第1章 運動の表し方

ベクトルと成分分解
─ 大学での座標系の扱い

高校物理では、力の分解を図に描いて三角比で処理します。 斜面の問題なら「$mg\sin\theta$ と $mg\cos\theta$」と覚えている人も多いでしょう。 これは正しいし、入試でも十分に通用します。

大学物理では、まず座標系を設定し、すべての力をその座標の成分として表します。 図の描き方に頼らず、代数的に計算を進められるので、 2次元・3次元の複雑な問題でも同じ手順で処理できます。 さらに、内積という演算を導入すると、仕事の計算が統一的に行えるようになります。

この記事では、座標系の設定方法とベクトルの成分表示を学び、 内積を使って高校の「$F\cos\theta \times s$」が何を意味していたかを明らかにします。

1高校物理の道具を確認する

高校物理では、ベクトルの合成と分解を次のように扱います。

  • ベクトルの合成:平行四辺形の法則を使い、作図で合力を求める
  • ベクトルの分解:力を2方向に分解するとき、三角比($\sin\theta$、$\cos\theta$)を使って各成分を求める
  • 斜面の問題:重力 $mg$ を斜面方向 $mg\sin\theta$ と斜面垂直方向 $mg\cos\theta$ に分解する
  • 仕事の計算:力 $F$ で角度 $\theta$ の方向に距離 $s$ だけ移動したとき、$W = Fs\cos\theta$

これらの方法は正しく、入試問題を解くには十分です。 ただし、次のような特徴があります。

  • 分解の方向が「お決まり」になりがち。斜面の問題なら「斜面方向と垂直方向」と習うが、なぜその方向に分解するのかは説明されないことが多い
  • 3次元の問題は扱いにくい。作図による合成・分解は2次元が限界。3次元の力の合成を図で処理するのは困難
  • 仕事の式 $Fs\cos\theta$ が「特別な公式」に見える。なぜ $\cos\theta$ が出てくるのか、他の場面でも同じ構造が現れることに気づきにくい

大学物理では、これらの制約を取り除く道具を導入します。 それが座標系の設定ベクトルの成分表示、そして内積です。

2大学の視点で見ると何が変わるのか

具体的な道具の説明に入る前に、この記事を読むと何ができるようになるかを示します。

高校 vs 大学:ベクトルの扱い
高校:図を描いて分解する
力を矢印で描き、三角比で成分を求める。分解方向は問題ごとに判断する。
作図の正確さに依存する。
大学:座標系を設定して成分で計算する
最初に座標軸を定め、すべてのベクトルを成分 $(F_x, F_y)$ で表す。あとは代数的に計算するだけ。
図がなくても計算が進む。
高校:2次元まで
3次元の力の合成は作図では困難。
大学:3次元でも同じ手順
$(F_x, F_y, F_z)$ と書くだけ。手順は変わらない。
高校:仕事は $Fs\cos\theta$ という個別公式
なぜ $\cos\theta$ が出るかは「そういうもの」。
大学:仕事は内積 $\vec{F} \cdot \vec{s}$ の一例
$\cos\theta$ が出る理由を内積が説明する。
この記事で得られること

座標系を自分で選べることを理解する。 座標系は自然に決まるものではなく、自分で設定するものです。 適切な座標系を選ぶと、計算量が大幅に減ります。

ベクトルを成分で扱えるようになる。 力の合成・分解が、成分の足し算・引き算として処理できるようになります。 図を描かなくても正確に計算できます。

内積の意味を理解する。 高校で習った仕事の式 $W = Fs\cos\theta$ が、内積 $\vec{F} \cdot \vec{s}$ そのものであることが分かります。 $\cos\theta$ が現れる理由が明確になります。

