高校物理では、クーロンの法則を $F = kq_1 q_2 / r^2$ として学び、電荷の符号から引力・斥力を判断します。
これで入試問題は十分に解けます。
大学物理では、この法則を $F = \dfrac{1}{4\pi\varepsilon_0}\dfrac{q_1 q_2}{r^2}$ と書き直し、ベクトル形式で表現します。
電荷の符号を式に組み込むことで、引力か斥力かを式が自動的に判定してくれるようになります。
さらに、万有引力の法則との数学的な類似性を通じて、逆二乗則の本質を理解できます。
この記事では、高校の扱いと大学の扱いを対比しながら、クーロンの法則のベクトル表現と重ね合わせの原理を解説します。
高校物理では、クーロンの法則を次のように学びます。
2つの点電荷 $q_1$、$q_2$ が距離 $r$ だけ離れているとき、両者の間にはたらく力の大きさは
$$F = k\frac{|q_1||q_2|}{r^2}$$
ここで $k$ はクーロン定数($k = 9.0 \times 10^9$ N・m$^2$/C$^2$)です。
高校では、力の大きさを計算し、引力か斥力かは電荷の符号を見て別途判断します。 絶対値記号 $|q_1||q_2|$ を使うのは、$F$ を「力の大きさ」(常に正の値)として扱うためです。
この道具の特徴を整理しておきます。
これらは高校の範囲では十分に機能する道具です。 大学物理では、力の大きさと方向を1つの式で同時に扱えるように書き直します。
大学物理では、クーロンの法則をベクトル形式で書きます。 これにより、力の大きさと方向を1つの式で同時に表現できるようになります。
引力・斥力を式が自動判定する。 電荷の符号を絶対値にせず式に残すことで、計算結果の符号から引力か斥力かが自動的に決まります。 「同符号だから反発」といった個別判断が不要になります。
クーロンの法則と万有引力の法則の本質的な共通点と違いが分かる。 両者は同じ逆二乗則であり、数学的構造はほぼ同一です。 違いは「電荷には正負があるが、質量は常に正」という一点に集約されます。
複数電荷の問題を体系的に解けるようになる。 重ね合わせの原理をベクトル形式で使うことで、3体以上の問題でも統一的な方法で力を計算できます。
まず、大学で使うクーロンの法則の書き方を確認します。
電荷 $q_1$ が電荷 $q_2$ に及ぼす力:
$$\vec{F}_{12} = \frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\frac{q_1 q_2}{r^2}\hat{r}_{12}$$
この式では、$q_1$ と $q_2$ に絶対値をつけていないことが重要です。 電荷の符号がそのまま式に入ることで、力の方向が自動的に決まります。
高校では「同符号なら反発」と暗記していた判断が、式に電荷の符号を残すだけで不要になります。
誤解:「$k$ と $1/(4\pi\varepsilon_0)$ は別物で、大学では $k$ を使ってはいけない」
実際:$k = 1/(4\pi\varepsilon_0)$ であり、同じ値です。 大学の教科書で $\varepsilon_0$ を使う理由は、ガウスの法則(E-13-3)で $\oint \vec{E}\cdot d\vec{A} = Q_{\text{enc}}/\varepsilon_0$ と書いたときに $4\pi$ が消えて式が簡潔になるからです。 計算上は $k$ を使っても全く問題ありません。
より一般的には、電荷 $q_1$ が位置 $\vec{r}_1$ に、$q_2$ が位置 $\vec{r}_2$ にあるとき:
$$\vec{F}_{12} = \frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\frac{q_1 q_2}{|\vec{r}_2 - \vec{r}_1|^3}(\vec{r}_2 - \vec{r}_1)$$
ここで $|\vec{r}_2 - \vec{r}_1|$ は2電荷間の距離であり、分母が3乗になっているのは $\hat{r} = (\vec{r}_2 - \vec{r}_1)/|\vec{r}_2 - \vec{r}_1|$ を使って単位ベクトルを表現しているためです。
クーロンの法則を大学の形で書くと、万有引力の法則との類似性が明確になります。
| 比較項目 | クーロン力 | 万有引力 |
|---|---|---|
| 法則の形 | $F = \dfrac{1}{4\pi\varepsilon_0}\dfrac{q_1 q_2}{r^2}$ | $F = G\dfrac{m_1 m_2}{r^2}$ |
