高校物理では「光は電磁波の一種であり、速度は $c = 3.0 \times 10^8$ m/s」と学びます。
この事実は正しいのですが、なぜ光が電磁波なのか、電磁波がどのような仕組みで発生し伝播するのかは、高校の範囲では説明されません。
大学物理では、前の記事で学んだマクスウェル方程式から波動方程式を導出し、その解として電磁波が現れることを示します。
波の速度を計算すると $c = 1/\sqrt{\mu_0 \varepsilon_0}$ となり、これが光速と一致することから「光=電磁波」が結論されます。
この記事では、マクスウェル方程式から電磁波が導かれる過程の概要を追い、電磁波の基本的な性質を確認します。
高校物理では、電磁波について以下のように学びます。
これらの事実は正しく、入試でも必要な知識です。 しかし、以下の問いに対する答えは高校の範囲では得られません。
大学物理では、これらの問いに対する明確な答えが得られます。 出発点はマクスウェル方程式です。
電磁波が方程式から導かれることを理解する。 マクスウェル方程式を操作すると波動方程式が得られ、その解が電磁波であるという論理の流れが分かります。
光速の「出所」が分かる。 $c = 1/\sqrt{\mu_0 \varepsilon_0}$ という式から、光速が電磁気学の基本定数だけで決まることが分かります。
電磁波の性質を根拠とともに理解する。 「横波である」「EとBが直交する」「$E = cB$」といった性質が、すべてマクスウェル方程式から導かれることを確認します。
エネルギー伝播の概念を知る。 ポインティングベクトルにより、電磁波がエネルギーを運ぶことを定量的に記述できます。
マクスウェル方程式から電磁波の波動方程式を導く過程の概要を示します。 真空中(電荷なし、電流なし)のマクスウェル方程式の微分形は次のようになります。
$$\nabla \cdot \vec{E} = 0 \qquad \nabla \cdot \vec{B} = 0$$
$$\nabla \times \vec{E} = -\frac{\partial \vec{B}}{\partial t} \qquad \nabla \times \vec{B} = \mu_0 \varepsilon_0 \frac{\partial \vec{E}}{\partial t}$$
導出の方針は次のとおりです。
Step 1:ファラデーの法則(第3式の微分形)の両辺に $\nabla \times$(回転)をとる
$$\nabla \times (\nabla \times \vec{E}) = -\frac{\partial}{\partial t}(\nabla \times \vec{B})$$
Step 2:右辺に第4式($\nabla \times \vec{B} = \mu_0 \varepsilon_0 \partial \vec{E}/\partial t$)を代入する
$$\nabla \times (\nabla \times \vec{E}) = -\mu_0 \varepsilon_0 \frac{\partial^2 \vec{E}}{\partial t^2}$$
Step 3:ベクトル解析の公式 $\nabla \times (\nabla \times \vec{E}) = \nabla(\nabla \cdot \vec{E}) - \nabla^2 \vec{E}$ を使い、$\nabla \cdot \vec{E} = 0$(第1式)を適用する
$$\nabla^2 \vec{E} = \mu_0 \varepsilon_0 \frac{\partial^2 \vec{E}}{\partial t^2}$$
こうして得られた式は、波動方程式と呼ばれる形をしています。
$$\nabla^2 \vec{E} = \mu_0 \varepsilon_0 \frac{\partial^2 \vec{E}}{\partial t^2}$$
$$\nabla^2 \vec{B} = \mu_0 \varepsilon_0 \frac{\partial^2 \vec{B}}{\partial t^2}$$
マクスウェル方程式を数学的に操作しただけで、波動方程式が出てきました。 つまり、電場と磁場は波として空間を伝播するという結論が、方程式の中に含まれていたのです。
波動方程式 $\nabla^2 f = (1/v^2) \partial^2 f / \partial t^2$ は、物理学において波を記述する標準的な方程式です。 弦の振動、音波、水面波など、あらゆる波がこの形の方程式に従います。
この方程式の解は $f(x, t) = f_0 \sin(kx - \omega t)$ のような形をしており、空間を速度 $v = \omega/k$ で伝播する波を表します。 マクスウェル方程式から同じ形の方程式が出てくることは、電場と磁場が波として振る舞うことの数学的証明です。
波動方程式から、電磁波の伝播速度は次のように決まります。
$$c = \frac{1}{\sqrt{\mu_0 \varepsilon_0}}$$
実際に計算してみます。
$\mu_0 \varepsilon_0 = 4\pi \times 10^{-7} \times 8.85 \times 10^{-12}$
