第15章 電流と回路

RC回路の過渡現象
─ コンデンサーを含む回路の微分方程式

高校物理では、コンデンサーの充放電のグラフの形を「指数関数的に変化する」として学びます。 時定数の概念を扱うこともありますが、なぜその形になるかの導出は範囲外です。

大学物理では、キルヒホッフの法則と $Q = CV$ を組み合わせると1階微分方程式が得られ、 その解が指数関数になることを示します。 グラフの形は暗記ではなく、微分方程式の解として導出されるものです。

この記事では、RC回路の充電・放電を微分方程式で解き、 時定数 $\tau = RC$ がすべてを決めることを示します。

1高校での扱いを確認する

高校物理では、コンデンサーの充放電を次のように扱います。

  • 充電:電荷は「最初は速く増え、やがて飽和する」グラフの形を覚える
  • 放電:電荷は「最初は速く減り、やがてゼロに近づく」グラフの形を覚える
  • 最終状態:充電完了後は電流が流れない(コンデンサーの電圧 = 電池の電圧)
  • 時定数:教科書によっては扱わないことも多い

高校の扱いの特徴を整理します。

  • グラフの形は「覚えるもの」。なぜ指数関数になるかは説明されない
  • 途中の電荷や電流を定量的に求められない。「最終的にどうなるか」は分かるが、「3秒後にどうなっているか」は答えられない
  • 時定数の物理的意味が曖昧。$\tau = RC$ という量が何を意味するか、なぜ $R \times C$ が時間の単位を持つかは説明されない

2大学の視点で何が変わるか

高校 vs 大学:RC回路
高校:グラフの形を暗記
「だんだん増えて飽和する」
定量的な式は扱わない。
大学:微分方程式の解として導出
$Q(t) = C\mathcal{E}(1 - e^{-t/RC})$
任意の時刻の電荷・電流を計算できる。
高校:時定数は扱わないことが多い
扱っても公式として与えられるだけ。
大学:$\tau = RC$ が全てを決める
充電の速さも放電の速さも $\tau$ だけで決まる。
高校:エネルギーの行方は定性的
「一部は熱になる」程度の説明。
大学:抵抗での消費エネルギーを定量計算
充電時に抵抗で消費されるエネルギー = $(1/2)C\mathcal{E}^2$。
この記事で得られること

充放電のグラフを「導出」できる。 キルヒホッフの法則と $Q = CV$ から微分方程式を立て、指数関数の解を導きます。 グラフの形は暗記ではなく、物理法則の帰結です。

任意の時刻の電荷・電流を計算できる。 「3秒後の電荷はいくらか」という問いに定量的に答えられるようになります。

時定数 $\tau = RC$ の物理的意味を理解できる。 なぜ $R \times C$ が時間の単位を持つか、$\tau$ が何を決めるかが分かります。

エネルギー収支を定量的に理解できる。 充電時に抵抗で消費されるエネルギーが、コンデンサーに蓄えられるエネルギーと等しいことを示します。

3充電過程の微分方程式

起電力 $\mathcal{E}$ の電池、抵抗 $R$、容量 $C$ のコンデンサーが直列に接続された回路を考えます。 $t = 0$ でスイッチを入れ、コンデンサーの初期電荷は $Q(0) = 0$ とします。

微分方程式を立てる

充電過程の微分方程式の導出

KVL より、閉ループを一周すると:

$$\mathcal{E} - RI - \frac{Q}{C} = 0$$

ここで $I = dQ/dt$(電流は電荷の時間微分)なので:

$$\mathcal{E} = R\frac{dQ}{dt} + \frac{Q}{C}$$

これは $Q(t)$ に関する1階線形微分方程式です。

微分方程式を解く

充電過程の解の導出

微分方程式を整理します:

$$\frac{dQ}{dt} = \frac{\mathcal{E}}{R} - \frac{Q}{RC}$$

$Q_\infty = C\mathcal{E}$(十分時間が経ったときの最終電荷)とおくと:

$$\frac{dQ}{dt} = -\frac{1}{RC}(Q - Q_\infty)$$

これは $Q - Q_\infty$ が指数関数的に減衰することを意味します。$u = Q - Q_\infty$ とおくと:

$$\frac{du}{dt} = -\frac{u}{RC}$$

この解は $u(t) = u(0) \cdot e^{-t/RC}$ です。$u(0) = Q(0) - Q_\infty = -C\mathcal{E}$ より:

$$Q(t) = C\mathcal{E}\left(1 - e^{-t/RC}\right)$$

RC回路の充電

$$Q(t) = C\mathcal{E}\left(1 - e^{-t/RC}\right)$$

$$I(t) = \frac{\mathcal{E}}{R}\,e^{-t/RC}$$

電荷は指数関数的に $C\mathcal{E}$ に近づく。電流は初期値 $\mathcal{E}/R$ から指数関数的に減衰する。
微分方程式で「導出」するとはこういうこと

