高校物理ではガウスの法則を直接扱いませんが、「電気力線の本数は電荷に比例する」という事実は学びます。
ガウスの法則はこの事実を数学的に厳密に表現したものです。
大学物理では、ガウスの法則 $\oint \vec{E}\cdot d\vec{A} = Q_{\text{enc}}/\varepsilon_0$ を使うことで、
対称性が高い問題の電場をクーロンの法則よりも格段に簡単に求められるようになります。
クーロンの法則と数学的に等価ですが、適用範囲が広く、電磁気学の4つの基本法則(マクスウェル方程式)の1つです。
この記事では、電束(フラックス)の概念から出発し、ガウスの法則の意味と応用方法を解説します。
高校物理ではガウスの法則そのものは扱いませんが、関連する内容として次のことを学びます。
これらの知識は定性的な理解として正しいものです。 ガウスの法則は、これを「面積分」という数学の道具で定量的に表現します。
対称性のある問題で電場を簡単に求められるようになる。 球対称、円筒対称、平面対称の問題は、ガウスの法則を使えば数行の計算で電場が求まります。 クーロンの法則で積分を計算するのと比べると、圧倒的に効率的です。
「電束」という新しい物理量を理解できる。 電場と面の関係を定量化する電束(フラックス)の概念は、ガウスの法則の基本であるだけでなく、 電磁気学全体を通じて繰り返し使われます。
マクスウェル方程式の1つを理解できる。 ガウスの法則は電磁気学の4つの基本法則の1つ目です。 電磁気学の全体構造の出発点に立つことになります。
ガウスの法則を理解するには、まず電束(electric flux、電場のフラックス)を定義する必要があります。
電束とは、「ある面を電場がどれだけ貫いているか」を表す量です。 水の流れに例えると、「ある網を通り抜ける水の量」に相当します。
面が電場に垂直なら電束は最大、平行なら電束はゼロ、斜めなら中間の値になります。 これは面の法線ベクトルと電場ベクトルの内積で表されます。
微小面 $d\vec{A}$ を貫く電束:
$$d\Phi = \vec{E} \cdot d\vec{A} = E\,dA\cos\theta$$
有限の面 $S$ を貫く電束:
$$\Phi = \int_S \vec{E} \cdot d\vec{A}$$
閉じた面(閉曲面)の場合、法線 $d\vec{A}$ は慣習として外向きを正とします。 したがって、電場が面から外に出ていれば正の電束、内に入っていれば負の電束です。
電束の定義ができたので、ガウスの法則を述べます。
$$\oint \vec{E} \cdot d\vec{A} = \frac{Q_{\text{enc}}}{\varepsilon_0}$$
ガウスの法則が述べていることは明快です。 閉じた面を貫く電束の総量は、その面の内部にある電荷の総量だけで決まる。 面の外にある電荷は無関係です。
ガウスの法則はクーロンの法則と数学的に等価です。 一方から他方を導くことができます。 では、なぜ2つの形式が必要なのでしょうか。
どちらも正しい法則ですが、問題に応じて使いやすい方を選びます。
誤解:「ガウス面の外の電荷は電場に影響しないから無視できる」
実際:外部の電荷は各点での電場 $\vec{E}$ の値には影響します。 しかし、外部電荷による電場はガウス面に入る分と出る分が等しいため、面積分(電束)に寄与しません。 ガウスの法則で「無関係」なのは電束への寄与であって、電場そのものへの影響ではありません。
ガウスの法則の真価は、対称性を利用して電場を効率的に求めることにあります。 以下に代表的な3つの対称性について示します。
原点に点電荷 $Q$ を置きます。対称性から電場は放射方向で、大きさは距離 $r$ のみに依存します。
半径 $r$ の球面をガウス面とすると:
・球面上で $\vec{E}$ は常に $d\vec{A}$ と平行(放射方向)
・球面上で $|\vec{E}|$ は一定(球対称性)
$$\oint \vec{E}\cdot d\vec{A} = E \times 4\pi r^2$$
ガウスの法則より:
$$E \times 4\pi r^2 = \frac{Q}{\varepsilon_0}$$
$$E = \frac{Q}{4\pi\varepsilon_0 r^2} = \frac{kQ}{r^2}$$
クーロンの法則と同じ結果が、面積分の計算だけで得られました。
直線を軸とする半径 $r$、長さ $L$ の円柱面をガウス面とします。
対称性から電場は放射方向(直線から垂直に外向き)で、大きさは $r$ のみに依存します。
・円柱の側面:$\vec{E}$ と $d\vec{A}$ は平行 → 寄与あり
・円柱の上面・下面:$\vec{E}$ と $d\vec{A}$ は垂直 → 寄与なし
$$\oint \vec{E}\cdot d\vec{A} = E \times 2\pi r L$$
内部の電荷は $Q_{\text{enc}} = \lambda L$ なので:
$$E \times 2\pi r L = \frac{\lambda L}{\varepsilon_0}$$
$$E = \frac{\lambda}{2\pi\varepsilon_0 r}$$
電場は距離 $r$ に反比例します($1/r$)。点電荷の $1/r^2$ との違いに注目してください。
平面を貫く「ピルボックス」(平たい円柱)をガウス面とします。底面の面積を $A$ とします。
対称性から電場は平面に垂直で、平面の両側に均等に出ます。大きさは平面からの距離によらず一定です。
・上面と下面:$\vec{E}$ と $d\vec{A}$ は平行 → 寄与あり(上面 $EA$、下面 $EA$)
・側面:$\vec{E}$ と $d\vec{A}$ は垂直 → 寄与なし
