高校物理では、単原子分子の理想気体の内部エネルギーを $U = \dfrac{3}{2}nRT$ と学び、
二原子分子では $U = \dfrac{5}{2}nRT$ であると覚えます。
しかし、$\dfrac{3}{2}$ や $\dfrac{5}{2}$ がどこから来るのかは、高校の範囲では説明されません。
大学物理では、エネルギー等分配則という原理を用いて、
この係数を統一的に理解します。
各自由度に $\dfrac{1}{2}kT$ ずつエネルギーが分配されるという法則から、
分子の種類ごとの内部エネルギーが自然に導かれます。
この記事では、自由度の概念とエネルギー等分配則を学び、
内部エネルギーの公式を「なぜそうなるか」から理解します。
高校物理では、理想気体の内部エネルギーを次のように学びます。
これらの公式を使って、気体の温度変化に伴うエネルギーの計算を行います。
しかし、次の疑問は高校の範囲では解決されません。
大学物理では、「自由度」と「エネルギー等分配則」という2つの概念を導入することで、 あらゆる分子の内部エネルギーを統一的に理解します。
自由度を数えて内部エネルギーを求められるようになる。 $U = \frac{f}{2}NkT$ という1つの式で、単原子・二原子・多原子分子のすべてに対応できます。
エネルギー等分配則の意味が分かる。 「各自由度に $\frac{1}{2}kT$」という法則を理解し、$\frac{3}{2}$ や $\frac{5}{2}$ の由来を説明できるようになります。
古典力学の限界に触れることができる。 二原子分子の振動が室温で凍結する理由は、古典力学では説明できず、量子力学を必要とします。 古典物理と量子物理の境界がどこにあるかを垣間見ます。
自由度(degrees of freedom)とは、 系の運動状態を指定するために必要な独立な変数の数のことです。 気体分子の場合、これは分子がどのような運動をできるかを数えることに相当します。
ヘリウム(He)やネオン(Ne)のような単原子分子は、原子1個からなる質点です。 この質点は $x, y, z$ の3方向に動くことができます。
合計:並進3自由度。回転は質点では意味を持たないため、回転の自由度はありません。
窒素($\text{N}_2$)や酸素($\text{O}_2$)のような二原子分子は、 2つの原子がばねのように結合した構造を持ちます。 この分子は次の運動ができます。
合計:並進3 + 回転2 + 振動2 = 7自由度。
誤解:「3次元空間なので回転も3自由度では」
正しい理解:二原子分子は棒状の形をしています。分子軸のまわりの回転は、原子が軸上にあるため慣性モーメントがほぼ0であり、回転の運動エネルギーに寄与しません。したがって意味のある回転は軸に垂直な2つの方向のみで、回転自由度は2です。
振動は「ばねの伸び縮み」ですが、エネルギーの観点では運動エネルギー $\frac{1}{2}\mu\dot{r}^2$ と ポテンシャルエネルギー $\frac{1}{2}\kappa(r - r_0)^2$ の2つの項を持ちます($\mu$: 換算質量、$\kappa$: ばね定数)。
エネルギー等分配則では、エネルギーの各二次形式の項が1自由度に対応するため、 振動は2自由度として数えます。
| 分子の種類 | 並進 | 回転 | 振動 | 合計 $f$ | 室温での有効自由度 |
|---|---|---|---|---|---|
| 単原子(He, Ar) | 3 | 0 | 0 | 3 | 3 |
| 二原子($\text{N}_2$, $\text{O}_2$) | 3 | 2 | 2 | 7 | 5(振動凍結) |
| 直線形三原子($\text{CO}_2$) | 3 | 2 | 8 | 13 | 5(振動凍結) |
| 非直線形三原子($\text{H}_2\text{O}$) | 3 | 3 | 6 | 12 | 6(振動凍結) |
「室温での有効自由度」が高校で使う値に対応しています。 振動の自由度が室温で凍結する理由は、セクション5で説明します。
エネルギー等分配則(equipartition theorem)は、 熱平衡にある系では、エネルギーの各二次形式の自由度に等しく $\frac{1}{2}kT$ のエネルギーが分配される、 という統計力学の定理です。
$$\text{1自由度あたりの平均エネルギー} = \frac{1}{2}kT$$
自由度 $f$ の分子 $N$ 個からなる理想気体の内部エネルギーは、
1分子あたりの平均エネルギー:$\overline{\varepsilon} = f \times \dfrac{1}{2}kT = \dfrac{f}{2}kT$
$N$ 個の分子の合計(内部エネルギー):
$$U = N\overline{\varepsilon} = \frac{f}{2}NkT = \frac{f}{2}nRT$$
($N = nN_A$, $R = N_Ak$ を使用)
$$U = \frac{f}{2}NkT = \frac{f}{2}nRT$$
これで、高校の公式の由来が明らかになりました。
高校で暗記していた $\frac{3}{2}$ と $\frac{5}{2}$ は、分子の有効自由度の半分でした。
$\frac{3}{2}$ の「3」は、単原子分子の並進3自由度。 $\frac{5}{2}$ の「5」は、二原子分子の並進3 + 回転2 = 5自由度です。
自由度の数を知っていれば、どんな分子でも内部エネルギーを求められます。 新しい分子に出会うたびに公式を覚える必要はありません。
