt/L}$。
(2) $\int_0^\infty RI^2\,dt = RI_0^2 \int_0^\infty e^{-2Rt/L}\,dt = RI_0^2 \cdot \frac{L}{2R} = \frac{1}{2}LI_0^2$。抵抗で消費される全エネルギーは、初期にコイルに蓄えられていたエネルギーに等しくなります。
(3) 微分方程式の構造が同じ($\frac{dX}{dt} = -\frac{X}{\tau}$ の形)であるため、解も同じ指数減衰の形になります。これがRL回路とRC回路の双対性の数学的な根拠です。