高校物理では、クーロンの法則、アンペールの法則、ファラデーの電磁誘導の法則などを個別に学びます。
それぞれの法則は入試でも頻出であり、十分に使える道具です。
しかし、これらの法則が互いにどう関係しているのか、電磁気学全体の構造がどうなっているのかは、高校の範囲では見えにくいのが実情です。
大学物理では、電磁気学のすべてをマクスウェル方程式と呼ばれるたった4つの式で記述します。
この4つの式を理解すれば、高校で個別に学んだ法則がすべて1つの体系に収まり、さらに「光は電磁波である」という結論まで導けるようになります。
この記事では、マクスウェル方程式の4つの式を積分形で提示し、それぞれの物理的意味を確認します。
高校の電磁気学では、以下のような法則を個別に学びます。
これらの法則はそれぞれ独立に教えられ、「電場の法則」「磁場の法則」「電磁誘導の法則」のように分類されます。 各法則は正しく、入試でも十分に使えます。
しかし、これらの法則の間にどのような関係があるのか、電磁気学全体がどういう構造になっているのかは、高校の範囲では見えません。 「電場と磁場は別のもの」「電気と磁気は別の分野」という印象のまま学習を終える場合が多いのが実情です。
大学物理では、高校で個別に学んだ法則のすべてが、たった4つの式に集約されます。 これがマクスウェル方程式です。
電磁気学の全体像が見える。 高校で個別に学んだクーロンの法則、アンペールの法則、ファラデーの法則などが、マクスウェル方程式4つの特殊な場合であることが分かります。
電場と磁場の関係が分かる。 変動する磁場が電場を生み(ファラデーの法則)、変動する電場が磁場を生む(アンペール・マクスウェルの法則)という対称的な関係が見えます。
「光=電磁波」の根拠が分かる。 マクスウェルが変位電流を追加したことで、電磁波の存在が方程式から予言され、その速度が光速と一致したという論理の流れを理解できます。
マクスウェル方程式は4つの式からなります。 ここでは高校物理との接続を重視して、積分形で提示します。
第1式(ガウスの法則)
$$\oint \vec{E} \cdot d\vec{A} = \frac{Q}{\varepsilon_0}$$
第2式(磁場のガウスの法則)
$$\oint \vec{B} \cdot d\vec{A} = 0$$
第3式(ファラデーの法則)
$$\oint \vec{E} \cdot d\vec{l} = -\frac{d\Phi_B}{dt}$$
第4式(アンペール・マクスウェルの法則)
$$\oint \vec{B} \cdot d\vec{l} = \mu_0 I + \mu_0 \varepsilon_0 \frac{d\Phi_E}{dt}$$
記号が多く見えますが、それぞれの式が言っていることは明快です。 次のセクションで1つずつ確認していきます。
マクスウェル方程式には積分形と微分形の2つの表現があります。 微分形はベクトル解析(div、rot)を使った表現で、大学の電磁気学の教科書ではこちらが標準です。
本記事では高校物理との対応がつけやすい積分形を使います。 微分形は数学的にはより簡潔ですが、物理的な意味は積分形と完全に同等です。
$$\oint \vec{E} \cdot d\vec{A} = \frac{Q}{\varepsilon_0}$$
閉曲面を貫く電場の総量(電気力線の本数に相当)は、その内部にある電荷の総量 $Q$ に比例します。
高校で学んだ「電気力線の本数は電荷に比例する」という話を、数式で正確に表現したものです。 クーロンの法則(逆二乗則)も、この式から導くことができます。
$$\oint \vec{B} \cdot d\vec{A} = 0$$
閉曲面を貫く磁場の総量は常にゼロです。 これは「磁力線は必ずループを描く(始点と終点がない)」ことを意味します。
第1式と比べると、右辺が $Q/\varepsilon_0$ ではなく $0$ です。 電荷に対応する「磁荷」(N極だけ、S極だけの粒子=磁気単極子)は存在しないことを表しています。 磁石を半分に割ってもN極だけ・S極だけにはならない、という経験的事実の数学的表現です。
$$\oint \vec{E} \cdot d\vec{l} = -\frac{d\Phi_B}{dt}$$
閉曲線に沿った電場の線積分(起電力に相当)は、その閉曲線を貫く磁束の時間変化率に等しい(符号は負)。
高校で学んだファラデーの電磁誘導の法則 $V = -\Delta\Phi/\Delta t$ の厳密版です。 $\Delta t$ を微分 $dt$ に置き換えています。 重要な点は、磁場が時間変化すると電場が生まれるということです。 コイルがなくても、真空中で磁場が変化すれば電場が生じます。
$$\oint \vec{B} \cdot d\vec{l} = \mu_0 I + \mu_0 \varepsilon_0 \frac{d\Phi_E}{dt}$$
閉曲線に沿った磁場の線積分は、その閉曲線を貫く電流 $I$ と、電束の時間変化率の和に比例します。
第1項 $\mu_0 I$ は高校で学んだアンペールの法則そのものです。 電流が磁場を生むという関係です。
