高校物理では、直線電流のまわりの磁場 $B = \mu_0 I/(2\pi r)$、円形電流の中心の磁場 $B = \mu_0 I/(2R)$、
ソレノイド内部の磁場 $B = \mu_0 nI$ を、それぞれ独立した公式として暗記します。
3つの公式がどのような原理から導かれるのかは説明されません。
大学物理では、ビオ・サバールの法則という1つの基本法則から、あらゆる電流配置が作る磁場を計算できます。
さらに、対称性が高い場合にはアンペールの法則を使って、より簡潔に磁場を求められます。
電場におけるクーロンの法則とガウスの法則の関係と同じ構造です。
この記事では、ビオ・サバールの法則とアンペールの法則を学び、
高校で暗記した3つの公式を自分で導出できるようになることを目指します。
高校物理では、電流が作る磁場について次の3つの公式を学びます。
| 電流の形状 | 磁場の公式 | 磁場の求め方 |
|---|---|---|
| 無限長直線電流 | $B = \dfrac{\mu_0 I}{2\pi r}$ | 電流からの距離 $r$ の位置 |
| 円形電流(半径 $R$) | $B = \dfrac{\mu_0 I}{2R}$ | 円の中心 |
| ソレノイド(巻き数密度 $n$) | $B = \mu_0 nI$ | ソレノイド内部 |
これらは入試でも頻出であり、実用的な道具です。しかし、次のような疑問が残ります。
高校の3公式を自分で導出できるようになる。 ビオ・サバールの法則という1つの原理から、直線電流の磁場を導出します。 アンペールの法則を使えば、ソレノイドの磁場も導出できます。
電場との対応が見える。 ビオ・サバールの法則はクーロンの法則に対応し、アンペールの法則はガウスの法則に対応します。 電磁気学の美しい対称構造が見えてきます。
「なぜこの公式なのか」が分かる。 直線電流の磁場が $1/r$ に比例する理由、ソレノイド内部の磁場が一様になる理由を、 計算によって確認できます。
電場がクーロンの法則 $\boldsymbol{E} = \dfrac{1}{4\pi\varepsilon_0}\dfrac{q}{r^2}\hat{\boldsymbol{r}}$ で決まるのと同様に、 電流が作る磁場もたった1つの法則で決まります。それがビオ・サバールの法則です。
$$d\boldsymbol{B} = \frac{\mu_0}{4\pi} \frac{I\,d\boldsymbol{l} \times \hat{\boldsymbol{r}}}{r^2}$$
この法則の構造を読み解きましょう。
ビオ・サバールの法則は「電流素片 $Id\boldsymbol{l}$ が作る微小磁場 $d\boldsymbol{B}$」を与えます。 電流全体が作る磁場は、すべての電流素片からの寄与を足し合わせます(積分)。
$$\boldsymbol{B} = \frac{\mu_0}{4\pi} \int \frac{I\,d\boldsymbol{l} \times \hat{\boldsymbol{r}}}{r^2}$$
疑問:「ビオ・サバールの法則は $1/r^2$ なのに、なぜ直線電流の磁場は $B = \mu_0 I/(2\pi r)$ で $1/r$ なのか」
理由:直線電流の場合、電流全体の寄与を積分(足し合わせ)する必要があります。 無限長の電流の各素片から $1/r^2$ の寄与を積分した結果が $1/r$ になるのです。 次のセクションで実際にこの計算を行います。
ビオ・サバールの法則を使って、無限長直線電流から距離 $r$ の位置での磁場 $B = \mu_0 I/(2\pi r)$ を導出しましょう。
$z$ 軸に沿って電流 $I$ が流れているとし、$z$ 軸からの距離 $R$ の点Pでの磁場を求めます。
座標 $z$ にある電流素片 $Id\boldsymbol{l} = I\,dz\,\hat{\boldsymbol{z}}$ から点Pまでの距離は $\sqrt{R^2 + z^2}$ です。
外積 $d\boldsymbol{l} \times \hat{\boldsymbol{r}}$ の大きさは $dz \cdot \sin\alpha = dz \cdot \dfrac{R}{\sqrt{R^2 + z^2}}$ です($\alpha$ は $d\boldsymbol{l}$ と $\hat{\boldsymbol{r}}$ のなす角)。
ビオ・サバールの法則に代入します。
$$dB = \frac{\mu_0 I}{4\pi} \cdot \frac{R\,dz}{(R^2 + z^2)^{3/2}}$$
$z = -\infty$ から $z = +\infty$ まで積分します。
$$B = \frac{\mu_0 I R}{4\pi} \int_{-\infty}^{\infty} \frac{dz}{(R^2 + z^2)^{3/2}}$$
