高校物理では、速度を「距離÷時間」、加速度を「速度変化÷時間」で定義し、等加速度運動の3公式を使って問題を解きます。
これは正しいし、入試でも十分に使える道具です。
大学物理では、速度と加速度を微分という操作で定義し直します。
これにより、3つの公式を暗記する代わりに1つの操作で導けるようになり、
加速度が一定でない運動にも同じ方法で対応できるようになります。
この記事では、高校物理の扱いと大学物理の扱いを並べて見せながら、
微分を使うと何ができるようになるのかを具体的に示します。
まず、高校物理で使う道具を確認しておきましょう。
高校物理では、速度と加速度を次のように定義します。
そして、加速度が一定の場合に使える「等加速度運動の3公式」を学びます。
$v = v_0 + at$、 $x = v_0 t + \dfrac{1}{2}at^2$、 $v^2 - v_0^2 = 2ax$
この3公式は入試でも頻出であり、十分に役立ちます。 ここで、この道具の特徴を整理しておきます。
これらは高校物理の欠点ではありません。 高校の範囲で必要十分な道具が提供されているだけです。 大学物理では、この道具をより汎用的なものに置き換えます。 それが微分です。
微分の説明に入る前に、この記事を読むと具体的に何ができるようになるのかを先に示します。
公式を「導ける」ようになる。 等加速度運動の3公式を、微分という1つの操作から自分で導出できるようになります。 なぜその式になるのかが分かるので、忘れても導き直せます。
扱える運動の範囲が広がる。 高校の3公式は加速度一定の場合にしか使えませんが、 微分を使えば加速度が変化する運動でも、同じ方法で速度や加速度を求められます。
物理の見え方が変わる。 「3つの公式をどう使い分けるか」ではなく、「位置を微分すれば速度が出る」という1つの原理で考えられるようになります。
では、微分とは何かを具体的に見ていきましょう。
「微分」と聞くと難しそうに感じるかもしれませんが、やっていることは実はシンプルです。
高校で「平均の速度」を求めるとき、$\bar{v} = \dfrac{\Delta x}{\Delta t}$ と計算しました。 10秒間で50m進んだなら、平均の速度は5 m/sです。
でもこれは10秒間の「平均」であって、その間に速くなったり遅くなったりしているかもしれません。 では、もっと正確に「ある瞬間」の速度を知りたかったら?
答えは単純です。$\Delta t$ をどんどん小さくしていけばいいのです。
この「$\Delta t \to 0$ の極限を取る」操作こそが微分です。 特別な才能は必要ありません。「平均を求める → 時間間隔を極限まで縮める」だけです。
$$\frac{df}{dt} = \lim_{\Delta t \to 0} \frac{f(t + \Delta t) - f(t)}{\Delta t}$$
グラフでいうと、微分とはある点での接線の傾きを求めることに相当します。 「平均の速度」がグラフの2点を結ぶ直線の傾きだとすると、 「瞬間の速度」は2点を限りなく近づけた接線の傾きです。
微分の定義を毎回計算するのは面倒なので、よく使う結果だけ覚えておきます。 この記事ではこれだけで十分です。
| 関数 $f(t)$ | 微分 $\dfrac{df}{dt}$ | 一言で |
|---|---|---|
| $c$(定数) | $0$ | 変化しないものの変化率はゼロ |
| $t$ | $1$ | |
| $t^2$ | $2t$ | |
| $t^n$ | $nt^{n-1}$ | 指数を前に出して、指数を1減らす |
ルールは1つだけ:「$t^n$ を微分すると $nt^{n-1}$」。これだけです。
誤解:「微分は大学数学で、高校生には難しい」
実際:微分の計算は、上の表のルールに従って機械的に行うだけ。 「$t^2$ の微分は $2t$」── これ以上難しいことは、この記事では起きません。
微分が大学で教えられるのは、「極限」の概念を厳密に定義するのが高校の範囲を超えるためです。 しかし計算そのものは、四則演算ができれば十分にできます。
準備ができたので、いよいよ速度を微分で定義し直しましょう。
$$v(t) = \frac{dx}{dt}$$
高校の $\bar{v} = \Delta x / \Delta t$ との違いは、$\Delta t \to 0$ の極限を取っているかどうかだけです。 等速運動では両者は一致しますが、速度が変化する運動では瞬間の速度だけが「その瞬間のスピードメーターの値」に対応します。
では、高校で習った等加速度運動の位置の式 $x(t) = v_0 t + \frac{1}{2}at^2$ を微分してみましょう。
$x(t) = v_0 t + \dfrac{1}{2}at^2$
先ほどの微分公式($t^n$ → $nt^{n-1}$)を使います:
$v_0 t$ → $v_0$($t^1$ の微分は $1$、定数 $v_0$ はそのまま)