| 距離依存性 | 逆二乗則($1/r^2$) | 逆二乗則($1/r^2$) |
| 「荷」の種類 | 電荷 $q$(正・負あり) | 質量 $m$(常に正) |
| 力の種類 | 引力と斥力の両方 | 引力のみ |
| 力の強さ | 非常に強い | 非常に弱い |
| 定数 | $k \approx 9.0 \times 10^9$ | $G \approx 6.67 \times 10^{-11}$ |
クーロン力と万有引力はどちらも逆二乗則に従います。 数学的な形は「定数 $\times$ 荷 $\times$ 荷 $/ r^2$」で同一です。
最大の違いは、質量には正しかないのに対し、電荷には正と負があること。 この一点が「万有引力は引力のみ」「クーロン力は引力と斥力の両方」という性質の違いを生みます。
力の強さの差も桁違いです。陽子と電子の間のクーロン力は万有引力の約 $10^{39}$ 倍です。 日常のスケールで電気力が圧倒的に強いにもかかわらず、物体が帯電しにくいのは正電荷と負電荷がほぼ完全に打ち消し合っているためです。
3次元空間で点源から等方的に広がるものは、距離 $r$ の球面の面積 $4\pi r^2$ に比例して「薄まる」ため、強度は $1/r^2$ に比例します。 これはガウスの法則(E-13-3)で定量的に理解できます。
逆に言えば、もし空間が2次元なら逆1乗則($1/r$)、4次元なら逆3乗則($1/r^3$)になります。 逆二乗則は「3次元空間に住んでいること」の反映です。
電荷が3つ以上ある場合、ある電荷に働く力はどう求めるのでしょうか。 答えは重ね合わせの原理です。
電荷 $q_i$ に働く力は、他のすべての電荷から受ける力のベクトル和:
$$\vec{F}_i = \sum_{j \neq i} \vec{F}_{ji} = \sum_{j \neq i} \frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\frac{q_j q_i}{r_{ji}^2}\hat{r}_{ji}$$
重ね合わせの原理は自明に見えるかもしれませんが、物理法則として保証されているものです。 例えば、3つ目の電荷の存在が、他の2つの電荷間の力を変えることはありません。 各ペア間の力は独立に計算でき、最後にベクトル和を取ればよいのです。
誤:「3つの電荷がある場合、各力の大きさを足す」
正:力はベクトルなので、大きさだけでなく方向を考慮して合成する。 同じ方向の力なら大きさの和になりますが、異なる方向の力は成分ごとに分解して足す必要があります。
重ね合わせの原理とベクトル形式を使って、典型的な問題を解いてみます。
$x$ 軸上の原点に電荷 $q_1 = +Q$($Q > 0$)、$x = d$ に電荷 $q_2 = +4Q$ を固定します。 この2つの電荷の間のどこかに電荷 $q_3$ を置いて、$q_3$ に働く力をゼロにしたい。 $q_3$ をどの位置に置けばよいでしょうか。
$q_3$ を $x = a$($0 < a < d$)に置くとします。
$q_1$ から $q_3$ への力は $+x$ 方向(同符号で斥力、$q_1$ から離れる方向):
$$F_1 = k\frac{Q q_3}{a^2}$$
$q_2$ から $q_3$ への力は $-x$ 方向(同符号で斥力、$q_2$ から離れる方向):
$$F_2 = k\frac{4Q q_3}{(d-a)^2}$$
つりあい条件 $F_1 = F_2$ より:
$$k\frac{Q q_3}{a^2} = k\frac{4Q q_3}{(d-a)^2}$$
$kQ q_3$ が両辺で消えて:
$$\frac{1}{a^2} = \frac{4}{(d-a)^2}$$
$$(d-a)^2 = 4a^2$$
$$d - a = 2a \quad (\text{正の値を取る})$$
$$a = \frac{d}{3}$$
つりあいの位置は $x = d/3$、つまり弱い電荷の側に寄った位置です。 これは直感と一致します。強い電荷 $4Q$ からの力が弱い電荷 $Q$ からの力と等しくなるためには、強い電荷から遠い位置にいる必要があるからです。
なお、つりあい条件で $q_3$ が消えたことに注目してください。 つりあいの位置は $q_3$ の大きさや符号によらないのです。 $q_3$ が正でも負でも、同じ位置でつりあいが成立します。
クーロンの法則は電磁気学の出発点であり、この先のすべての議論の基盤になります。
Q1. クーロンの法則で $k$ の代わりに $1/(4\pi\varepsilon_0)$ と書くのはなぜですか。
