第12章 光

光の分散と偏光

高校物理では、分散を「プリズムで白色光が色に分かれる現象」、偏光を「特定方向に振動する光」として学びます。 偏光板を通したときの強度がマルスの法則 $I = I_0\cos^2\theta$ に従うことも覚えます。

大学物理では、分散は屈折率の波長依存性 $n(\lambda)$として定量化されます。 偏光は光が横波であることの直接的な証拠であり、電場ベクトルの振動方向を使って記述します。 マルスの法則も、電場ベクトルの射影として自然に導出できます。

この記事では、分散と偏光を電磁波としての光の性質から統一的に理解し、 ブリュースター角のような高校では扱われないが物理的に重要な現象も取り上げます。

1高校物理の道具を確認する

高校物理では、分散と偏光について次のことを学びます。

  • 分散:プリズムを通すと白色光がスペクトル(虹の七色)に分かれる。波長の短い光(紫)ほど屈折率が大きく、大きく曲がる
  • 偏光:特定の方向に振動する光。自然光は無偏光(あらゆる方向に振動)。偏光板で特定方向の光だけを取り出せる
  • マルスの法則:偏光板を2枚使うとき、透過光の強度は $I = I_0\cos^2\theta$($\theta$ は2枚の偏光軸のなす角)

これらの知識で基本的な問題は解けますが、次の疑問が残ります。

  • なぜ波長によって屈折率が異なるのか。分散の物理的原因は何か
  • 偏光が「横波の証拠」とはどういう意味か。縦波では偏光が起こらないのはなぜか
  • マルスの法則はなぜ $\cos^2\theta$ なのか。$\cos$ ではなく $\cos^2$ である理由は何か

2大学の視点で見ると何が変わるのか

高校 vs 大学:分散と偏光の理解
高校:分散は「色が分かれる現象」
プリズムの実験として紹介。屈折率の波長依存性は定性的。
大学:分散は $n(\lambda)$ の関数として定量化
屈折率が波長の関数であることを明示。色収差の原因として理解。
高校:偏光は「振動方向が揃った光」
直線偏光のみ。偏光板で取り出す。
大学:偏光は電場ベクトルの状態
直線偏光・円偏光・楕円偏光を電場ベクトルで記述する。
高校:マルスの法則 $I = I_0\cos^2\theta$ を暗記
なぜ $\cos^2$ なのかは説明されない。
大学:電場の射影で $\cos^2$ を導出
電場の振幅が $\cos\theta$ 倍、強度は振幅の2乗なので $\cos^2\theta$。
この記事で得られること

分散の物理的意味を理解できる。 屈折率が波長の関数 $n(\lambda)$ であることを理解し、なぜ紫の光がより大きく屈折するかを説明できます。

偏光を電場ベクトルで記述できる。 直線偏光、円偏光、楕円偏光の違いを、電場の振動の仕方で区別できるようになります。

マルスの法則を「導出できる」ようになる。 電場ベクトルの射影から $I = I_0\cos^2\theta$ が自然に出てくることを理解できます。

ブリュースター角を理解できる。 反射光が完全偏光する条件とその物理的理由を学びます。

3分散 ─ 屈折率の波長依存性

分散とは、屈折率が光の波長に依存する現象です。 記号で書くと $n = n(\lambda)$ です。

正常分散

ほとんどの透明な物質(ガラス、水など)では、波長が短いほど屈折率が大きくなります。 これを正常分散と呼びます。

定性的な説明:物質中の電子は入射光の電場によって強制振動します。 電子の固有振動数(紫外領域に多い)に近い波長ほど応答が大きくなり、屈折率が増加します。 可視光の範囲では紫の光(短波長)が固有振動数に近いため、屈折率が大きくなります。

異常分散

物質の吸収帯(固有振動数付近)の近くでは、波長が短いほど屈折率が小さくなる領域が存在します。 これを異常分散と呼びます。 「異常」という名前ですが、物理的には正常分散と同じメカニズムの一部です。

分散と色収差の関係

W-12-2(レンズと鏡)で扱った色収差は、分散が原因です。 レンズメーカーの公式 $1/f = (n-1)(1/R_1 - 1/R_2)$ の $n$ が波長依存なので、 波長ごとに焦点距離が異なります。

