高校物理では、ニュートンの運動の3法則を「覚えるべきルール」として学びます。
第1法則は慣性の法則、第2法則は $F = ma$、第3法則は作用・反作用の法則。
これらを暗記し、問題に適用するのが高校のアプローチです。
大学物理では、3法則それぞれにより深い意味があることが見えてきます。
第1法則は慣性系という座標系の存在を保証する法則であり、
第2法則は $F = ma$ ではなく運動量の時間変化率 $F = dp/dt$ として定式化されます。
そして第3法則からは、運動量保存則が数学的に証明できます。
この記事では、高校で学んだ3法則を大学の視点で再定式化し、
各法則が物理学の体系の中でどのような役割を果たしているかを明確にします。
高校物理では、ニュートンの運動の3法則を次のように学びます。
高校ではこれら3つを「運動の基本ルール」として覚え、問題を解く際の出発点とします。 特に第2法則 $F = ma$ は、力学のほぼ全ての問題で使う中心的な道具です。
この扱い方で入試問題は十分に解けます。 しかし、次のような疑問に答えることは、高校の枠組みでは難しくなります。
大学物理では、これらの疑問に明確な答えを与えることができます。
3法則を大学の視点で見直すと、各法則の役割がより明確になります。
第1法則が独立した法則である理由が分かる。 第1法則は第2法則の特殊ケースではなく、「どの座標系で法則を適用するか」を定める、第2法則の前提条件です。
$F = ma$ より一般的な形を使えるようになる。 $F = dp/dt$ という形を使えば、質量が変化する系も扱えます。質量一定のとき $F = ma$ に帰着するので、高校の公式は特殊ケースです。
運動量保存則を証明できるようになる。 第3法則から出発して、外力のない2体系の全運動量が保存することを、数式で示すことができます。
3法則の体系的な関係が見える。 第1法則が舞台を定め、第2法則が運動の方程式を与え、第3法則が保存則を保証する。この構造が分かります。
では、各法則を順に見ていきましょう。
高校では、第1法則を「力が働かなければ等速直線運動を続ける」と習います。 これは第2法則で $F = 0$ とすれば $a = 0$(等速直線運動)が導けるので、一見すると第2法則の特殊ケースに見えます。
しかし、ここには重要な問題が隠れています。 「等速直線運動」とは、誰から見て等速直線運動なのでしょうか。
たとえば、電車の中で手を離したボールを考えます。
ブレーキをかけている電車の中では、力を加えていないのにボールが加速します。 つまり、$F = 0$ なのに $a \neq 0$ です。 第2法則 $F = ma$ が成り立っていません。
これは第2法則が間違っているのではなく、 減速中の電車という座標系では、ニュートンの法則がそもそも成り立たないのです。
「力が作用しない物体が等速直線運動を行うような座標系(慣性系)が存在する」
このように、第1法則は第2法則の特殊ケースではなく、 第2法則が適用できる舞台(座標系)を定める法則です。 第1法則がなければ、第2法則をどの座標系で適用すべきかが分かりません。
第1法則が成り立つ座標系を慣性系、成り立たない座標系を非慣性系と呼びます。
非慣性系ではニュートンの法則がそのまま成り立たないため、見かけの力(慣性力)を導入する必要があります。 遠心力やコリオリ力が典型例です。
誤解:「$F = 0$ を $F = ma$ に代入すれば $a = 0$。だから第1法則は不要」
正しい理解:第2法則 $F = ma$ が成り立つのは慣性系のみ。 「慣性系が存在する」ことを保証するのが第1法則の役割。 第1法則なしでは、第2法則を適用すべき座標系が定まらない。
1つの慣性系に対して等速直線運動する座標系も慣性系です。 地上が慣性系なら、地上に対して一定速度で走る電車の中も慣性系です。 慣性系は1つではなく、無数に存在します。
これは後に学ぶガリレイ変換(M-2-3 以降)と関係しています。 異なる慣性系の間で物理法則の形が変わらないこと(ガリレイの相対性原理)は、 古典力学の重要な性質です。
高校で学ぶ第2法則の形は $F = ma$ です。 この式は力学の問題を解くうえで非常に便利ですが、暗黙の前提があります。 それは質量 $m$ が一定であることです。
質量が変化する系もあります。 たとえばロケットは燃料を噴射しながら飛ぶので、質量が時々刻々減少します。 このような場合、$F = ma$ をそのまま使うことはできません。
ニュートンの第2法則のより一般的な形は、運動量 $p = mv$ を使った表現です。
$$\boldsymbol{F} = \frac{d\boldsymbol{p}}{dt}$$
質量 $m$ が一定の場合にこれがどうなるか確認しましょう。
