高校物理では、キルヒホッフの法則を「分岐点で電流の和が0」「閉回路で電圧の和が0」というルールとして学びます。
これらのルールは回路問題を解くための実用的な道具であり、入試でも頻繁に使います。
大学物理では、この2つの法則がそれぞれ電荷保存則と電位の一価性という基本原理から導かれることを理解します。
「なぜそのルールが成り立つのか」が分かることで、複雑な回路でも迷いなく方程式を立てられるようになります。
この記事では、2つの法則の物理的根拠を明確にし、
任意の回路に対して系統的に方程式を立てる手順を示します。
高校物理では、キルヒホッフの法則を次のようなルールとして学びます。
高校の扱いの特徴を整理します。
大学物理では、これらの法則が基本原理から導かれることを示し、 どんな回路でも同じ手順で方程式を立てられるようにします。
法則の根拠を理解できる。 第1法則は電荷保存の直接的帰結、第2法則は電位が一価関数であることの帰結です。 「なぜ成り立つか」が分かれば、応用で迷うことがなくなります。
複雑な回路でも迷わず方程式を立てられる。 パターン暗記ではなく、系統的な手順(電流の向きを仮定 → 方程式を立てる → 解く → 負なら逆向き)を習得します。
電流の向きの仮定を間違えても問題ないことが分かる。 方程式の解が負になるだけで、物理的な答えは正しく得られます。
第1法則を物理の基本原理から理解します。
$$\sum_{k} I_k = 0$$
第1法則の根拠は電荷保存則です。 電荷は生成も消滅もしません。
定常電流の場合、分岐点に電荷が蓄積することはありません。 もし流入する電荷が流出する電荷より多ければ、分岐点に電荷がたまり続け、 定常状態ではなくなってしまいます。
したがって、定常電流では:
単位時間あたりに流入する電荷 = 単位時間あたりに流出する電荷
これは $\sum I_{\text{in}} = \sum I_{\text{out}}$、すなわち $\sum I_k = 0$ に他なりません。
第1法則は「分岐点のルール」ではなく、電荷保存則の直接的な帰結です。
電荷が保存される限り、どんな回路のどんな分岐点でも必ず成り立ちます。 暗記ではなく、物理の基本原理として理解してください。
大学の電磁気学では、電荷保存則は連続の方程式として表されます:
$$\nabla \cdot \boldsymbol{J} + \frac{\partial \rho}{\partial t} = 0$$
定常電流($\partial \rho / \partial t = 0$)の場合、$\nabla \cdot \boldsymbol{J} = 0$ となり、 これを回路の分岐点に適用したものが KCL です。
$$\sum_{k} V_k = 0$$
第2法則の根拠は電位が一価関数であることです。
回路上の各点には、ある決まった電位の値が対応しています。 閉ループを一周して元の点に戻ると、電位は出発点の値に戻らなければなりません。 つまり、一周する間の電位の変化の総和はゼロです。
もしこれが成り立たなかったらどうなるでしょうか。 同じ点の電位が一周するたびに変わるなら、「ある点の電位」という概念自体が意味を持たなくなります。 電位が一価関数であること ── つまり各点に唯一の電位が定まること ── が第2法則の根拠です。
閉ループを一方向にたどるとき、次のように符号を決めます。
誤解:「ループの回り方は物理的に決まっている」
実際:ループのたどり方は任意に選んでよい。どちら向きに回っても、正しく符号を付ければ同じ方程式が得られる。符号の約束さえ守れば、機械的に方程式を立てられる。
第2法則は「閉回路のルール」ではなく、電位が一価関数であることの帰結です。
静電場が保存力場であること(仕事が経路に依存しないこと)と同根の性質です。 定常電流の回路では、電場は保存場として扱えるため、KVL が成り立ちます。
キルヒホッフの法則を使えば、どんな回路でも同じ手順で方程式を立てて解くことができます。 以下がその手順です。
起電力 $\mathcal{E}_1$, $\mathcal{E}_2$ の電池と抵抗 $R_1$, $R_2$, $R_3$ からなる回路を考えます。 2つのループがあり、中央の枝を共有しているとします。
Step 1:3つの枝の電流を $I_1$, $I_2$, $I_3$ とし、向きを仮定する。
Step 2(KCL):分岐点Aにおいて $I_1 = I_2 + I_3$
Step 3(KVL):
ループ1:$\mathcal{E}_1 - R_1 I_1 - R_3 I_3 = 0$
ループ2:$\mathcal{E}_2 - R_2 I_2 + R_3 I_3 = 0$($R_3$ を逆向きにたどるので $+R_3 I_3$)
Step 4:3つの方程式、3つの未知数 → 解ける。
Step 5:$I_3 < 0$ ならば、$I_3$ は仮定と逆向きに流れている。