色消しレンズ(アクロマートレンズ)は、分散特性の異なる2種類のガラスを組み合わせることで色収差を低減しています。

4偏光の種類 ─ 直線偏光・円偏光・楕円偏光

光は電磁波であり、電場と磁場が進行方向に垂直に振動する横波です。 偏光とは、この電場ベクトルの振動状態を指します。

偏光は横波の証拠

縦波(音波など)では、振動方向が進行方向と平行です。したがって「振動方向の選り分け」(偏光)は原理的にできません。 偏光が存在するということは、光の振動方向が進行方向と垂直であること、すなわち光が横波であることの直接的な証拠です。

直線偏光

電場ベクトルが常に同じ方向に振動する光です。偏光板を1枚通過した光は直線偏光になります。 電場ベクトルを $\mathbf{E} = E_0 \cos(\omega t - kz)\,\hat{\mathbf{e}}$ と書けます($\hat{\mathbf{e}}$ は偏光方向の単位ベクトル)。

円偏光

電場ベクトルの先端が、進行方向から見て円を描く光です。 互いに垂直な2つの直線偏光が、振幅が等しく位相が $\pi/2$ ずれて重なると円偏光になります。

$$E_x = E_0\cos(\omega t - kz), \qquad E_y = E_0\cos\!\left(\omega t - kz \pm \frac{\pi}{2}\right)$$

$+\pi/2$ のとき左回り、$-\pi/2$ のとき右回りの円偏光です。

楕円偏光

円偏光の一般化で、電場ベクトルの先端が楕円を描く光です。 2つの直線偏光の振幅が異なるか、位相差が $\pi/2$ でない場合に生じます。 最も一般的な偏光状態であり、直線偏光と円偏光はその特殊な場合です。

落とし穴:自然光は「偏光していない光」

誤解:自然光は「振動していない光」

正:自然光(無偏光)は、あらゆる方向に振動する多数の光の重ね合わせです。 各光は確かに偏光していますが、全体としてどの方向にも偏りがないため「無偏光」と呼ばれます。 偏光板はこの中から特定方向の成分だけを取り出す装置です。

5マルスの法則の導出

偏光板を2枚使う場合を考えます。 1枚目の偏光板(偏光子)を通った光は直線偏光になります。 2枚目の偏光板(検光子)の偏光軸が偏光子と角度 $\theta$ をなすとき、透過光の強度はどうなるでしょうか。

マルスの法則の導出

偏光子を通った光の電場ベクトルの振幅を $E_0$ とします。振動方向は偏光子の軸方向です。

検光子の軸方向に対する電場の成分(射影)は:

$$E_{\text{透過}} = E_0 \cos\theta$$

光の強度は電場の振幅の2乗に比例するので:

$$I = I_0 \cos^2\theta$$

マルスの法則

$$I = I_0 \cos^2\theta$$

$I_0$:入射する直線偏光の強度、$\theta$:偏光子と検光子の偏光軸のなす角。 $\theta = 0$ で $I = I_0$(全透過)、$\theta = 90°$ で $I = 0$(全遮断)。
$\cos^2$ の理由

マルスの法則が $\cos\theta$ ではなく $\cos^2\theta$ である理由は、光の強度が電場の振幅の2乗に比例するためです。

電場の振幅は $\cos\theta$ 倍になりますが、強度(エネルギー流束)は振幅の2乗なので $\cos^2\theta$ 倍になります。 これは暗記ではなく、電場の射影から自然に導出される結果です。

6ブリュースター角 ─ 反射光が完全偏光する条件

偏光板を使わなくても、反射によって偏光を作ることができます。 特定の入射角(ブリュースター角)では、反射光が完全な直線偏光になります。

ブリュースター角

$$\tan\theta_B = \frac{n_2}{n_1}$$

$\theta_B$:ブリュースター角。この角度で入射した光の反射光は、入射面に垂直な偏光(s偏光)のみになります。

ブリュースター角の物理的理由

ブリュースター角では、反射光と屈折光のなす角がちょうど $90°$ になります。 このとき、屈折光の振動方向(p偏光成分)が反射光の進行方向と一致するため、 p偏光成分は反射方向に光を放出できません(振動方向と進行方向が平行な光は存在しない)。 その結果、反射光にはs偏光成分のみが残ります。