座標系の選び方で計算が変わることを体感する。 斜面の問題を例に、座標系の選択が計算の見通しに直結することを確認します。

では、座標系の考え方から見ていきましょう。

3座標系という考え方

座標系は「自分で選ぶもの」

高校物理では、水平方向を $x$ 軸、鉛直方向を $y$ 軸とすることがほとんどです。 斜面の問題では「斜面方向と垂直方向に分解する」と教わりますが、 これは暗黙のうちに「斜面に沿った座標系を選んでいる」ことに他なりません。

大学物理では、この「座標系の選択」を明確に意識します。 座標系は物理法則とは無関係で、計算の便宜のために自分で設定するものです。 どの座標系を選んでも物理的な答えは同じですが、計算の難しさは大きく変わります。

座標系の選択は自由である

座標軸の方向は、問題を解く人が自由に決められます。 物理法則はどの座標系でも同じ形で成り立ちます(これを座標系に依存しないと言います)。

ただし、座標系の選び方によって計算の見通しは大きく変わります。 「運動の方向に軸を取る」「拘束条件(斜面など)に沿って軸を取る」のが一般的な方針です。

代表的な座標系の取り方

2次元の場合、代表的な座標系の取り方は以下のとおりです。

座標系 軸の方向 適する場面
水平・鉛直 $x$:水平右向き、$y$:鉛直上向き 放物運動、自由落下
斜面に沿った座標 $x'$:斜面下向き、$y'$:斜面に垂直で面から離れる向き 斜面上の運動

斜面の問題で「斜面方向に分解する」と高校で習うのは、 実は「斜面に沿った座標系を選ぶ」という操作を省略形で表現しているのです。

落とし穴:座標軸の正の向きを忘れる

誤:座標系を設定したのに、力の符号を適当に決める

正:座標軸の正の向きを決めたら、その方向と同じ向きの力は正、逆向きの力は負とする。この約束を一貫させる

座標系を導入する最大のメリットの一つは、力の向きを符号(正・負)で表現できることです。 しかし、正の向きの約束を途中で変えたり忘れたりすると、計算結果の符号が狂います。 座標系を設定したら、最初に正の向きを明記する習慣をつけてください。

4ベクトルの成分表示

座標系を設定したら、次にすべてのベクトルをその座標系の成分で表します。

ベクトルの成分表示

2次元の場合、ベクトル $\vec{A}$ はその座標系における成分を使って次のように書きます:

$$\vec{A} = (A_x,\, A_y) = A_x\,\vec{e}_x + A_y\,\vec{e}_y$$

$A_x$、$A_y$ はそれぞれ $x$ 成分、$y$ 成分。 $\vec{e}_x$、$\vec{e}_y$ は各軸方向の単位ベクトル(大きさ1のベクトル)。 教科書によっては $\hat{x}$、$\hat{y}$ や $\vec{i}$、$\vec{j}$ と書くこともあります。

ベクトル $\vec{A}$ の大きさ $|\vec{A}|$ が $A$ で、$x$ 軸との角度が $\alpha$ のとき、成分は

$$A_x = A\cos\alpha, \qquad A_y = A\sin\alpha$$

と表されます。逆に成分から大きさと向きを求めることもできます:

$$A = \sqrt{A_x^2 + A_y^2}, \qquad \tan\alpha = \frac{A_y}{A_x}$$

成分表示のメリット:演算が成分ごとの計算になる

成分表示の最大のメリットは、ベクトルの演算が成分ごとの算術になることです。

ベクトルの加法・スカラー倍(成分表示)

加法:

$$\vec{A} + \vec{B} = (A_x + B_x,\, A_y + B_y)$$

スカラー倍:

$$k\vec{A} = (kA_x,\, kA_y)$$

ベクトルの足し算は、各成分を足すだけ。定数倍は、各成分に定数をかけるだけ。 平行四辺形を描く必要はありません。

たとえば、2つの力 $\vec{F}_1 = (3, 4)$ N と $\vec{F}_2 = (-1, 2)$ N の合力は

$$\vec{F}_1 + \vec{F}_2 = (3 + (-1),\, 4 + 2) = (2, 6) \text{ N}$$

作図をしなくても、成分を足すだけで合力が求まります。 3次元でも $(A_x + B_x,\, A_y + B_y,\, A_z + B_z)$ と書くだけで、手順は同じです。