第2項 $\mu_0 \varepsilon_0 \dfrac{d\Phi_E}{dt}$ がマクスウェルの追加した項で、変位電流と呼ばれます。 電場が時間変化すると、電流がなくても磁場が生まれることを意味します。 この項の追加が、電磁気学の歴史において決定的な役割を果たしました。
マクスウェル方程式の4つの式のうち、最初の3つは高校でも(形は異なりますが)学ぶ内容です。 マクスウェルの独自の貢献は、第4式に変位電流の項 $\mu_0 \varepsilon_0 \dfrac{d\Phi_E}{dt}$ を追加したことにあります。
コンデンサーの充電を考えます。 導線には電流 $I$ が流れていますが、コンデンサーの極板間(誘電体や真空)には電流は流れていません。
アンペールの法則をそのまま適用すると、閉曲線を貫く面の取り方によって結果が変わってしまいます。
同じ閉曲線に対して2つの異なる面を取っただけで結果が変わるのは矛盾です。
誤:「アンペールの法則はいつでも成り立つ」
正:電場が時間変化する状況では、アンペールの法則に変位電流の項を加えなければ矛盾が生じる。高校で学ぶアンペールの法則は、電場が変化しない(静磁場の)場合の式
マクスウェルはこの矛盾を解消するために、極板間で変化する電場(電束の時間変化)を「電流と同等のもの」として扱う項を追加しました。 コンデンサーの極板間では電荷が蓄積されることで電場が時間変化しており、$\varepsilon_0 \dfrac{d\Phi_E}{dt}$ がちょうど導線の電流 $I$ と同じ値になります。 これにより、どちらの面を取っても同じ結果が得られます。
変位電流は「実際に電荷が流れている」わけではありません。 電場の時間変化が、磁場を生むという点で「電流と同じ効果を持つ」ことを意味しています。
この追加により、第3式(変動磁場→電場)と第4式(変動電場→磁場)が対称的な構造を持つようになりました。 この対称性こそが、電磁波の存在を予言する鍵です。
マクスウェル方程式の4つの式を眺めると、電場と磁場の間に次の循環的な関係があることが分かります。
では、電荷も電流もない真空中で、ある場所に変動する電場があったとします。 第4式により、その電場の変動が磁場を生みます。 生まれた磁場も変動しているので、第3式により、その磁場の変動がさらに電場を生みます。 この電場もまた変動しており…
この連鎖が空間を伝わっていく現象こそが電磁波です。
マクスウェル方程式の第3式と第4式を組み合わせると、電場と磁場が互いを生み出しながら空間を伝播する波(電磁波)の存在が数学的に導かれます。
この波の速度は $c = \dfrac{1}{\sqrt{\mu_0 \varepsilon_0}}$ と計算され、$\mu_0$ と $\varepsilon_0$ の値を代入すると約 $3.0 \times 10^8$ m/s ─ つまり光速と一致します。
マクスウェルはこの一致から「光は電磁波の一種である」と結論しました。 電磁気学の定数($\mu_0, \varepsilon_0$)だけから光速が出てくるという事実は、光が電磁気現象であることの強力な証拠です。
マクスウェルが理論的に電磁波の存在を予言したのは1865年です。 しかし実験的に電磁波が確認されたのは、ヘルツによる1887年の実験でした。 理論が実験に約20年先行したことになります。
これは物理学における理論の予言力を示す代表的な例です。 方程式から「存在するはずのもの」を導き、後に実験で確認される ── 大学物理で数式を学ぶ意義の一つがここにあります。
マクスウェル方程式は電磁気学の集大成であり、多くの単元と接続しています。
Q1. マクスウェル方程式は全部でいくつの式からなりますか。また、それらの名称を挙げてください。
Q2. 第2式(磁場のガウスの法則)$\oint \vec{B} \cdot d\vec{A} = 0$ は何を意味していますか。
Q3. 変位電流とは何ですか。なぜマクスウェルはこの項を追加する必要があったのですか。
Q4. マクスウェル方程式から電磁波の速度を求めると $c = 1/\sqrt{\mu_0 \varepsilon_0}$ となります。この結果が物理学にとってどのような意味を持ちましたか。
マクスウェル方程式の構造と各式の意味を、問題で確認しましょう。
次の高校で学ぶ法則・事実が、マクスウェル方程式の第何式に対応するか答えよ。
(1) 「電気力線の本数は電荷に比例する」
(2) 「磁石を半分に割ってもN極だけ・S極だけにはならない」
(3) 「コイルを貫く磁束が変化すると起電力が生じる」
(4) 「直線電流のまわりに磁場が生じる」
(1) 第1式(ガウスの法則)
(2) 第2式(磁場のガウスの法則)
(3) 第3式(ファラデーの法則)
(4) 第4式(アンペール・マクスウェルの法則)の電流項
(1) ガウスの法則 $\oint \vec{E} \cdot d\vec{A} = Q/\varepsilon_0$ は、閉曲面を貫く電場の総量が内部の電荷に比例することを述べている。「電気力線の本数∝電荷」の数学的表現。