高校では「充電すると電荷はだんだん増えて飽和する」というグラフの形を覚えました。

大学では、キルヒホッフの法則($\mathcal{E} = RI + Q/C$)と $I = dQ/dt$ から微分方程式を立て、 その解として $Q(t) = C\mathcal{E}(1 - e^{-t/RC})$ を導出します。

グラフの形は物理法則の帰結であり、暗記すべきものではありません。

4放電過程の微分方程式

初期電荷 $Q_0$ のコンデンサーが抵抗 $R$ を通じて放電する場合を考えます。 電池はありません。

放電過程の微分方程式と解

KVL より:

$$0 = RI + \frac{Q}{C}$$

$I = dQ/dt$ を代入(放電なので $I < 0$ に注意):

$$R\frac{dQ}{dt} + \frac{Q}{C} = 0$$

$$\frac{dQ}{dt} = -\frac{Q}{RC}$$

これは最も基本的な微分方程式で、解は:

$$Q(t) = Q_0 \, e^{-t/RC}$$

RC回路の放電

$$Q(t) = Q_0 \, e^{-t/RC}$$

$$I(t) = -\frac{Q_0}{RC}\,e^{-t/RC}$$

電荷は指数関数的にゼロに向かって減衰する。電流の符号が負なのは、コンデンサーの電荷が減少する方向に流れるため。

充電も放電も、同じ形の微分方程式 $dQ/dt = -Q/(RC) + (\text{定数})$ から導かれます。 異なるのは定数項(電池の起電力があるかないか)だけです。

5時定数 $\tau = RC$

充電の解 $Q(t) = C\mathcal{E}(1 - e^{-t/RC})$ と放電の解 $Q(t) = Q_0 e^{-t/RC}$ に共通して現れる量 $RC$ を時定数($\tau$)といいます。

時定数

$$\tau = RC$$

$R$ [$\Omega$] × $C$ [F] = [V/A] × [C/V] = [C/A] = [s]。確かに時間の単位になる。

時定数の物理的意味

時定数 $\tau$ は、過渡現象の「速さ」を決める量です。

  • 充電時:$t = \tau$ のとき $Q(\tau) = C\mathcal{E}(1 - e^{-1}) \approx 0.632 \, C\mathcal{E}$。つまり最終値の約 63.2% まで充電される
  • 放電時:$t = \tau$ のとき $Q(\tau) = Q_0 e^{-1} \approx 0.368 \, Q_0$。つまり初期値の約 36.8% まで減衰する
  • $t = 5\tau$ で、$e^{-5} \approx 0.007$ なので、ほぼ完全に充電(放電)が終わる
落とし穴:$R$ が大きいと充電が「速い」と思いがち

誤解:「$R$ が大きいとたくさん電圧がかかるから充電が速い」

実際:$\tau = RC$ なので、$R$ が大きいほど時定数が大きくなり、充電は遅くなる。 $R$ が大きいと電流が制限されるためです。

$RC$ がなぜ時間の単位を持つか

$R = V/I$、$C = Q/V$ なので:

$$RC = \frac{V}{I} \cdot \frac{Q}{V} = \frac{Q}{I} = \frac{\text{電荷}}{\text{電荷/時間}} = \text{時間}$$

抵抗が「電流を制限する度合い」を表し、容量が「蓄えられる電荷の量」を表すので、 その積が「蓄えるのにかかる時間」に対応するのは自然です。

6エネルギーの行方

充電が完了したとき、コンデンサーに蓄えられるエネルギーは $U_C = \frac{1}{2}C\mathcal{E}^2$ です。 一方、電池が供給した全エネルギーは $U_{\text{total}} = Q_\infty \cdot \mathcal{E} = C\mathcal{E}^2$ です。

供給エネルギー $C\mathcal{E}^2$ のうち、コンデンサーに蓄えられるのは $\frac{1}{2}C\mathcal{E}^2$。 残りの $\frac{1}{2}C\mathcal{E}^2$ はどこに行ったのでしょうか。

抵抗で消費されるエネルギーの計算

抵抗での消費電力は $P_R = I^2 R$ です。充電時の電流は $I(t) = (\mathcal{E}/R)e^{-t/RC}$ なので:

$$U_R = \int_0^{\infty} I^2 R \, dt = \int_0^{\infty} \frac{\mathcal{E}^2}{R} e^{-2t/RC} \, dt$$

$$= \frac{\mathcal{E}^2}{R} \cdot \frac{RC}{2} = \frac{1}{2}C\mathcal{E}^2$$

充電時のエネルギー収支

$$U_{\text{battery}} = C\mathcal{E}^2 = \underbrace{\frac{1}{2}C\mathcal{E}^2}_{U_C\text{(コンデンサー)}} + \underbrace{\frac{1}{2}C\mathcal{E}^2}_{U_R\text{(抵抗で熱に)}}$$