$\dfrac{1}{2}at^2$ → $\dfrac{1}{2}a \times 2t = at$($t^2$ の微分は $2t$)
よって、
$$v(t) = \frac{dx}{dt} = v_0 + at$$
$v = v_0 + at$ が出ました。これは高校の第1式そのものです。
第1式 $v = v_0 + at$ は、位置の式を微分すれば自動的に出てくるものでした。
しかも、なぜ $v_0 + at$ という形になるのかも分かります。 位置が $t$ の2次式なら、その微分(速度)は $t$ の1次式になる。 $\frac{1}{2}$ は2次関数を微分するときに指数の $2$ と打ち消し合って消える ── ただそれだけのことです。
さらに、3公式の構造についても見えてきます。
等加速度運動には5つの量($v_0, v, a, t, x$)が登場します。 位置の式 $x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2$ から微分で速度の式 $v = v_0 + at$ が導けます。 そしてこの2つの式から $t$ を消去すると、第3式 $v^2 - v_0^2 = 2ax$ が得られます。
つまり、独立な式は実は2つだけ。 3つ目は最初の2つから導ける「おまけ」です。 $t$ が不要な場面で便利なので、わざわざ3つ目として紹介されているにすぎません。
3公式の「3」に深い必然性はなく、便利なので3つ紹介されているということです。
速度と同じ論理で、加速度も微分で定義します。
$$a(t) = \frac{dv}{dt} = \frac{d^2 x}{dt^2}$$
位置 → 速度 → 加速度は、すべて「微分する」という同じ操作の繰り返しです。
等加速度運動($x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2$)の場合:
加速度が定数になることが確認できました。 位置が $t$ の2次式 → 微分すると1次式(速度) → もう1回微分すると定数(加速度)。 「等加速度運動」とは、大学の言葉で言えば「位置が $t$ の2次関数である運動」のことです。
微分が「位置 → 速度 → 加速度」の方向なら、 逆の「加速度 → 速度 → 位置」は積分です。
$$v(t) = \int a(t)\,dt, \qquad x(t) = \int v(t)\,dt$$
「加速度が分かっているとき、速度や位置を求める」── これが大学物理の問題の基本パターンです。 次の記事(M-1-2)で扱います。
ここまでは等加速度運動で微分の使い方を確認しましたが、 微分の本当の威力は等加速度でない運動を扱えることにあります。 高校の3公式が使えない場面でも、微分なら問題なく対処できます。
位置が $x(t) = 2t^3 - 3t^2 + t$(m)で表される運動を考えます。 これは $t$ の3次関数であり、等加速度運動ではありません。 高校の3公式はまったく使えません。
しかし微分なら:
加速度は $12t - 6$ で、時間とともに変化します。 高校の道具では手も足も出ない問題が、微分なら計算するだけで解けました。
ばねにつながれた物体の位置が $x(t) = A\sin(\omega t)$ の場合:
驚くべき結果が出ました。 加速度が $-\omega^2 x$、つまり「位置に比例し、常に原点に向かう」のです。 ばねの復元力そのものが数式として現れています。
このように、微分を使えば「なぜばねにつながれた物体が往復運動するのか」を 数式で説明できるようになります。 高校では「こういうものだ」と受け入れるしかなかった現象に、理由を与えられるのです。
高校物理は、日常感覚でイメージできる範囲の現象を扱い、 公式を覚えてそれを適用するアプローチを取ります。
大学物理では、直感やイメージが追いつかない現象でも、数式で正確に答えを出せるようになります。 ばねの振動がなぜ $\sin$ になるか、イメージではなく数式が教えてくれます。
同時に、この道具で高校範囲の問題を見直すと、 公式の意味や成り立ちが見えてきます。 理解を伴った知識は忘れにくく、初見の問題にも応用が利きます。
微分の定義から分かるように、速度は位置の変化率、加速度は速度の変化率です。 両者は別物です。
誤:「高速道路を時速100kmで走っている車は加速度が大きい」
正:定速走行なら速度は変化していないので、加速度は $0$
速度がどれだけ大きくても、速度が変化していなければ加速度はゼロ。 微分の定義に戻れば、この違いは明確です。
位置・速度・加速度の微分による定義は、このあとの全ての記事の土台になります。
Q1. 位置が $x(t) = 5t^2 + 3t$ で表される運動の、時刻 $t$ における速度 $v(t)$ を求めてください。
Q2. 上の運動の加速度 $a(t)$ を求めてください。これは何を意味しますか?