この手順に従えば、直列・並列の合成抵抗の公式を知らなくても回路が解けます。 合成抵抗の公式は、この手順の「結果」として導出できるものです(次の記事 E-15-3 で扱います)。
回路に $b$ 本の枝(未知電流の数)、$n$ 個のノード、$l$ 個の独立ループがある場合、 KCL から $n - 1$ 個、KVL から $l$ 個の方程式が得られます。
グラフ理論から $l = b - n + 1$ が成り立つので、方程式の総数は $(n-1) + (b-n+1) = b$ となり、 未知数の数 $b$ と一致します。したがって、必ず解が定まります。
キルヒホッフの法則は回路解析の基盤です。
Q1. キルヒホッフの第1法則は、どのような基本原理に基づいていますか。
Q2. キルヒホッフの第2法則は、電位のどのような性質から導かれますか。
Q3. 回路方程式を立てるとき、電流の向きを間違えて仮定した場合、結果にどのような影響がありますか。
Q4. KVL で閉ループをたどるとき、抵抗を電流の向きにたどった場合、電位はどう変化しますか。
キルヒホッフの法則を使って回路方程式を立て、解く練習をしましょう。
ある分岐点に3本の導線がつながっている。2本からそれぞれ $I_1 = 3$ A、$I_2 = 5$ A の電流が流入している。3本目の導線に流れる電流 $I_3$ の大きさと向きを求めよ。
$I_3 = 8$ A(流出)
KCL より $\sum I = 0$。流入を正とすると $3 + 5 - I_3 = 0$、$I_3 = 8$ A。この電流は分岐点から流出している。
これは電荷保存則の直接的な適用です。分岐点に電荷がたまらない(定常電流)ので、流入と流出は等しくなります。
起電力 $\mathcal{E} = 12$ V の電池(内部抵抗は無視)に、$R_1 = 4\,\Omega$ と $R_2 = 6\,\Omega$ の抵抗が並列に接続されている。次の問いに答えよ。
(1) $R_1$ と $R_2$ に流れる電流をキルヒホッフの法則を用いて求めよ。
(2) 電池から流れ出す全電流を求めよ。
(1) $I_1 = 3$ A、$I_2 = 2$ A
(2) $I = 5$ A
KVL($R_1$ を含むループ):$\mathcal{E} - R_1 I_1 = 0$ → $I_1 = 12/4 = 3$ A
KVL($R_2$ を含むループ):$\mathcal{E} - R_2 I_2 = 0$ → $I_2 = 12/6 = 2$ A
KCL(分岐点):$I = I_1 + I_2 = 5$ A
並列接続では各枝の電圧降下が電池の起電力に等しくなる(KVL)。KCL で全電流が求まります。
起電力 $\mathcal{E}_1 = 10$ V、$\mathcal{E}_2 = 6$ V の2つの電池が、それぞれ抵抗 $R_1 = 2\,\Omega$、$R_2 = 3\,\Omega$ を通じて接続され、共通の枝に $R_3 = 5\,\Omega$ がある回路を考える(内部抵抗は無視)。電流を $I_1$, $I_2$, $I_3$ とし、向きを適当に仮定して次の問いに答えよ。
(1) KCL と KVL を用いて3つの方程式を立てよ。
(2) 連立方程式を解いて $I_1$, $I_2$, $I_3$ を求めよ。
(3) $I_3$ が負になった場合、それは何を意味するか述べよ。
(1) KCL:$I_1 = I_2 + I_3$
KVL(ループ1):$\mathcal{E}_1 - R_1 I_1 - R_3 I_3 = 0$ → $10 - 2I_1 - 5I_3 = 0$
KVL(ループ2):$\mathcal{E}_2 - R_2 I_2 + R_3 I_3 = 0$ → $6 - 3I_2 + 5I_3 = 0$
(2) KCL を用いて $I_2 = I_1 - I_3$ をループ2に代入:
$6 - 3(I_1 - I_3) + 5I_3 = 0$ → $6 - 3I_1 + 8I_3 = 0$
ループ1より $I_1 = (10 - 5I_3)/2 = 5 - 2.5I_3$
代入:$6 - 3(5 - 2.5I_3) + 8I_3 = 0$ → $6 - 15 + 7.5I_3 + 8I_3 = 0$ → $15.5I_3 = 9$ → $I_3 \approx 0.58$ A
$I_1 \approx 3.55$ A、$I_2 \approx 2.97$ A
(3) $I_3$ が負になった場合、仮定した向きと逆向きに電流が流れていることを意味する。物理的な答え自体は正しく、大きさは $|I_3|$ となる。
この問題では KCL 1式 + KVL 2式の計3式で、3つの未知数を解きます。電流の向きの仮定は任意で、結果の正負から実際の向きが判明します。高校ではパターンに頼りがちな回路問題も、この手順なら機械的に解けます。