電池の供給エネルギーのちょうど半分がコンデンサーに蓄えられ、残り半分は抵抗で熱として消費される。 この結果は $R$ の値に依存しない。
$R$ に依存しない事実の意味

抵抗で消費されるエネルギーが $\frac{1}{2}C\mathcal{E}^2$ であることは、$R$ の値によらず成り立ちます。

$R$ が大きいと電流は小さいが充電に時間がかかり、$R$ が小さいと電流は大きいが短時間で終わります。 結局、抵抗での消費エネルギーの総量は同じです。

この「半分は必ず熱になる」という事実は、エネルギー保存則の直接的帰結です。

7つながりマップ

  • → E-15-2 キルヒホッフの法則:RC回路の微分方程式は KVL から立てる。定常回路から過渡現象への拡張。
  • → E-14-1 コンデンサーの容量:$Q = CV$ という関係がRC回路の微分方程式の一部になる。
  • → M-2-2 運動方程式を微分方程式として解く:$dQ/dt = -Q/(RC)$ は、$dv/dt = -bv/m$(速度に比例する抵抗力)と同じ形。力学で学んだ手法がそのまま使える。
  • → E-18-1 交流回路:RC回路に交流電圧をかけると、過渡現象ではなく定常的な応答(位相差、インピーダンス)が問題になる。

📋まとめ

  • RC回路の充電は KVL + $Q = CV$ から微分方程式 $R\dfrac{dQ}{dt} + \dfrac{Q}{C} = \mathcal{E}$ が得られ、解は $Q(t) = C\mathcal{E}(1 - e^{-t/RC})$
  • RC回路の放電は微分方程式 $R\dfrac{dQ}{dt} + \dfrac{Q}{C} = 0$ から $Q(t) = Q_0 e^{-t/RC}$
  • 時定数 $\tau = RC$ が充放電の速さを決める。$t = \tau$ で充電量は最終値の約 63.2%
  • $RC$ が時間の単位を持つのは、$R$(電流制限)と $C$(電荷容量)の積だから
  • 充電時、電池のエネルギーの半分が抵抗で熱になり、半分がコンデンサーに蓄えられる。この結果は $R$ に依存しない

確認テスト

Q1. RC回路の充電における $Q(t)$ の式を書いてください。

▶ クリックして解答を表示$Q(t) = C\mathcal{E}(1 - e^{-t/RC})$。$t = 0$ で $Q = 0$(初期条件)、$t \to \infty$ で $Q \to C\mathcal{E}$(最終値)を満たす。

Q2. 時定数 $\tau = RC$ の物理的意味を述べてください。

▶ クリックして解答を表示時定数は充放電の速さを決める量。充電時には $t = \tau$ で最終電荷の約 63.2% まで充電される。$5\tau$ 経てばほぼ完全に充電される。$R$ が大きいまたは $C$ が大きいほど $\tau$ が大きく、充放電に時間がかかる。

Q3. RC回路の充電で、抵抗で消費されるエネルギーはコンデンサーに蓄えられるエネルギーと比べてどうなりますか。

▶ クリックして解答を表示等しい。どちらも $(1/2)C\mathcal{E}^2$。電池が供給するエネルギー $C\mathcal{E}^2$ のちょうど半分ずつ。この結果は $R$ の値によらない。

Q4. $R$ [$\Omega$] $\times$ $C$ [F] がなぜ時間の単位 [s] を持つか、次元解析で示してください。

▶ クリックして解答を表示$[\Omega] = [\text{V/A}]$、$[\text{F}] = [\text{C/V}]$。$RC = (\text{V/A}) \times (\text{C/V}) = \text{C/A} = \text{C}/(\text{C/s}) = \text{s}$。

10演習問題

RC回路の微分方程式を立てて解く練習をしましょう。

A 基礎レベル

15-4-1 A 基礎 時定数

$R = 10\,\text{k}\Omega$、$C = 100\,\mu\text{F}$ のRC回路がある。次の問いに答えよ。

(1) 時定数 $\tau$ を求めよ。

(2) 充電開始から $\tau$ 秒後のコンデンサーの電荷は、最終値の何 % か。

(3) ほぼ完全に充電されるのは充電開始からおよそ何秒後か。

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解答

(1) $\tau = RC = 10 \times 10^3 \times 100 \times 10^{-6} = 1.0$ s

(2) $1 - e^{-1} \approx 0.632$、約 63.2%

(3) $5\tau = 5.0$ s($e^{-5} \approx 0.007$ なので 99.3% 充電)

