高校物理では、電位を $V = kQ/r$ という公式で計算し、電位差と仕事の関係 $W = q\Delta V$ を使って問題を解きます。
これで入試の電位に関する問題は十分に対処できます。
大学物理では、電位を電場の線積分として定義します。
$V(\vec{r}) = -\int_\infty^{\vec{r}} \vec{E}\cdot d\vec{l}$ という定義により、
電位と電場が微分・積分の関係で結ばれることが明確になります。
これは力学でのポテンシャルエネルギー(M-5-3)とまったく同じ構造です。
この記事では、電位の線積分による定義、電場と電位の微分関係、そして電位の重ね合わせを解説します。
高校物理では、電位を次のように学びます。
高校では、$V = kQ/r$ を公式として与えられ、それを使って問題を解きます。 「なぜこの形になるのか」「電場とどう関係するのか」は詳しく扱われません。
この道具の特徴を整理します。
$V = kQ/r$ を自分で導出できるようになる。 電場の線積分から電位の公式を導くことで、公式を暗記ではなく理解に基づいて使えるようになります。
電場と電位の微分関係を理解できる。 $\vec{E} = -\nabla V$(1次元では $E = -dV/dx$)という関係が分かれば、 「等電位面と電場は垂直」「電場は電位が急に変化する方向を向く」が自動的に導かれます。
力学のポテンシャルエネルギーとの類似が見える。 保存力からポテンシャルエネルギーを定義する力学の構造と、クーロン力から電位を定義する構造は同一です。 物理の異なる分野で同じ数学的構造が現れることを体験できます。
電位の大学での定義を示します。
$$V(\vec{r}) = -\int_\infty^{\vec{r}} \vec{E}\cdot d\vec{l}$$
この定義は力学でのポテンシャルエネルギー $U(\vec{r}) = -\int_\infty^{\vec{r}} \vec{F}\cdot d\vec{l}$ と同じ構造です。 力 $\vec{F}$ を電場 $\vec{E}$ に、ポテンシャルエネルギー $U$ を電位 $V$ に置き換えただけです。
線積分の値が経路によらないのは、クーロン力が保存力であることの帰結です。 保存力の仕事は始点と終点だけで決まり、途中の経路には依存しません。 したがって、電位 $V(\vec{r})$ は位置 $\vec{r}$ だけの関数として定義できます。
電荷 $q$ が電場中の位置 $\vec{r}$ にあるとき、電位エネルギーは:
$$U(\vec{r}) = qV(\vec{r})$$
電位 $V$ は「単位電荷あたりの電位エネルギー」です。 電場 $\vec{E}$ が「単位電荷あたりの力」であるのと同様に、電位は電荷によらない空間の性質を表します。
電位の定義から、電場と電位の間の微分関係が導かれます。
$$\vec{E} = -\nabla V = -\left(\frac{\partial V}{\partial x}\hat{x} + \frac{\partial V}{\partial y}\hat{y} + \frac{\partial V}{\partial z}\hat{z}\right)$$
1次元の場合:
$$E = -\frac{dV}{dx}$$
この関係は「電場は電位の傾きである」と読めます。 1次元で言えば、$V$-$x$ グラフの傾きが急なところほど電場が強い。 傾きが正($V$ が増加)なら $E$ は負($-x$ 方向)、傾きが負なら $E$ は正($+x$ 方向)です。
$\vec{E} = -\nabla V$ から、等電位面と電場の関係が自動的に導かれます。
勾配 $\nabla V$ は $V$ が一定の面(等電位面)に垂直な方向を向きます。 したがって $\vec{E} = -\nabla V$ も等電位面に垂直です。
高校では「等電位面と電場は垂直」を個別の事実として暗記しますが、 大学の視点ではこれは $\vec{E} = -\nabla V$ の数学的な帰結です。
等電位面の上を移動する限り $V$ は変化しないので、$dV = 0$。 $dV = -\vec{E}\cdot d\vec{l} = 0$ より、$\vec{E}$ と移動方向 $d\vec{l}$ は垂直。 つまり、等電位面上のどの方向にも電場の成分がない ── これが「垂直」の意味です。
誤解:「電位が高い場所では電場も強い」
実際:電場は電位の変化率(傾き)です。 電位が高くても、その近傍で電位がほとんど変化していなければ電場は弱い。 逆に、電位が低い場所でも急激に変化していれば電場は強い。 「高さ」ではなく「傾き」が重要です。
電位の定義を使って、$V = kQ/r$ を導出してみましょう。
原点に点電荷 $Q$ があるとき、電場は $\vec{E} = \dfrac{kQ}{r^2}\hat{r}$。
電位の定義:$V(r) = -\int_\infty^r \vec{E}\cdot d\vec{l}$
放射方向の経路を取ると、$\vec{E}\cdot d\vec{l} = E\,dr = \dfrac{kQ}{r^2}dr$。
ただし、無限遠から $r$ に向かう場合、$dr < 0$($r$ が減少する方向)なので:
$$V(r) = -\int_\infty^r \frac{kQ}{r'^2}\,dr' = -kQ\left[-\frac{1}{r'}\right]_\infty^r = -kQ\left(-\frac{1}{r} + 0\right)$$
$$V(r) = \frac{kQ}{r}$$
高校で天下り的に与えられた $V = kQ/r$ が、電場の線積分から導出されました。 電場が $1/r^2$ に比例するので、その積分(不定積分 $\int r^{-2}dr = -r^{-1}$)は $1/r$ に比例する ── これが $V \propto 1/r$ の由来です。
複数の電荷が存在する場合、全体の電位は各電荷が作る電位の単純な足し算です。
