高校物理では、分散を「プリズムで白色光が色に分かれる現象」、偏光を「特定方向に振動する光」として学びます。
偏光板を通したときの強度がマルスの法則 $I = I_0\cos^2\theta$ に従うことも覚えます。
大学物理では、分散は屈折率の波長依存性 $n(\lambda)$として定量化されます。
偏光は光が横波であることの直接的な証拠であり、電場ベクトルの振動方向を使って記述します。
マルスの法則も、電場ベクトルの射影として自然に導出できます。
この記事では、分散と偏光を電磁波としての光の性質から統一的に理解し、
ブリュースター角のような高校では扱われないが物理的に重要な現象も取り上げます。
高校物理では、分散と偏光について次のことを学びます。
これらの知識で基本的な問題は解けますが、次の疑問が残ります。
分散の物理的意味を理解できる。 屈折率が波長の関数 $n(\lambda)$ であることを理解し、なぜ紫の光がより大きく屈折するかを説明できます。
偏光を電場ベクトルで記述できる。 直線偏光、円偏光、楕円偏光の違いを、電場の振動の仕方で区別できるようになります。
マルスの法則を「導出できる」ようになる。 電場ベクトルの射影から $I = I_0\cos^2\theta$ が自然に出てくることを理解できます。
ブリュースター角を理解できる。 反射光が完全偏光する条件とその物理的理由を学びます。
分散とは、屈折率が光の波長に依存する現象です。 記号で書くと $n = n(\lambda)$ です。
ほとんどの透明な物質(ガラス、水など)では、波長が短いほど屈折率が大きくなります。 これを正常分散と呼びます。
定性的な説明:物質中の電子は入射光の電場によって強制振動します。 電子の固有振動数(紫外領域に多い)に近い波長ほど応答が大きくなり、屈折率が増加します。 可視光の範囲では紫の光(短波長)が固有振動数に近いため、屈折率が大きくなります。
物質の吸収帯(固有振動数付近)の近くでは、波長が短いほど屈折率が小さくなる領域が存在します。 これを異常分散と呼びます。 「異常」という名前ですが、物理的には正常分散と同じメカニズムの一部です。
W-12-2(レンズと鏡)で扱った色収差は、分散が原因です。 レンズメーカーの公式 $1/f = (n-1)(1/R_1 - 1/R_2)$ の $n$ が波長依存なので、 波長ごとに焦点距離が異なります。
色消しレンズ(アクロマートレンズ)は、分散特性の異なる2種類のガラスを組み合わせることで色収差を低減しています。
光は電磁波であり、電場と磁場が進行方向に垂直に振動する横波です。 偏光とは、この電場ベクトルの振動状態を指します。
縦波(音波など)では、振動方向が進行方向と平行です。したがって「振動方向の選り分け」(偏光)は原理的にできません。 偏光が存在するということは、光の振動方向が進行方向と垂直であること、すなわち光が横波であることの直接的な証拠です。
電場ベクトルが常に同じ方向に振動する光です。偏光板を1枚通過した光は直線偏光になります。 電場ベクトルを $\mathbf{E} = E_0 \cos(\omega t - kz)\,\hat{\mathbf{e}}$ と書けます($\hat{\mathbf{e}}$ は偏光方向の単位ベクトル)。
電場ベクトルの先端が、進行方向から見て円を描く光です。 互いに垂直な2つの直線偏光が、振幅が等しく位相が $\pi/2$ ずれて重なると円偏光になります。
$$E_x = E_0\cos(\omega t - kz), \qquad E_y = E_0\cos\!\left(\omega t - kz \pm \frac{\pi}{2}\right)$$
$+\pi/2$ のとき左回り、$-\pi/2$ のとき右回りの円偏光です。
円偏光の一般化で、電場ベクトルの先端が楕円を描く光です。 2つの直線偏光の振幅が異なるか、位相差が $\pi/2$ でない場合に生じます。 最も一般的な偏光状態であり、直線偏光と円偏光はその特殊な場合です。
誤解:自然光は「振動していない光」
正:自然光(無偏光)は、あらゆる方向に振動する多数の光の重ね合わせです。 各光は確かに偏光していますが、全体としてどの方向にも偏りがないため「無偏光」と呼ばれます。 偏光板はこの中から特定方向の成分だけを取り出す装置です。
偏光板を2枚使う場合を考えます。 1枚目の偏光板(偏光子)を通った光は直線偏光になります。 2枚目の偏光板(検光子)の偏光軸が偏光子と角度 $\theta$ をなすとき、透過光の強度はどうなるでしょうか。
偏光子を通った光の電場ベクトルの振幅を $E_0$ とします。振動方向は偏光子の軸方向です。
検光子の軸方向に対する電場の成分(射影)は:
$$E_{\text{透過}} = E_0 \cos\theta$$
光の強度は電場の振幅の2乗に比例するので:
$$I = I_0 \cos^2\theta$$
$$I = I_0 \cos^2\theta$$
マルスの法則が $\cos\theta$ ではなく $\cos^2\theta$ である理由は、光の強度が電場の振幅の2乗に比例するためです。
電場の振幅は $\cos\theta$ 倍になりますが、強度(エネルギー流束)は振幅の2乗なので $\cos^2\theta$ 倍になります。 これは暗記ではなく、電場の射影から自然に導出される結果です。
偏光板を使わなくても、反射によって偏光を作ることができます。 特定の入射角(ブリュースター角)では、反射光が完全な直線偏光になります。
$$\tan\theta_B = \frac{n_2}{n_1}$$
ブリュースター角では、反射光と屈折光のなす角がちょうど $90°$ になります。 このとき、屈折光の振動方向(p偏光成分)が反射光の進行方向と一致するため、 p偏光成分は反射方向に光を放出できません(振動方向と進行方向が平行な光は存在しない)。 その結果、反射光にはs偏光成分のみが残ります。