3次元への拡張

3次元の場合、ベクトルは $\vec{A} = (A_x, A_y, A_z)$ と書きます。 加法もスカラー倍も、2次元の場合と同じルールで成分ごとに計算するだけです。

作図では3次元の力の合成は困難ですが、成分表示なら次元が増えても計算手順は変わりません。 これが成分表示を使う理由の一つです。

5内積の導入

ベクトルの足し算とスカラー倍は高校数学でも扱いますが、 大学物理ではさらに内積(スカラー積)という演算を導入します。 これは物理で頻繁に登場する重要な道具です。

内積の定義

2つのベクトル $\vec{A}$ と $\vec{B}$ の内積は、次の2通りの方法で計算できます:

幾何学的定義(角度を使う):

$$\vec{A} \cdot \vec{B} = |\vec{A}||\vec{B}|\cos\theta$$

成分による計算:

$$\vec{A} \cdot \vec{B} = A_x B_x + A_y B_y$$

$\theta$ は $\vec{A}$ と $\vec{B}$ のなす角。 結果はベクトルではなくスカラー(ただの数値)になります。 3次元では $\vec{A} \cdot \vec{B} = A_x B_x + A_y B_y + A_z B_z$ です。

内積の計算例

$\vec{A} = (3, 1)$、$\vec{B} = (2, 4)$ のとき:

$$\vec{A} \cdot \vec{B} = 3 \times 2 + 1 \times 4 = 10$$

成分が分かっていれば、角度を計算する必要はありません。

内積と仕事の関係

高校物理で仕事を $W = Fs\cos\theta$ と習いますが、これは内積そのものです。

仕事の式が内積である理由

力 $\vec{F}$ を加えて物体を変位 $\vec{s}$ だけ移動させたとき、仕事は:

$$W = \vec{F} \cdot \vec{s} = |\vec{F}||\vec{s}|\cos\theta = Fs\cos\theta$$

ここで $\theta$ は力の方向と変位の方向のなす角です。

高校では「力の変位方向成分 $F\cos\theta$ に距離 $s$ をかける」と教わりますが、 これは「力ベクトルと変位ベクトルの内積を取る」という操作を言い換えたものです。

内積を使うと仕事の計算が統一される

高校では、力が変位と平行なとき $W = Fs$、垂直なとき $W = 0$、斜めのとき $W = Fs\cos\theta$ と場合分けしますが、 これらはすべて $W = \vec{F} \cdot \vec{s}$ の特殊な場合です。

$\theta = 0$ のとき $\cos 0 = 1$ → $W = Fs$(平行)

$\theta = 90°$ のとき $\cos 90° = 0$ → $W = 0$(垂直)

一般の $\theta$ → $W = Fs\cos\theta$

場合分けではなく、1つの式 $W = \vec{F} \cdot \vec{s}$ ですべてカバーできます。

高校 vs 大学:仕事の計算
高校
$W = Fs\cos\theta$
「力の変位方向の成分に距離をかける」と暗記する。なぜ $\cos\theta$ かは「そういうもの」。
大学
$W = \vec{F} \cdot \vec{s}$
内積の定義から $\cos\theta$ が自然に出てくる。成分が分かれば $W = F_x s_x + F_y s_y$ で計算可能。
外積(ベクトル積)の予告

内積はスカラー(数値)を返す演算ですが、ベクトルにはもう1つ「外積(ベクトル積、クロス積)」という演算があります。 外積はベクトルを返し、力のモーメントや磁場中の荷電粒子に働く力(ローレンツ力)の記述に使います。

$$\vec{A} \times \vec{B} = |\vec{A}||\vec{B}|\sin\theta\;\hat{n}$$

$\hat{n}$ は $\vec{A}$ と $\vec{B}$ の両方に垂直な方向の単位ベクトルです。 外積は力のモーメント(M-3 章)や電磁気学(第IV編)で本格的に扱います。