$= 4 \times 3.14 \times 8.85 \times 10^{-19}$
$\approx 111.2 \times 10^{-19} = 1.112 \times 10^{-17}$
$c = \dfrac{1}{\sqrt{1.112 \times 10^{-17}}} = \dfrac{1}{3.335 \times 10^{-9}}$
$$c \approx 3.00 \times 10^8 \text{ m/s}$$
この値は、光速の実測値と一致します。
$\mu_0$(透磁率)は磁気の実験から、$\varepsilon_0$(誘電率)は電気の実験から、それぞれ独立に測定される定数です。 光速は光学の実験で測定される量です。
異なる分野の測定から得られた3つの値が $c = 1/\sqrt{\mu_0 \varepsilon_0}$ という関係で結ばれていることは偶然ではなく、電気、磁気、光がすべて同じ現象(電磁気現象)の異なる側面であることを意味しています。
マクスウェルはこの一致に基づいて「光は電磁波の一種である」と結論しました。これは19世紀物理学における最大の統一の一つです。
誤:「$c = 3.0 \times 10^8$ m/s は実験で測ったから覚えるしかない」
正:光速は電磁気学の基本定数 $\mu_0$ と $\varepsilon_0$ から計算で求まる。現在の国際単位系(SI)では $c$ の値は定義値(正確に $299{,}792{,}458$ m/s)であり、逆に長さの単位「メートル」が光速を基準に定義されている
マクスウェル方程式から導かれる電磁波には、以下の性質があります。 これらはすべて方程式から証明される結果であり、「そういうもの」として覚える必要はありません。
電磁波は横波です。 電場 $\vec{E}$ と磁場 $\vec{B}$ の振動方向は、いずれも波の進行方向に対して垂直です。 これはマクスウェル方程式の $\nabla \cdot \vec{E} = 0$ および $\nabla \cdot \vec{B} = 0$(電荷・磁荷がない)から導かれます。
電場の振動方向と磁場の振動方向は互いに直交し、さらに波の進行方向とも直交します。 つまり $\vec{E}$、$\vec{B}$、進行方向の3つは互いに直交する右手系を構成します。
$$E = cB$$
音波は空気という媒質がなければ伝わりません。 しかし電磁波は、電場の変動が磁場を生み、磁場の変動が電場を生むという自己維持的な仕組みで伝播するため、媒質を必要としません。 太陽の光が真空の宇宙空間を通って地球に届くことが、この事実の直接的な証拠です。
19世紀には「光も何らかの媒質(エーテル)を伝わるはずだ」と考えられていました。 マイケルソンとモーレーの実験(1887年)はエーテルの存在を否定し、この問題の最終的な解決はアインシュタインの特殊相対性理論(1905年)によって与えられました。
マクスウェル方程式自体は媒質を仮定していません。 方程式が示す電磁波は、純粋に電場と磁場の相互作用として空間を伝播するものです。
電磁波は電場と磁場の振動として空間を伝播しますが、同時にエネルギーも運びます。 太陽光が地球を暖めるのは、電磁波がエネルギーを運んでいるからです。
電磁波が運ぶエネルギーの流れ(単位時間・単位面積あたりのエネルギー)は、ポインティングベクトルで記述されます。
$$\vec{S} = \frac{1}{\mu_0} \vec{E} \times \vec{B}$$
$E = cB$ および $c = 1/\sqrt{\mu_0 \varepsilon_0}$ を用いると、ポインティングベクトルの大きさは次のようにも書けます。
$$S = \frac{E^2}{\mu_0 c} = \frac{cB^2}{\mu_0} = c\varepsilon_0 E^2$$
電磁波の強度(エネルギー流の時間平均)は、電場の振幅の2乗に比例します。 これは高校でも学ぶ「光の強度は振幅の2乗に比例する」という事実の定量的表現です。
電場と磁場はそれぞれエネルギー密度を持ちます。 電場のエネルギー密度は $u_E = \frac{1}{2}\varepsilon_0 E^2$、磁場のエネルギー密度は $u_B = \frac{1}{2\mu_0} B^2$ です。
電磁波では $E = cB$ の関係から $u_E = u_B$ となります。 つまり、電磁波のエネルギーは電場と磁場が等分に担っています。
このエネルギーが波とともに速度 $c$ で移動するのが、電磁波によるエネルギー伝播です。
電磁波の波動方程式と性質は、以下の単元と接続しています。
Q1. 電磁波の速度 $c$ を、真空の透磁率 $\mu_0$ と真空の誘電率 $\varepsilon_0$ を用いて表してください。
Q2. 電磁波が横波であることは、マクスウェル方程式のどの式から導かれますか。
Q3. 電磁波において、電場と磁場のエネルギー密度の比はどのようになりますか。
Q4. 電磁波が真空中を伝播できるのはなぜですか。音波との違いを踏まえて説明してください。
電磁波の速度、性質、エネルギーに関する問題を解いてみましょう。
