高校物理では、波長 $\lambda$、振動数 $f$、波の速さ $v = f\lambda$ を学び、正弦波を $y = A\sin(\omega t - kx)$ と表します。
これらの公式は問題を解くのに十分な道具ですが、「なぜ波はこの式で表されるのか」「なぜ $v = f\lambda$ が成り立つのか」には答えていません。
大学物理では、波動方程式という偏微分方程式から出発します。
高校で暗記していた正弦波の式は、この方程式の「解」として自然に導かれます。
つまり、1つの方程式を理解すれば、波に関する多くの公式がそこから出てくるのです。
この記事では、波を表す基本量を整理し、波動方程式の意味を理解し、正弦波がその解であることを検証します。
高校物理では、波を次のように扱います。
$v = f\lambda$ は問題でよく使いますし、正弦波の式から変位を計算する問題も出題されます。 これらは入試で十分に機能する道具です。
しかし、この道具には次のような限界があります。
大学物理では、これらすべてに答える1つの方程式を学びます。 それが波動方程式です。
波動方程式を学ぶことで、高校の「暗記する公式」が「導ける結果」に変わります。 具体的に何が変わるかを先に示します。
波の基本量を体系的に理解する。 振幅 $A$、波長 $\lambda$、波数 $k$、角振動数 $\omega$、位相速度 $v$ の定義と相互関係を整理します。 $v = f\lambda$ がなぜ成り立つかも分かります。
波動方程式の意味が分かる。 偏微分という道具を使って、波の運動を支配する方程式を理解します。 正弦波はこの方程式の「解」であり、暗記する必要がなくなります。
正弦波以外の波も統一的に扱える。 波動方程式の一般解 $f(x - vt) + g(x + vt)$ を知ることで、正弦波に限らない任意の波形も同じ枠組みで理解できます。
では、波を表す基本量を改めて整理するところから始めましょう。
波を記述するために使う量を一覧にまとめます。 高校で学んだ量に加え、大学では波数 $k$ と角振動数 $\omega$ が中心的な役割を果たします。
| 量 | 記号 | 定義 | 単位 |
|---|---|---|---|
| 振幅 | $A$ | 変位の最大値 | m |
| 波長 | $\lambda$ | 空間的な1周期の長さ | m |
| 周期 | $T$ | 時間的な1周期の長さ | s |
| 振動数 | $f$ | $f = 1/T$ | Hz |
| 波数 | $k$ | $k = 2\pi / \lambda$ | rad/m |
| 角振動数 | $\omega$ | $\omega = 2\pi f = 2\pi / T$ | rad/s |
| 位相速度 | $v$ | $v = f\lambda = \omega / k$ | m/s |
波長 $\lambda$ は「1周期あたりの空間の長さ」ですが、波数 $k = 2\pi/\lambda$ は「単位長さあたりの位相の進み」を表します。 同様に、角振動数 $\omega = 2\pi/T$ は「単位時間あたりの位相の進み」です。
なぜ $2\pi$ がつくかというと、$\sin$ 関数の1周期が $2\pi$ ラジアンだからです。 $k$ と $\omega$ を使うと、正弦波の引数を $kx - \omega t$ とシンプルに書けます。
高校では公式として覚えた $v = f\lambda$ が、$k$ と $\omega$ を使うと自然に導けます。
位相速度の定義 $v = \omega / k$ に、$\omega = 2\pi f$ と $k = 2\pi/\lambda$ を代入します。
$$v = \frac{\omega}{k} = \frac{2\pi f}{2\pi / \lambda} = f\lambda$$
$v = f\lambda$ は「位相速度 = 角振動数 / 波数」の別の書き方にすぎません。
注意:物理では $k = 2\pi/\lambda$ を波数と呼ぶのが一般的ですが、分光学では $\tilde{\nu} = 1/\lambda$($2\pi$ なし)を波数と呼ぶことがあります。
この教科書では:常に $k = 2\pi/\lambda$ の定義を使います。
波を表す基本量が整理できたので、正弦波の式を改めて書き下します。
$$y(x, t) = A \sin(kx - \omega t)$$
教科書によって $y = A\sin(kx - \omega t)$ と $y = A\sin(\omega t - kx)$ の両方が使われます。 どちらも正しく、$\sin$ の奇関数性 $\sin(-\theta) = -\sin\theta$ により符号が反転するだけです。
波動方程式の議論では $kx - \omega t$ が自然に現れるので、この記事ではこちらを採用します。 高校の教科書で $\omega t - kx$ を使っている場合、位相の符号が逆転するだけで物理的内容は同じです。
ある瞬間 $t = t_0$ を固定すると、$y(x, t_0) = A\sin(kx - \omega t_0)$ となり、これは $x$ の関数としての $\sin$ 曲線です。 波長 $\lambda = 2\pi/k$ ごとに同じ形が繰り返されます。