$z = R\tan\phi$ と置換すると、$dz = R\sec^2\phi\,d\phi$、$(R^2+z^2)^{3/2} = R^3\sec^3\phi$ となり、
$$B = \frac{\mu_0 I}{4\pi R} \int_{-\pi/2}^{\pi/2} \cos\phi\,d\phi = \frac{\mu_0 I}{4\pi R} \cdot 2 = \frac{\mu_0 I}{2\pi R}$$
高校で暗記した $B = \mu_0 I/(2\pi r)$ が、ビオ・サバールの法則から導出されました。
ビオ・サバールの法則自体は $1/r^2$ ですが、無限長直線電流ではすべての電流素片の寄与を $z = -\infty$ から $z = +\infty$ まで積分します。 この積分の結果として $1/r^2$ が $1/r$ に変わります。
これは、電場でも同じことが起きます。 無限長に帯電した直線(線電荷)の場合、点電荷の $1/r^2$ を積分すると電場は $1/r$ に比例します。 次元解析からも確認できます。無限長の場合、「長さ」のパラメータが消えるため、 距離依存性が1次元分だけ変わるのです。
ビオ・サバールの法則は万能ですが、一般に積分の計算が複雑です。 対称性が高い場合には、より簡潔な道具が使えます。 それがアンペールの法則です。
$$\oint_C \boldsymbol{B} \cdot d\boldsymbol{l} = \mu_0 I_{\text{enc}}$$
この法則の構造は、電場のガウスの法則と対応しています。
アンペールの法則を使うための手順は、ガウスの法則と同じ発想です。
無限長直線電流 $I$ のまわりの磁場は、対称性から電流を中心とする同心円状で、大きさは距離 $r$ のみに依存します。
半径 $r$ の円をアンペールループに選びます。$\boldsymbol{B}$ はこの円に沿って一定の大きさで、方向も経路に平行です。
$$\oint \boldsymbol{B} \cdot d\boldsymbol{l} = B \cdot 2\pi r$$
ループが囲む電流は $I_{\text{enc}} = I$ です。アンペールの法則より、
$$B \cdot 2\pi r = \mu_0 I$$
$$B = \frac{\mu_0 I}{2\pi r}$$
ビオ・サバールの法則では複雑な積分が必要だった直線電流の磁場が、 アンペールの法則を使えば3行で求められました。 ガウスの法則が対称性の高い電荷分布で威力を発揮したのと、まったく同じ構造です。
アンペールの法則自体はすべての定常電流に対して成り立ちますが、 $B$ を具体的に求めるためには、$\boldsymbol{B}$ がアンペールループ上で一定(または $\boldsymbol{B} \cdot d\boldsymbol{l} = 0$) になるような対称性が必要です。
典型的に使えるのは、無限長直線電流、無限長ソレノイド、無限長トロイドなどです。 対称性がない場合には、ビオ・サバールの法則に戻って計算します。
アンペールの法則のもう1つの代表的な応用として、ソレノイド内部の磁場を導出します。
単位長さあたり $n$ 回巻きの無限長ソレノイドに電流 $I$ が流れています。
対称性から、ソレノイド内部の磁場は軸方向に一様で、外部の磁場はゼロと推定できます。
長方形のアンペールループを取ります。辺の長さ $l$ がソレノイドの軸に平行で、ソレノイドの内部と外部にまたがるようにします。
線積分は4辺に分けて考えます。
よって $\oint \boldsymbol{B} \cdot d\boldsymbol{l} = Bl$
ループが囲む電流は $I_{\text{enc}} = nIl$(長さ $l$ に含まれるコイルの巻き数は $nl$)。
$$Bl = \mu_0 nIl$$
$$B = \mu_0 nI$$
高校で暗記した $B = \mu_0 nI$ が導出されました。 ソレノイド内部の磁場が位置によらず一様であること、巻き数密度 $n$ と電流 $I$ だけで決まることが、 アンペールの法則から自然に導かれます。
誤解:「$B = \mu_0 nI$ はあらゆるソレノイドで正確に成り立つ」
正確には:$B = \mu_0 nI$ は無限長ソレノイドでの結果です。 有限長のソレノイドでは、端の近くで磁場が弱くなり、外部の磁場も厳密にはゼロではありません。 ソレノイドの長さが直径に比べて十分大きい場合、内部中央付近ではよい近似になります。
ビオ・サバールの法則とアンペールの法則は、磁場の計算の2大道具です。
Q1. ビオ・サバールの法則を式で書き、各記号の意味を説明してください。