真空の透磁率を $\mu_0 = 4\pi \times 10^{-7}$ T$\cdot$m/A、真空の誘電率を $\varepsilon_0 = 8.85 \times 10^{-12}$ C$^2$/(N$\cdot$m$^2$) として、以下の問いに答えよ。
(1) $\mu_0 \varepsilon_0$ の値を計算せよ。
(2) $c = 1/\sqrt{\mu_0 \varepsilon_0}$ を計算し、光速と比較せよ。
(1) $\mu_0 \varepsilon_0 = 4\pi \times 10^{-7} \times 8.85 \times 10^{-12} \approx 1.11 \times 10^{-17}$ s$^2$/m$^2$
(2) $c = 1/\sqrt{1.11 \times 10^{-17}} \approx 3.00 \times 10^8$ m/s。光速 $c = 3.00 \times 10^8$ m/s と一致する。
電磁気学の定数 $\mu_0$ と $\varepsilon_0$ はそれぞれ磁気と電気の実験から決まる量であり、光速とは独立に測定された値である。にもかかわらず $1/\sqrt{\mu_0 \varepsilon_0}$ が光速と一致することが、光が電磁波であることの証拠となった。
ある電磁波の電場の最大値が $E_0 = 600$ V/m であるとする。以下の問いに答えよ。
(1) 磁場の最大値 $B_0$ を求めよ。
(2) この電磁波のポインティングベクトルの最大値 $S_{\max}$ を求めよ。
(3) ポインティングベクトルの時間平均 $\bar{S}$ を求めよ。ただし $\sin^2$ の時間平均は $1/2$ とする。
(1) $B_0 = E_0 / c = 600 / (3.0 \times 10^8) = 2.0 \times 10^{-6}$ T $= 2.0$ $\mu$T
(2) $S_{\max} = E_0 B_0 / \mu_0 = 600 \times 2.0 \times 10^{-6} / (4\pi \times 10^{-7}) \approx 955$ W/m$^2$
(3) $\bar{S} = S_{\max} / 2 \approx 478$ W/m$^2$
(1) $E = cB$ より $B_0 = E_0 / c$。電磁波では電場に比べて磁場の値(T単位)は非常に小さい。
(2) $S = EB/\mu_0$ の最大値は $E$ と $B$ が同時に最大になるときに実現される。
(3) $E = E_0 \sin(\omega t - kx)$, $B = B_0 \sin(\omega t - kx)$ のとき、$S \propto \sin^2(\omega t - kx)$ であり、その時間平均は $1/2$。
参考:太陽定数(地球が太陽から受ける電磁波のエネルギー流)は約 1361 W/m$^2$ であり、この問題の値と同程度のオーダーである。
電磁波のエネルギーに関して、以下の問いに答えよ。
(1) 電場のエネルギー密度 $u_E = \frac{1}{2}\varepsilon_0 E^2$ と磁場のエネルギー密度 $u_B = \frac{B^2}{2\mu_0}$ について、$E = cB$ を用いて $u_E = u_B$ を示せ。
(2) 電磁波の全エネルギー密度 $u = u_E + u_B$ を $E$ のみで表せ。
(3) ポインティングベクトルの大きさ $S = EB/\mu_0$ が $S = cu$ と書けることを示し、この式の物理的意味を述べよ。
(1) $u_B = \dfrac{B^2}{2\mu_0} = \dfrac{(E/c)^2}{2\mu_0} = \dfrac{E^2}{2\mu_0 c^2}$
$c^2 = 1/(\mu_0 \varepsilon_0)$ より $\mu_0 c^2 = 1/\varepsilon_0$
$u_B = \dfrac{E^2 \varepsilon_0}{2} = \dfrac{1}{2}\varepsilon_0 E^2 = u_E$
(2) $u = u_E + u_B = 2u_E = \varepsilon_0 E^2$
(3) $S = \dfrac{EB}{\mu_0} = \dfrac{E \cdot E/c}{\mu_0} = \dfrac{E^2}{\mu_0 c} = \dfrac{E^2}{\mu_0} \cdot \sqrt{\mu_0 \varepsilon_0} = E^2 \sqrt{\varepsilon_0/\mu_0}$
一方 $cu = c \varepsilon_0 E^2 = \dfrac{\varepsilon_0 E^2}{\sqrt{\mu_0 \varepsilon_0}} = E^2 \sqrt{\varepsilon_0/\mu_0}$
したがって $S = cu$。これは「エネルギー密度 $u$ のエネルギーが速度 $c$ で流れている」ことを意味し、電磁波のエネルギー伝播の直感的な描像と一致する。
$S = cu$ は「エネルギー流 = エネルギー密度 × 速度」という、流体力学でもおなじみの関係式である。電磁波の場合、エネルギーが光速 $c$ で運ばれていることを定量的に示している。
この関係は電磁波に限らず、あらゆる波のエネルギー伝播に成り立つ一般的な構造である。