第15章 電流と回路

直流回路の解析

高校物理では、直列・並列の合成抵抗の公式やブリッジ回路の平衡条件をパターンとして学びます。 これらは入試で頻出であり、使いこなせることは重要です。

大学物理では、これらの公式がすべてキルヒホッフの法則の帰結として導出できることを理解します。 パターンを暗記する代わりに、キルヒホッフの法則という1つの原理から全てを導けるようになります。

この記事では、合成抵抗の公式をキルヒホッフの法則から導出し、 ホイートストンブリッジの平衡条件を導き、 電池の内部抵抗を含む回路の最大電力条件を扱います。

1高校での扱いを確認する

高校物理では、直流回路の問題を解くために次の公式を学びます。

  • 直列合成抵抗:$R = R_1 + R_2$
  • 並列合成抵抗:$\dfrac{1}{R} = \dfrac{1}{R_1} + \dfrac{1}{R_2}$
  • ホイートストンブリッジ:平衡条件 $R_1 R_4 = R_2 R_3$(検流計の電流がゼロ)
  • 内部抵抗:$V = \mathcal{E} - rI$($r$:内部抵抗)

高校の扱いの特徴を整理します。

  • 公式を覚えて回路の形に合わせて適用する。直列か並列かを見分け、対応する公式を使う
  • ブリッジ回路は特殊な形として認識する。平衡条件は暗記事項
  • 回路のパターンが変わると対処しにくい。直列でも並列でもない回路が出ると手が止まる

2大学の視点で何が変わるか

高校 vs 大学:回路の解析
高校:公式を暗記して適用
直列 $R = R_1 + R_2$
並列 $1/R = 1/R_1 + 1/R_2$
パターン認識が必要。
大学:キルヒホッフの法則から導出
KCL + KVL + オームの法則で全て導ける
原理は1つ。パターン暗記が不要。
高校:ブリッジ回路は特殊パターン
平衡条件 $R_1R_4 = R_2R_3$ を暗記。
大学:キルヒホッフの法則で導出
なぜ $R_1R_4 = R_2R_3$ になるかが分かる。
この記事で得られること

合成抵抗を「導出」できるようになる。 直列・並列の公式を暗記する代わりに、キルヒホッフの法則から導けるようになります。 忘れても導き直せます。

ブリッジ回路の平衡条件を導出できる。 パターンではなく、物理的に「なぜ検流計に電流が流れないか」を理解できます。

最大電力の条件を理解できる。 内部抵抗を持つ電池から外部抵抗に最大の電力を供給する条件を導出します。

3合成抵抗の導出

直列接続

抵抗 $R_1$ と $R_2$ が直列に接続されている場合を考えます。 両方の抵抗に同じ電流 $I$ が流れます。

導出:直列合成抵抗

KVL より、閉ループを一周すると:

$$V = V_1 + V_2 = IR_1 + IR_2 = I(R_1 + R_2)$$

合成抵抗 $R$ を $V = IR$ で定義すると:

$$R = R_1 + R_2$$

並列接続

抵抗 $R_1$ と $R_2$ が並列に接続されている場合を考えます。 両方の抵抗にかかる電圧は同じ $V$ です。

導出:並列合成抵抗

各枝の電流は(オームの法則より):$I_1 = V/R_1$、$I_2 = V/R_2$

KCL より:$I = I_1 + I_2 = \dfrac{V}{R_1} + \dfrac{V}{R_2} = V\left(\dfrac{1}{R_1} + \dfrac{1}{R_2}\right)$

合成抵抗 $R$ を $I = V/R$ で定義すると:

$$\frac{1}{R} = \frac{1}{R_1} + \frac{1}{R_2}$$

公式を「導出できる」ことの意味

直列で「電圧が足し算」、並列で「電流が足し算」── この違いは、 KVL と KCL のどちらを使うかの違いに過ぎません。

暗記すべき公式の数がゼロになるわけではありませんが、 忘れたときに自分で導き直せるのは大きな強みです。 入試本番で緊張して公式が出てこなくても、キルヒホッフの法則さえ覚えていれば大丈夫です。

4ホイートストンブリッジ

ホイートストンブリッジは、未知の抵抗を精密に測定するための回路です。 4つの抵抗 $R_1$, $R_2$, $R_3$, $R_4$ がひし形に配置され、 対角線に検流計がつながっています。

平衡条件の導出

導出:ブリッジの平衡条件

検流計に電流が流れない(平衡状態)とき、検流計の両端の電位は等しくなります。

点Bと点Dの電位が等しいとすると:

$R_1$ と $R_2$ を流れる電流は同じ $I_1$(検流計に電流が流れないため):
$V_B = V_A - I_1 R_1$

$R_3$ と $R_4$ を流れる電流は同じ $I_2$:
$V_D = V_A - I_2 R_3$

$V_B = V_D$ より:$I_1 R_1 = I_2 R_3$ …(1)

