高校物理では、磁場中で運動する荷電粒子に働く力を $F = qvB\sin\theta$ で学び、
力の方向はフレミングの左手の法則で判定します。
電場からの力 $F = qE$ と磁場からの力は別々に扱われ、統一的な視点は示されません。
大学物理では、電場と磁場から荷電粒子に働く力を1つの式にまとめます。
$\boldsymbol{F} = q(\boldsymbol{E} + \boldsymbol{v} \times \boldsymbol{B})$ ── これがローレンツ力です。
外積 $\boldsymbol{v} \times \boldsymbol{B}$ を使えば、力の方向と大きさが自動的に決まるため、
フレミングの法則を覚える必要がなくなります。
この記事では、ローレンツ力の完全な形を学び、
磁場中の荷電粒子の円運動、速度選別器、ホール効果といった応用を扱います。
高校物理では、磁場中の荷電粒子について次のように学びます。
これらの道具で入試問題は解けますが、次の点が課題として残ります。
フレミングの法則が不要になる。 外積 $\boldsymbol{v} \times \boldsymbol{B}$ を計算すれば、力の方向と大きさが自動的に決まります。 覚えるべきルールが減り、間違いも減ります。
電場と磁場を統一的に扱える。 $\boldsymbol{F} = q(\boldsymbol{E} + \boldsymbol{v} \times \boldsymbol{B})$ の1式で、 電場のみ、磁場のみ、電場と磁場の共存、すべてのケースに対応できます。
円運動の半径を導出できる。 ローレンツ力が向心力となる条件から $r = mv/(qB)$ を導出します。 この式は質量分析器やサイクロトロンの原理を理解する基礎になります。
電荷 $q$ の粒子が電場 $\boldsymbol{E}$ と磁場 $\boldsymbol{B}$ の中を速度 $\boldsymbol{v}$ で運動するとき、 粒子に働く力は次の1式で表されます。
$$\boldsymbol{F} = q(\boldsymbol{E} + \boldsymbol{v} \times \boldsymbol{B})$$
| 性質 | 電場の力 $q\boldsymbol{E}$ | 磁場の力 $q\boldsymbol{v} \times \boldsymbol{B}$ |
|---|---|---|
| 速度依存性 | 速度によらない | 速度に比例する |
| 静止電荷への作用 | 力を及ぼす | 力を及ぼさない |
| 力の方向 | $\boldsymbol{E}$ の方向($q > 0$) | $\boldsymbol{v}$ と $\boldsymbol{B}$ の両方に垂直 |
| 仕事 | する(加速・減速が可能) | しない(速さは変えない) |
外積 $\boldsymbol{v} \times \boldsymbol{B}$ の計算規則は次の通りです。
大きさ: $|\boldsymbol{v} \times \boldsymbol{B}| = vB\sin\theta$($\theta$ は $\boldsymbol{v}$ と $\boldsymbol{B}$ のなす角)
方向: $\boldsymbol{v}$ から $\boldsymbol{B}$ へ右ネジを回したときにネジが進む方向
高校の $F = qvB\sin\theta$ は外積の大きさそのものであり、 フレミングの法則は外積の方向を指で表現したものです。 外積の計算規則を1つ覚えれば、公式(大きさ)も方向もすべて出てきます。
間違いやすい点:フレミングの法則を使うとき、電子($q < 0$)では電流の向きを逆にしてから考える必要があり、混乱しやすい
ローレンツ力なら:$\boldsymbol{F} = q(\boldsymbol{E} + \boldsymbol{v} \times \boldsymbol{B})$ に $q < 0$ を代入するだけです。 外積 $\boldsymbol{v} \times \boldsymbol{B}$ を計算してから、$q$ の符号で力の向きが反転します。 機械的に処理でき、符号の取り扱いに悩む必要がありません。
磁場 $\boldsymbol{B}$ に垂直に速度 $\boldsymbol{v}$ で入射した荷電粒子の運動を考えます。
E-16-1で確認したように、磁場からの力 $q\boldsymbol{v} \times \boldsymbol{B}$ は常に速度に垂直です。 これは次の2つのことを意味します。
よって、粒子は等速円運動を行います。
$\boldsymbol{v} \perp \boldsymbol{B}$ のとき、磁場からの力の大きさは $F = qvB$ です。