Q2. アンペールの法則を式で書き、右辺の $I_{\text{enc}}$ は何を表しますか。
Q3. ビオ・サバールの法則は $1/r^2$ に比例するのに、直線電流の磁場が $1/r$ になるのはなぜですか。
Q4. アンペールの法則とガウスの法則の構造上の対応を述べてください。
ビオ・サバールの法則とアンペールの法則の理解を、問題で確認しましょう。
$I = 5.0\,\text{A}$ の直線電流から距離 $r = 0.10\,\text{m}$ の位置での磁場の大きさを求めよ。$\mu_0 = 4\pi \times 10^{-7}\,\text{T}\cdot\text{m/A}$ とする。
(1) $B$ を求めよ。
(2) この結果をアンペールの法則から導け。
(1) $B = 1.0 \times 10^{-5}\,\text{T}$
(2) 下記解説参照
(1) $B = \dfrac{\mu_0 I}{2\pi r} = \dfrac{4\pi \times 10^{-7} \times 5.0}{2\pi \times 0.10} = 1.0 \times 10^{-5}\,\text{T}$
(2) 電流を中心に半径 $r = 0.10\,\text{m}$ の円をアンペールループとする。対称性より $B$ はループ上で一定。$\oint \boldsymbol{B} \cdot d\boldsymbol{l} = B \cdot 2\pi r = \mu_0 I$。よって $B = \mu_0 I/(2\pi r) = 1.0 \times 10^{-5}\,\text{T}$。
長さ $L = 0.50\,\text{m}$ のソレノイドに $N = 1000$ 回のコイルが巻かれ、電流 $I = 2.0\,\text{A}$ が流れている。ソレノイドの長さは直径に比べて十分大きいとする。
(1) 巻き数密度 $n$ を求めよ。
(2) アンペールの法則を用いて、ソレノイド内部の磁場 $B$ を導出せよ。
(3) ソレノイド外部の磁場がゼロとみなせる理由を述べよ。
(1) $n = 2000\,\text{回/m}$
(2) $B = 5.0 \times 10^{-3}\,\text{T}$
(3) 下記解説参照
(1) $n = N/L = 1000/0.50 = 2000\,\text{回/m}$
(2) 長方形のアンペールループを取り、一辺(長さ $l$)がソレノイド内部で軸に平行、対辺がソレノイド外部にあるとする。内部の辺: $Bl$、外部の辺: $0$(外部磁場ゼロ)、垂直な辺: $0$($\boldsymbol{B} \perp d\boldsymbol{l}$)。$Bl = \mu_0 nIl$ より $B = \mu_0 nI = 4\pi \times 10^{-7} \times 2000 \times 2.0 = 5.0 \times 10^{-3}\,\text{T}$
(3) 無限長ソレノイドでは、対称性より外部の磁場は軸方向に一様で位置に依存しない。ソレノイドから十分遠方で磁場はゼロになるべきだが、一様であれば遠方の値はどこでも同じ。よって外部磁場はゼロ。
半径 $R$ の円形コイルに電流 $I$ が流れている。ビオ・サバールの法則を用いて、円の中心での磁場 $B$ を導出せよ。
(1) 円形電流の任意の素片 $Id\boldsymbol{l}$ から中心への距離と、$d\boldsymbol{l} \times \hat{\boldsymbol{r}}$ の大きさを求めよ。
(2) ビオ・サバールの法則を積分して $B = \dfrac{\mu_0 I}{2R}$ を導出せよ。
(1) 距離は $R$(すべての素片で等しい)。$|d\boldsymbol{l} \times \hat{\boldsymbol{r}}| = dl$($d\boldsymbol{l}$ と $\hat{\boldsymbol{r}}$ は常に垂直なので $\sin 90° = 1$)
(2) $B = \dfrac{\mu_0 I}{2R}$
(1) 円形電流の任意の点から中心までの距離はすべて $R$。電流の向きは円の接線方向であり、中心への方向ベクトルは半径方向。接線と半径は常に直交するため、$|d\boldsymbol{l} \times \hat{\boldsymbol{r}}| = dl \cdot \sin 90° = dl$。
(2) 対称性から、中心での磁場はすべての素片からの寄与が同じ方向(コイル面に垂直な方向)を向く。
$$B = \frac{\mu_0 I}{4\pi} \oint \frac{dl}{R^2} = \frac{\mu_0 I}{4\pi R^2} \cdot 2\pi R = \frac{\mu_0 I}{2R}$$
$\oint dl = 2\pi R$(円周の長さ)を用いた。