第20章 光の粒子性

光電効果
─ アインシュタインの光量子仮説

高校物理では、光電効果の公式 $h\nu = W + K_{\max}$ を覚え、限界振動数や仕事関数といった用語を学びます。 公式を使って計算問題を解くことはできますが、「なぜこの式が成り立つのか」「なぜ古典的な電磁波の理論では説明できないのか」までは踏み込みません。

大学物理では、まず古典電磁気学の予測と実験事実の矛盾を明確にし、 その矛盾を解決するためにアインシュタインが提唱した光量子仮説を学びます。 光を「エネルギー $h\nu$ を持つ粒子(光子)の集まり」と見なすことで、 光電効果のすべての実験事実が統一的に説明できるようになります。

この記事では、古典論がなぜ失敗するかを確認した上で、光量子仮説から $h\nu = W + K_{\max}$ を導出します。 公式の「意味」が分かれば、暗記に頼らず問題を解けるようになります。

1高校物理での扱い

高校物理では、光電効果を次のように学びます。

  • 金属に光を当てると電子が飛び出す現象を光電効果という
  • 飛び出す電子の最大運動エネルギー $K_{\max}$ は、光の振動数 $\nu$ に依存し、光の強度には依存しない
  • 光電効果が起こる最小の振動数を限界振動数 $\nu_0$ という
  • 金属から電子を取り出すのに必要な最小エネルギーを仕事関数 $W$ という
  • 光電効果の公式:$h\nu = W + K_{\max}$

この公式を使って「振動数 $\nu$ の光を当てたとき、飛び出す電子の最大運動エネルギーを求めよ」といった問題を解きます。 公式自体は簡潔であり、計算も難しくありません。

しかし、高校の範囲では以下の点が十分に扱われません。

  • なぜ光の強度を上げても、振動数が低ければ電子が飛び出さないのか ── 古典的な波動論では、強い光ほどエネルギーが大きいはず
  • なぜ光を当てた瞬間に電子が飛び出すのか ── 波動論では、弱い光なら電子がエネルギーを蓄えるのに時間がかかるはず
  • なぜ $h\nu = W + K_{\max}$ という式が成り立つのか ── 式の導出過程は省略される

大学物理では、これらの疑問に正面から答えます。

2大学の視点で見ると何が変わるのか

大学物理では、光電効果を「古典物理学の限界を示す決定的な実験事実」として位置づけます。 公式を覚えるだけでなく、なぜその公式が必要なのかを理解することが目標です。

高校 vs 大学:光電効果の扱い
高校:公式を暗記して使う
$h\nu = W + K_{\max}$ を覚え、数値を代入して計算する。
なぜこの式が成り立つかは問わない。
大学:古典論の矛盾から出発する
古典電磁気学では光電効果を説明できないことを確認し、光量子仮説から公式を導出する。
式の背景にある物理を理解する。
高校:光は波
干渉・回折を学び、光は波として扱う。
大学:光は粒子でもある
光電効果は光の粒子性の証拠。波動と粒子の二重性へ。
高校:限界振動数を「ある」と受け入れる
なぜ存在するかは説明しない。
大学:限界振動数の存在理由を説明できる
1個の光子のエネルギーが仕事関数未満なら電子は出ない。
この記事で得られること

古典論の限界を理解できる。 古典電磁気学が光電効果のどの実験事実を説明できないかを、3つの矛盾点として整理します。

光量子仮説の論理を理解できる。 「光はエネルギー $h\nu$ を持つ粒子の集まりである」という仮説が、すべての矛盾を一挙に解消することを確認します。

公式を「導出」できるようになる。 $h\nu = W + K_{\max}$ をエネルギー保存則から自分で導けるようになります。 暗記ではなく、理解に基づいた知識が得られます。

量子力学の出発点を知る。 光電効果は量子力学誕生のきっかけの1つです。この記事は現代物理学への入口でもあります。

3古典論の予測と実験事実の矛盾

光電効果の実験事実を、古典電磁気学(マクスウェルの理論)の予測と比較してみましょう。 古典論では光を連続的な波として扱います。波のエネルギーは振幅の2乗に比例し、振動数には依存しません。

矛盾1:限界振動数の存在

実験事実:光の振動数がある値 $\nu_0$(限界振動数)以下では、光の強度をいくら上げても電子は飛び出しません。

古典論の予測:光は連続的な波なので、強度(振幅)を上げればエネルギーをいくらでも増やせます。 十分に強い光を当てれば、振動数に関係なく電子にエネルギーを与えて飛び出させることができるはずです。

