高校物理では、横波は「振動方向と進行方向が垂直」、縦波は「振動方向と進行方向が平行」と教わります。
これは正しい分類ですが、「なぜ音は縦波なのか」「なぜ光は横波なのか」には答えていません。
大学物理では、横波と縦波の区別が媒質の弾性の種類と結びつきます。
ずれ弾性を持つ媒質でのみ横波が伝わり、気体にはずれ弾性がないから音波は縦波になります。
また、電磁波が横波である理由はマクスウェル方程式から導かれます。
この記事では、横波と縦波の物理的な本質を理解し、波の速さが媒質の性質からどう決まるかを学びます。
高校物理では、波を横波と縦波に分類する方法を次のように学びます。
この分類は明快で、問題を解く上では十分に機能します。 しかし、次のような疑問には答えていません。
これらの疑問に答えるには、波が伝わる媒質の弾性を考える必要があります。
大学の視点を加えると、横波と縦波の区別が「分類のための分類」ではなく、媒質の物理的性質と直結していることが分かります。
横波と縦波の本質的な違いが分かる。 「垂直か平行か」という幾何学的分類ではなく、媒質がどのような復元力を持つかで横波・縦波の区別が決まることを理解します。
音がなぜ縦波かを説明できる。 気体にはずれ弾性がないため横波は伝わらず、圧力変化(体積弾性)による縦波だけが伝わります。
波の速さの物理的根拠が分かる。 弦の波速 $v = \sqrt{T/\mu}$ や音速 $v = \sqrt{\gamma P/\rho}$ が、力学的な考察から導かれることを理解します。
横波が伝わるためには、媒質にずれ弾性(剛性)が必要です。
物体を横方向にずらす力を加えたとき、元の形に戻ろうとする力(復元力)が働く性質をずれ弾性と呼びます。 固体はこの性質を持っています。ゼリーを横から押すと元に戻ろうとするのがその例です。
弦の振動を考えましょう。弦を横にはじくと、張力が復元力として働き、変位が隣の部分へと伝わっていきます。 これが横波です。弦の各部分は進行方向に対して垂直に振動し、その振動が波として伝播します。
横波には、縦波にはない重要な性質があります。それが偏光です。
横波の振動方向は進行方向に垂直ですが、「垂直な方向」は1つではありません。 たとえば $x$ 方向に進む波の場合、$y$ 方向にも $z$ 方向にも振動できます。 振動方向が特定の方向に偏っている波を偏光波(直線偏光)と呼びます。
偏光は横波にのみ存在する現象です。縦波の振動方向は進行方向と平行な1方向しかないため、偏光という概念は成立しません。
光が偏光するという事実は、光が横波であることの証拠です。 偏光板を通すと特定の振動方向の光だけが通過する現象は、光が横波でなければ説明できません。
誤解:「横波は固体の中だけを伝わる」
正確には:力学的な横波が伝わるにはずれ弾性が必要であり、気体や液体にはずれ弾性がないので力学的横波は伝わりません。 しかし、電磁波(光)は媒質を必要としない波であり、真空中でも横波として伝わります。 「横波=固体だけ」ではなく、「力学的横波にはずれ弾性が必要」と理解するのが正確です。
縦波は、媒質の各部分が進行方向に沿って振動する波です。 音波が代表例です。
空気中を伝わる音波では、空気の各部分が前後に振動することで、疎(密度が低い部分)と密(密度が高い部分)が交互に生じます。 この疎密のパターンが伝播していくのが音波です。
気体にはずれ弾性がありません。気体を横方向にずらしても、元に戻ろうとする力は働きません。 一方、気体を圧縮すれば圧力が上がり、膨張させれば圧力が下がります。 この体積弾性(圧縮に対する復元力)が縦波を伝える仕組みです。
気体にはずれ弾性がないため、横方向の変位を復元する力が存在しません。 したがって横波は伝わりません。
気体が持つのは体積弾性(圧縮に対する復元力)だけです。 この復元力は進行方向に沿って働くため、気体中では縦波だけが伝わります。
縦波を記述する方法は2つあります。媒質の変位 $s(x,t)$ で記述する方法と、圧力変化 $\Delta P(x,t)$ で記述する方法です。
変位が正弦波 $s(x,t) = s_0 \sin(kx - \omega t)$ で表されるとき、圧力変化は次のようになります。