Q3. 高校の等加速度運動の3公式のうち、独立なのはいくつですか?
Q4. 微分を使った速度の定義は、高校の「平均の速度」とどう違いますか?
微分を使った位置・速度・加速度の関係を、問題で確認しましょう。
一直線上を運動する物体の位置が $x(t) = 3t^2 - 2t + 1$(m)で与えられている。次の問いに答えよ。
(1) 時刻 $t$ における速度 $v(t)$ を求めよ。
(2) 時刻 $t = 2\,\text{s}$ における速度を求めよ。
(3) 加速度 $a(t)$ を求めよ。これは等加速度運動か。
(1) $v(t) = 6t - 2$ [m/s]
(2) $v(2) = 10$ m/s
(3) $a(t) = 6$ m/s$^2$(一定)。等加速度運動である。
(1) $v = \dfrac{dx}{dt} = 6t - 2$($3t^2 → 6t$、$-2t → -2$、$1 → 0$)
(2) $v(2) = 6 \times 2 - 2 = 10$ m/s
(3) $a = \dfrac{dv}{dt} = 6$ m/s$^2$。定数なので等加速度運動。初速度は $v(0) = -2$ m/s、加速度は $6$ m/s$^2$。
物体の位置が $x(t) = t^3 - 6t^2 + 9t$(m)で与えられている。次の問いに答えよ。
(1) 物体が一時的に静止する時刻をすべて求めよ。
(2) この運動は等加速度運動か。理由を述べよ。
(1) $t = 1$ s、$t = 3$ s
(2) 等加速度運動ではない。加速度 $a(t) = 6t - 12$ は時間に依存しており、一定でないため。
$v(t) = 3t^2 - 12t + 9 = 3(t-1)(t-3)$
(1) $v = 0$ とすると $t = 1, 3$。この2つの時刻で物体は一時的に静止する。
$a(t) = 6t - 12$
(2) 加速度が $6t - 12$ であり、$t$ に依存して変化している。等加速度運動は加速度が一定の運動なので、これは等加速度運動ではない。
高校の3公式はこの運動には使えないが、微分を使えば速度も加速度も問題なく求められた。これが微分の強みである。
ばねにつながれた物体の位置が $x(t) = 0.5\cos(4t)$(m)で表される。$\cos(4t)$ の微分は $-4\sin(4t)$、$\sin(4t)$ の微分は $4\cos(4t)$ である。次の問いに答えよ。
(1) 速度 $v(t)$ と加速度 $a(t)$ を求めよ。
(2) 加速度 $a(t)$ を位置 $x(t)$ を使って表せ。
(3) (2)の結果から、加速度と位置の間にどのような関係があるか説明せよ。また、この関係が物体の運動にとって何を意味するか述べよ。
(1) $v(t) = -2\sin(4t)$ m/s、$a(t) = -8\cos(4t)$ m/s$^2$
(2) $a(t) = -16\,x(t)$
(3) 加速度は位置に比例し、符号が逆。つまり物体が原点から離れるほど強い力で原点に引き戻される。そのため物体は原点を中心に往復運動(単振動)を続ける。
(1) $v = 0.5 \times (-4\sin(4t)) = -2\sin(4t)$
$a = -2 \times 4\cos(4t) = -8\cos(4t)$
(2) $x = 0.5\cos(4t)$ より $\cos(4t) = 2x$。したがって $a = -8 \times 2x = -16x$
(3) $a = -16x$ は「$x > 0$ のとき $a < 0$(原点方向)」「$x < 0$ のとき $a > 0$(やはり原点方向)」を意味する。 この「常に原点に向かう力」がばねの復元力であり、これが単振動の原因。
高校ではばねの振動が $\sin$ や $\cos$ で表されることを「そういうもの」として受け入れるしかなかったが、 微分を使えばなぜ $\cos$ になるのかを式で説明できる。これが大学物理のアプローチ。