高校物理では、単原子理想気体の定積モル比熱は $C_V = \frac{3}{2}R$、
二原子理想気体では $C_V = \frac{5}{2}R$ と教わります。
$C_P = C_V + R$ も暗記します。
しかし、なぜ $\frac{3}{2}$ や $\frac{5}{2}$ という値になるのかは説明されません。
大学物理では、等分配則という原理からこれらの値を導出できます。
エネルギーは各自由度に $\frac{1}{2}k_BT$(1 mol あたり $\frac{1}{2}RT$)ずつ均等に分配されるという法則で、
自由度 $f$ の気体では $C_V = \frac{f}{2}R$ となります。
「単原子は $f = 3$、二原子は $f = 5$」という自由度の違いが、
比熱の値を決めているのです。
この記事では、自由度の数え方と等分配則を学び、
比熱の値を「暗記」から「導出」に変えます。
高校物理では、理想気体のモル比熱を次のように教わります。
| 気体の種類 | $C_V$ | $C_P$ | $\gamma = C_P/C_V$ |
|---|---|---|---|
| 単原子(He, Ar など) | $\frac{3}{2}R$ | $\frac{5}{2}R$ | $\frac{5}{3} \approx 1.67$ |
| 二原子(N$_2$, O$_2$ など) | $\frac{5}{2}R$ | $\frac{7}{2}R$ | $\frac{7}{5} = 1.40$ |
これらの値は暗記事項として扱われます。 $C_P - C_V = R$(マイヤーの関係)は T-8-2 で導出しましたが、 $C_V$ そのものがなぜその値を取るのかは高校の範囲では説明されません。
比熱の値を導出できるようになる。 等分配則 $C_V = \frac{f}{2}R$ を理解すれば、自由度 $f$ を数えるだけで任意の気体の $C_V$ を求められます。 暗記の必要がなくなります。
「3」と「5」の意味が分かる。 単原子分子は3方向の並進運動($f = 3$)、 二原子分子はそれに加えて2方向の回転($f = 5$)を持ちます。 自由度の数がそのまま比熱の値に反映されています。
$\gamma$ の一般公式を得る。 $\gamma = (f+2)/f$ という一般公式から、任意の気体の $\gamma$ を計算できます。
古典力学の限界を知る。 等分配則は古典力学に基づく法則であり、低温では量子効果により自由度が「凍結」されて実験値からずれます。 これは量子力学の必要性を示す重要な事例です。
自由度(degrees of freedom)とは、分子がエネルギーを蓄えることのできる独立な運動の数です。
| 分子の種類 | 並進 | 回転 | 振動(常温) | 合計 $f$ |
|---|---|---|---|---|
| 単原子(He, Ar) | 3 | 0 | 0 | 3 |
| 二原子(N$_2$, O$_2$) | 3 | 2 | 0(常温では凍結) | 5 |
| 多原子・非直線(H$_2$O) | 3 | 3 | 場合による | 6 以上 |
単原子分子は点とみなせるので回転の自由度がありません。 二原子分子は棒状なので、棒に垂直な2つの軸まわりの回転(2つの自由度)を持ちます。 棒の軸まわりの回転は慣性モーメントが極めて小さいため、量子力学的に凍結しています。
熱平衡状態にある系では、各自由度に平均して
$$\frac{1}{2}k_B T \quad \text{(1分子あたり)}$$
のエネルギーが分配される。1 mol あたりでは $\frac{1}{2}RT$。
等分配則を使うと、$n$ mol の気体の内部エネルギーは:
$$U = n \times f \times \frac{1}{2}RT = \frac{f}{2}nRT$$
定積変化では $Q = \Delta U = nC_V \Delta T$。
一方、$U = \frac{f}{2}nRT$ より $\Delta U = \frac{f}{2}nR\Delta T$。
両者を比較して:
$$C_V = \frac{f}{2}R$$
$$C_V = \frac{f}{2}R$$
$C_V = \frac{3}{2}R$ の「3」は、単原子分子が $x$, $y$, $z$ の3方向に並進運動できること(3つの自由度)を意味します。
$C_V = \frac{5}{2}R$ の「5」は、二原子分子が3つの並進 + 2つの回転 = 5つの自由度を持つことを意味します。
自由度が多いほど、分子はより多くの方法でエネルギーを蓄えることができるので、 同じ温度上昇に対してより多くの熱が必要になります。
T-8-2 で導出したマイヤーの関係 $C_P - C_V = R$ を使えば、$C_P$ も自由度で表せます。
$C_P = C_V + R = \frac{f}{2}R + R = \frac{f + 2}{2}R$
$$C_P = \frac{f + 2}{2}R$$