T-7-1 で導出した単原子分子の結果を確認します。 $\frac{1}{2}m\overline{v^2} = \frac{3}{2}kT$ は、並進3自由度のそれぞれに $\frac{1}{2}kT$ が分配されていることを意味します。
$$\frac{1}{2}m\overline{v_x^2} = \frac{1}{2}kT, \quad \frac{1}{2}m\overline{v_y^2} = \frac{1}{2}kT, \quad \frac{1}{2}m\overline{v_z^2} = \frac{1}{2}kT$$
合計すると $\frac{1}{2}m\overline{v^2} = \frac{3}{2}kT$ であり、分子運動論の結果と一致します。 等分配則は、この「等しく分配される」という性質を一般化したものです。
二原子分子の自由度は合計7(並進3 + 回転2 + 振動2)ですが、 室温では有効自由度は5です。振動の2自由度が「凍結」しています。 これは古典力学では説明できず、量子力学を必要とする現象です。
量子力学によると、振動のエネルギーは連続的な値を取れず、離散的(飛び飛び)な値しか取れません。 振動数 $\nu$ の振動子のエネルギーは $E_n = (n + \frac{1}{2})h\nu$($n = 0, 1, 2, \ldots$)です。
重要なのは、最低エネルギー状態($n = 0$)から次の状態($n = 1$)に遷移するために必要なエネルギーが $h\nu$ であることです。
$$h\nu \gg kT \quad \Rightarrow \quad \text{振動は凍結する(熱的に励起されない)}$$
窒素分子($\text{N}_2$)の振動数は $\nu \approx 7.07 \times 10^{13}$ Hz です。
$$h\nu = 6.63 \times 10^{-34} \times 7.07 \times 10^{13} \approx 4.7 \times 10^{-20} \text{ J}$$
一方、室温($T = 300$ K)での $kT$ は、
$$kT = 1.38 \times 10^{-23} \times 300 \approx 4.1 \times 10^{-21} \text{ J}$$
$h\nu / kT \approx 11$ であり、$h\nu \gg kT$ が成り立ちます。 したがって、室温では振動の自由度はほとんど励起されず、凍結しています。
一方、回転のエネルギー量子は $h\nu$ よりはるかに小さく、 室温の $kT$ で十分に励起されるため、回転の自由度は凍結しません。
エネルギー等分配則は古典統計力学の結果であり、すべての自由度に $\frac{1}{2}kT$ を予言します。 しかし実験事実として、二原子分子の室温での比熱は $\frac{5}{2}$ に対応しており、振動の寄与はありません。
この不一致は、19世紀末の物理学における大きな問題でした。 解決は量子力学の発展を待つ必要がありました。 $kT$ と $h\nu$ の比較は、古典物理が有効か量子効果が重要かを判断する基本的な基準です。
内部エネルギーが分かれば、比熱(heat capacity)を直接計算できます。
定積モル比熱 $C_V$ は、体積一定のもとで温度を1 K 上げるのに必要なエネルギーです。 定義は $C_V = \dfrac{1}{n}\dfrac{dU}{dT}$ です。
$U = \dfrac{f}{2}nRT$ を $T$ で微分すると:
$$\frac{dU}{dT} = \frac{f}{2}nR$$
したがって、
$$C_V = \frac{1}{n}\frac{dU}{dT} = \frac{f}{2}R$$
$$C_V = \frac{f}{2}R$$
| 分子の種類 | 有効自由度 $f$ | $C_V = \frac{f}{2}R$ | $C_V$ の値 [J/(mol$\cdot$K)] | 比熱比 $\gamma = C_P/C_V$ |
|---|---|---|---|---|
| 単原子 | 3 | $\frac{3}{2}R$ | 12.5 | $\frac{5}{3} \approx 1.67$ |
| 二原子(室温) | 5 | $\frac{5}{2}R$ | 20.8 | $\frac{7}{5} = 1.40$ |
| 非直線形三原子(室温) | 6 | $3R$ | 24.9 | $\frac{8}{6} \approx 1.33$ |
ここで $C_P = C_V + R$(理想気体のマイヤーの関係式)を使って $\gamma = C_P / C_V$ を計算しています。 これらの値は、実験で測定された気体の比熱とよく一致します。
誤解:「比熱比 $\gamma$ はすべての気体で $1.4$」
正しい理解:$\gamma = 1.4$ は二原子分子($f = 5$)の室温での値です。 単原子分子では $\gamma \approx 1.67$、三原子分子では $\gamma \approx 1.33$ です。 $\gamma$ は自由度で決まるので、分子の種類と温度によって異なります。
定圧で加熱すると、気体は膨張して外部に仕事をします。 定積では加えた熱がすべて温度上昇に使われますが、 定圧では仕事の分だけ余計に熱が必要です。
その差 $C_P - C_V$ が理想気体では常に $R$ になることは、 熱力学第一法則と状態方程式から導けます(T-8-2 で扱います)。
エネルギー等分配則と自由度の概念は、熱力学の定量的な議論の基盤です。