矛盾:古典論では、光の強度さえ大きければ電子が飛び出すと予測しますが、実験では振動数が低い光ではどんなに強くしても電子は出ません。

矛盾2:運動エネルギーの光強度非依存性

実験事実:飛び出す電子の最大運動エネルギー $K_{\max}$ は光の振動数にのみ依存し、光の強度には依存しません。 光の強度を上げると、飛び出す電子のは増えますが、1個あたりの最大運動エネルギーは変わりません。

古典論の予測:強い光(大きな振幅の波)は多くのエネルギーを運ぶので、電子により大きな運動エネルギーを与えるはずです。

矛盾:古典論では光が強いほど電子の運動エネルギーが大きくなると予測しますが、実験ではそうなりません。

矛盾3:応答時間の問題

実験事実:限界振動数以上の光を当てると、光の強度が極めて弱くても、ほぼ瞬時($10^{-9}$ 秒以下)に電子が飛び出します。

古典論の予測:波として金属表面に到達するエネルギーは、面積あたりに分散します。 弱い光の場合、1個の電子が仕事関数に相当するエネルギーを蓄えるには、計算上数分から数時間かかるはずです。

矛盾:古典論では弱い光に対して長い時間遅れを予測しますが、実験では即座に電子が出ます。

落とし穴:「光の強度 = 光のエネルギー」と漠然と考えてはいけない

誤解:「光が強い = 1つの光子のエネルギーが大きい」

正しい理解:光の強度が大きいとは、光子の数が多いことを意味します。 1個の光子のエネルギーは振動数のみで決まります($E = h\nu$)。 強い光とは、同じエネルギーの光子が大量に来ている状態です。

4アインシュタインの光量子仮説

1905年、アインシュタインは上記の矛盾をすべて解決する仮説を提唱しました。

光量子仮説

光は、振動数 $\nu$ に比例するエネルギー

$$E = h\nu$$

を持つ粒子(光子、photon)の集まりである。

$h = 6.63 \times 10^{-34}$ J$\cdot$s はプランク定数。 プランクが黒体放射の理論(1900年)で導入した定数を、アインシュタインが光の粒子性に適用しました。

この仮説のもとで、3つの矛盾がすべて解消されます。

矛盾1の解消:限界振動数

光子1個のエネルギーは $h\nu$ です。金属から電子を取り出すには、少なくとも仕事関数 $W$ 以上のエネルギーが必要です。 したがって、$h\nu < W$(つまり $\nu < W/h = \nu_0$)であれば、光子1個のエネルギーが不足しているため、 光子がいくらたくさん来ても(光の強度を上げても)電子は飛び出しません。

矛盾2の解消:運動エネルギーの強度非依存性

光電効果は「光子1個が電子1個にエネルギーを与える」過程です。 光子1個のエネルギーは $h\nu$ であり、光の強度(光子の数)に依存しません。 したがって、電子が受け取るエネルギーも $h\nu$ で決まり、$K_{\max}$ は振動数のみに依存します。 光の強度を上げると光子の数が増えるので、飛び出す電子の数は増えますが、1個あたりの最大運動エネルギーは変わりません。

矛盾3の解消:瞬時の応答

光子は粒子であり、そのエネルギーは1点に集中しています。波のように面全体に広がるのではありません。 したがって、光子が電子に衝突した瞬間に $h\nu$ のエネルギーが一度に移り、電子は即座に飛び出します。 エネルギーを蓄える時間は必要ありません。

光量子仮説の核心

光量子仮説の本質は、光のエネルギーが連続的ではなく、$h\nu$ を単位として量子化されているという点にあります。

古典論では、光のエネルギーは連続的で、振幅に応じていくらでも小さい値を取れると考えます。 光量子仮説では、エネルギーの最小単位が $h\nu$ であり、それより小さいエネルギーの光は存在しません。

