第7章 気体の性質

気体の分子運動論
─ 圧力を分子の衝突から導出する

高校物理では、気体の圧力が「分子が容器の壁に衝突することで生じる」と学びます。 そして $P = \dfrac{1}{3}nm\overline{v^2}$ という結果を公式として使います。

大学物理では、この公式を「1個の分子が壁に与える力積」という出発点から、数式で導出します。 導出の過程を追うことで、公式の中の $\dfrac{1}{3}$ や $\overline{v^2}$(二乗平均速度)がどこから来るのかが明確になります。

この記事では、分子運動論の導出を1ステップずつ追い、 圧力という巨視的な量が微視的な分子の運動からどう決まるかを理解します。

1高校での扱いを確認する

高校物理では、気体の圧力について次のように学びます。

  • 気体は多数の分子が高速で運動しており、容器の壁に衝突することで圧力が生じる
  • 分子の速さが大きいほど、また分子の数が多いほど、圧力は大きくなる
  • 圧力の公式として $P = \dfrac{1}{3}nm\overline{v^2}$($n$: 単位体積あたりの分子数、$m$: 分子の質量、$\overline{v^2}$: 速度の二乗平均)が与えられる

この説明は定性的には正しいですが、いくつかの疑問が残ります。

  • $\dfrac{1}{3}$ という係数はどこから出てくるのか
  • $\overline{v^2}$(二乗平均)はなぜ普通の平均 $\bar{v}$ ではないのか
  • 「分子が壁に衝突する」ことから、どのようなステップを経て上の公式に到達するのか

高校ではこれらに答える必要はなく、公式を使って計算できれば十分です。 しかし大学物理では、これらすべてに明確な答えを与えることができます。

2大学の視点で何が変わるか

大学物理での分子運動論は、高校で結果だけ覚えていた公式を、力学の基本法則(力積と運動量)から導出するものです。

高校 vs 大学:気体の圧力の理解
高校:公式を覚えて使う
$P = \frac{1}{3}nm\overline{v^2}$ を暗記。
$\frac{1}{3}$ の由来は説明されない。
大学:1分子の衝突から導出する
力積 → 力 → 圧力の手順で導く。
$\frac{1}{3}$ は空間の等方性から出る。
高校:$\overline{v^2}$ は「そういう量」
なぜ二乗平均かは不明。
大学:運動エネルギーとの関係で自然に登場
力積の計算で $v^2$ が必然的に現れる。
高校:圧力と温度の関係が公式的
$\frac{1}{2}m\overline{v^2} = \frac{3}{2}kT$ を暗記。
大学:温度は分子の運動エネルギーの尺度
温度の「意味」が分かる。
この記事で得られること

圧力の公式を自力で導出できるようになる。 1個の分子の力積から出発して $P = \frac{1}{3}nm\overline{v^2}$ を導く全過程を追います。 公式を忘れても、導き直すことができるようになります。

$\frac{1}{3}$ の意味が分かる。 3次元空間の等方性($x, y, z$ 方向の対称性)から $\frac{1}{3}$ が出ることを確認します。

「巨視的な量を微視的な量から導く」思考法を身につける。 圧力計で測る巨視的な量が、個々の分子の運動という微視的な量から決まる。 この考え方は統計力学の出発点であり、熱力学全体の理解を深めます。

31分子が壁に与える力積

導出の出発点は、「1個の分子が容器の壁に衝突したとき、壁にどれだけの力を及ぼすか」です。

モデルの設定

一辺 $L$ の立方体の容器に、質量 $m$ の同種の分子が $N$ 個入っているとします。 分子間の衝突は無視し(理想気体の仮定)、壁との衝突は弾性衝突とします。

1回の衝突での力積

$x$ 方向に速度 $v_x > 0$ で壁($x = L$ の面)に向かう分子1個を考えます。 弾性衝突なので、衝突後の $x$ 方向速度は $-v_x$ になります(符号が反転)。

壁が分子に与える力積は、

$$\Delta p_{\text{分子}} = m(-v_x) - m(v_x) = -2mv_x$$

作用・反作用の法則により、分子が壁に与える力積は、

1回の衝突で分子が壁に与える力積

$$\Delta p_{\text{壁}} = 2mv_x$$

$m$: 分子の質量、$v_x$: 衝突前の $x$ 方向速度($v_x > 0$)