6応用 ─ 斜面上の運動を座標系で解く

ここまで学んだ道具を使って、斜面上の物体の運動を座標系の設定から系統的に解いてみます。

問題設定

傾斜角 $\theta$ の滑らかな斜面上に質量 $m$ の物体を置き、静かに手を離す。 斜面方向の加速度を求めよ。

手順1:座標系を設定する

斜面に沿って下向きを $x$ 軸の正方向、斜面に垂直で面から離れる方向を $y$ 軸の正方向とします。

手順2:力を成分に分解する

この座標系で、物体に働く力は以下のとおりです。

力の成分分解

重力 $\vec{W}$(鉛直下向き、大きさ $mg$)の成分:

$x$ 成分(斜面下向き):$W_x = mg\sin\theta$

$y$ 成分(斜面に垂直、面に押しつける方向):$W_y = -mg\cos\theta$($y$ 軸の正は面から離れる向きなので負)

垂直抗力 $\vec{N}$(斜面に垂直、面から離れる方向)の成分:

$N_x = 0$、 $N_y = N$

手順3:各軸方向の運動方程式を立てる

$x$ 方向:$ma_x = mg\sin\theta$

$y$ 方向:$ma_y = N - mg\cos\theta$

手順4:方程式を解く

物体は斜面から離れないので $a_y = 0$ です。$y$ 方向の式から:

$$N = mg\cos\theta$$

$x$ 方向の式から:

$$a_x = g\sin\theta$$

斜面方向の加速度は $g\sin\theta$ です。高校で暗記していた結果と一致しますが、 ここではそれを座標系の設定 → 成分分解 → 運動方程式という手順で導きました。

座標系を使う方法の利点

この手順の利点は、どんな問題でも同じ手順で解けることです。

斜面に摩擦力がある場合 → 摩擦力の成分を追加するだけ。

斜面上で糸で引かれている場合 → 張力の成分を追加するだけ。

問題が複雑になっても、「座標系を設定 → 全ての力を成分分解 → 各軸で方程式を立てる」という手順は変わりません。

落とし穴:座標系の選び方で計算量が変わる

同じ斜面の問題でも、水平・鉛直の座標系を選ぶこともできます。 その場合、重力の分解は簡単($W_x = 0, W_y = -mg$)ですが、 垂直抗力と加速度の方向が軸に対して斜めになり、式が複雑になります。

悪い選択:斜面の問題で水平・鉛直を座標軸に取る(計算が複雑になる)

良い選択:運動方向(斜面方向)に軸を取る(加速度が1つの軸方向だけになり、計算が簡潔になる)

一般に、運動の方向や拘束条件に沿って座標軸を取ると計算がシンプルになります。

7つながりマップ

座標系の設定とベクトルの成分表示は、このあと力学のすべての章で使う基本的な道具です。

  • ← M-1-1 位置・速度・加速度 ─ 微分としての再定義:1次元で定義した位置・速度・加速度を、この記事でベクトル量として2次元・3次元に拡張した。
  • ← M-1-2 等加速度運動の3公式を微積分で導く:1次元の等加速度運動の式を微積分で導いた。斜面の問題では、座標系を設定した上でこの結果を各軸方向に適用する。
  • → M-2-1 ニュートンの運動の3法則:運動方程式 $\vec{F} = m\vec{a}$ はベクトルの式。座標系を設定して成分ごとに方程式を立てるのが基本手順となる。
  • → M-5-1 仕事とエネルギー:仕事 $W = \vec{F} \cdot \vec{s}$ は内積で定義される。力が一定でない場合は、内積を積分に拡張する。
  • → M-3-1 力のモーメント:力のモーメントは外積 $\vec{r} \times \vec{F}$ で定義される。内積と外積が力学の2つの基本演算となる。