同様に:$I_1 R_2 = I_2 R_4$ …(2)

(1) を (2) で割ると:

$$\frac{R_1}{R_2} = \frac{R_3}{R_4}$$

すなわち:

$$R_1 R_4 = R_2 R_3$$

ホイートストンブリッジの平衡条件

$$R_1 R_4 = R_2 R_3$$

対角に位置する抵抗の積が等しいとき、検流計に電流が流れない(平衡状態)。 $R_1, R_2, R_3$ が既知ならば、$R_4 = R_2 R_3 / R_1$ として未知抵抗を求められる。
落とし穴:ブリッジが平衡でないとき

誤解:「ブリッジ回路には必ず $R_1 R_4 = R_2 R_3$ が成り立つ」

実際:平衡条件はブリッジが平衡のとき(検流計の電流がゼロ)にのみ成り立つ。 平衡でなければ検流計に電流が流れ、キルヒホッフの法則で5元連立方程式を解く必要がある。

5電池の内部抵抗と最大電力

実際の電池は理想的な起電力源ではなく、内部に抵抗(内部抵抗 $r$)を持ちます。

内部抵抗を持つ電池の端子電圧

$$V = \mathcal{E} - rI$$

$\mathcal{E}$:起電力、$r$:内部抵抗、$I$:電流。 電流が流れるほど端子電圧は低下する。開放時($I = 0$)は $V = \mathcal{E}$。

外部抵抗への供給電力

起電力 $\mathcal{E}$、内部抵抗 $r$ の電池に外部抵抗 $R$ を接続した場合、 回路の電流は $I = \mathcal{E} / (R + r)$ です。 外部抵抗 $R$ で消費される電力 $P$ は:

$$P = I^2 R = \frac{\mathcal{E}^2 R}{(R + r)^2}$$

最大電力の条件

導出:最大電力の条件

$P$ を $R$ の関数と見て、$dP/dR = 0$ とします。

$$\frac{dP}{dR} = \mathcal{E}^2 \cdot \frac{(R+r)^2 - R \cdot 2(R+r)}{(R+r)^4} = \mathcal{E}^2 \cdot \frac{r - R}{(R+r)^3}$$

$dP/dR = 0$ とすると $r - R = 0$、すなわち:

$$R = r$$

このとき最大電力は:

$$P_{\max} = \frac{\mathcal{E}^2}{4r}$$

最大電力供給の条件

$$R = r \quad \text{のとき} \quad P_{\max} = \frac{\mathcal{E}^2}{4r}$$

外部抵抗が内部抵抗に等しいとき、外部抵抗に供給される電力は最大になる。 このとき電力の半分は内部抵抗で消費される。
インピーダンスマッチング

$R = r$ で最大電力が得られるという結果は、工学でインピーダンスマッチングと呼ばれる一般原理の特殊な場合です。

オーディオ機器やアンテナ回路など、信号源から負荷に最大の電力を伝えるためには、 信号源のインピーダンスと負荷のインピーダンスを一致させます。 直流回路での $R = r$ は、その最も単純なケースです。

6つながりマップ

  • → E-15-2 キルヒホッフの法則:この記事のすべての導出の基盤。KCL と KVL から合成抵抗もブリッジの平衡条件も導ける。
  • → E-15-4 RC回路の過渡現象:定常状態を超えて、時間変化する回路へ。キルヒホッフの法則に微分方程式が加わる。
  • → E-15-1 オームの法則:回路解析で使う $V = IR$ の微視的な起源。抵抗の本質が電子の散乱にあることを理解する。
  • → E-18-1 交流回路:直流回路の概念を交流に拡張する。インピーダンスマッチングの一般論に発展する。

📋まとめ

  • 直列合成抵抗 $R = R_1 + R_2$ は KVL から、並列合成抵抗 $1/R = 1/R_1 + 1/R_2$ は KCL から導出できる
  • ホイートストンブリッジの平衡条件 $R_1 R_4 = R_2 R_3$ は、検流計の電流が0のとき対角ノードの電位が等しいことから導かれる
  • 内部抵抗 $r$ を持つ電池の端子電圧は $V = \mathcal{E} - rI$ であり、電流が流れるほど低下する
  • 外部抵抗に最大電力を供給する条件は $R = r$ であり、最大電力は $\mathcal{E}^2 / (4r)$
  • 合成抵抗の公式はキルヒホッフの法則の帰結であり、独立に暗記する必要はない

確認テスト

Q1. 直列合成抵抗 $R = R_1 + R_2$ はキルヒホッフのどの法則から導かれますか。

▶ クリックして解答を表示第2法則(KVL)。直列接続では同じ電流が流れ、電圧降下の和が全体の電圧に等しい。$V = IR_1 + IR_2 = I(R_1 + R_2)$ より導かれる。