衝突の時間間隔

この分子が $x = L$ の壁に衝突してから、反対側の壁($x = 0$)で跳ね返り、再び $x = L$ の壁に戻ってくるまでの時間は、

$$\Delta t = \frac{2L}{v_x}$$

これは往復の距離 $2L$ を速さ $|v_x| = v_x$ で割ったものです。

1分子が壁に及ぼす平均の力

力は力積を時間で割ったものです(力の定義 $F = \Delta p / \Delta t$ の平均版)。 この分子が $x = L$ の壁に及ぼす平均の力は、

1分子が壁に及ぼす平均の力の計算

$$f = \frac{\Delta p_{\text{壁}}}{\Delta t} = \frac{2mv_x}{\dfrac{2L}{v_x}} = \frac{mv_x^2}{L}$$

ここで重要なのは、結果に $v_x^2$ が現れていることです。 速度の二乗が出てくるのは、力積が $v_x$ に比例し、衝突頻度も $v_x$ に比例するためです。 この2つの掛け算で $v_x^2$ になります。

落とし穴:なぜ $\overline{v^2}$ であって $\bar{v}^2$ ではないのか

誤解:「分子の平均速度を使えば $P = \frac{1}{3}nm\bar{v}^2$ になるのでは」

正しい理解:力は $v_x^2$ に比例するので、$N$ 個の分子の平均を取ると $\overline{v_x^2}$ が現れます。 一般に $\overline{v^2} \neq \bar{v}^2$ です(速度の分布に幅があるとき、二乗の平均は平均の二乗より大きくなります)。

4N分子の平均 ─ 等方性の仮定

1個の分子が壁に及ぼす力が $f = mv_x^2 / L$ と求まりました。 次に、$N$ 個の分子全体が壁に及ぼす力を考えます。

N分子の合計の力

$N$ 個の分子の $x$ 方向速度をそれぞれ $v_{x1}, v_{x2}, \ldots, v_{xN}$ とすると、 $x = L$ の面に対する全分子の力の合計は、

$$F = \sum_{i=1}^{N} \frac{mv_{xi}^2}{L} = \frac{Nm\overline{v_x^2}}{L}$$

ここで $\overline{v_x^2} = \dfrac{1}{N}\sum_{i=1}^{N} v_{xi}^2$ は、$v_x^2$ の $N$ 個の分子にわたる平均です。

等方性の仮定

気体の分子は、特定の方向に偏って運動しているわけではありません。 $x, y, z$ のどの方向も対等であるはずです。 これを等方性と呼びます。

各分子の速度の大きさ(速さ)の二乗は、

$$v^2 = v_x^2 + v_y^2 + v_z^2$$

$N$ 個の分子の平均を取ると、

$$\overline{v^2} = \overline{v_x^2} + \overline{v_y^2} + \overline{v_z^2}$$

等方性より $\overline{v_x^2} = \overline{v_y^2} = \overline{v_z^2}$ なので、

等方性からの帰結

$$\overline{v_x^2} = \frac{1}{3}\overline{v^2}$$

$\frac{1}{3}$ は、3次元空間の $x, y, z$ の3方向に速度が等しく分配されることから生じる。
$\frac{1}{3}$ の正体

高校で暗記していた $\frac{1}{3}$ は、空間が3次元であること、 そして分子の運動が特定の方向に偏っていないこと(等方性)から導かれる係数です。

もし2次元の世界であれば $\frac{1}{2}$、4次元なら $\frac{1}{4}$ になります。 $\frac{1}{3}$ に特別な物理はなく、空間の次元を反映しているだけです。

5圧力の導出

準備が整ったので、圧力を導出します。

力から圧力へ

$x = L$ の面に作用する全分子の力は、

$$F = \frac{Nm\overline{v_x^2}}{L} = \frac{Nm}{L} \cdot \frac{1}{3}\overline{v^2} = \frac{Nm\overline{v^2}}{3L}$$

圧力は力を面積で割ったものです。$x = L$ の面の面積は $L^2$ なので、

圧力の導出

$$P = \frac{F}{L^2} = \frac{Nm\overline{v^2}}{3L \cdot L^2} = \frac{Nm\overline{v^2}}{3L^3} = \frac{Nm\overline{v^2}}{3V}$$