📋まとめ

  • 座標系は物理法則とは無関係であり、計算の便宜のために自分で設定するものである
  • ベクトルを成分 $(A_x, A_y)$ で表すと、合成・分解が成分ごとの四則演算になり、作図に頼らず計算できる
  • 内積 $\vec{A} \cdot \vec{B} = A_x B_x + A_y B_y = |\vec{A}||\vec{B}|\cos\theta$ は、2つのベクトルからスカラーを生成する演算である
  • 高校の仕事の公式 $W = Fs\cos\theta$ は、内積 $\vec{F} \cdot \vec{s}$ そのものである
  • 斜面の問題を「座標系の設定 → 成分分解 → 各軸の運動方程式」の手順で系統的に解ける
  • 運動方向や拘束条件に沿って座標軸を取ると、計算がシンプルになる

確認テスト

Q1. ベクトル $\vec{A} = (3, -2)$ と $\vec{B} = (1, 5)$ の和 $\vec{A} + \vec{B}$ を求めてください。

▶ クリックして解答を表示$\vec{A} + \vec{B} = (3+1,\, -2+5) = (4, 3)$。各成分を足すだけです。

Q2. ベクトル $\vec{A} = (2, 3)$ と $\vec{B} = (4, -1)$ の内積 $\vec{A} \cdot \vec{B}$ を求めてください。

▶ クリックして解答を表示$\vec{A} \cdot \vec{B} = 2 \times 4 + 3 \times (-1) = 8 - 3 = 5$。各成分の積を足し合わせます。

Q3. 力 $\vec{F}$ と変位 $\vec{s}$ が垂直のとき、仕事 $W = \vec{F} \cdot \vec{s}$ はいくらですか。理由も答えてください。

▶ クリックして解答を表示$W = 0$。内積の定義より $W = |\vec{F}||\vec{s}|\cos 90° = 0$。垂直なベクトルの内積は常にゼロです。高校で「垂直抗力は仕事をしない」と習うのは、この事実の具体例です。

Q4. 斜面の問題で、座標軸を「斜面方向と斜面垂直方向」に取る利点は何ですか。

▶ クリックして解答を表示運動が斜面方向(1つの軸方向)に限定されるため、斜面垂直方向の加速度をゼロと置ける。これにより2つの独立な方程式(各軸1つずつ)を効率よく立てられる。水平・鉛直を軸に取ると、運動方向が軸に対して斜めになり、両方の式に加速度の成分が現れて計算が複雑になる。

10演習問題

座標系の設定、ベクトルの成分計算、内積の使い方を問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

1-3-1 A 基礎 成分計算

大きさ $10$ N の力が $x$ 軸の正方向から $60°$ の向きに作用している。この力の $x$ 成分と $y$ 成分を求めよ。

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解答

$F_x = 10\cos 60° = 5$ N

$F_y = 10\sin 60° = 5\sqrt{3}$ N

解説

力の大きさを $F$、$x$ 軸とのなす角を $\alpha$ とすると、成分は $F_x = F\cos\alpha$、$F_y = F\sin\alpha$ です。

$\cos 60° = \frac{1}{2}$、$\sin 60° = \frac{\sqrt{3}}{2}$ を代入すれば求まります。

1-3-2 A 基礎 内積

$\vec{A} = (4, 3)$、$\vec{B} = (-2, 6)$ について、次の問いに答えよ。

(1) 内積 $\vec{A} \cdot \vec{B}$ を成分から計算せよ。

(2) $|\vec{A}|$ と $|\vec{B}|$ を求めよ。

(3) $\vec{A}$ と $\vec{B}$ のなす角 $\theta$ の $\cos\theta$ を求めよ。

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解答

(1) $\vec{A} \cdot \vec{B} = 4 \times (-2) + 3 \times 6 = -8 + 18 = 10$

(2) $|\vec{A}| = \sqrt{16 + 9} = 5$、$|\vec{B}| = \sqrt{4 + 36} = \sqrt{40} = 2\sqrt{10}$