Q2. 並列合成抵抗の公式はキルヒホッフのどの法則から導かれますか。

▶ クリックして解答を表示第1法則(KCL)。並列接続では同じ電圧がかかり、電流が分岐する。$I = V/R_1 + V/R_2$ より $1/R = 1/R_1 + 1/R_2$ が導かれる。

Q3. ホイートストンブリッジの平衡条件を述べてください。

▶ クリックして解答を表示$R_1 R_4 = R_2 R_3$。対角に位置する抵抗の積が等しいとき、検流計に電流が流れない。

Q4. 内部抵抗 $r$ の電池から外部抵抗 $R$ に最大電力を供給する条件は何ですか。

▶ クリックして解答を表示$R = r$(外部抵抗が内部抵抗に等しいとき)。最大電力は $P_{\max} = \mathcal{E}^2 / (4r)$。

10演習問題

キルヒホッフの法則を使った回路解析の練習問題です。

A 基礎レベル

15-3-1 A 基礎 合成抵抗

$R_1 = 6\,\Omega$ と $R_2 = 3\,\Omega$ について、次の問いに答えよ。

(1) 直列接続したときの合成抵抗を求めよ。

(2) 並列接続したときの合成抵抗を求めよ。

(3) (2) の結果をキルヒホッフの法則から導出せよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $R = 6 + 3 = 9\,\Omega$

(2) $1/R = 1/6 + 1/3 = 1/2$、$R = 2\,\Omega$

(3) 電圧 $V$ で並列接続されているとき、KCL より $I = I_1 + I_2 = V/R_1 + V/R_2 = V/6 + V/3 = V/2$。よって $R = V/I = 2\,\Omega$。

解説

(3) では KCL を使い、各枝の電流の和から合成抵抗を導いています。公式を暗記しなくても、キルヒホッフの法則から導出できることを確認してください。

B 発展レベル

15-3-2 B 発展 内部抵抗 最大電力

起電力 $\mathcal{E} = 12$ V、内部抵抗 $r = 2\,\Omega$ の電池に外部抵抗 $R$ を接続する。次の問いに答えよ。

(1) 外部抵抗に供給される電力 $P$ を $R$ の関数として表せ。

(2) $P$ が最大となる $R$ の値と、そのときの最大電力を求めよ。

(3) $R = r$ のとき、電池全体の電力のうち外部抵抗で消費される割合を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $P = \mathcal{E}^2 R / (R + r)^2 = 144R / (R + 2)^2$

(2) $R = r = 2\,\Omega$、$P_{\max} = 144 \times 2 / 16 = 18$ W

(3) 電池全体の電力は $P_{\text{total}} = \mathcal{E} I = 12 \times 3 = 36$ W。外部抵抗は 18 W。割合は $18/36 = 50\%$。

解説

最大電力条件 $R = r$ のとき、電力の半分は内部抵抗で熱として失われます。効率は50%です。実用的には最大電力が必要な場面と高効率が必要な場面で異なる設計が求められます。

採点ポイント
  • $P$ を $R$ の関数で正しく表す(3点)
  • $R = r$ で最大になることを示す(4点)
  • 効率が50%であることを計算する(3点)

C 応用レベル

15-3-3 C 応用 ブリッジ回路 導出

ホイートストンブリッジ回路において、4つの抵抗を $R_1$, $R_2$, $R_3$, $R_4$ とし、検流計が対角線上に配置されている。次の問いに答えよ。

(1) 検流計に電流が流れない(平衡状態)とき、対角のノードB, Dの電位が等しいことを用いて平衡条件 $R_1 R_4 = R_2 R_3$ を導出せよ。

(2) $R_1 = 100\,\Omega$, $R_2 = 200\,\Omega$, $R_3 = 150\,\Omega$ のとき、平衡を達成する $R_4$ を求めよ。

(3) ホイートストンブリッジが精密な抵抗測定に適している理由を、平衡条件の特徴から述べよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 平衡時、$V_B = V_D$ なので、上側の枝で $I_1 R_1 = I_2 R_3$、下側の枝で $I_1 R_2 = I_2 R_4$。前者を後者で割ると $R_1/R_2 = R_3/R_4$、よって $R_1 R_4 = R_2 R_3$。

(2) $R_4 = R_2 R_3 / R_1 = 200 \times 150 / 100 = 300\,\Omega$

(3) 平衡条件は抵抗の比のみで決まり、電源電圧や電流の正確な測定を必要としない。検流計は電流の有無だけを判定すればよく、電流の大きさを精密に測る必要がない。そのため、測定の不確かさが小さくなる。

解説

ブリッジの平衡条件には電源電圧 $\mathcal{E}$ が現れません。これは測定が電圧に依存しないことを意味し、精密測定に適しています。

採点ポイント
  • $V_B = V_D$ の条件から2つの式を導く(3点)
  • 比を取って平衡条件を導出する(2点)
  • $R_4$ の計算(2点)
  • 精密測定に適する理由を論じる(3点)