この「エネルギーの量子化」こそが、20世紀物理学を古典物理学から決定的に分けた概念です。

5光電効果の式の導出

光量子仮説を前提にすると、光電効果の式はエネルギー保存則から直ちに導けます。

導出:光電効果の式

振動数 $\nu$ の光子1個が金属表面の電子に吸収される過程を考えます。

光子のエネルギー:$E_{\text{photon}} = h\nu$

このエネルギーは2つに使われます。

(1) 金属から電子を取り出すために必要なエネルギー:仕事関数 $W$

(2) 飛び出した電子の運動エネルギー:$K$

エネルギー保存則より:

$$h\nu = W + K$$

金属表面にある電子が最もエネルギーを受け取りやすく、この場合に運動エネルギーが最大になります。

$$\boxed{h\nu = W + K_{\max}}$$

高校で暗記する公式 $h\nu = W + K_{\max}$ は、「光子1個のエネルギーが、仕事関数と電子の運動エネルギーに配分される」という 単なるエネルギー保存則にすぎません。

限界振動数

$K_{\max} = 0$ とすると、電子がぎりぎり飛び出す条件が得られます。

$$h\nu_0 = W \quad \Longrightarrow \quad \nu_0 = \frac{W}{h}$$

$\nu_0$ が限界振動数です。$\nu < \nu_0$ では $K_{\max}$ が負になるため物理的に意味を持たず、光電効果は起こりません。

光電効果の式を $K_{\max}$ について整理すると:

$$K_{\max} = h\nu - W = h(\nu - \nu_0)$$

これは $K_{\max}$ と $\nu$ の関係が傾き $h$、$\nu$ 切片 $\nu_0$ の直線であることを示しています。 この直線関係はミリカンの実験(1916年)によって精密に確認され、プランク定数 $h$ の値が正確に決定されました。

アインシュタインとノーベル賞

アインシュタインが1921年のノーベル物理学賞を受賞したのは、相対性理論ではなく「光電効果の法則の発見」に対してです。 光量子仮説は物理学の根本的なパラダイムシフトを引き起こしたため、この業績が選ばれました。

6阻止電圧とプランク定数の決定

光電効果の実験では、飛び出した電子の最大運動エネルギー $K_{\max}$ を直接測定するのではなく、 阻止電圧(stopping voltage)$V_s$ を測定します。

阻止電圧の原理

光電効果で飛び出した電子を、電場で減速させます。 電子(電荷 $-e$)が電位差 $V_s$ を逆方向に通過するとき、電子の運動エネルギーは $eV_s$ だけ減少します。 ちょうど電子が止まる電圧が阻止電圧です。

阻止電圧と最大運動エネルギー

$$eV_s = K_{\max}$$

$e = 1.60 \times 10^{-19}$ C は電気素量。$V_s$ を測定すれば $K_{\max}$ が分かります。

光電効果の式と組み合わせると:

$$eV_s = h\nu - W$$

これを $V_s$ について解くと:

$$V_s = \frac{h}{e}\nu - \frac{W}{e}$$

$V_s$ を $\nu$ の関数としてグラフに描くと、傾き $h/e$、$V_s$ 切片 $-W/e$ の直線になります。 傾きから $h/e$ が決まり、$e$ の値は別の実験(ミリカンの油滴実験など)で既知なので、$h$ を求めることができます。

落とし穴:阻止電圧は金属の種類に依存しない部分がある

誤解:「$V_s$ のグラフは金属ごとに傾きが異なる」

正しい理解:$V_s$-$\nu$ グラフの傾きは $h/e$ で、すべての金属で同じです。 異なるのは $\nu$ 切片($\nu_0 = W/h$)、つまり直線の横方向の位置だけです。 これは光量子仮説が特定の金属に依存しない普遍的な理論であることを示しています。

7つながりマップ

光電効果は、光の粒子性を示す最初の証拠であり、量子力学への入口です。

  • → A-20-2 コンプトン散乱:光子が運動量 $p = h/\lambda$ を持つことの証拠。光電効果が「光子のエネルギー」を示したのに対し、コンプトン散乱は「光子の運動量」を示す。
  • → A-20-3 X線の発生と性質:連続X線の最短波長 $\lambda_{\min} = hc/(eV)$ は、光電効果の逆過程(電子の運動エネルギーが光子のエネルギーに変換される)として理解できる。
  • → A-21-1 ド・ブロイ波:光が粒子性を持つなら、逆に粒子(電子など)も波動性を持つのではないか ── この発想がド・ブロイの物質波仮説を生んだ。
  • ← E-19-3 電磁波のスペクトル:電磁波を古典的な波として学んだ上で、光電効果はその枠組みの限界を示す。

