高校物理では、コイルを貫く磁束が変化すると起電力が生じることを学び、$V = -N\dfrac{\Delta\Phi}{\Delta t}$ という公式を使って問題を解きます。
この公式は入試でも頻出であり、正しく使えれば十分に得点できます。
大学物理では、この公式を微分の形で書き直します。
$\text{EMF} = -\dfrac{d\Phi}{dt}$ がファラデーの法則であり、これはマクスウェル方程式の1つです。
微分形式 $\nabla \times \mathbf{E} = -\dfrac{\partial \mathbf{B}}{\partial t}$ で書くと、「変動する磁場が電場を生む」という物理の本質が見えます。
この記事では、高校の公式を大学の言葉で再定義し、磁束変化の3パターンと運動起電力を統一的に理解します。
高校物理では、電磁誘導を次のように学びます。
この公式は入試で確実に得点するための道具として十分に機能します。 ここで、この道具の特徴を整理しておきます。
大学物理では、$\Delta$ を $d$(微分)に置き換えることで、これらの問題を解消します。
ファラデーの法則を大学の言葉で書き直すと、何ができるようになるかを先に示します。
磁束の変化を瞬間的に捉えられる。 $\Delta\Phi/\Delta t$ ではなく $d\Phi/dt$ を使うことで、磁束が非一様に変化する場合でも正確な起電力を求められます。
レンツの法則を暗記しなくてよくなる。 ファラデーの法則のマイナス符号がレンツの法則そのものです。別々に覚える必要がなくなります。
運動起電力とファラデーの法則が同じ物理であると分かる。 導体棒の問題をローレンツ力で解いても、磁束の変化で解いても、同じ答えが出ることを確認します。
マクスウェル方程式との接続が見える。 ファラデーの法則は電磁気学の基本法則4つのうちの1つであり、「変動する磁場が電場を生む」という深い物理を表しています。
ファラデーの法則を正確に述べるために、まず磁束を定義します。
$$\Phi = \int_S \mathbf{B} \cdot d\mathbf{A}$$
高校では $\Phi = BS\cos\theta$ と書きますが、これは磁場が一様で、面が平面の場合の特殊ケースです。 大学では面積分を使うことで、磁場が不均一な場合や曲面の場合にも対応できます。
$\Phi = \int \mathbf{B} \cdot d\mathbf{A}$ が変化するのは、以下の3つのケースです。
| パターン | 変化するもの | 具体例 |
|---|---|---|
| 1. 磁場の変化 | $\mathbf{B}$ が時間変化する | 電磁石の電流を変える |
| 2. 面積の変化 | $S$ が時間変化する | 導体棒がレール上を滑る |
| 3. 角度の変化 | $\theta$ が時間変化する | コイルが磁場中で回転する(発電機) |
高校では問題ごとにどのパターンかを判別して解きますが、大学では $d\Phi/dt$ を計算するだけですべてのパターンを統一的に扱えます。
ファラデーの法則を大学の形で書きます。
$$\text{EMF} = \oint_C \mathbf{E} \cdot d\mathbf{l} = -\frac{d\Phi}{dt}$$
式中のマイナス符号は、誘導起電力の向きが磁束の変化を妨げる方向であることを示しています。 これがレンツの法則です。
つまり、ファラデーの法則 $\text{EMF} = -d\Phi/dt$ は、起電力の大きさと向きの両方を1つの式で与えています。 高校では大きさ(公式)と向き(レンツの法則)を別々に学びますが、大学ではマイナス符号がレンツの法則を内包しているのです。
ファラデーの法則はマクスウェル方程式の1つであり、微分形では次のように書けます。
$$\nabla \times \mathbf{E} = -\frac{\partial \mathbf{B}}{\partial t}$$
これは「時間的に変動する磁場が、その周囲に電場を生む」ことを意味します。 静電場では $\nabla \times \mathbf{E} = 0$(電場は保存力場)でしたが、磁場が変動するとこれが破れます。 電磁誘導による電場は保存力場ではなく、閉じた経路に沿って仕事をすることができます。 これが誘導起電力の正体です。
面積 $S$ のコイル($N$ 巻)が一様な磁場 $B(t) = B_0 + \alpha t$ 中に垂直に置かれているとします($\theta = 0$)。