等速円運動の運動方程式は、向心力 = 磁場の力 より、
$$\frac{mv^2}{r} = qvB$$
$v$ で割ると、
$$r = \frac{mv}{qB}$$
$$r = \frac{mv}{qB}$$
円運動の周期 $T$ も求めてみましょう。
$$T = \frac{2\pi r}{v} = \frac{2\pi m}{qB}$$
注目すべきことに、周期 $T$ は粒子の速さ $v$ に依存しません。 速い粒子は大きな円を描きますが、1周にかかる時間は同じです。 この性質がサイクロトロン(粒子加速器)の動作原理になっています。
サイクロトロンは、磁場中で荷電粒子を円運動させながら、 半周ごとに電場で加速する装置です。 粒子が加速されて速くなると半径は大きくなりますが、 周期は変わらない($T = 2\pi m/(qB)$)ため、 一定の周波数の交流電場で加速し続けることができます。
ただし、粒子の速度が光速に近づくと相対論的効果で質量 $m$ が増加し、 周期が変わるため、この単純な原理では動作しなくなります。 そこで磁場を調整するシンクロトロンが使われます。
ローレンツ力 $\boldsymbol{F} = q(\boldsymbol{E} + \boldsymbol{v} \times \boldsymbol{B})$ の最大の利点は、 電場と磁場が同時に存在する場面を統一的に扱えることです。 その代表的な応用を2つ紹介します。
電場 $\boldsymbol{E}$ と磁場 $\boldsymbol{B}$ を直交させ、荷電粒子を通過させます。 電場からの力 $q\boldsymbol{E}$ と磁場からの力 $q\boldsymbol{v} \times \boldsymbol{B}$ がつりあう条件は、
$$qE = qvB \quad \Rightarrow \quad v = \frac{E}{B}$$
速さ $v = E/B$ の粒子だけが直進し、それ以外の速さの粒子は曲がって除去されます。 この装置を速度選別器(ベロシティセレクター)と呼びます。
注目すべき点は、つりあい条件 $v = E/B$ が電荷 $q$ や質量 $m$ に依存しないことです。 電荷や質量に関係なく、特定の速さの粒子だけを選別できます。
導体に電流を流しながら、電流と垂直に磁場をかけると、 電流と磁場の両方に垂直な方向に電圧(ホール電圧)が生じます。 これがホール効果です。
ローレンツ力の視点で考えると、導体中の電荷キャリア(電子)が速度 $\boldsymbol{v}$ で移動しているとき、 磁場 $\boldsymbol{B}$ から力 $q\boldsymbol{v} \times \boldsymbol{B}$ を受けて導体の一方の面に偏ります。 この電荷の偏りが電場を生み、最終的に電場の力と磁場の力がつりあいます。
定常状態では、ホール電場 $E_H$ と磁場の力がつりあいます。
$$eE_H = ev_d B$$
ここで $v_d$ はドリフト速度です。電流密度 $J = nev_d$($n$: キャリア密度)を使うと、
$$E_H = v_d B = \frac{JB}{ne} = \frac{IB}{ned}$$
$d$ は導体の厚さです。ホール電圧 $V_H = E_H w$($w$: 導体の幅)は、
$$V_H = \frac{IB}{ned}$$
ホール効果は、キャリアの符号と密度を実験的に測定する手段として重要です。 ホール電圧の符号から、キャリアが正電荷(正孔)か負電荷(電子)かが分かります。 また、ホール電圧の大きさからキャリア密度 $n$ を求められます。
実用的には、ホール素子として磁場センサーに使われています。
Q1. ローレンツ力を1つの式で書いてください。電場の項と磁場の項それぞれの性質の違いを1つ挙げてください。
Q2. 磁場に垂直に入射した荷電粒子の円運動の半径と周期を書いてください。周期が速さに依存しない理由を述べてください。
Q3. 速度選別器で直進する粒子の速さの条件を示してください。この条件が電荷に依存しない理由も述べてください。
Q4. ホール効果とは何ですか。ローレンツ力の視点で簡潔に説明してください。
ローレンツ力と磁場中の荷電粒子の運動に関する理解を確認しましょう。
質量 $m = 9.1 \times 10^{-31}\,\text{kg}$、電荷 $q = 1.6 \times 10^{-19}\,\text{C}$ の電子が、磁束密度 $B = 0.010\,\text{T}$ の一様磁場に垂直に速さ $v = 1.0 \times 10^7\,\text{m/s}$ で入射した。
(1) 電子の円運動の半径を求めよ。
(2) 円運動の周期を求めよ。