(3) $\cos\theta = \dfrac{\vec{A} \cdot \vec{B}}{|\vec{A}||\vec{B}|} = \dfrac{10}{5 \times 2\sqrt{10}} = \dfrac{10}{10\sqrt{10}} = \dfrac{1}{\sqrt{10}}$

解説

(1) 成分の積を足し合わせます:$A_x B_x + A_y B_y$。

(2) ベクトルの大きさは各成分の2乗の和の平方根です。

(3) 内積の2通りの表し方 $\vec{A} \cdot \vec{B} = |\vec{A}||\vec{B}|\cos\theta$ を $\cos\theta$ について解きます。(1)(2)の結果を代入すれば求まります。

B 発展レベル

1-3-3 B 発展 仕事 内積

物体に力 $\vec{F} = (6, -3)$ N を加えて、変位 $\vec{s} = (4, 2)$ m だけ移動させた。次の問いに答えよ。

(1) この力がした仕事 $W$ を内積を使って求めよ。

(2) 力の大きさ $|\vec{F}|$ と変位の大きさ $|\vec{s}|$ を求めよ。

(3) 力と変位のなす角 $\theta$ の $\cos\theta$ を求めよ。$W = |\vec{F}||\vec{s}|\cos\theta$ と (1) の結果が一致することを確認せよ。

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解答

(1) $W = \vec{F} \cdot \vec{s} = 6 \times 4 + (-3) \times 2 = 24 - 6 = 18$ J

(2) $|\vec{F}| = \sqrt{36 + 9} = 3\sqrt{5}$ N、$|\vec{s}| = \sqrt{16 + 4} = 2\sqrt{5}$ m

(3) $\cos\theta = \dfrac{W}{|\vec{F}||\vec{s}|} = \dfrac{18}{3\sqrt{5} \times 2\sqrt{5}} = \dfrac{18}{30} = \dfrac{3}{5}$

検算:$|\vec{F}||\vec{s}|\cos\theta = 3\sqrt{5} \times 2\sqrt{5} \times \dfrac{3}{5} = 30 \times \dfrac{3}{5} = 18$ J。(1)と一致する。

解説

成分が分かっている場合、(1)のように成分から直接内積を計算するのが最も効率的です。角度を求める必要はありません。

(3)は、内積の2つの定義(成分表示と角度表示)が一致することの確認です。成分から内積を計算し、大きさの積で割れば $\cos\theta$ が出ます。

採点ポイント
  • 内積の成分計算を正しく行う(2点)
  • 大きさの計算が正確(2点)
  • $\cos\theta$ を正しく導出(3点)
  • 2つの方法の一致を確認(1点)

C 応用レベル

1-3-4 C 応用 斜面 座標系 論述

傾斜角 $30°$ の粗い斜面上に質量 $2.0$ kg の物体を置いた。 物体と斜面の間の動摩擦係数を $\mu' = 0.20$ とし、物体を斜面の上端から静かに離す。 重力加速度を $g = 9.8$ m/s$^2$ とする。次の問いに答えよ。

(1) 斜面方向を $x$ 軸(下向き正)、斜面垂直方向を $y$ 軸(面から離れる向き正)として座標系を設定し、物体に働くすべての力の成分を書き下せ。

(2) $y$ 方向の運動方程式から垂直抗力 $N$ を求めよ。

(3) $x$ 方向の運動方程式から斜面方向の加速度 $a$ を求めよ。

(4) もし座標系を水平・鉛直に取った場合、運動方程式はどのように変わるか。なぜ斜面に沿った座標系のほうが計算しやすいか、理由を述べよ。

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解答

(1) 重力:$(mg\sin 30°,\, -mg\cos 30°) = (9.8,\, -17.0)$ N

垂直抗力:$(0,\, N)$

動摩擦力(斜面上向き、運動と逆方向):$(-\mu' N,\, 0)$

(2) $y$ 方向:$0 = N - mg\cos 30°$ より $N = 2.0 \times 9.8 \times \cos 30° = 17.0$ N

(3) $x$ 方向:$ma = mg\sin 30° - \mu' N = 9.8 - 0.20 \times 17.0 = 9.8 - 3.4 = 6.4$ N