ここで $V = L^3$ は容器の体積です。

$n = N/V$(単位体積あたりの分子数、数密度)を使うと、

気体の圧力(分子運動論)

$$P = \frac{1}{3}nm\overline{v^2} = \frac{1}{3}\rho\overline{v^2}$$

$n = N/V$: 数密度、$m$: 分子の質量、$\rho = nm$: 気体の密度、$\overline{v^2}$: 速度の二乗平均。
もう1つの形として $PV = \frac{1}{3}Nm\overline{v^2}$ もよく使います。

これが、高校で暗記していた公式の導出です。 立方体の容器を仮定しましたが、結果は容器の形によりません(圧力は局所的な量であるため)。

導出を振り返る ── 3つのステップ

ステップ1:1分子が壁に与える力積 $2mv_x$ を計算する。

ステップ2:往復時間 $2L/v_x$ で割って、1分子が壁に及ぼす平均の力 $mv_x^2/L$ を得る。

ステップ3:$N$ 個の分子の平均を取り、等方性 $\overline{v_x^2} = \frac{1}{3}\overline{v^2}$ を使って、$P = \frac{1}{3}nm\overline{v^2}$ を得る。

各ステップは力学の基本(運動量、力積、作用反作用)だけを使っています。 新しい物理法則は一切追加していません。

6二乗平均速度と温度

導出した圧力の式 $PV = \frac{1}{3}Nm\overline{v^2}$ を、分子の運動エネルギーと結びつけます。

運動エネルギーとの関係

1分子の平均の運動エネルギーは $\overline{E_k} = \frac{1}{2}m\overline{v^2}$ です。 これを使うと、

$$PV = \frac{1}{3}Nm\overline{v^2} = \frac{2}{3}N \cdot \frac{1}{2}m\overline{v^2} = \frac{2}{3}N\overline{E_k}$$

一方、理想気体の状態方程式 $PV = NkT$($k$: ボルツマン定数)と比較すると、

$$\frac{2}{3}N\overline{E_k} = NkT$$

分子の平均運動エネルギーと温度

$$\overline{E_k} = \frac{1}{2}m\overline{v^2} = \frac{3}{2}kT$$

$k = 1.38 \times 10^{-23}$ J/K: ボルツマン定数。温度 $T$ は分子の平均運動エネルギーに比例する。

二乗平均速度(rms速度)

上の式から、速度の二乗平均の平方根(二乗平均速度、rms速度)を求めることができます。

二乗平均速度

$$v_{\text{rms}} = \sqrt{\overline{v^2}} = \sqrt{\frac{3kT}{m}}$$

$T$: 絶対温度、$m$: 分子1個の質量。温度が高いほど、質量が小さいほど、分子は速く運動する。

具体的な値

室温($T = 300$ K)での窒素分子($\text{N}_2$、$m = 4.65 \times 10^{-26}$ kg)の場合:

$$v_{\text{rms}} = \sqrt{\frac{3 \times 1.38 \times 10^{-23} \times 300}{4.65 \times 10^{-26}}} \approx 517 \text{ m/s}$$

気体の分子は、室温でも秒速500 m程度(音速に近い速さ)で運動しています。

温度の微視的な意味

$\frac{1}{2}m\overline{v^2} = \frac{3}{2}kT$ は、温度が「分子の平均運動エネルギーの尺度」であることを示しています。

温度が高い = 分子が激しく動いている。温度が低い = 分子がゆっくり動いている。 温度は人間が感じる「熱い・冷たい」の主観的な感覚ではなく、分子の運動という客観的な量と結びついています。

7つながりマップ

分子運動論は、熱力学の各テーマを微視的に理解するための出発点です。

  • → T-7-2 理想気体の状態方程式:本記事の結果 $PV = \frac{1}{3}Nm\overline{v^2}$ と $\frac{1}{2}m\overline{v^2} = \frac{3}{2}kT$ から、$PV = NkT$ を導く。ボルツマン定数 $k$ の意味を理解する。
  • → T-7-3 内部エネルギーと温度:$\frac{1}{2}m\overline{v^2} = \frac{3}{2}kT$ を自由度の概念で拡張する。単原子・二原子分子の内部エネルギーの違いを理解する。
  • → T-8-1 熱と仕事:気体が外部に仕事をするとき、分子の運動エネルギーがどう変化するかを考える。
  • ← M-4-1 運動量と力積:本記事の導出の基礎となる力積の概念。壁に与える力積 $2mv_x$ の計算は、力学の運動量保存の直接的な応用である。