Q2. クーロンの法則のベクトル形式で、$q_1 q_2$ に絶対値をつけないのはなぜですか。
Q3. クーロン力と万有引力の最も本質的な違いは何ですか。
Q4. 3つの電荷がある場合、ある電荷に働く合力はどのように求めますか。
クーロンの法則のベクトル表現と重ね合わせの原理を、問題で確認しましょう。
真空中で、$q_1 = +3.0 \times 10^{-6}$ C と $q_2 = -2.0 \times 10^{-6}$ C の2つの点電荷が $r = 0.30$ m 離れて置かれている。次の問いに答えよ。$k = 9.0 \times 10^9$ N・m$^2$/C$^2$ とする。
(1) 2つの電荷間に働く力の大きさを求めよ。
(2) この力は引力か斥力か。理由を述べよ。
(1) $F = 0.60$ N
(2) 引力。異符号の電荷間に働く力であるため。
(1) $F = k\dfrac{|q_1||q_2|}{r^2} = 9.0 \times 10^9 \times \dfrac{3.0 \times 10^{-6} \times 2.0 \times 10^{-6}}{0.30^2}$
$= 9.0 \times 10^9 \times \dfrac{6.0 \times 10^{-12}}{0.09} = 9.0 \times 10^9 \times 6.67 \times 10^{-11} = 0.60$ N
(2) $q_1 > 0$、$q_2 < 0$ なので $q_1 q_2 < 0$。ベクトル形式ではこれは力が相手に向かう方向(引力)を意味する。
$x$ 軸上の原点に $q_1 = +Q$、$x = d$ に $q_2 = +Q$、$x = d/2$ に $q_3 = -Q$ の3つの点電荷がある($Q > 0$、$d > 0$)。電荷 $q_3$ に働く合力を求めよ。
合力は $\vec{F} = \vec{0}$(ゼロ)。
$q_3$ は $q_1$ と $q_2$ のちょうど中間にある。
$q_1$ から $q_3$ への力:$q_1$ と $q_3$ は異符号なので引力。$q_3$ は $q_1$ に引かれて $-x$ 方向の力を受ける。大きさは $F_1 = k\dfrac{Q \cdot Q}{(d/2)^2} = \dfrac{4kQ^2}{d^2}$。
$q_2$ から $q_3$ への力:$q_2$ と $q_3$ も異符号なので引力。$q_3$ は $q_2$ に引かれて $+x$ 方向の力を受ける。大きさは $F_2 = k\dfrac{Q \cdot Q}{(d/2)^2} = \dfrac{4kQ^2}{d^2}$。
$F_1 = F_2$ で方向が逆なので、合力は $\vec{0}$。対称性から予想できる結果である。
$x$ 軸上の原点に $q_1 = +Q$、$x = d$ に $q_2 = +9Q$($Q > 0$、$d > 0$)が固定されている。$x$ 軸上のどの位置に電荷 $q_3$ を置けば、$q_3$ に働く合力がゼロになるか。次の問いに答えよ。
(1) つりあいの位置を求めよ。
(2) つりあいの位置は $q_3$ の符号や大きさに依存するか。理由を述べよ。
(3) $q_2 = -9Q$(負電荷)に変えた場合、$q_1$ と $q_2$ の間につりあいの位置は存在するか。理由を述べよ。
(1) $x = d/4$
(2) 依存しない。つりあい条件の式で $q_3$ は消去されるため。
(3) 存在しない。$q_1$ と $q_2$ の間では、$q_1$(正)と $q_2$(負)からの力が同じ方向を向くため、打ち消し合うことができない。
(1) $q_3$ を $x = a$($0 < a < d$)に置く。同符号の斥力なので、$q_1$ からは $+x$ 方向、$q_2$ からは $-x$ 方向の力を受ける。
つりあい条件:$k\dfrac{Q q_3}{a^2} = k\dfrac{9Q q_3}{(d-a)^2}$
$q_3$ と $kQ$ を消去:$(d-a)^2 = 9a^2$、$d-a = 3a$(正の値)、$a = d/4$。
(2) つりあい条件 $\dfrac{1}{a^2} = \dfrac{9}{(d-a)^2}$ には $q_3$ が含まれていない。$q_3$ が正でも負でも、同じ位置でつりあう。
(3) $q_1 = +Q$、$q_2 = -9Q$ の場合、間の位置($0 < x < d$)では:$q_1$(正)からは斥力($+x$ 方向)、$q_2$(負)からは引力($+x$ 方向)。 両方の力が同じ方向を向くため、力は打ち消し合えず、つりあいは不可能。