$a = \dfrac{6.4}{2.0} = 3.2$ m/s$^2$

(4) 水平・鉛直座標では、加速度が斜面方向のため両軸に成分を持つ($a_x = a\cos 30°$、$a_y = -a\sin 30°$)。垂直抗力も両軸に成分を持つ($N_x = -N\sin 30°$、$N_y = N\cos 30°$)。2つの方程式が連立になり、斜面座標系のように1つの式だけから $N$ や $a$ を独立に求めることができない。斜面座標系では運動が $x$ 方向のみに限定されるため、各軸の方程式が独立に解ける。

解説

(1) 座標系を設定したら、すべての力を必ず成分に分解します。重力は斜面方向($mg\sin\theta$)と垂直方向($-mg\cos\theta$、面に押しつける方向なので $y$ 軸負)に分かれます。

(2) 物体は斜面から離れないので $a_y = 0$ です。この条件から $N$ が決まります。

(3) 動摩擦力は $\mu' N$ で、運動と逆向き($x$ 軸負方向)に働きます。$N$ の値を代入して $a$ を求めます。

(4) 座標系の選択は物理的な答えに影響しませんが、計算の見通しに大きく影響します。運動の方向に軸を取ることで、各軸の方程式が独立になり、解きやすくなります。

採点ポイント
  • 座標系を明示し、すべての力の成分を正しく書き下す(3点)
  • $a_y = 0$ の条件を使って $N$ を正しく求める(2点)
  • 摩擦力の向きと大きさを正しく処理し、加速度を求める(3点)
  • 水平・鉛直座標との比較で、斜面座標の利点を論理的に説明(2点)
1-3-5 C 応用 内積 垂直条件

2つのベクトル $\vec{A} = (2, k)$ と $\vec{B} = (3, -1)$ が垂直であるとき、$k$ の値を求めよ。また、なぜ内積がゼロであることが垂直の条件になるか、内積の定義から説明せよ。

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解答

$\vec{A} \cdot \vec{B} = 2 \times 3 + k \times (-1) = 6 - k = 0$ より $k = 6$

内積の定義 $\vec{A} \cdot \vec{B} = |\vec{A}||\vec{B}|\cos\theta$ において、$\vec{A} \neq \vec{0}$、$\vec{B} \neq \vec{0}$ のとき $|\vec{A}||\vec{B}| \neq 0$ である。したがって $\vec{A} \cdot \vec{B} = 0$ は $\cos\theta = 0$、すなわち $\theta = 90°$ を意味する。これが「内積ゼロ = 垂直」の理由である。

解説

内積は2つのベクトルがどの程度「同じ方向を向いているか」を数値化する演算です。 平行なら内積は最大($\cos 0° = 1$)、垂直なら内積はゼロ($\cos 90° = 0$)になります。

物理では「ある力が仕事をしないのは、力と変位が垂直のとき」ですが、これも $W = \vec{F} \cdot \vec{s} = 0$ の特殊な場合です。垂直抗力が仕事をしない理由は、垂直抗力と変位の内積がゼロだからです。

採点ポイント
  • $k = 6$ を正しく求める(3点)
  • 内積の定義 $|\vec{A}||\vec{B}|\cos\theta$ を用いて $\cos\theta = 0$ を導く(4点)
  • $|\vec{A}|$、$|\vec{B}|$ がゼロでないことに言及(1点)