Q1. 単原子分子の内部エネルギーが $U = \frac{3}{2}nRT$ となる理由を、自由度の観点から説明してください。
Q2. 二原子分子の回転自由度が3ではなく2である理由を述べてください。
Q3. 二原子分子の振動自由度が室温で凍結する条件を、$kT$ と $h\nu$ を用いて述べてください。
Q4. 自由度 $f$ の理想気体の比熱比 $\gamma$ を $f$ を用いて表してください。
自由度とエネルギー等分配則の理解を問題で確認しましょう。
室温($T = 300$ K)において、アルゴン(Ar、単原子分子)2 mol の内部エネルギー $U$ を求めよ。$R = 8.31$ J/(mol$\cdot$K) とする。
$U = 7480$ J $\approx 7.48$ kJ
アルゴンは単原子分子なので、自由度 $f = 3$(並進のみ)です。
$U = \dfrac{f}{2}nRT = \dfrac{3}{2} \times 2 \times 8.31 \times 300 = 7479$ J $\approx 7.48$ kJ
ある理想気体の比熱比が $\gamma = 1.40$ であることが実験で分かった。次の問いに答えよ。
(1) この気体の有効自由度 $f$ を求めよ。
(2) この気体の定積モル比熱 $C_V$ と定圧モル比熱 $C_P$ を求めよ。
(3) この気体はどのような分子から成ると考えられるか。理由を述べよ。
(1) $f = 5$
(2) $C_V = \frac{5}{2}R = 20.8$ J/(mol$\cdot$K)、$C_P = \frac{7}{2}R = 29.1$ J/(mol$\cdot$K)
(3) 室温における二原子分子($\text{N}_2$, $\text{O}_2$ など)と考えられる。
(1) $\gamma = \dfrac{f+2}{f}$ より $1.40 = \dfrac{f+2}{f}$。$1.40f = f + 2$ より $0.40f = 2$、$f = 5$。
(2) $C_V = \frac{f}{2}R = \frac{5}{2} \times 8.31 = 20.8$ J/(mol$\cdot$K)
$C_P = C_V + R = 20.8 + 8.31 = 29.1$ J/(mol$\cdot$K)
(3) 有効自由度 $f = 5$ は並進3 + 回転2 に対応します。これは二原子分子の室温での値です。振動自由度は量子効果により凍結しているため、$f = 5$ となります。空気の主成分である $\text{N}_2$ や $\text{O}_2$ が代表例です。
窒素分子($\text{N}_2$)の振動数は $\nu = 7.07 \times 10^{13}$ Hz である。$k = 1.38 \times 10^{-23}$ J/K、$h = 6.63 \times 10^{-34}$ J$\cdot$s として、次の問いに答えよ。
(1) 振動のエネルギー量子 $h\nu$ を計算し、室温($T = 300$ K)における $kT$ と比較せよ。
(2) 振動が熱的に励起されるようになる温度の目安($kT \approx h\nu$ となる温度)を求めよ。
(3) (2) の温度における窒素の有効自由度は何になると予想されるか。また、そのときの $C_V$ と $\gamma$ はいくらか。
(1) $h\nu \approx 4.69 \times 10^{-20}$ J、$kT \approx 4.14 \times 10^{-21}$ J。$h\nu / kT \approx 11.3$ であり、$h\nu \gg kT$。
(2) $T \approx 3400$ K
(3) $f = 7$、$C_V = \frac{7}{2}R \approx 29.1$ J/(mol$\cdot$K)、$\gamma = \frac{9}{7} \approx 1.29$
(1) $h\nu = 6.63 \times 10^{-34} \times 7.07 \times 10^{13} = 4.69 \times 10^{-20}$ J
$kT = 1.38 \times 10^{-23} \times 300 = 4.14 \times 10^{-21}$ J
$h\nu / kT = 4.69 \times 10^{-20} / 4.14 \times 10^{-21} \approx 11.3$
振動の量子は熱エネルギーの約11倍であり、室温では振動はほとんど励起されません。
(2) $kT \approx h\nu$ より $T \approx h\nu / k = 4.69 \times 10^{-20} / 1.38 \times 10^{-23} \approx 3400$ K
この温度を特性温度($\Theta_{\text{vib}}$)と呼びます。
(3) $T \approx 3400$ K では振動の自由度2が励起されるので、$f = 5 + 2 = 7$。
$C_V = \frac{7}{2}R = 29.1$ J/(mol$\cdot$K)、$\gamma = \frac{7+2}{7} = \frac{9}{7} \approx 1.29$
実際の窒素の比熱は温度とともに $\frac{5}{2}R$ から $\frac{7}{2}R$ へ漸増することが実験で確認されており、この予測と整合します(ただし、3400 K 付近では窒素の解離も始まるため、定量的には補正が必要です)。