マイヤーの関係 $C_P - C_V = R$ の意味を改めて確認します。 定圧変化と定積変化の両方で同じ $\Delta T$ だけ温度を上げるとき、 定圧変化のほうが膨張仕事($P\Delta V = nR\Delta T$)の分だけ余計に熱が必要です。 この「余分なコスト」が $R$(1 mol あたり)に相当します。
この関係は自由度 $f$ によらず常に $C_P - C_V = R$ です。 これは、膨張仕事のコストが分子の種類に依存せず、 理想気体の状態方程式 $PV = nRT$ だけから決まることを反映しています。
$$\gamma = \frac{C_P}{C_V} = \frac{f + 2}{f}$$
$$\gamma = \frac{C_P}{C_V} = \frac{\frac{f+2}{2}R}{\frac{f}{2}R} = \frac{f+2}{f}$$
この一般公式に自由度を代入すると、高校で暗記した値がすべて導けます。
| 分子 | $f$ | $C_V$ | $C_P$ | $\gamma = (f+2)/f$ |
|---|---|---|---|---|
| 単原子 | 3 | $\frac{3}{2}R$ | $\frac{5}{2}R$ | $\frac{5}{3} \approx 1.67$ |
| 二原子(常温) | 5 | $\frac{5}{2}R$ | $\frac{7}{2}R$ | $\frac{7}{5} = 1.40$ |
| 二原子(振動込み) | 7 | $\frac{7}{2}R$ | $\frac{9}{2}R$ | $\frac{9}{7} \approx 1.29$ |
$\gamma$ は断熱変化のポアソンの式 $PV^\gamma = \text{const}$ に現れる重要な量です。 自由度が多いほど $\gamma$ は 1 に近づき、断熱線と等温線の傾きの差が小さくなります。
注意:高校では二原子分子の $C_V = \frac{5}{2}R$ は「常に成り立つ」ように教わる。
実際:常温(約300 K)では $f = 5$(並進3 + 回転2)だが、 高温(約1000 K以上)では振動の自由度が活性化し $f = 7$(並進3 + 回転2 + 振動2)になる。 低温では回転も凍結し $f = 3$(並進のみ)になる。
高校の値はあくまで「常温での近似値」です。
等分配則は古典力学(ニュートン力学)に基づく法則です。 実際の気体の比熱は、温度によって等分配則の予測からずれることがあります。
二原子分子(例:H$_2$)の $C_V$ を温度の関数として測定すると、次のような段階的な変化が見られます。
古典力学では、温度が有限である限りすべての自由度にエネルギーが等分配されるはずです。 しかし量子力学によれば、回転や振動のエネルギーは連続的ではなく、離散的な値(量子化されたエネルギー準位)しか取れません。
温度に対応する熱エネルギー $k_BT$ が、ある自由度のエネルギー間隔 $\Delta E$ より十分大きければ ($k_BT \gg \Delta E$)、その自由度は古典的に振る舞い、等分配則に従います。 しかし $k_BT \ll \Delta E$ の場合、その自由度にはエネルギーが分配されず、あたかも「凍結」した状態になります。
等分配則は $k_BT \gg \Delta E$(熱エネルギーがエネルギー間隔より十分大きい)の場合に成り立つ古典的な近似です。
振動のエネルギー間隔は回転のそれよりも大きいため、振動は回転より高い温度でないと活性化しません。 これが「常温では $f = 5$、高温では $f = 7$」となる理由です。
等分配則の破綻は、古典力学だけでは自然を完全には記述できないことを示す重要な証拠の一つです。 この問題は、量子力学の発展の契機にもなりました。
振動する自由度は、運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの2つの形でエネルギーを蓄えます。 ばねの振動を思い出してください。エネルギーは $\frac{1}{2}mv^2$(運動エネルギー)と $\frac{1}{2}kx^2$(ポテンシャルエネルギー)の間を行き来します。
等分配則では、この2つのそれぞれに $\frac{1}{2}k_BT$ が分配されるため、 1つの振動モードは自由度 2 に相当します。 二原子分子には1つの振動モード(原子間距離の伸縮)があるので、振動の自由度は 2 です。
Q1. 等分配則とは何ですか。1 mol あたり、各自由度に分配されるエネルギーの大きさを答えてください。
Q2. 単原子理想気体の $C_V = \frac{3}{2}R$ の「3」は何を意味していますか。
Q3. 二原子理想気体(常温)の比熱比 $\gamma$ を $\gamma = (f+2)/f$ から求めてください。
Q4. 常温の二原子分子で振動の自由度が「凍結」しているとはどういう意味ですか。
等分配則と自由度を用いたモル比熱の計算を、問題で確認しましょう。