ある位置 $x = x_0$ を固定すると、$y(x_0, t) = A\sin(kx_0 - \omega t)$ となり、これは $t$ の関数としての $\sin$ 曲線です。 周期 $T = 2\pi/\omega$ で振動します。 これは、その場所の媒質が上下に振動している様子を表しています。
ここからがこの記事の核心です。 高校で暗記した正弦波の式は、実は波動方程式という方程式の「解」です。
$$\frac{\partial^2 y}{\partial t^2} = v^2 \frac{\partial^2 y}{\partial x^2}$$
$y(x, t)$ は $x$ と $t$ の2つの変数を持つ関数です。 偏微分とは、一方の変数を固定して、もう一方の変数だけで微分することです。
波動方程式 $\dfrac{\partial^2 y}{\partial t^2} = v^2 \dfrac{\partial^2 y}{\partial x^2}$ は、次のことを述べています。
媒質のある場所の加速度(左辺)は、その場所での波形の曲がり具合(右辺)に比例する。
波形が凹んでいるところ($\partial^2 y / \partial x^2 < 0$)では媒質に下向きの加速度がかかり、 波形が膨らんでいるところ($\partial^2 y / \partial x^2 > 0$)では上向きの加速度がかかります。 この関係が波を伝播させる仕組みです。
$y = A\sin(kx - \omega t)$ が実際に波動方程式を満たすことを、偏微分を計算して確認します。
$y = A\sin(kx - \omega t)$ とします。
左辺の計算:
$\dfrac{\partial y}{\partial t} = -A\omega\cos(kx - \omega t)$
$\dfrac{\partial^2 y}{\partial t^2} = -A\omega^2\sin(kx - \omega t) = -\omega^2 y$
右辺の計算:
$\dfrac{\partial y}{\partial x} = Ak\cos(kx - \omega t)$
$\dfrac{\partial^2 y}{\partial x^2} = -Ak^2\sin(kx - \omega t) = -k^2 y$
$v^2 \dfrac{\partial^2 y}{\partial x^2} = -v^2 k^2 y$
左辺 = 右辺の条件:
$-\omega^2 y = -v^2 k^2 y$ が成り立つためには $\omega^2 = v^2 k^2$、すなわち
$$v = \frac{\omega}{k}$$
この条件が満たされれば、正弦波は波動方程式の解になります。 そして $v = \omega/k$ は位相速度の定義そのものです。
つまり、$v = \omega/k$(すなわち $v = f\lambda$)は波動方程式から自然に出てくる関係式です。 高校で暗記した公式が、方程式の帰結として理解できました。
波動方程式を満たすのは正弦波だけではありません。 実は、任意の波形が波動方程式の解になりえます。
$$y(x, t) = f(x - vt) + g(x + vt)$$
$f(x - vt)$ の意味を考えます。時刻 $t = 0$ での波形が $f(x)$ だとすると、時刻 $t$ での波形は $f(x - vt)$ です。 これは元の波形を $x$ 方向に $vt$ だけずらしたものです。 つまり、波形がそのままの形で速さ $v$ で右に移動しています。
同様に、$g(x + vt)$ は波形が速さ $v$ で左に移動することを表します。
$\xi = x - vt$ とおくと、$y = f(\xi)$ です。
$\dfrac{\partial y}{\partial t} = f'(\xi) \cdot \dfrac{\partial \xi}{\partial t} = -v f'(\xi)$
$\dfrac{\partial^2 y}{\partial t^2} = v^2 f''(\xi)$
$\dfrac{\partial y}{\partial x} = f'(\xi) \cdot \dfrac{\partial \xi}{\partial x} = f'(\xi)$
$\dfrac{\partial^2 y}{\partial x^2} = f''(\xi)$
よって、$\dfrac{\partial^2 y}{\partial t^2} = v^2 f''(\xi) = v^2 \dfrac{\partial^2 y}{\partial x^2}$
波動方程式を満たすことが確認できました。$f$ がどんな関数であっても成り立ちます。
波動方程式は「どんな形の波でも、その形を保ったまま一定の速さで伝わる」ことを表しています。
正弦波は波動方程式の解の1つにすぎません。パルス波も三角波も矩形波も、すべて $f(x - vt)$ の形で書けるなら波動方程式の解です。
高校では正弦波しか扱いませんでしたが、波動方程式を出発点にすれば、あらゆる波形を統一的に扱えます。
任意の波形が解になるのに、なぜ正弦波を中心に学ぶのでしょうか。 その理由はフーリエの定理にあります。
任意の周期関数は、異なる振動数の正弦波の重ね合わせとして表すことができます(フーリエ級数展開)。 したがって、正弦波の振る舞いを理解すれば、原理的にはどんな波形の振る舞いも理解できます。