(2) $\oint \vec{B} \cdot d\vec{A} = 0$ は磁荷が存在しないことを表す。磁力線は必ず閉じたループを描く。
(3) ファラデーの法則 $\oint \vec{E} \cdot d\vec{l} = -d\Phi_B/dt$ は、磁束の時間変化が起電力を生むことを記述する。
(4) アンペール・マクスウェルの法則の $\mu_0 I$ の部分が、電流が磁場を生む関係(アンペールの法則)に対応する。
平行板コンデンサーを充電する回路において、極板間の電場が時間とともに増加しているとする。以下の問いに答えよ。
(1) 導線にはアンペールの法則を適用できるが、極板間にそのまま適用すると矛盾が生じる。どのような矛盾か説明せよ。
(2) マクスウェルはこの矛盾をどのように解消したか。変位電流の概念を用いて説明せよ。
(1) 同じ閉曲線に対して、導線を貫く面を取ると $\oint \vec{B} \cdot d\vec{l} = \mu_0 I$ となるが、極板間を通る面を取ると電流が貫いていないので $\oint \vec{B} \cdot d\vec{l} = 0$ となる。面の取り方で結果が異なるのは物理法則として矛盾している。
(2) マクスウェルは、極板間で電場(電束)が時間変化していることに着目し、$\varepsilon_0 d\Phi_E/dt$ を変位電流として導入した。この変位電流は導線を流れる電流 $I$ と同じ値になるため、極板間を通る面でも $\oint \vec{B} \cdot d\vec{l} = \mu_0 \varepsilon_0 d\Phi_E/dt = \mu_0 I$ となり、矛盾が解消される。
極板間では電荷が蓄積されることで電場 $E = Q/(\varepsilon_0 A)$($A$は極板面積)が増加する。電流 $I = dQ/dt$ と電束の時間変化 $\varepsilon_0 dE/dt \times A = dQ/dt = I$ が一致するため、変位電流は導線の電流と等しくなる。
この結果、法則の整合性が回復し、さらに「電場の変化が磁場を生む」という新たな物理的効果が明らかになった。
マクスウェル方程式の第3式と第4式(真空中、電荷・電流なし)に基づいて、以下の問いに答えよ。
(1) 真空中($Q = 0$、$I = 0$)において、第3式と第4式はどのような形になるか書け。
(2) この2式が示す「電場と磁場の循環的な関係」を説明せよ。
(3) 電磁波の速度が $c = 1/\sqrt{\mu_0 \varepsilon_0}$ で与えられることを踏まえ、$\mu_0 = 4\pi \times 10^{-7}$ T$\cdot$m/A、$\varepsilon_0 = 8.85 \times 10^{-12}$ C$^2$/(N$\cdot$m$^2$) を用いて $c$ の値を計算し、この結果の物理的意味を述べよ。
(1)
第3式:$\displaystyle\oint \vec{E} \cdot d\vec{l} = -\frac{d\Phi_B}{dt}$
第4式:$\displaystyle\oint \vec{B} \cdot d\vec{l} = \mu_0 \varepsilon_0 \frac{d\Phi_E}{dt}$
(2) 第3式は「磁場の時間変化が電場を生む」、第4式は「電場の時間変化が磁場を生む」ことを示す。変動する電場が磁場を生み、その磁場の変動がさらに電場を生む、という循環が空間を伝播していく。これが電磁波である。
(3)
$c = \dfrac{1}{\sqrt{\mu_0 \varepsilon_0}} = \dfrac{1}{\sqrt{4\pi \times 10^{-7} \times 8.85 \times 10^{-12}}}$
$\mu_0 \varepsilon_0 = 4\pi \times 8.85 \times 10^{-19} \approx 1.112 \times 10^{-17}$
$c = \dfrac{1}{\sqrt{1.112 \times 10^{-17}}} \approx \dfrac{1}{3.33 \times 10^{-9}} \approx 3.0 \times 10^8$ m/s
これは光速と一致する。したがって、光は電磁波の一種であると結論される。
(1) 真空中で電荷・電流がなければ、第3式はそのまま残り、第4式の $\mu_0 I$ の項が消える。変位電流の項 $\mu_0 \varepsilon_0 d\Phi_E/dt$ だけが残る。
(2) 第3式と第4式は電場と磁場を「結合」させている。一方の変動が他方を生むという構造が、波の伝播を可能にする。
(3) 電磁気学の定数 $\mu_0$(透磁率)と $\varepsilon_0$(誘電率)は、それぞれ磁気と電気の実験から独立に決まる量である。にもかかわらず、この2つの量の組み合わせ $1/\sqrt{\mu_0 \varepsilon_0}$ が光速と一致することは偶然ではなく、光が電磁気現象であることを意味している。