磁束:$\Phi(t) = B(t) \cdot S = (B_0 + \alpha t)S$
ファラデーの法則より:
$$\text{EMF} = -N\frac{d\Phi}{dt} = -N\frac{d}{dt}[(B_0 + \alpha t)S] = -N\alpha S$$
起電力の大きさは $N\alpha S$ で一定です。$\alpha > 0$(磁場が増加)なら起電力は負、すなわち磁束の増加を妨げる向きに起電力が生じます。
高校の公式 $V = -N\Delta\Phi/\Delta t$ でも同じ結果が得られますが、もし $B(t) = B_0 e^{-\gamma t}$ のように指数関数的に減衰する磁場なら、$\Delta$ では平均しか出せません。 微分なら $d\Phi/dt = -\gamma B_0 S e^{-\gamma t}$ と瞬間の起電力がすぐに求まります。
誤:「磁場が変化すれば必ず起電力が生じる」
正:起電力が生じるのは磁束($\Phi = \int \mathbf{B} \cdot d\mathbf{A}$)が変化するときです。 磁場が変化しても、コイルを貫く成分が変わらなければ起電力は生じません。 逆に、磁場が一定でもコイルの面積や向きが変われば起電力が生じます。
導体棒が磁場中を運動する場合に生じる起電力を、2つの方法で求めて一致することを確認します。
間隔 $l$ の平行レール上に導体棒が載っており、一様磁場 $B$ が紙面に垂直に入っています。 導体棒が速度 $v$ で右に動くとします。
導体棒中の自由電子(電荷 $-e$)は棒とともに速度 $v$ で右に動いています。
磁場 $B$ 中を速度 $v$ で動く電荷に働くローレンツ力は $\mathbf{F} = q\mathbf{v} \times \mathbf{B}$ です。
この力により電子が棒の一端に移動し、棒の両端に電位差が生じます。
単位電荷あたりの仕事:$\text{EMF} = vBl$
導体棒が速度 $v$ で動くと、回路の面積が $dS = l \cdot v\,dt$ だけ増加します。
磁束の変化:$d\Phi = B \cdot dS = Blv\,dt$
ファラデーの法則より:
$$|\text{EMF}| = \left|\frac{d\Phi}{dt}\right| = Blv$$
両方の方法で $\text{EMF} = Blv$ が得られました。
ローレンツ力による説明(力学的な見方)とファラデーの法則(電磁気学的な見方)は、異なるアプローチですが同じ結果を与えます。
これは偶然ではありません。ファラデーの法則は、磁場が変化する場合だけでなく、回路自体が動く場合も含めて、磁束の全微分が起電力を決めるという普遍的な法則です。
高校では「磁場が変化する問題」と「導体棒が動く問題」を別のタイプとして分類しますが、大学では $\text{EMF} = -d\Phi/dt$ の1つの式がすべてを統一します。
ファラデーの法則は電磁気学の中核にあり、多くのテーマとつながっています。
Q1. ファラデーの法則 $\text{EMF} = -d\Phi/dt$ のマイナス符号は何を意味していますか。
Q2. 磁束 $\Phi$ が変化する3つのパターンを挙げてください。
Q3. 導体棒が磁場中を速度 $v$ で動くとき、起電力 $Blv$ をファラデーの法則からどのように導きますか。
Q4. 高校の公式 $V = -N\Delta\Phi/\Delta t$ と大学の式 $\text{EMF} = -Nd\Phi/dt$ の本質的な違いは何ですか。
ファラデーの法則を使って起電力を計算する練習をしましょう。
一様な磁場 $B = 0.5$ T が、面積 $S = 0.04$ m$^2$ の円形コイル($N = 100$ 巻)の面に対して $30°$ の角度で入射している。次の問いに答えよ。
(1) コイルを貫く磁束 $\Phi$ を求めよ。
(2) この磁場が $0.1$ s の間に一様に $0$ T まで減少した場合、コイルに生じる誘導起電力の大きさを求めよ。
(1) $\Phi = BS\cos 30° = 0.5 \times 0.04 \times \dfrac{\sqrt{3}}{2} \approx 0.0173$ Wb
(2) $|\text{EMF}| = N\dfrac{|\Delta\Phi|}{\Delta t} = 100 \times \dfrac{0.0173}{0.1} \approx 17.3$ V