📋まとめ

  • 気体の圧力は、多数の分子が壁に衝突することで生じる。1分子の力積 $2mv_x$ を出発点に、力学の基本法則だけで圧力の公式を導出できる
  • 1分子が壁に及ぼす平均の力は $mv_x^2/L$。力積が $v_x$ に比例し、衝突頻度も $v_x$ に比例するため、結果に$v^2$(二乗)が現れる
  • $\frac{1}{3}$ は3次元空間の等方性($\overline{v_x^2} = \overline{v_y^2} = \overline{v_z^2} = \frac{1}{3}\overline{v^2}$)から導かれる
  • 圧力の公式:$P = \frac{1}{3}nm\overline{v^2}$。分子の運動エネルギーと温度の関係:$\frac{1}{2}m\overline{v^2} = \frac{3}{2}kT$
  • 二乗平均速度 $v_{\text{rms}} = \sqrt{3kT/m}$ により、室温での気体分子の速さは約500 m/s程度と見積もれる

確認テスト

Q1. 気体の圧力の公式 $P = \frac{1}{3}nm\overline{v^2}$ において、$\frac{1}{3}$ はどのような物理的仮定から導かれますか。

▶ クリックして解答を表示分子の運動が等方的であるという仮定($\overline{v_x^2} = \overline{v_y^2} = \overline{v_z^2}$)から導かれます。速度の二乗は $\overline{v^2} = \overline{v_x^2} + \overline{v_y^2} + \overline{v_z^2} = 3\overline{v_x^2}$ なので、$\overline{v_x^2} = \frac{1}{3}\overline{v^2}$ となります。

Q2. 1分子が壁に及ぼす平均の力が $v_x^2$ に比例する理由を説明してください。

▶ クリックして解答を表示力積($2mv_x$)が $v_x$ に比例し、単位時間あたりの衝突回数($v_x / 2L$)も $v_x$ に比例するためです。力 = 力積 $\times$ 衝突頻度 なので、$v_x \times v_x = v_x^2$ に比例します。

Q3. 温度 $T$ と分子の平均運動エネルギー $\overline{E_k}$ の関係を式で書き、温度の微視的な意味を述べてください。

▶ クリックして解答を表示$\overline{E_k} = \frac{3}{2}kT$。温度は分子の平均運動エネルギーに比例する量であり、温度が高いほど分子は激しく運動しています。温度は分子運動の激しさの尺度です。

Q4. $\overline{v^2}$ と $\bar{v}^2$ は一般に等しくありません。どちらが大きいですか。その理由も述べてください。

▶ クリックして解答を表示$\overline{v^2} \geq \bar{v}^2$ です(等号は全分子が同じ速さの場合のみ)。これは数学的には「二乗平均 $\geq$ 平均の二乗」に相当し、分散が0でない限り厳密な不等号が成り立ちます。直感的には、速度の分布に幅があると、大きな速度の寄与が二乗で増幅されるためです。

10演習問題

分子運動論の導出と応用を、問題を通じて確認しましょう。

A 基礎レベル

7-1-1 A 基礎 rms速度の計算

ヘリウム原子($m = 6.64 \times 10^{-27}$ kg)の室温($T = 300$ K)における二乗平均速度 $v_{\text{rms}}$ を求めよ。ボルツマン定数は $k = 1.38 \times 10^{-23}$ J/K とする。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$v_{\text{rms}} \approx 1370$ m/s

解説

$v_{\text{rms}} = \sqrt{\dfrac{3kT}{m}} = \sqrt{\dfrac{3 \times 1.38 \times 10^{-23} \times 300}{6.64 \times 10^{-27}}}$

$= \sqrt{\dfrac{1.242 \times 10^{-20}}{6.64 \times 10^{-27}}} = \sqrt{1.87 \times 10^{6}} \approx 1370$ m/s

ヘリウムは窒素より軽いため、同じ温度でも rms 速度が大きくなります。

B 発展レベル

7-1-2 B 発展 圧力の導出 論述

一辺 $L$ の立方体容器に、質量 $m$ の同種分子が $N$ 個入っている理想気体を考える。分子と壁の衝突は弾性衝突とする。次の問いに答えよ。

(1) $x$ 方向に速度 $v_x$ で壁に衝突する分子1個が、壁に与える力積を求めよ。

(2) この分子が同じ壁に再衝突するまでの時間間隔を求めよ。

(3) (1)(2) の結果を用いて、$N$ 個の分子全体が壁に及ぼす圧力 $P$ を $N, m, \overline{v^2}, V$ を用いて表せ。等方性の仮定を明記すること。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $\Delta p = 2mv_x$

