高校物理では、コンデンサーの極板間に誘電体を挿入すると容量が $\varepsilon_r$ 倍になると学びます。
$C = \varepsilon_0 \varepsilon_r S/d$ という公式を覚えて使いますが、なぜ容量が増えるのかは説明されません。
大学物理では、この現象を分子レベルの分極から説明します。
外部電場によって誘電体中の分子が整列し、表面に束縛電荷が現れます。
この束縛電荷が外部電場を打ち消す方向の電場を作るため、極板間の電場が弱まり、結果として容量が増えます。
巨視的には $\varepsilon_0 \to \varepsilon_0 \varepsilon_r$ の置き換えで済みますが、その背後には明確な物理的メカニズムがあります。
この記事では、分極の仕組みから容量の増加を説明し、$\varepsilon_r$ の物理的意味を明らかにします。
高校物理では、誘電体について次のように学びます。
高校の扱いの特徴を整理します。
誘電体で容量が増える理由を説明できるようになる。 分極 → 束縛電荷 → 電場の減少 → 電位差の減少 → 同じ電荷でも低い電圧 → 容量増加、という因果関係を理解します。
有極性分子と無極性分子の分極の違いを理解する。 水のような有極性分子は電場中で配向し、無極性分子は電場により分極が誘起されます。
$\varepsilon_r$ の物理的意味を把握する。 $\varepsilon_r$ は「誘電体が外部電場をどれだけ弱めるか」を表す量であると理解します。
誘電体(絶縁体)に外部電場をかけると、内部の分子が応答します。 この応答の仕方は、分子の種類によって2つに分けられます。
水分子(H$_2$O)のように、電場がなくても正電荷と負電荷の中心がずれている分子を有極性分子と呼びます。 これらの分子は、電場がない状態では熱運動によりランダムな方向を向いています。
外部電場をかけると、分子が電場の方向に整列しようとします。 完全には整列しませんが、統計的に電場方向に偏ります。 この現象を配向分極と呼びます。
窒素分子(N$_2$)のように、もともと正電荷と負電荷の中心が一致している分子を無極性分子と呼びます。
外部電場をかけると、正電荷は電場方向に、負電荷は逆方向にわずかにずれます。 その結果、もともと極性を持たなかった分子にも電気双極子が誘起されます。 これを誘起分極(電子分極)と呼びます。
水分子はもともと大きな永久双極子モーメントを持つ有極性分子です。 外部電場に対して強く応答するため、$\varepsilon_r \approx 80$ と非常に大きな値になります。
一方、窒素や酸素のような無極性分子は誘起分極しか起こせないため、$\varepsilon_r$ は $1$ に近い値になります。 $\varepsilon_r$ の大きさは、分子がどれだけ電場に応答できるかを反映しています。
分極が起こると、誘電体の表面に電荷が現れます。 この電荷を束縛電荷(分極電荷)と呼びます。
誘電体内部では、各分子が分極して正電荷と負電荷がわずかにずれています。 誘電体の内部では隣接する分子の正電荷と負電荷が打ち消し合いますが、 誘電体の表面では打ち消し合う相手がいないため、電荷が残ります。
その結果、正極板側の誘電体表面に負の束縛電荷が、負極板側の表面に正の束縛電荷が現れます。
束縛電荷は、外部電場(極板の電荷が作る電場)とは逆向きの電場を作ります。 したがって、誘電体内部の正味の電場は外部電場よりも弱くなります。
真空中の電場を $E_0 = \sigma / \varepsilon_0$($\sigma$ は極板の面電荷密度)とします。
束縛電荷の面密度を $\sigma_b$ とすると、束縛電荷が作る電場は $E_b = \sigma_b / \varepsilon_0$($E_0$ と逆向き)。
誘電体中の正味の電場は、
$$E = E_0 - E_b = \frac{\sigma - \sigma_b}{\varepsilon_0}$$
比誘電率 $\varepsilon_r$ を用いると、$E = E_0 / \varepsilon_r$ と書けます。
$$E = \frac{E_0}{\varepsilon_r} = \frac{\sigma}{\varepsilon_0 \varepsilon_r}$$
誘電体中の電場が $E_0/\varepsilon_r$ に弱まるため、極板間の電位差も $V = Ed = E_0 d / \varepsilon_r$ と小さくなります。
極板の電荷 $Q$ は変わらないので(電池を外した場合)、
$$C = \frac{Q}{V} = \frac{Q}{E_0 d / \varepsilon_r} = \varepsilon_r \cdot \frac{Q}{E_0 d} = \varepsilon_r C_0$$
つまり、容量が $\varepsilon_r$ 倍に増加します。原因は、分極によって生じた束縛電荷が電場を弱め、電位差を小さくするからです。
誤解:誘電体が新たに電荷を蓄えるから容量が増える
正しい理解:誘電体は電荷を蓄えるのではなく、分極によって内部電場を弱める。電場が弱まると電位差が小さくなり、$C = Q/V$ の分母が小さくなるため容量が増える。電荷の増減ではなく、電場の変化が原因
以上の結果をまとめると、誘電体を完全に充填した平行板コンデンサーの容量は次のように書けます。
$$C = \frac{\varepsilon_0 \varepsilon_r S}{d} = \frac{\varepsilon S}{d}$$
巨視的には「$\varepsilon_0$ を $\varepsilon_0 \varepsilon_r$ に置き換える」だけで済みますが、その背後には分極→束縛電荷→電場減少という明確なメカニズムがあります。
| 物質 | 比誘電率 $\varepsilon_r$ | 分極の種類 |
|---|---|---|