(1) $r = 5.7 \times 10^{-3}\,\text{m} \approx 5.7\,\text{mm}$
(2) $T = 3.6 \times 10^{-9}\,\text{s} \approx 3.6\,\text{ns}$
(1) $r = \dfrac{mv}{qB} = \dfrac{9.1 \times 10^{-31} \times 1.0 \times 10^7}{1.6 \times 10^{-19} \times 0.010} = 5.7 \times 10^{-3}\,\text{m}$
(2) $T = \dfrac{2\pi m}{qB} = \dfrac{2\pi \times 9.1 \times 10^{-31}}{1.6 \times 10^{-19} \times 0.010} = 3.6 \times 10^{-9}\,\text{s}$
速度選別器において、電場 $E = 1.0 \times 10^5\,\text{V/m}$ と磁場 $B = 0.50\,\text{T}$ が直交して配置されている。
(1) 直進する粒子の速さを求めよ。
(2) 直進条件が粒子の質量や電荷に依存しない理由を、ローレンツ力の式から説明せよ。
(3) 速度選別器を通過した粒子が、磁場のみの領域に入ると円運動をする。この半径から粒子の比電荷 $q/m$ を求める方法を述べよ。
(1) $v = 2.0 \times 10^5\,\text{m/s}$
(2)(3) 下記解説参照
(1) $v = E/B = 1.0 \times 10^5 / 0.50 = 2.0 \times 10^5\,\text{m/s}$
(2) ローレンツ力のつりあい条件は $qE = qvB$。両辺に $q$ が共通因子として現れるので $q$ で割ると $E = vB$ すなわち $v = E/B$。$q$ も $m$ も消えるため、あらゆる荷電粒子に対して同じ速さの条件が成り立つ。
(3) 円運動の半径 $r = mv/(qB')$ より $q/m = v/(rB')$。速度選別器で速さ $v$ は既知なので、磁場のみの領域での磁場 $B'$ と半径 $r$ を測定すれば比電荷 $q/m$ が求まる。これが質量分析器の原理。
幅 $w = 1.0\,\text{cm}$、厚さ $d = 0.10\,\text{mm}$ の銅板に $I = 10\,\text{A}$ の電流を流し、電流と垂直に磁場 $B = 1.0\,\text{T}$ をかけた。銅の自由電子密度は $n = 8.5 \times 10^{28}\,\text{m}^{-3}$、電子の電荷は $e = 1.6 \times 10^{-19}\,\text{C}$ とする。
(1) 電子のドリフト速度 $v_d$ を求めよ。
(2) ホール電圧 $V_H$ を求めよ。
(3) ホール効果から電荷キャリアの符号を決定できる原理を、ローレンツ力を用いて説明せよ。
(1) $v_d = 7.4 \times 10^{-4}\,\text{m/s}$
(2) $V_H = 7.4 \times 10^{-6}\,\text{V} \approx 7.4\,\mu\text{V}$
(3) 下記解説参照
(1) $I = nev_d A$($A = wd$: 断面積)より、$v_d = \dfrac{I}{newd} = \dfrac{10}{8.5 \times 10^{28} \times 1.6 \times 10^{-19} \times 0.010 \times 1.0 \times 10^{-4}} = 7.4 \times 10^{-4}\,\text{m/s}$
(2) $V_H = \dfrac{IB}{ned} = \dfrac{10 \times 1.0}{8.5 \times 10^{28} \times 1.6 \times 10^{-19} \times 1.0 \times 10^{-4}} = 7.4 \times 10^{-6}\,\text{V}$
(3) 正電荷キャリアが速度 $\boldsymbol{v}$ で移動する場合と、負電荷キャリアが速度 $-\boldsymbol{v}$ で移動する場合では、電流 $I$ の方向は同じだが、ローレンツ力 $q\boldsymbol{v} \times \boldsymbol{B}$ の方向が異なる。正キャリアなら $q > 0, \boldsymbol{v}$ の方向で力が決まり、負キャリアなら $q < 0, -\boldsymbol{v}$ の方向で力が決まる。結果として、キャリアが偏る面が正負で逆になり、ホール電圧の符号が反転する。この符号を測定することでキャリアの正負を判定できる。