(2) $\Delta t = 2L / v_x$

(3) $P = \dfrac{1}{3}\dfrac{Nm\overline{v^2}}{V}$

解説

(1) 弾性衝突により、分子の $x$ 方向の運動量は $mv_x$ から $-mv_x$ に変化します。作用・反作用の法則により、壁が受ける力積は $\Delta p = 2mv_x$ です。

(2) 壁で反射した分子は距離 $2L$ を往復して戻るので、$\Delta t = 2L / v_x$ です。

(3) 1分子が壁に及ぼす平均の力は $f = \Delta p / \Delta t = mv_x^2 / L$ です。$N$ 個の分子の合計は $F = Nm\overline{v_x^2} / L$ です。

ここで等方性の仮定(分子の運動が $x, y, z$ 方向に等しく分配される)を用いると、$\overline{v_x^2} = \frac{1}{3}\overline{v^2}$ となります。

壁の面積 $S = L^2$、体積 $V = L^3$ より、$P = F/S = \frac{Nm\overline{v^2}}{3L^3} = \frac{1}{3}\frac{Nm\overline{v^2}}{V}$ です。

採点ポイント
  • 力積 $2mv_x$ の導出(2点)
  • 往復時間 $2L/v_x$ の導出(2点)
  • $N$ 個の平均を取る過程(2点)
  • 等方性の仮定の明記と $\overline{v_x^2} = \frac{1}{3}\overline{v^2}$ の使用(2点)

C 応用レベル

7-1-3 C 応用 2次元気体 思考力

仮に2次元の世界を考え、一辺 $L$ の正方形の容器に $N$ 個の質量 $m$ の分子が閉じ込められているとする。分子は2次元平面内でのみ運動し、壁との衝突は弾性衝突とする。次の問いに答えよ。

(1) 3次元の場合と同様の手順で、2次元気体の圧力(単位長さあたりの力)$P_{2D}$ を $N, m, \overline{v^2}, L$ を用いて表せ。

(2) 3次元の場合の $\frac{1}{3}$ に対応する係数は何になるか。その理由を述べよ。

(3) 2次元理想気体の状態方程式を、$P_{2D}, L^2, N, k, T$ を用いて書き下せ。ここで $L^2$ は容器の面積(2次元における「体積」に相当)である。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $P_{2D} = \dfrac{Nm\overline{v^2}}{2L^2}$

(2) 係数は $\frac{1}{2}$

(3) $P_{2D} L^2 = NkT$

解説

(1) 1分子が壁に及ぼす力は3次元の場合と同様に $f = mv_x^2 / L$ です。$N$ 個の合計は $F = Nm\overline{v_x^2}/L$ です。

2次元では $\overline{v^2} = \overline{v_x^2} + \overline{v_y^2}$、等方性より $\overline{v_x^2} = \frac{1}{2}\overline{v^2}$ です。

壁の「面積」は長さ $L$ なので、$P_{2D} = F/L = Nm\overline{v^2}/(2L^2)$ です。

(2) 3次元の $\frac{1}{3}$ は「3方向に等分配」から来ていました。2次元では「2方向に等分配」なので $\frac{1}{2}$ になります。一般に $d$ 次元なら $\frac{1}{d}$ です。

(3) 2次元では1分子あたりの平均運動エネルギーは $\frac{1}{2}m\overline{v^2} = \frac{2}{2}kT = kT$(各自由度に $\frac{1}{2}kT$、自由度2)です。よって $Nm\overline{v^2} = 2NkT$ であり、$P_{2D}L^2 = \frac{1}{2} \cdot 2NkT = NkT$ となります。

採点ポイント
  • 2次元での等方性 $\overline{v_x^2} = \frac{1}{2}\overline{v^2}$ を正しく使用(3点)
  • 圧力の次元の違い(力/長さ)を認識(2点)
  • $\frac{1}{d}$ の一般化(2点)
  • 2次元の状態方程式を正しく導出(3点)