$p = mv$ なので、
$$F = \frac{dp}{dt} = \frac{d(mv)}{dt}$$
$m$ が一定なら $m$ は微分の外に出せて、
$$F = m\frac{dv}{dt} = ma$$
高校で学んだ $F = ma$ が得られました。
つまり、$F = ma$ は $F = dp/dt$ の特殊な場合(質量一定)です。 大学では、より一般的な $F = dp/dt$ を基本式として使います。
M-1-1 で学んだように、加速度は位置の2階微分です:$a = d^2x/dt^2$。 したがって、質量一定の場合の第2法則は次のように書けます。
$$F = m\frac{d^2 x}{dt^2}$$
高校では「$F = ma$ から $a$ を求め、等加速度の公式に代入する」という手順を取りました。 大学では「$F = m(d^2x/dt^2)$ という微分方程式を解く」というアプローチになります。 高校の手順は、力が一定の場合にのみ使える特殊な解法です。
第2法則 $F = dp/dt$ は、「力が分かれば運動が決まる」ことを述べています。
力 $F$ が与えられたとき、$F = m(d^2x/dt^2)$ を初期条件のもとで解けば、 物体の位置 $x(t)$ が時刻の関数として完全に決定されます。
これが大学物理の力学における中心的な問題設定です。 「力 → 微分方程式 → 運動」という流れが、全ての力学問題に共通する枠組みです。
高校では、第3法則を「AがBに力を及ぼすと、BもAに同じ大きさで逆向きの力を及ぼす」と学びます。 数式で書けば、
$$\boldsymbol{F}_{A \to B} = -\boldsymbol{F}_{B \to A}$$
この法則は入試でも頻出であり、力のつりあいとの区別が問われます。
誤解:「作用反作用の2力はつりあっているので物体は動かない」
正しい理解:作用反作用の2力は異なる物体に働く。 1つの物体に働く力ではないので「つりあい」の議論に使えない。 つりあいは同じ物体に働く複数の力について議論するもの。
大学物理で重要なのは、第3法則から運動量保存則が証明できることです。 2つの物体が互いに力を及ぼし合い、外力がない場合を考えます。
物体1と物体2が互いに力を及ぼし合い、外力は働いていないとします。
物体1に関する運動方程式:$\dfrac{d\boldsymbol{p}_1}{dt} = \boldsymbol{F}_{2 \to 1}$
物体2に関する運動方程式:$\dfrac{d\boldsymbol{p}_2}{dt} = \boldsymbol{F}_{1 \to 2}$
両辺を足し合わせます:
$$\frac{d\boldsymbol{p}_1}{dt} + \frac{d\boldsymbol{p}_2}{dt} = \boldsymbol{F}_{2 \to 1} + \boldsymbol{F}_{1 \to 2}$$
左辺は全運動量 $\boldsymbol{P} = \boldsymbol{p}_1 + \boldsymbol{p}_2$ の時間微分です:
$$\frac{d\boldsymbol{P}}{dt} = \boldsymbol{F}_{2 \to 1} + \boldsymbol{F}_{1 \to 2}$$
第3法則より $\boldsymbol{F}_{1 \to 2} = -\boldsymbol{F}_{2 \to 1}$ なので、右辺は $0$ です:
$$\frac{d\boldsymbol{P}}{dt} = \boldsymbol{0}$$
これは全運動量 $\boldsymbol{P}$ が時間的に変化しないこと、つまり運動量が保存することを意味します。
高校では運動量保存則を「法則」として独立に学びますが、 実はそれは第2法則と第3法則の帰結です。
第3法則(作用反作用)→ 内力の和がゼロ → 全運動量の時間微分がゼロ → 運動量保存
このように、大学物理では「なぜ運動量が保存するのか」に明確な答えを与えることができます。 暗記すべき独立な法則が減り、より少ない原理からより多くの結果を導けるようになります。
外力 $\boldsymbol{F}_{\text{ext}}$ がある場合は、$d\boldsymbol{P}/dt = \boldsymbol{F}_{\text{ext}}$ となります。 外力がゼロでなくても、外力の合計がゼロなら運動量は保存します。
たとえば衝突問題で「衝突の瞬間は外力の力積が無視できる」として運動量保存を使うのは、 この結果の応用です(M-4-1 で詳しく扱います)。
ニュートンの3法則は力学の全体を支える基盤であり、これ以降のほぼ全ての記事に関係します。