ブリュースター角の導出

反射光と屈折光のなす角が $90°$ になる条件は $\theta_1 + \theta_2 = 90°$ です。

$\theta_2 = 90° - \theta_1$ をスネルの法則に代入すると:

$$n_1\sin\theta_1 = n_2\sin(90° - \theta_1) = n_2\cos\theta_1$$

$$\tan\theta_1 = \frac{n_2}{n_1}$$

この $\theta_1$ がブリュースター角 $\theta_B$ です。

偏光サングラスとブリュースター角

水面や道路からの反射光(ギラつき)は、ブリュースター角付近での反射のため部分的に偏光しています。 偏光サングラスは、この偏光した反射光を遮断する向きに偏光軸が設定されています。

反射光のs偏光(水平方向の偏光)を遮断することで、水面のギラつきを除去しつつ、 直接光(無偏光)はある程度透過させます。

7つながりマップ

  • ← W-12-1 光の屈折と反射:ブリュースター角はスネルの法則から導出される。分散は屈折率の波長依存性。
  • ← W-12-2 レンズと鏡:色収差は分散($n$ の波長依存性)が原因。分散の理解が色収差の理解に直結する。
  • → E-19-1 電磁波の基本:光は電磁波であり、電場と磁場の振動として記述される。偏光は電場ベクトルの状態。
  • → E-13-1 クーロンの法則:電磁気学の出発点。電場の概念が偏光の理解の基礎になる。

📋まとめ

  • 分散は屈折率の波長依存性 $n(\lambda)$。正常分散では短波長ほど屈折率が大きい
  • 偏光は光が横波であることの証拠。電場ベクトルの振動状態を表す
  • 偏光の種類:直線偏光(電場が一方向に振動)、円偏光(電場が円を描く)、楕円偏光(最も一般的)
  • マルスの法則 $I = I_0\cos^2\theta$ は、電場の射影(振幅が $\cos\theta$ 倍)と強度が振幅の2乗に比例することから導出できる
  • ブリュースター角 $\tan\theta_B = n_2/n_1$:反射光と屈折光が直交する条件で、反射光が完全偏光する

確認テスト

Q1. 分散とは何か、屈折率を使って説明してください。

▶ クリックして解答を表示分散とは、屈折率 $n$ が光の波長 $\lambda$ に依存する現象です。$n = n(\lambda)$ と書けます。正常分散では短波長(紫)ほど屈折率が大きく、長波長(赤)ほど小さいため、プリズムで白色光が色に分かれます。

Q2. マルスの法則が $I = I_0\cos\theta$ ではなく $I = I_0\cos^2\theta$ である理由を説明してください。

▶ クリックして解答を表示偏光板の軸方向に対する電場の振幅は $E_0\cos\theta$(ベクトルの射影)。光の強度は電場の振幅の2乗に比例するので、$I = I_0\cos^2\theta$ となります。$\cos\theta$ は振幅の比、$\cos^2\theta$ は強度の比です。

Q3. 偏光現象が「光が横波である証拠」と言える理由を説明してください。

▶ クリックして解答を表示縦波では振動方向が進行方向と平行であり、振動方向に偏りを持たせることができません。偏光(特定方向の振動だけを取り出せること)が存在するということは、振動方向が進行方向に垂直(横波)であり、異なる方向が区別可能であることを意味します。

Q4. 空気中からガラス($n = 1.5$)への入射でのブリュースター角を求めてください。

▶ クリックして解答を表示$\tan\theta_B = n_2/n_1 = 1.5/1.0 = 1.5$ より、$\theta_B = \arctan(1.5) \approx 56.3°$

10演習問題

分散と偏光に関する理解を確認しましょう。

A 基礎レベル

12-5-1 A 基礎 マルスの法則

直線偏光が偏光板に入射する。偏光板の偏光軸と光の偏光方向のなす角が $\theta$ のとき、次の問いに答えよ。

(1) $\theta = 30°$ のとき、透過光の強度は入射光の何倍か。

(2) 透過光の強度が入射光の $1/2$ になる $\theta$ を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $\cos^2 30° = 3/4 = 0.75$ 倍