| 真空 | $1$(定義) | なし |
| 空気 | $\approx 1.0006$ | 誘起分極(非常に弱い) |
| ポリエチレン | $\approx 2.3$ | 誘起分極 |
| ガラス | $5 \sim 10$ | 誘起分極 + イオン分極 |
| 水 | $\approx 80$ | 配向分極(永久双極子が大きい) |
誘電体を挿入したとき、静電エネルギーがどう変化するかは、挿入の条件によって異なります。
電荷一定(電池を外して挿入)の場合:$U = Q^2/(2C)$ で $C$ が $\varepsilon_r$ 倍になるので $U$ は $1/\varepsilon_r$ 倍に減少。エネルギーが減少する分は、誘電体を引き込む力に使われます。
電圧一定(電池をつないだまま挿入)の場合:$U = \frac{1}{2}CV^2$ で $C$ が $\varepsilon_r$ 倍になるので $U$ は $\varepsilon_r$ 倍に増加。増加分は電池が供給します。
Q1. 有極性分子と無極性分子の分極の仕組みの違いを述べてください。
Q2. 誘電体を挿入すると容量が増える理由を、「束縛電荷」「電場」「電位差」の3つの語を使って説明してください。
Q3. 水の比誘電率が約80と非常に大きい理由を述べてください。
Q4. 「誘電体が電荷を蓄えるから容量が増える」という説明はなぜ正しくないですか。
誘電体と容量の関係を、問題で確認しましょう。
面積 $S$、極板間距離 $d$ の平行板コンデンサーの極板間を比誘電率 $\varepsilon_r = 4$ の誘電体で完全に満たした。次の問いに答えよ。
(1) 容量は真空中の何倍になるか。
(2) 真空中で容量が $C_0 = 5.0\,\text{nF}$ のとき、誘電体挿入後の容量を求めよ。
(3) 誘電体挿入後のコンデンサーに $V = 50\,\text{V}$ をかけたとき、蓄えられる電荷を求めよ。
(1) $\varepsilon_r = 4$ 倍
(2) $C = \varepsilon_r C_0 = 4 \times 5.0 = 20\,\text{nF}$
(3) $Q = CV = 20 \times 10^{-9} \times 50 = 1.0 \times 10^{-6}\,\text{C} = 1.0\,\mu\text{C}$
誘電体を完全に充填すると、容量は真空中の $\varepsilon_r$ 倍になる。$C = \varepsilon_0 \varepsilon_r S / d = \varepsilon_r C_0$。
真空中で容量 $C_0$ の平行板コンデンサーに電荷 $Q$ を蓄えた後、電池を外し、比誘電率 $\varepsilon_r$ の誘電体を極板間に完全に挿入した。次の問いに答えよ。
(1) 挿入後の極板間の電場は挿入前の何倍になるか。
(2) 挿入後の極板間の電位差を求めよ。
(3) 挿入前後の静電エネルギーの比を求めよ。エネルギーは増加したか減少したか。
(1) $1/\varepsilon_r$ 倍
(2) $V' = Q/C = Q/(\varepsilon_r C_0)$(挿入前の $V_0 = Q/C_0$ の $1/\varepsilon_r$ 倍)
(3) $U'/U_0 = [Q^2/(2\varepsilon_r C_0)] / [Q^2/(2C_0)] = 1/\varepsilon_r$。$\varepsilon_r > 1$ なのでエネルギーは減少した。
電池を外した状態なので電荷 $Q$ は一定。誘電体の分極により電場が $1/\varepsilon_r$ 倍になり、電位差も $1/\varepsilon_r$ 倍に減少する。
エネルギーが $1/\varepsilon_r$ 倍に減少する分は、誘電体を引き込む力が仕事をしたことに使われている。つまり、誘電体は極板間に自然に引き込まれる。
容量 $C_0$ の平行板コンデンサーが電圧 $V$ の電池につながれている状態で、比誘電率 $\varepsilon_r$ の誘電体を極板間に完全に挿入した。次の問いに答えよ。
(1) 挿入後の電荷 $Q'$ と挿入前の電荷 $Q_0$ の比を求めよ。
(2) 挿入前後の静電エネルギーの比を求めよ。
(3) エネルギーが増加しているが、増加分のエネルギーはどこから供給されたか。電池がした仕事を求め、エネルギー保存を確認せよ。
(1) $Q' = \varepsilon_r C_0 V$、$Q_0 = C_0 V$。$Q'/Q_0 = \varepsilon_r$
(2) $U' = \frac{1}{2}\varepsilon_r C_0 V^2$、$U_0 = \frac{1}{2}C_0 V^2$。$U'/U_0 = \varepsilon_r$
(3) 電池が供給した電荷は $\Delta Q = Q' - Q_0 = (\varepsilon_r - 1)C_0 V$。電池がした仕事は $W = \Delta Q \cdot V = (\varepsilon_r - 1)C_0 V^2$。エネルギー増加分は $\Delta U = \frac{1}{2}(\varepsilon_r - 1)C_0 V^2$。$W = 2\Delta U$ であり、電池がした仕事の半分がエネルギー増加に、残り半分は誘電体を引き込む際の仕事に使われた。
電池がつながっている場合、電圧 $V$ は一定。容量が $\varepsilon_r$ 倍になるため、電荷もエネルギーも $\varepsilon_r$ 倍になる。
電池がした仕事 $W = (\varepsilon_r - 1)C_0 V^2$ のうち、半分 $\frac{1}{2}(\varepsilon_r - 1)C_0 V^2$ がコンデンサーのエネルギー増加に、残り半分が誘電体を引き込む力学的仕事に使われる。これは充電のエネルギー問題と同じ $1:1$ の分配になっている。