$$\Delta P(x,t) = -B \frac{\partial s}{\partial x}$$
$s = s_0 \sin(kx - \omega t)$ を $x$ で偏微分すると:
$$\Delta P = -B \cdot s_0 k \cos(kx - \omega t) = -Bks_0 \cos(kx - \omega t)$$
$\sin$ と $\cos$ の関係から、変位と圧力変化には $\pi/2$(90度)の位相差があることが分かります。
高校で学ぶ「縦波の横波表示」は、変位 $s(x,t)$ を進行方向と垂直にグラフ化する手法です。 これは変位のグラフであって圧力のグラフではありません。
大学の視点では、変位のグラフと圧力のグラフは位相が $\pi/2$ ずれた別のグラフです。 密度が最大の場所(密の中心)は変位がゼロの場所に対応し、これは高校の教科書でも説明されている事実です。
高校では $v = f\lambda$ で波の速さを求めますが、この $v$ が何で決まるかは説明されません。 大学物理では、波の速さが媒質の弾性率と密度で決まることを力学的に導きます。
$$v = \sqrt{\frac{T}{\mu}}$$
弦の微小要素に運動方程式を適用します。長さ $\Delta x$ の弦の要素の質量は $\mu \Delta x$ です。
弦が微小に変位しているとき、両端の張力 $T$ の $y$ 成分の差が復元力になります。 弦の傾きが小さいとき、$y$ 方向の合力は次のように近似できます。
$$F_y \approx T \frac{\partial^2 y}{\partial x^2} \Delta x$$
ニュートンの運動方程式 $F = ma$ より:
$$\mu \Delta x \frac{\partial^2 y}{\partial t^2} = T \frac{\partial^2 y}{\partial x^2} \Delta x$$
$\Delta x$ で割ると:
$$\frac{\partial^2 y}{\partial t^2} = \frac{T}{\mu} \frac{\partial^2 y}{\partial x^2}$$
これは波動方程式であり、$v^2 = T/\mu$ と比較すると $v = \sqrt{T/\mu}$ が得られます。
この導出から、波の速さの公式が波動方程式から自然に出てくることが分かります。 波動方程式の $v^2$ の部分を「弾性率 / 密度」と読み替えるだけです。
$$v = \sqrt{\frac{\gamma P}{\rho}}$$
弦の場合と同じ構造です。分子の $\gamma P$ は「媒質の弾性率」(断熱的な体積弾性率)、分母の $\rho$ は「密度」に対応します。
地球の内部(固体)は体積弾性とずれ弾性の両方を持つため、縦波(P波)と横波(S波)の両方が伝わります。
P波の速さ:$v_P = \sqrt{(K + \frac{4}{3}G)/\rho}$、S波の速さ:$v_S = \sqrt{G/\rho}$
ここで $K$ は体積弾性率、$G$ はずれ弾性率です。$v_P > v_S$ なので、P波が先に到達します(Primary wave の名の由来)。
液体の外核ではずれ弾性率 $G = 0$ なのでS波は伝わりません。 この事実が、地球の外核が液体であるという証拠の1つになっています。
横波と縦波の区別、および波の速さの決まり方は、波動分野全体の基盤になります。
Q1. 気体中を音波が縦波としてのみ伝わる理由を、弾性の種類を用いて説明してください。
Q2. 偏光が横波の証拠となる理由を述べてください。
Q3. 縦波において、変位が最大の位置で圧力変化はどうなりますか。
Q4. 弦の波速 $v = \sqrt{T/\mu}$ において、張力を4倍にすると波速は何倍になりますか。
横波と縦波の性質、および波の速さについて問題で確認しましょう。
質量 $0.020$ kg、長さ $2.0$ m の弦が $80$ N の張力で張られている。次の問いに答えよ。
(1) 弦の線密度 $\mu$ を求めよ。
(2) 弦を伝わる横波の速さを求めよ。