反射光と屈折光のなす角が $90°$ になる条件は $\theta_1 + \theta_2 = 90°$ です。
$\theta_2 = 90° - \theta_1$ をスネルの法則に代入すると:
$$n_1\sin\theta_1 = n_2\sin(90° - \theta_1) = n_2\cos\theta_1$$
$$\tan\theta_1 = \frac{n_2}{n_1}$$
この $\theta_1$ がブリュースター角 $\theta_B$ です。
水面や道路からの反射光(ギラつき)は、ブリュースター角付近での反射のため部分的に偏光しています。 偏光サングラスは、この偏光した反射光を遮断する向きに偏光軸が設定されています。
反射光のs偏光(水平方向の偏光)を遮断することで、水面のギラつきを除去しつつ、 直接光(無偏光)はある程度透過させます。
Q1. 分散とは何か、屈折率を使って説明してください。
Q2. マルスの法則が $I = I_0\cos\theta$ ではなく $I = I_0\cos^2\theta$ である理由を説明してください。
Q3. 偏光現象が「光が横波である証拠」と言える理由を説明してください。
Q4. 空気中からガラス($n = 1.5$)への入射でのブリュースター角を求めてください。
分散と偏光に関する理解を確認しましょう。
直線偏光が偏光板に入射する。偏光板の偏光軸と光の偏光方向のなす角が $\theta$ のとき、次の問いに答えよ。
(1) $\theta = 30°$ のとき、透過光の強度は入射光の何倍か。
(2) 透過光の強度が入射光の $1/2$ になる $\theta$ を求めよ。
(1) $\cos^2 30° = 3/4 = 0.75$ 倍
(2) $\theta = 45°$
(1) マルスの法則 $I = I_0\cos^2\theta$ より、$I/I_0 = \cos^2 30° = (\sqrt{3}/2)^2 = 3/4$。
(2) $\cos^2\theta = 1/2$ より $\cos\theta = 1/\sqrt{2}$。$\theta = 45°$。
空気中($n_1 = 1.0$)から水面($n_2 = 4/3$)に光が入射する場合について、次の問いに答えよ。
(1) ブリュースター角 $\theta_B$ を求めよ。
(2) ブリュースター角で入射したときの屈折角 $\theta_2$ を求めよ。
(3) $\theta_B + \theta_2$ を求め、その物理的意味を説明せよ。
(1) $\theta_B = \arctan(4/3) \approx 53.1°$
(2) $\theta_2 = 90° - \theta_B \approx 36.9°$
(3) $\theta_B + \theta_2 = 90°$。反射光と屈折光が直交する。これがブリュースター角の定義条件であり、p偏光成分が反射できない幾何学的理由。
(1) $\tan\theta_B = n_2/n_1 = 4/3$ より $\theta_B = \arctan(4/3) \approx 53.1°$。
(2) ブリュースター角の定義から $\theta_B + \theta_2 = 90°$。よって $\theta_2 = 90° - 53.1° = 36.9°$。検算:$n_1\sin\theta_B = 1.0 \times \sin 53.1° \approx 0.800$、$n_2\sin\theta_2 = (4/3) \times \sin 36.9° \approx (4/3) \times 0.600 = 0.800$。一致する。
(3) 反射光と屈折光が直角をなすということは、屈折光中の電場の振動方向(入射面内の成分、p偏光)が反射光の進行方向と一致することを意味する。電磁波は進行方向に電場成分を持てないため、p偏光成分は反射光として放出されない。
3枚の偏光板A, B, Cがこの順に並んでいる。Aの偏光軸を基準として、Bの偏光軸は $45°$、Cの偏光軸は $90°$ に設定されている。強度 $I_0$ の無偏光がAに入射する。次の問いに答えよ。
(1) Cを透過した光の強度を求めよ。
(2) 偏光板Bを取り除いた場合、Cを透過する光の強度はいくらになるか。
(3) (1)と(2)の結果を比較し、中間に偏光板を挿入することで透過光が増える理由を、電場ベクトルの射影を用いて説明せよ。
(1) $I_0/8$
(2) $0$
(3) 偏光板Bを挿入すると、Aを通過した光の偏光方向が $45°$ 回転し、Cの軸に対して $45°$ となる。Bなしでは偏光方向とCの軸が $90°$ で完全遮断されるが、Bを挟むことで偏光方向が「中継」され、各段階での損失は $\cos^2 45° = 1/2$ に留まる。
(1) 無偏光がAを通過:$I_1 = I_0/2$(無偏光から直線偏光になると強度は半分)。Aの偏光軸方向の直線偏光がBを通過:$I_2 = I_1\cos^2 45° = (I_0/2)(1/2) = I_0/4$。BからCへ(角度差 $45°$):$I_3 = I_2\cos^2 45° = (I_0/4)(1/2) = I_0/8$。
(2) Bを取り除くと、Aの偏光軸($0°$)とCの偏光軸($90°$)が直交。$I = (I_0/2)\cos^2 90° = 0$。
(3) 偏光板Bは、Aから出た直線偏光の電場ベクトルを $45°$ 方向に射影します。この射影により、偏光方向が回転します。Cに到達する光はBの軸方向($45°$)に偏光しており、Cの軸($90°$)との角度は $45°$ です。各偏光板での強度損失は $\cos^2 45° = 1/2$ であり、全透過しないものの完全遮断も避けられます。Bがないと $90°$ の角度差で完全に遮断されますが、Bを挟むことで電場ベクトルが段階的に回転し、最終的に $I_0/8$ の光が透過します。