Q1. ニュートンの第1法則が第2法則の特殊ケース($F = 0$)ではない理由を説明してください。
Q2. 第2法則を運動量を使って書くとどうなりますか。また、$F = ma$ はその式からどのような条件で導かれますか。
Q3. 外力のない2体系で運動量が保存することを、3法則のどの法則を使って証明しますか。
Q4. 作用反作用の法則と力のつりあいの違いを説明してください。
ニュートンの3法則の理解を問題で確認しましょう。
質量 $m = 2.0$ kg の物体に一定の力 $F = 6.0$ N が水平方向に作用している。初速度はゼロとする。次の問いに答えよ。
(1) $t = 0$ における運動量 $p_0$ を求めよ。
(2) $F = dp/dt$ を用いて、$t$ 秒後の運動量 $p(t)$ を求めよ。
(3) $p(t) = mv(t)$ を用いて速度 $v(t)$ を求め、$F = ma$ から求めた結果と一致することを確認せよ。
(1) $p_0 = mv_0 = 2.0 \times 0 = 0$ kg$\cdot$m/s
(2) $F = dp/dt$ より $dp = F\,dt$。両辺を $0$ から $t$ まで積分すると $p(t) - p_0 = Ft$。よって $p(t) = 6.0t$ kg$\cdot$m/s
(3) $v(t) = p(t)/m = 6.0t/2.0 = 3.0t$ m/s。一方 $F = ma$ より $a = 6.0/2.0 = 3.0$ m/s$^2$、$v = at = 3.0t$ m/s。一致する。
$F = dp/dt$ と $F = ma$ は質量一定のとき同じ結果を与えることを、具体的な数値で確認する問題です。 $F = dp/dt$ の形は、力積 $F\Delta t = \Delta p$ と同じ内容を微分の形で述べたものです。
質量 $m_1$ の物体1と質量 $m_2$ の物体2が一直線上で衝突する。衝突中、物体1が物体2に及ぼす力を $F_{1 \to 2}$ とし、外力はないものとする。
(1) 第3法則を用いて、物体2が物体1に及ぼす力 $F_{2 \to 1}$ を $F_{1 \to 2}$ で表せ。
(2) 物体1、物体2それぞれの運動方程式を $dp/dt$ の形で書け。
(3) (1)(2)を用いて、全運動量 $P = p_1 + p_2$ が保存することを証明せよ。
(1) $F_{2 \to 1} = -F_{1 \to 2}$
(2) 物体1:$dp_1/dt = F_{2 \to 1}$、物体2:$dp_2/dt = F_{1 \to 2}$
(3) 両式を足すと $d(p_1 + p_2)/dt = F_{2 \to 1} + F_{1 \to 2} = -F_{1 \to 2} + F_{1 \to 2} = 0$。よって $dP/dt = 0$、すなわち $P$ は一定。
本文中の証明を自分で再現する問題です。
ポイントは、第3法則により内力の和がゼロになることです。 外力がなければ全運動量の時間変化率はゼロとなり、運動量が保存します。
この証明は2体系に限らず、$N$ 体系に拡張できます(M-4-1 で扱います)。
加速度 $A$ で上昇するエレベーター内に質量 $m$ の物体が床の上に置かれている。
(1) 地上(慣性系)から見た運動方程式を立て、床からの垂直抗力 $N$ を求めよ。
(2) エレベーター内の観測者にとって、物体は静止して見える。しかし $N \neq mg$ であることから、この観測者にとってニュートンの第2法則 $F = ma$ はそのまま成り立たないことを説明せよ。
(3) エレベーター内の観測者がニュートンの法則を形式的に成り立たせるために導入する「見かけの力」(慣性力)の大きさと向きを求めよ。
(1) 地上から見て物体は加速度 $A$ で上昇。鉛直上向きを正として $N - mg = mA$。よって $N = m(g + A)$。
(2) エレベーター内では物体は静止($a = 0$)。ニュートンの第2法則が成り立つなら合力がゼロのはずだが、実際の力は $N - mg = mA \neq 0$。したがって第2法則がそのまま成り立たない。これはエレベーター内が非慣性系であるためである。
(3) 慣性力 $f = -mA$(下向き)を導入すると、エレベーター内では $N - mg - mA = 0$ となり、形式的にニュートンの法則が成立する。
加速するエレベーターは非慣性系の典型例です。
地上(慣性系)で運動方程式を立てれば問題なく解けます。 一方、エレベーター内(非慣性系)で考えると、実在する力だけでは運動方程式が成り立ちません。
これが第1法則の意義です。ニュートンの法則は慣性系でのみ成立し、非慣性系では慣性力という見かけの力を導入して補正する必要があります。