解説

$R$ と $C$ の積が時定数です。$10\,\text{k}\Omega \times 100\,\mu\text{F} = 1$ s と、次元を確認しながら計算してください。時定数の5倍の時間が経てば、実用上は充電完了とみなせます。

B 発展レベル

15-4-2 B 発展 充電の微分方程式

起電力 $\mathcal{E} = 10$ V、$R = 5\,\text{k}\Omega$、$C = 200\,\mu\text{F}$ のRC回路で、$t = 0$ にスイッチを入れてコンデンサーの充電を開始する。次の問いに答えよ。

(1) $Q(t)$ に関する微分方程式を立てよ。

(2) $Q(t)$ と $I(t)$ を求めよ。

(3) $t = 2$ s における電荷 $Q$ と電流 $I$ の値を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $R\dfrac{dQ}{dt} + \dfrac{Q}{C} = \mathcal{E}$ → $5000\dfrac{dQ}{dt} + 5000Q = 10$

(2) $\tau = RC = 5000 \times 200 \times 10^{-6} = 1.0$ s
$Q(t) = C\mathcal{E}(1 - e^{-t/\tau}) = 2.0 \times 10^{-3}(1 - e^{-t})$ C
$I(t) = \dfrac{\mathcal{E}}{R}e^{-t/\tau} = 2.0 \times 10^{-3} e^{-t}$ A

(3) $Q(2) = 2.0 \times 10^{-3}(1 - e^{-2}) \approx 2.0 \times 10^{-3} \times 0.865 \approx 1.73 \times 10^{-3}$ C
$I(2) = 2.0 \times 10^{-3} e^{-2} \approx 2.0 \times 10^{-3} \times 0.135 \approx 2.7 \times 10^{-4}$ A

解説

KVL から微分方程式を立て、解を求めるプロセスです。$t = 2\tau$ なので最終値の $1 - e^{-2} \approx 86.5\%$ まで充電されています。高校では「3秒後の電荷はいくらか」に答えられませんでしたが、微分方程式の解があればどの時刻でも計算できます。

採点ポイント
  • KVL から微分方程式を正しく立てる(3点)
  • $Q(t)$ と $I(t)$ を正しく求める(4点)
  • $t = 2$ s での数値計算(3点)

C 応用レベル

15-4-3 C 応用 エネルギー 積分

起電力 $\mathcal{E}$、抵抗 $R$、容量 $C$ のRC回路で充電を行う。次の問いに答えよ。

(1) 充電完了までに電池が供給する全エネルギーを求めよ。

(2) 充電完了時にコンデンサーに蓄えられるエネルギーを求めよ。

(3) 抵抗で消費されるエネルギーを $U_R = \int_0^{\infty} I^2 R \, dt$ から計算せよ。

(4) (1), (2), (3) の結果を比較し、エネルギー保存則が成り立つことを確認せよ。また、$U_R$ が $R$ の値に依存しないことの物理的意味を述べよ。

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解答

(1) $U_{\text{battery}} = Q_\infty \cdot \mathcal{E} = C\mathcal{E} \cdot \mathcal{E} = C\mathcal{E}^2$

(2) $U_C = \frac{1}{2}C\mathcal{E}^2$

(3) $U_R = \int_0^{\infty} \frac{\mathcal{E}^2}{R}e^{-2t/RC} \cdot R \, dt = \mathcal{E}^2 \int_0^{\infty} e^{-2t/RC} dt = \mathcal{E}^2 \cdot \frac{RC}{2} = \frac{1}{2}C\mathcal{E}^2$

(4) $U_{\text{battery}} = C\mathcal{E}^2 = \frac{1}{2}C\mathcal{E}^2 + \frac{1}{2}C\mathcal{E}^2 = U_C + U_R$。エネルギー保存則が成立。$U_R$ に $R$ が含まれないのは、$R$ が大きいと電流が小さくなるが充電に時間がかかり、$R$ が小さいと電流は大きいが短時間で充電が終わるため。消費電力と時間の積(エネルギー)が一定になる。

解説

この結果は直感に反するかもしれません。抵抗を小さくしても消費エネルギーは変わらない ── これは $R \to 0$ の極限でも成り立ちます。つまり「抵抗ゼロでも半分のエネルギーが失われる」ように見えますが、実際にはこの場合は電磁波として放射されます。

採点ポイント
  • 電池の供給エネルギーを正しく計算(2点)
  • コンデンサーのエネルギーを正しく記述(2点)
  • 積分計算を正しく実行(3点)
  • エネルギー保存を確認し、$R$ 非依存の物理的意味を述べる(3点)