(1) $\mu = 0.020 / 2.0 = 0.010$ kg/m
(2) $v = \sqrt{T/\mu} = \sqrt{80/0.010} = \sqrt{8000} \approx 89$ m/s
線密度は「単位長さあたりの質量」なので、弦の全質量を長さで割ります。波速は $v = \sqrt{T/\mu}$ に代入するだけです。張力が大きいほど、線密度が小さいほど、波は速く伝わります。
空気中の音速は $v = \sqrt{\gamma RT/M}$ で表される。ここで $\gamma = 1.40$(比熱比)、$R = 8.31$ J/(mol$\cdot$K)(気体定数)、$M = 0.029$ kg/mol(空気の平均分子量)とする。
(1) 気温 $20\,^\circ\text{C}$($= 293$ K)での音速を求めよ。
(2) 気温が $0\,^\circ\text{C}$ から $40\,^\circ\text{C}$ に変化したとき、音速は何 % 増加するか求めよ。
(1) $v = \sqrt{1.40 \times 8.31 \times 293 / 0.029} = \sqrt{117\,500} \approx 343$ m/s
(2) $v(0\,^\circ\text{C}) = \sqrt{1.40 \times 8.31 \times 273 / 0.029} \approx 331$ m/s
$v(40\,^\circ\text{C}) = \sqrt{1.40 \times 8.31 \times 313 / 0.029} \approx 355$ m/s
増加率:$(355 - 331)/331 \times 100 \approx 7.3$ %
音速は絶対温度の平方根に比例します($v \propto \sqrt{T}$)。温度が上がると気体分子の運動が活発になり、圧力変化が速く伝わるため音速が増加します。
高校では「音速は約 $331 + 0.6t$ m/s」と近似しますが、大学の式 $v = \sqrt{\gamma RT/M}$ から導けます。$t$ が小さいときのテイラー展開で $\sqrt{T} \approx \sqrt{273}(1 + t/546)$ となり、$0.6t$ の近似式が得られます。
空気中を $x$ 方向に伝わる音波の変位が $s(x,t) = s_0 \sin(kx - \omega t)$ で表される。体積弾性率を $B$ とする。
(1) 圧力変化 $\Delta P = -B \dfrac{\partial s}{\partial x}$ を求めよ。
(2) 変位が最大の位置と圧力変化が最大の位置は一致するか。$\pi/2$ の位相差が生じる理由を物理的に説明せよ。
(3) 地震のP波(縦波)が液体の外核を通過できるのに、S波(横波)が通過できない理由を、弾性の種類を用いて説明せよ。
(1) $\Delta P = -Bks_0\cos(kx - \omega t)$
(2) 一致しない。$\pi/2$ の位相差がある。
(3) 液体にはずれ弾性がないためS波は伝わらないが、体積弾性はあるためP波は伝わる。
(1) $\dfrac{\partial s}{\partial x} = s_0 k \cos(kx - \omega t)$ より、$\Delta P = -Bks_0 \cos(kx - \omega t)$
(2) 変位が最大の位置は $\sin = 1$ の場所ですが、そこでは左右の媒質が同じ方向に同程度ずれているため、圧縮も膨張も起きず圧力変化はゼロです。一方、変位がゼロの場所では、隣接する媒質が逆方向にずれるため最も密になるか最も疎になり、圧力変化が最大になります。この物理的状況が $\sin$ と $\cos$ の $\pi/2$ のずれに対応しています。
(3) 横波の伝播にはずれ弾性(形を変えたとき元に戻ろうとする力)が必要です。液体にはずれ弾性がないため、S波(横波)は液体中を伝わりません。一方、縦波の伝播には体積弾性(圧縮に対する復元力)があれば十分です。液体にも体積弾性はあるため、P波(縦波)は液体の外核を通過できます。