$$V(\vec{r}) = \sum_i V_i(\vec{r}) = \sum_i \frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\frac{q_i}{|\vec{r} - \vec{r}_i|}$$
電位の重ね合わせには、電場の重ね合わせにはない大きな利点があります。 電位はスカラーなので、ベクトルの成分分解が不要です。
電場を求めたい場合でも、まず電位の重ね合わせで $V(\vec{r})$ を計算し、 そこから $\vec{E} = -\nabla V$ で電場を求める方が、 電場のベクトル和を直接計算するより楽なことが多いです。
複雑な電荷配置の問題では、次の戦略が有効です:
1. 電位 $V(\vec{r})$ をスカラーの足し算で求める(簡単)
2. $\vec{E} = -\nabla V$ で電場を求める(微分するだけ)
これは、電場を直接ベクトル合成するより計算量が少ないことが多い方法です。
電位は電場と微分・積分の関係にあり、電磁気学の計算を効率化する重要な道具です。
Q1. 電位の線積分による定義で、積分が経路によらない理由は何ですか。
Q2. $E = -dV/dx$ の負号は何を意味しますか。
Q3. 電位の重ね合わせが電場の重ね合わせより計算が簡単な理由を述べてください。
Q4. 電位の定義と力学のポテンシャルエネルギーの定義の共通点を述べてください。
電位の定義と電場との関係を、問題で確認しましょう。
真空中で、$Q = +2.0 \times 10^{-6}$ C の点電荷から $r_1 = 0.10$ m の点 $A$ と $r_2 = 0.30$ m の点 $B$ がある。$k = 9.0 \times 10^9$ N・m$^2$/C$^2$ とする。
(1) 点 $A$ と点 $B$ の電位をそれぞれ求めよ。
(2) $q = +1.0 \times 10^{-8}$ C の電荷を $A$ から $B$ に移動させるのに必要な仕事を求めよ。
(1) $V_A = 1.8 \times 10^5$ V、$V_B = 6.0 \times 10^4$ V
(2) $W = -1.2 \times 10^{-3}$ J(外力がする仕事。負なので外力は仕事をされる側)
(1) $V_A = kQ/r_1 = 9.0 \times 10^9 \times 2.0 \times 10^{-6} / 0.10 = 1.8 \times 10^5$ V
$V_B = kQ/r_2 = 9.0 \times 10^9 \times 2.0 \times 10^{-6} / 0.30 = 6.0 \times 10^4$ V
(2) $W = q(V_B - V_A) = 1.0 \times 10^{-8} \times (6.0 \times 10^4 - 1.8 \times 10^5)$
$= 1.0 \times 10^{-8} \times (-1.2 \times 10^5) = -1.2 \times 10^{-3}$ J
正電荷を電位の高い方から低い方へ移動させるので、電場の力が仕事をする。外力がする仕事は負(電場にブレーキをかけられる側)。
$x$ 軸上の $x = -d$ に $+Q$、$x = +d$ に $-Q$ の点電荷がある($Q > 0$)。次の問いに答えよ。
(1) 原点 $O$ における電位を求めよ。
(2) $y$ 軸上の点 $P(0, y)$ における電位を求めよ。
(3) $y$ 軸全体が等電位線(3次元では等電位面)になっていることを示せ。
(1) $V_O = 0$
(2) $V_P = 0$
(3) $y$ 軸上の任意の点で $V = 0$ なので、$y$ 軸全体が電位 $0$ の等電位線である。
(1) $V_O = kQ/d + k(-Q)/d = kQ/d - kQ/d = 0$
(2) 点 $P(0, y)$ から $+Q$(位置 $(-d, 0)$)までの距離は $\sqrt{d^2 + y^2}$。$-Q$(位置 $(d, 0)$)までの距離も $\sqrt{d^2 + y^2}$。
$V_P = \dfrac{kQ}{\sqrt{d^2 + y^2}} + \dfrac{k(-Q)}{\sqrt{d^2 + y^2}} = 0$
(3) $y$ 軸上のどの点でも2つの電荷までの距離が等しいため、$+Q$ と $-Q$ の寄与が打ち消し合い $V = 0$。これは電気双極子の対称面が等電位面であることを示している。
ある領域で電位が $V(x) = V_0 - ax^2$($V_0$、$a$ は正の定数)で与えられている。次の問いに答えよ。
(1) この領域の電場 $E(x)$ を求めよ。
(2) 電場がゼロになる位置を求めよ。
(3) $x > 0$ で電場の向きと電位の変化の関係を説明せよ。
(4) この電位分布が一様に帯電した無限平面では実現できない理由を述べよ。
(1) $E(x) = 2ax$
(2) $x = 0$
(3) $x > 0$ では $E > 0$($+x$ 方向)。電位は $x$ が増えるにつれて $V_0 - ax^2$ で減少しており、電場は電位が減少する方向($+x$ 方向)を向いている。
(4) 無限平面の電場は距離によらず一定だが、$E = 2ax$ は位置に依存する。
(1) $E = -dV/dx = -(-2ax) = 2ax$
(2) $E(0) = 0$
(3) $x > 0$ で $dV/dx = -2ax < 0$(電位は減少)。$E = -dV/dx = 2ax > 0$($+x$ 方向)。電場は電位が減少する方向を向く。これは $E = -dV/dx$ の負号の物理的意味そのもの。
(4) 一様帯電無限平面の電場は $E = \sigma/(2\varepsilon_0)$(定数)であり、位置に依存しない。$V = V_0 - ax^2$ から得られる $E = 2ax$ は位置に比例しており、一様電場とは合わない。この電位分布は一様な体積電荷密度($\rho = 2a\varepsilon_0$ 一定)に対応する。