(1) $\theta = 30°$ は磁場と面の法線のなす角です。$\Phi = BS\cos\theta = 0.5 \times 0.04 \times \cos 30° = 0.02 \times \frac{\sqrt{3}}{2} \approx 0.0173$ Wb。
(2) 磁場が一様に減少するため $\Delta\Phi / \Delta t = d\Phi/dt$(一定の変化率)。$|\text{EMF}| = 100 \times 0.0173 / 0.1 \approx 17.3$ V。
間隔 $l = 0.3$ m の平行レール上に、質量 $m$ の導体棒が置かれている。一様磁場 $B = 0.8$ T が紙面に垂直に入っている。導体棒が速度 $v = 5$ m/s で右に動いている。次の問いに答えよ。
(1) ローレンツ力を用いて、導体棒に生じる起電力を求めよ。
(2) ファラデーの法則を用いて、同じ起電力を求めよ。
(3) 2つの方法で同じ結果が得られる理由を述べよ。
(1) $\text{EMF} = Blv = 0.8 \times 0.3 \times 5 = 1.2$ V
(2) $d\Phi/dt = B \cdot l \cdot v = 0.8 \times 0.3 \times 5 = 1.2$ V よって $|\text{EMF}| = 1.2$ V
(3) 運動起電力は回路の面積変化による磁束変化として捉えることができ、ファラデーの法則はローレンツ力に基づく起電力を含む普遍的な法則であるため。
(1) 導体棒中の電荷 $q$ に働くローレンツ力は $F = qvB$。棒の長さ $l$ にわたって仕事をするので、単位電荷あたりの仕事(起電力)は $\text{EMF} = vBl = 1.2$ V。
(2) 時間 $dt$ で棒が $v\,dt$ 動き、面積が $l \cdot v\,dt$ 増える。$d\Phi = Blv\,dt$ より $|d\Phi/dt| = Blv = 1.2$ V。
(3) ファラデーの法則は磁束の時間的な全変化を捉える法則であり、磁場自体が変化する場合も、回路が動いて面積が変化する場合も含みます。運動起電力は後者のケースに該当し、ローレンツ力による説明とファラデーの法則による説明は同じ物理現象の2つの見方です。
面積 $S = 0.02$ m$^2$ の正方形コイル($N = 50$ 巻)が、コイル面に垂直な磁場 $B(t) = 0.4\,e^{-2t}$ T 中に置かれている。$e^{-2t}$ の微分は $-2e^{-2t}$ である。次の問いに答えよ。
(1) 時刻 $t$ における磁束 $\Phi(t)$ を求めよ。
(2) 時刻 $t$ における誘導起電力 $\text{EMF}(t)$ を求めよ。
(3) $t = 0$ と $t = 1$ s での起電力をそれぞれ求めよ。起電力が時間とともにどう変化するか説明せよ。
(1) $\Phi(t) = B(t) \cdot S = 0.4 \times 0.02 \times e^{-2t} = 0.008\,e^{-2t}$ Wb
(2) $\text{EMF}(t) = -N\dfrac{d\Phi}{dt} = -50 \times 0.008 \times (-2)e^{-2t} = 0.8\,e^{-2t}$ V
(3) $t = 0$:$\text{EMF} = 0.8$ V。$t = 1$:$\text{EMF} = 0.8\,e^{-2} \approx 0.108$ V。起電力は指数関数的に減衰する。
(1) コイル面と磁場が垂直なので $\cos\theta = 1$。$\Phi = BS = 0.4 \times 0.02 \times e^{-2t} = 0.008\,e^{-2t}$ Wb。
(2) $d\Phi/dt = 0.008 \times (-2)e^{-2t} = -0.016\,e^{-2t}$。$\text{EMF} = -50 \times (-0.016\,e^{-2t}) = 0.8\,e^{-2t}$ V。正の値は磁束の減少を妨げる向きに起電力が生じていることを意味する。
(3) 磁場が指数関数的に減衰するので、磁束の変化率も指数関数的に小さくなり、起電力も同様に減衰します。この問題は高校の $\Delta\Phi/\Delta t$ では各瞬間の起電力を正確に求められず、微分を使う必要がある典型例です。