📋まとめ

  • 光電効果の実験事実は、古典電磁気学(光は連続的な波)では3つの点で矛盾する:限界振動数の存在、$K_{\max}$ の強度非依存性、瞬時の応答
  • アインシュタインの光量子仮説:光はエネルギー $E = h\nu$ を持つ粒子(光子)の集まりである
  • 光電効果の式 $h\nu = W + K_{\max}$ は、光子1個と電子1個の間のエネルギー保存則にすぎない
  • 限界振動数 $\nu_0 = W/h$ は、光子1個のエネルギーが仕事関数に等しくなる振動数
  • 阻止電圧 $V_s$ の測定から $K_{\max} = eV_s$ が分かり、$V_s$-$\nu$ グラフの傾き $h/e$ からプランク定数 $h$ が決定される
  • 光電効果は量子力学の出発点の1つであり、光のエネルギーが量子化されていることを示す決定的な証拠である

確認テスト

Q1. 古典電磁気学の予測と光電効果の実験事実が矛盾する点を1つ挙げてください。

▶ クリックして解答を表示(例)古典論では光の強度を上げれば振動数に関係なく電子が飛び出すと予測するが、実験では限界振動数以下の光ではどんなに強くしても電子は飛び出さない。

Q2. 光量子仮説において、振動数 $\nu$ の光子1個のエネルギーはいくらですか。

▶ クリックして解答を表示$E = h\nu$($h$ はプランク定数)。

Q3. 光電効果の式 $h\nu = W + K_{\max}$ は、どのような物理法則から導かれますか。

▶ クリックして解答を表示エネルギー保存則。光子1個のエネルギー $h\nu$ が、仕事関数 $W$(電子を金属から取り出すエネルギー)と電子の最大運動エネルギー $K_{\max}$ に配分される。

Q4. 光の強度を2倍にすると、飛び出す電子の最大運動エネルギーと電子の数はそれぞれどうなりますか。

▶ クリックして解答を表示最大運動エネルギーは変わらない($K_{\max}$ は振動数のみに依存)。飛び出す電子の数は約2倍になる(光子の数が2倍になるため)。

10演習問題

光電効果の式を使った計算と、光量子仮説の理解を問う問題です。

A 基礎レベル

20-1-1 A 基礎 光電効果の式

仕事関数 $W = 4.0$ eV の金属に、振動数 $\nu = 2.0 \times 10^{15}$ Hz の光を照射した。プランク定数を $h = 6.6 \times 10^{-34}$ J$\cdot$s、$1\,\text{eV} = 1.6 \times 10^{-19}$ J とする。

(1) 光子1個のエネルギーを eV で求めよ。

(2) 飛び出す電子の最大運動エネルギー $K_{\max}$ を eV で求めよ。

(3) この金属の限界振動数 $\nu_0$ を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $E = h\nu = 6.6 \times 10^{-34} \times 2.0 \times 10^{15} = 1.32 \times 10^{-18}$ J $= 8.25$ eV $\approx 8.3$ eV

(2) $K_{\max} = h\nu - W = 8.3 - 4.0 = 4.3$ eV

(3) $\nu_0 = \dfrac{W}{h} = \dfrac{4.0 \times 1.6 \times 10^{-19}}{6.6 \times 10^{-34}} = 9.7 \times 10^{14}$ Hz

解説

(1) $E = h\nu$ に代入するだけです。SI単位で計算した後、$1$ eV $= 1.6 \times 10^{-19}$ J で割って eV に変換します。

(2) $h\nu = W + K_{\max}$ より $K_{\max} = h\nu - W$。eV 同士の引き算です。

(3) $h\nu_0 = W$ より $\nu_0 = W/h$。$W$ を J に変換してから $h$ で割ります。

B 発展レベル

20-1-2 B 発展 阻止電圧 グラフ

ある金属に振動数の異なる光を照射し、阻止電圧 $V_s$ を測定したところ、以下のデータが得られた。

$\nu$ [$\times 10^{14}$ Hz]$V_s$ [V]
6.00.50
8.01.33
10.02.16

(1) $V_s$ と $\nu$ の関係式を書け。

(2) このデータからプランク定数 $h$ の値を求めよ。$e = 1.6 \times 10^{-19}$ C とする。

(3) この金属の仕事関数 $W$ を eV で求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $V_s = \dfrac{h}{e}\nu - \dfrac{W}{e}$

(2) 傾き $= \dfrac{2.16 - 0.50}{(10.0 - 6.0) \times 10^{14}} = \dfrac{1.66}{4.0 \times 10^{14}} = 4.15 \times 10^{-15}$ V$\cdot$s