正弦波は「波の基本パーツ」とも言えます。この話題は第12章(光)のところで再び登場します。
波の基本量と波動方程式は、この後の波動の全ての記事の土台になります。
Q1. 波数 $k$ の定義を書き、波長 $\lambda$ との関係を述べてください。
Q2. $v = f\lambda$ を、$\omega$ と $k$ を用いて導いてください。
Q3. 波動方程式の左辺 $\partial^2 y / \partial t^2$ は物理的に何を表しますか。
Q4. 波動方程式の一般解 $f(x - vt) + g(x + vt)$ において、$f(x - vt)$ はどのような波を表しますか。
波の基本量と波動方程式の理解を、問題で確認しましょう。
波長 $\lambda = 0.50$ m、振動数 $f = 400$ Hz の波について、次の量を求めよ。
(1) 波数 $k$
(2) 角振動数 $\omega$
(3) 位相速度 $v$
(1) $k = 2\pi / 0.50 = 4\pi \approx 12.6$ rad/m
(2) $\omega = 2\pi \times 400 = 800\pi \approx 2510$ rad/s
(3) $v = f\lambda = 400 \times 0.50 = 200$ m/s(または $v = \omega/k = 800\pi / 4\pi = 200$ m/s)
波数 $k$ と角振動数 $\omega$ は、波長と振動数にそれぞれ $2\pi$ を掛けた(割った)ものです。$v = \omega/k$ と $v = f\lambda$ が一致することも確認できます。
正弦波が $y(x, t) = 0.030\sin(5.0x - 20t)$(m)で表されている。次の問いに答えよ。
(1) 振幅、波数、角振動数をそれぞれ読み取れ。
(2) 波長、周期、位相速度を求めよ。
(3) 位置 $x = 0$ における媒質の速度 $\partial y / \partial t$ を求め、$t = 0$ での値を計算せよ。
(1) 振幅 $A = 0.030$ m、波数 $k = 5.0$ rad/m、角振動数 $\omega = 20$ rad/s
(2) $\lambda = 2\pi/5.0 \approx 1.26$ m、$T = 2\pi/20 \approx 0.314$ s、$v = 20/5.0 = 4.0$ m/s
(3) $\dfrac{\partial y}{\partial t} = -0.030 \times 20 \cos(5.0x - 20t) = -0.60\cos(5.0x - 20t)$。$x = 0, t = 0$ で $\dfrac{\partial y}{\partial t} = -0.60\cos(0) = -0.60$ m/s
正弦波の式 $y = A\sin(kx - \omega t)$ と見比べることで、各定数を直接読み取ることができます。偏微分では $x$ を定数とみなして $t$ だけで微分します。$\sin$ の微分は $\cos$ であり、内側の $-\omega$ が係数として出てきます。
次の関数が1次元の波動方程式 $\dfrac{\partial^2 y}{\partial t^2} = v^2 \dfrac{\partial^2 y}{\partial x^2}$ を満たすかどうか調べよ。
(1) $y(x, t) = (x - vt)^3$
(2) $y(x, t) = A e^{-(x - vt)^2}$(ガウス型パルス波)
(3) $y(x, t) = A\sin(kx)\cos(\omega t)$ ただし $\omega = vk$ とする。この関数はどのような波を表すか、物理的意味を述べよ。
(1) 満たす。
(2) 満たす。
(3) 満たす。この関数は定常波(定在波)を表す。
(1) $\xi = x - vt$ とおくと $y = \xi^3$ は $f(x - vt)$ の形なので、一般解の一部であり波動方程式を満たします。 具体的に計算すると、$\partial^2 y/\partial t^2 = 6v^2(x - vt)$、$v^2 \partial^2 y/\partial x^2 = 6v^2(x - vt)$ で一致します。
(2) ガウス型パルス波 $Ae^{-(x-vt)^2}$ も $f(x - vt)$ の形なので波動方程式を満たします。 これは釣り鐘型の波形が形を変えずに速さ $v$ で進む波を表しています。
(3) $y = A\sin(kx)\cos(\omega t)$ について:
$\partial^2 y/\partial t^2 = -A\omega^2\sin(kx)\cos(\omega t) = -\omega^2 y$
$v^2 \partial^2 y/\partial x^2 = -v^2 Ak^2\sin(kx)\cos(\omega t) = -v^2 k^2 y$
$\omega = vk$ なので $\omega^2 = v^2 k^2$ となり、左辺 = 右辺が成立します。
この関数は空間部分 $\sin(kx)$ と時間部分 $\cos(\omega t)$ に変数分離されており、各点の振幅が位置によって決まる(節と腹がある)定常波を表しています。 これは W-10-3 で詳しく扱います。