$$\oint \vec{E}\cdot d\vec{A} = 2EA$$
内部の電荷は $Q_{\text{enc}} = \sigma A$ なので:
$$2EA = \frac{\sigma A}{\varepsilon_0}$$
$$E = \frac{\sigma}{2\varepsilon_0}$$
電場は平面からの距離によらず一定です。これはコンデンサー(E-14-1)の理解に直結します。
ガウスの法則から導かれた3つの結果を比較すると、対称性と電場の距離依存性の関係が見えます。
・球対称(点電荷):$E \propto 1/r^2$(3次元的に広がる)
・円筒対称(直線電荷):$E \propto 1/r$(2次元的に広がる)
・平面対称(面電荷):$E = $ 一定(1次元的に広がる)
電場の「薄まり方」が空間の次元数で決まるのです。
ガウスの法則 $\oint \vec{E}\cdot d\vec{A} = Q_{\text{enc}}/\varepsilon_0$ は常に成り立ちますが、 電場を求める道具として使えるのは対称性がある場合に限られます。
その理由は、ガウスの法則が教えるのは面積分(電束)の値であって、 各点での $\vec{E}$ の値ではないからです。 面積分から $E$ を取り出すには、$E$ が面上で一定であるか、 $\vec{E}$ と $d\vec{A}$ の関係が単純である必要があります。
対称性がない場合、ガウスの法則は電束の値しか教えてくれないので、電場を求めるには不向きです。 その場合はクーロンの法則を使って重ね合わせの積分を計算するか、 後で学ぶ電位(E-13-4)から $\vec{E} = -\nabla V$ で求める方法を使います。
ガウスの法則は「万能」ではなく、対称性があるときに「圧倒的に便利」な道具です。
ガウスの法則はマクスウェル方程式の1つ目であり、電磁気学の柱です。
Q1. 電束(フラックス)とは何ですか。電場と面の角度がどう関係しますか。
Q2. ガウスの法則で、閉じた面の外にある電荷が電束に寄与しない理由を説明してください。
Q3. 無限長直線電荷の電場が $1/r$ に比例するのに対し、点電荷の電場は $1/r^2$ に比例します。この違いの物理的理由は何ですか。
Q4. ガウスの法則が電場を求める道具として使えるのはどのような場合ですか。
ガウスの法則を使って電場を求める練習をしましょう。
半径 $R$ の導体球に電荷 $Q$ が一様に分布している。ガウスの法則を用いて、球の外部($r > R$)の電場を求めよ。
$E = \dfrac{Q}{4\pi\varepsilon_0 r^2} = \dfrac{kQ}{r^2}$($r > R$)
半径 $r$($r > R$)の球面をガウス面とする。球対称性から $E$ は球面上で一定、$\vec{E}$ は法線方向。
$\oint \vec{E}\cdot d\vec{A} = E \times 4\pi r^2 = Q/\varepsilon_0$
$E = Q/(4\pi\varepsilon_0 r^2)$
球の外部では、全電荷が中心に集まった点電荷と同じ電場になる。これは万有引力における球殻定理と同じ構造。
面電荷密度 $+\sigma$ と $-\sigma$ の2枚の無限平面が距離 $d$ だけ離れて平行に置かれている(平行平板コンデンサー)。ガウスの法則を用いて、次の各領域の電場を求めよ。
(1) 2枚の平面の間
(2) 2枚の平面の外側
(1) $E = \sigma/\varepsilon_0$($+\sigma$ の面から $-\sigma$ の面に向かう方向)
(2) $E = 0$
各面が作る電場は $E_0 = \sigma/(2\varepsilon_0)$。
(1) 2枚の間では、$+\sigma$ の面の電場($-\sigma$ 方向)と $-\sigma$ の面の電場($-\sigma$ 方向に引き込む)が同じ方向を向くので強め合う。$E = 2 \times \sigma/(2\varepsilon_0) = \sigma/\varepsilon_0$。
(2) 外側では、2つの面の電場が逆方向を向くので打ち消し合い、$E = 0$。
これが平行平板コンデンサー内の一様電場の由来である。
内半径 $a$、外半径 $b$ の導体球殻に電荷 $Q$ が与えられている。球殻の中心に電荷 $q$ の点電荷がある。次の問いに答えよ。
(1) 導体球殻の内面に誘導される電荷を求めよ。
(2) $r < a$、$a < r < b$、$r > b$ の各領域の電場を求めよ。
(3) $r > b$ の電場は中心電荷 $q$ の値に依存するか。理由を述べよ。
(1) 内面の誘導電荷は $-q$
(2) $r < a$:$E = kq/r^2$。$a < r < b$:$E = 0$。$r > b$:$E = k(q + Q)/r^2$。
(3) 依存する。外部の電場は内部電荷 $q$ と球殻の電荷 $Q$ の合計 $q + Q$ で決まる。
(1) 導体内部($a < r < b$)の電場はゼロ。半径 $r$($a < r < b$)のガウス面で:$Q_{\text{enc}} = q + q_{\text{内面}} = 0$ → $q_{\text{内面}} = -q$。
外面の電荷は、電荷保存から $Q - (-q) = Q + q$。
(2) $r < a$:ガウス面の内部電荷は $q$ のみ → $E = kq/r^2$。
$a < r < b$:導体内部なので $E = 0$。
$r > b$:ガウス面の内部電荷は $q + Q$ → $E = k(q+Q)/r^2$。
(3) 外部電場は $q + Q$ に依存する。導体球殻は中心電荷を完全に遮蔽するわけではなく、外面に $q + Q$ の電荷が現れるため、外から見ると $q + Q$ の点電荷と同等。