$\dfrac{h}{e} = 4.15 \times 10^{-15}$ V$\cdot$s より $h = 4.15 \times 10^{-15} \times 1.6 \times 10^{-19} = 6.6 \times 10^{-34}$ J$\cdot$s

(3) $\nu_0$ は $V_s = 0$ のとき。$0 = 4.15 \times 10^{-15} \times \nu_0 - 0.50$ のデータ点より、 $W = h\nu_0 = eV_s|_{\nu} + W$ から $W/e = \dfrac{h}{e}\nu - V_s = 4.15 \times 10^{-15} \times 6.0 \times 10^{14} - 0.50 = 2.49 - 0.50 = 1.99$ V。 よって $W \approx 2.0$ eV

解説

$eV_s = h\nu - W$ を $V_s$ について解くと $V_s = (h/e)\nu - W/e$ となり、$V_s$-$\nu$ グラフが傾き $h/e$ の直線になります。

2点のデータから傾きを求め、$h/e$ の値を得ます。$e$ は既知なので $h$ が決まります。

仕事関数は、データ点を直線の式に代入して $W/e$ を求め、eV 単位で読み取ります。

採点ポイント
  • $V_s = (h/e)\nu - W/e$ の関係式を正しく書く(2点)
  • 傾き $h/e$ を正しく計算する(3点)
  • $h$ の値を正しく求める(2点)
  • 仕事関数を正しく求める(3点)

C 応用レベル

20-1-3 C 応用 古典論との比較 論述

仕事関数 $W = 2.0$ eV の金属表面(面積 $1.0 \times 10^{-14}$ m$^2$ の領域に電子1個が存在すると仮定)に、振動数 $\nu = 1.0 \times 10^{15}$ Hz、強度 $I = 1.0 \times 10^{-4}$ W/m$^2$ の光を照射する。$h = 6.6 \times 10^{-34}$ J$\cdot$s、$1$ eV $= 1.6 \times 10^{-19}$ J とする。

(1) 古典論に基づき、電子1個が仕事関数に相当するエネルギーを蓄えるのに必要な時間を見積もれ。

(2) 実験では光を照射してから $10^{-9}$ 秒以内に電子が飛び出す。古典論の予測と比較し、光量子仮説がこの事実をどのように説明するか述べよ。

(3) この条件で飛び出す電子の最大運動エネルギーを求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 電子1個が受け取るエネルギーの率 $= I \times S = 1.0 \times 10^{-4} \times 1.0 \times 10^{-14} = 1.0 \times 10^{-18}$ W

必要な時間 $t = \dfrac{W}{I \cdot S} = \dfrac{2.0 \times 1.6 \times 10^{-19}}{1.0 \times 10^{-18}} = 0.32$ s $\approx 0.3$ 秒

(2) 古典論では約0.3秒の時間遅れを予測するが、実験では $10^{-9}$ 秒以内に電子が出る。光量子仮説では、光子は粒子であり、そのエネルギー $h\nu$ は1点に集中している。光子1個が電子1個に衝突した瞬間にエネルギー全体が移るため、時間遅れなく即座に電子が飛び出す。

(3) $K_{\max} = h\nu - W = 6.6 \times 10^{-34} \times 1.0 \times 10^{15} - 2.0 \times 1.6 \times 10^{-19} = 6.6 \times 10^{-19} - 3.2 \times 10^{-19} = 3.4 \times 10^{-19}$ J $= 2.1$ eV

解説

(1) 古典論では光のエネルギーが波として金属表面全体に均一に分布します。面積 $S$ の領域に単位時間あたり $I \cdot S$ のエネルギーが流入するので、仕事関数 $W$ を蓄えるのに $t = W/(IS)$ だけの時間がかかります。

(2) 古典論の予測(約0.3秒)と実験事実($10^{-9}$ 秒以下)には約 $10^8$ 倍の差があります。 光量子仮説では、光子のエネルギーは空間的に分散しておらず、粒子として1点に集中しています。 光子が電子に吸収される過程は瞬間的であり、エネルギーの蓄積は不要です。

(3) 光電効果の式 $K_{\max} = h\nu - W$ に代入します。光の強度は $K_{\max}$ に影響しません。

採点ポイント
  • 古典論での蓄積時間を正しく見積もる(3点)
  • 実験事実との矛盾を定量的に指摘する(2点)
  • 光量子仮説による説明(光子のエネルギーが1点に集中)を述べる(3点)
  • $K_{\max}$ を正しく計算する(2点)