次の気体について、自由度 $f$、$C_V$、$C_P$、$\gamma$ をそれぞれ求めよ。ただし常温とする。
(1) アルゴン Ar(単原子)
(2) 窒素 N$_2$(二原子)
(3) 水蒸気 H$_2$O(非直線三原子、振動は凍結とする)
(1) Ar:$f = 3$、$C_V = \frac{3}{2}R$、$C_P = \frac{5}{2}R$、$\gamma = \frac{5}{3}$
(2) N$_2$:$f = 5$、$C_V = \frac{5}{2}R$、$C_P = \frac{7}{2}R$、$\gamma = \frac{7}{5}$
(3) H$_2$O:$f = 6$、$C_V = 3R$、$C_P = 4R$、$\gamma = \frac{4}{3}$
(1) 単原子分子は並進3のみ。$f = 3$。
(2) 二原子分子は並進3 + 回転2。$f = 5$。
(3) 非直線三原子分子は並進3 + 回転3(非直線なので3軸すべてで回転可能)。振動は凍結なので $f = 6$。$C_V = \frac{6}{2}R = 3R$、$C_P = 3R + R = 4R$、$\gamma = 4R/3R = 4/3$。
マイヤーの関係 $C_P - C_V = R$ が気体の種類(自由度 $f$)に依存しないことを、次の2通りの方法で示せ。
(1) $C_V = \frac{f}{2}R$、$C_P = \frac{f+2}{2}R$ から直接計算して示せ。
(2) 第一法則から導出して示せ($C_V$ と $C_P$ の定義に基づき、$f$ を使わずに導出)。
(1) $C_P - C_V = \frac{f+2}{2}R - \frac{f}{2}R = \frac{2}{2}R = R$。$f$ が約分されて消えるので、気体の種類によらない。
(2) 定圧変化で $n$ mol の気体の温度を $\Delta T$ だけ上げるとき、 $Q = nC_P\Delta T$。第一法則より $Q = \Delta U + W = nC_V\Delta T + P\Delta V$。 $PV = nRT$ で $P$ 一定なので $P\Delta V = nR\Delta T$。 したがって $nC_P\Delta T = nC_V\Delta T + nR\Delta T$。$n\Delta T$ で割って $C_P - C_V = R$。 導出過程で $f$ は一切使っていないので、自由度に依存しない。
(1) は代数的な確認。$f$ が分子・分母で相殺されることが見える。
(2) はより本質的な導出。$C_P - C_V = R$ は等分配則ではなく、第一法則と理想気体の状態方程式だけから導けるため、自由度の値にまったく依存しない。「余分なコスト」は膨張仕事 $P\Delta V = nR\Delta T$ であり、これは分子の内部構造とは無関係に $PV = nRT$ から決まる。
ある理想気体を断熱的に体積を半分に圧縮したところ、圧力が元の $2^{5/3}$ 倍になった。次の問いに答えよ。
(1) この気体の比熱比 $\gamma$ を求めよ。
(2) この気体の自由度 $f$ を求めよ。
(3) この気体は単原子・二原子・多原子のいずれであるか、理由とともに答えよ。
(4) 断熱圧縮後の温度は元の何倍になるか。
(1) ポアソンの式 $P_1 V_1^\gamma = P_2 V_2^\gamma$ より $\frac{P_2}{P_1} = \left(\frac{V_1}{V_2}\right)^\gamma = 2^\gamma$。$2^\gamma = 2^{5/3}$ なので $\gamma = \frac{5}{3}$
(2) $\gamma = \frac{f+2}{f} = \frac{5}{3}$ より $3(f+2) = 5f$、$3f + 6 = 5f$、$f = 3$
(3) 単原子分子。$f = 3$(並進のみ)は単原子分子に対応する。
(4) $T_1 V_1^{\gamma-1} = T_2 V_2^{\gamma-1}$ より $\frac{T_2}{T_1} = \left(\frac{V_1}{V_2}\right)^{\gamma-1} = 2^{2/3} \approx 1.59$ 倍
(1) $V_2 = V_1/2$ なので $V_1/V_2 = 2$。$P_2/P_1 = 2^\gamma = 2^{5/3}$ より $\gamma = 5/3$。
(2) $\gamma = (f+2)/f$ を $\gamma = 5/3$ として解く。$5f = 3f + 6$ より $f = 3$。
(3) 自由度3は「3方向の並進のみ」を意味し、回転・振動の自由度がないことから単原子分子と判断できる。
(4) $\gamma - 1 = 2/3$。$T_2/T_1 = 2^{2/3}$。$2^{1/3} \approx 1.26$ なので $2^{2/3} \approx 1.59$。断熱圧縮により温度は約1.59倍に上昇する。