(2) $\theta = 45°$

解説

(1) マルスの法則 $I = I_0\cos^2\theta$ より、$I/I_0 = \cos^2 30° = (\sqrt{3}/2)^2 = 3/4$。

(2) $\cos^2\theta = 1/2$ より $\cos\theta = 1/\sqrt{2}$。$\theta = 45°$。

B 発展レベル

12-5-2 B 発展 ブリュースター角

空気中($n_1 = 1.0$)から水面($n_2 = 4/3$)に光が入射する場合について、次の問いに答えよ。

(1) ブリュースター角 $\theta_B$ を求めよ。

(2) ブリュースター角で入射したときの屈折角 $\theta_2$ を求めよ。

(3) $\theta_B + \theta_2$ を求め、その物理的意味を説明せよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $\theta_B = \arctan(4/3) \approx 53.1°$

(2) $\theta_2 = 90° - \theta_B \approx 36.9°$

(3) $\theta_B + \theta_2 = 90°$。反射光と屈折光が直交する。これがブリュースター角の定義条件であり、p偏光成分が反射できない幾何学的理由。

解説

(1) $\tan\theta_B = n_2/n_1 = 4/3$ より $\theta_B = \arctan(4/3) \approx 53.1°$。

(2) ブリュースター角の定義から $\theta_B + \theta_2 = 90°$。よって $\theta_2 = 90° - 53.1° = 36.9°$。検算:$n_1\sin\theta_B = 1.0 \times \sin 53.1° \approx 0.800$、$n_2\sin\theta_2 = (4/3) \times \sin 36.9° \approx (4/3) \times 0.600 = 0.800$。一致する。

(3) 反射光と屈折光が直角をなすということは、屈折光中の電場の振動方向(入射面内の成分、p偏光)が反射光の進行方向と一致することを意味する。電磁波は進行方向に電場成分を持てないため、p偏光成分は反射光として放出されない。

採点ポイント
  • ブリュースター角を正しく計算する(2点)
  • $\theta_B + \theta_2 = 90°$ を示す(3点)
  • 物理的意味を正確に説明する(3点)

C 応用レベル

12-5-3 C 応用 偏光 マルスの法則 論述

3枚の偏光板A, B, Cがこの順に並んでいる。Aの偏光軸を基準として、Bの偏光軸は $45°$、Cの偏光軸は $90°$ に設定されている。強度 $I_0$ の無偏光がAに入射する。次の問いに答えよ。

(1) Cを透過した光の強度を求めよ。

(2) 偏光板Bを取り除いた場合、Cを透過する光の強度はいくらになるか。

(3) (1)と(2)の結果を比較し、中間に偏光板を挿入することで透過光が増える理由を、電場ベクトルの射影を用いて説明せよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $I_0/8$

(2) $0$

(3) 偏光板Bを挿入すると、Aを通過した光の偏光方向が $45°$ 回転し、Cの軸に対して $45°$ となる。Bなしでは偏光方向とCの軸が $90°$ で完全遮断されるが、Bを挟むことで偏光方向が「中継」され、各段階での損失は $\cos^2 45° = 1/2$ に留まる。

解説

(1) 無偏光がAを通過:$I_1 = I_0/2$(無偏光から直線偏光になると強度は半分)。Aの偏光軸方向の直線偏光がBを通過:$I_2 = I_1\cos^2 45° = (I_0/2)(1/2) = I_0/4$。BからCへ(角度差 $45°$):$I_3 = I_2\cos^2 45° = (I_0/4)(1/2) = I_0/8$。

(2) Bを取り除くと、Aの偏光軸($0°$)とCの偏光軸($90°$)が直交。$I = (I_0/2)\cos^2 90° = 0$。

(3) 偏光板Bは、Aから出た直線偏光の電場ベクトルを $45°$ 方向に射影します。この射影により、偏光方向が回転します。Cに到達する光はBの軸方向($45°$)に偏光しており、Cの軸($90°$)との角度は $45°$ です。各偏光板での強度損失は $\cos^2 45° = 1/2$ であり、全透過しないものの完全遮断も避けられます。Bがないと $90°$ の角度差で完全に遮断されますが、Bを挟むことで電場ベクトルが段階的に回転し、最終的に $I_0/8$ の光が透過します。

採点ポイント
  • 各偏光板での強度変化を正しく計算する(3点)
  • 無偏光→直線偏光で強度が半分になることを考慮する(2点)
  • 電場ベクトルの射影を用いた説明(3点)
  • (1)と(2)の比較と考察(2点)